衝撃の事実?
「前回、いつもの無意識によって森谷さんのご機嫌を損ねたお兄様。意を決して森谷さんと向かい合うが、言葉が出てこない様子。さて、こんなおもしろ……大変な状況だけど、いつもみたく全てを丸く収めることができるのか。後半戦スタート」
「変なナレーションつけんな」
文月さんに変なナレーションをつけられジト目で睨んだが、言ってることは事実なのでそこまで責められない。
水萌と向き合ったのはいいけど、水萌はリスのようにほっぺたを膨らませるだけで何も喋ってくれない。
俺は俺でその水萌が可愛くて無言で眺めているし。
だけどそろそろそれも限界なので、水萌に声をかける。
「水萌、不機嫌の理由教えて」
「不機嫌じゃないもん」
「文月さんが居るからって理由ならちゃんと水萌に確認取ったよね?」
「今回は文月さんが理由じゃないもん」
「つまり不機嫌ではあると?」
「……」
図星を突かれた水萌が、抱きかかえているミナモの腕を持って俺の頬にぶつける。
反撃が可愛すぎないか?
「地味にうちのことをディスってたように聞こえたけど、全部を許せる可愛さっでずるない?」
「ずるい。それで何が不機嫌の理由なの?」
「……舞翔くんは花宮さんが好き?」
「ん? 好きか嫌いかで言うなら好き寄り? 嫌いではない」
質問の意味がわからないけど、俺の幼なじみだとわかってからは花宮のことを好き、友達と思えるぐらいにはなった。
だから俺は花宮のことを友達としては好きだ。
「……」
「答え間違った?」
「お兄様は間違ってないよ。じゃあ後でうちが怒られないように手助けをしよう」
「説教はするからね?」
「じゃあしなーい」
言うと思った。
だけど文月さんは別に俺と水萌の仲を裂きたいわけではない。
「森谷さん、お兄様は花宮……さんのことを友達って思えるようになったんだよ」
文月さんがちゃんとカバーしてくれるが、なぜか花宮の敬称に間があった。
「……」
「お兄様とは違う無視だな。そうだな、お兄様」
「なに?」
「お兄様は今ここで好きな人の名前言える?」
「言えるけど、なんで?」
「さすがお兄様だな。言ってみてくれる?」
文月さんに呆れたような顔をされる。
その顔の意味も、なんで俺が好きな人の名前を言うのかもわからないけど、文月さんは変なことばかりする人だが、こういう時にふざけたことをしないのは知っている。
「俺が好きなのはレンだけど、本名の方がいい?」
「多分だいじょぶ。それを聞いた花宮さん、感想をどうぞ」
「びっくり。あのまーくんが人を好きになるなんて。僕と一緒に居る時だって僕に興味無さそうだったのに」
「大変申し訳ない」
俺は花宮に向かって土下座をする。
正直全然覚えてないけど、昔の俺は今以上にやばすぎる。
まあ俺が人と関われるようになったのは水萌とレンに出会ったおかげだから仕方ないのかもしれないけど。
「謝らないでよ。僕としてはあの対応があったからまーくんと一緒に居たいって思えたところもあるから」
「無視されて喜ぶタイプ?」
「ち、違うから! まーくんは僕を馬鹿にしないし、それに何も話してくれなかったわけでもないから」
「それを聞いてすごい安心した」
花宮が隣に居たのは思い出したけど、それ以外は本当に何も思い出せない。
無言でずっと一緒に居るだけなんてつまらなすぎる。
そんな俺に愛想を尽かしたから花宮はあの公園に来なくなったのかもしれないと思っていたりもしていた。
「仲良しさん……」
「水萌、音を立てよ」
水萌がいつの間にか俺の隣に来ていて、ミナモを左腕に抱きながら右腕を俺の腕に絡める。
「俺と花宮が仲良さそうにしてるのが嫌なの?」
「別に舞翔くんがお友達を作るのはいいの。舞翔くんを独り占めはしたいけど、舞翔くんの全部を私が管理したいわけじゃないから」
「じゃあなんで不機嫌?」
それなら俺と花宮の仲がよくなっても別にいいはずだ。
言葉ではそう言っても体が動くとかならわかるけど、そうでも無さそうだし。
「舞翔くんが恋火ちゃんを好きなのはわかったよ。だけど、舞翔くんの周りには可愛い女の子が多すぎるのです」
「それな!」
「空気さんは黙って空気になっててね」
「うちのフォローのおかげなんだけど?」
そうかもしれないけど、今変な茶々を入れられると水萌が話すのをやめる気がする。
だから全部が解決したら文月さんの処遇を考える。
それと、水萌の言う「俺の周り」とは、文月さんも入ってる気がする。
「文月さんがそれだけど、舞翔くんがいくら恋火ちゃんを好きでいても、私や文月さんみたいな人は出てくるの」
「どゆこと?」
「舞翔くんを好きになる人ってこと」
水萌が真剣な表情で言う。
水萌が俺のことを好きだと言うのは散々言われているから知ってるけど、文月さんのは冗談のはずだから関係ないと思う。
そう思って文月さんに視線を送ると、バッと視線を逸らされた。
まあこんなことを言われたら逸らすだろうけど。
「水萌の言いたいことはわかったけど、そんな特殊な人は水萌とレンぐらいでしょ」
「舞翔くんは……いいや。言ってもわかってくれないし」
なぜだろうか、すごい諦められた気がする。
俺だって話してくれれば理解するかもしれないから諦めないで欲しい。
文月さんには鼻で笑われたので説教を増やすことに決めた。
「とにかくね、舞翔くんは魅力的な人なの。だからとっても可愛い女の子にいきなり『好き』って言われることもあるの」
「無いだろうけど、そういう話じゃないんだよね?」
「うん。実際文月さんにはそう思われてるわけだし」
それは水萌の勘違いなんだけど、そういう返事は求めていないだろうから言わないでおく。
「つまりね、花宮さんもそうなの」
「それはマジでわからん」
「なんで? 実際花宮さんは舞翔くんのこと『好き』って言ってたよ?」
「言ってたな。友達として」
「なんで舞翔くんはそうやって決めつけるの?」
「いや、決めつけるとかじゃなくて……」
俺は花宮と視線を合わせる。
なぜか花宮は軽く握った拳で自分の口元を隠して笑っている。
「えっと、森谷さんでいいんだよね?」
水萌がいきなり花宮に声をかけられて困惑しながら頷く。
「それね、まーくんに言っても絶対にわからないよ」
「……なんで、ですか?」
水萌が消え入りそうな声ではあるけど、返事をする。
やっぱりこの子は文月さんと話したくないのだと今一度理解した。
「ジェラシー……」
「後で構うから今は黙ってて」
「お兄様も酷い……」
すっかり拗ねてしまった文月さんを無視して、今は花宮と水萌の会話に意識を向ける。
「えっとまーくんがわからない理由だよね。一番簡単な言うと、まーくんだからかな」
「?」
「まーくんと仲良しな森谷さんならわかると思うけど、まーくんって普通じゃないでしょ?」
「はい」
花宮の発言がまず失礼だけど、水萌の即答もどうかと思う。
別に自覚あるからいいけど。
「失礼なことを言うかもしれないけど、森谷さんって初めてまーくんと話した時に違和感なかった?」
「違和感?」
「自分に対する反応、みたいなところで」
「あった! 舞翔くん、私のこと普通の女の子として見てくれた!」
水萌がいきなり元気なった。
だけどすぐにしゅんとなる。
「さすがまーくん。高校生になっても変わらないんだね」
「誰が精神年齢小学生以下だ」
「褒めてるの。多分だけど、まーくんのおかげで森谷さんは救われたと思う。僕みたいに」
「うん、私と恋火ちゃんは舞翔くんに出会って救われた。これからも救われる予定」
救った覚えはないけど、これからの予定ならわかる。
救えるかはまだわからないけど、最善は尽くす。
「僕はそんなまーくんが好きなの」
「……やっぱり」
「だって初めてだったんだよ。僕を女の子として見なかった人って」
「………………え?」
水萌の悲しそうな顔が、長い間の末に困惑に変わった。
「僕ね、男の子なんだよ?」
「えっと、え?」
「そういえば花宮って女子に間違えられるとか言ってたっけ」
「顔が女の子っぽいのと、声が高いからどうしてもね。まーくんだけだよ、僕と会って『スカート?』ってすごい驚いた顔してたの」
思い出した。
俺が初めて花宮と出会った時に、花宮はスカートを履いていた。
確か親戚に女物の服とスカートをプレゼントされて、着替えさせられたまま公園に連れて来られたと。
嫌がらせとかではなく、純粋に似合うと思って着させたと後日言っていた。
そして花宮の両親にガチで怒られていたとも。
「最初は驚いてたけど、すぐに『そういうのもあるのか』みたいに納得してて、それで僕はまーくんと友達になりたいって思ったんだ」
「懐かしい。今思うとめっちゃ似合ってたよ」
「からかわないでよ。今はちゃんと男の子に見えるように男の子っぽい服を着るようにしてるんだから」
「別に花宮の着たい服着ればいいじゃん。俺はスカートの花宮も結構好きだよ?」
「まーくんだから本気で言ってるんだろうけど、もう履かないからね? 僕だって恥ずかしいんだから」
花宮が頬を少し赤く染めている。
どうやらほんとに恥ずかしいようだ。
似合ってたのは事実だからもう一度ぐらいは見てみたいものだけど。
「どうしても見たいなら考えるけど」
「花宮が嫌なら別にいい。見せてくれるなら見たいけど」
「まーくんらしい答えだ。んー、じゃあいつか二人っきりの時にね」
花宮がウインクをしながら言う。
楽しみがまた一つ増えた。
「それよりさ、森谷さんがずっと固まってるけど大丈夫?」
「俺も思ってたけど、固まる要素あった?」
「うんとね、森谷さんは僕が女の子だと思ってたんだよ?」
「なんで?」
「頑張るぞ。まーくんのことだから理解はしてくれないだろうけど」
そうして花宮から水萌が固まった理由、花宮が女の子だと思われた説明を受けた。
結果、よくわからなかった。