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公園での再会?

「散歩はいいんだけど、暑いから帰りたい」


「インドア派が」


 水萌みなもが散歩をしたいと言ったから出てみたはいいものの、外は夏真っ盛りでとても暑い。


 まだ数分しか歩いていないけど帰りたくなってきた。


「そう言うレンだってインドア派だろ?」


「そうだけど? つーかなんでわざわざこんなくそ暑いのに外歩かなきゃいけないんだよ」


「それは既に暑くて溶けてる水萌みなもに聞いて」


 この散歩を提案した水萌だが、玄関の扉を開けた瞬間に絶望した顔をしていた。


 それならその時点で引き返せば良かったのだけど、なぜか水萌は引き返さなかった。


 結果的に水萌は俺に手を引かれながらとぼとぼと歩いている。


「水萌、もう満足だろ? 帰ろう」


「きゅ、うけい、したい……」


「マジでやばそう。ちょうど公園あるし休憩してから帰ろう」


「そうするか」


 レンが目の前の公園を指さして言うので、俺は汗だくで、限界そうな水萌の手をゆっくり引きながら公園に入る。


 そして三人で木陰のベンチに座りながら休憩をする。


「水萌、大丈夫?」


「大丈夫じゃない。お外出なきゃ良かった」


「なんで出たんだよ」


舞翔まいとくんとデートしたいからだったんだけど、お外に出てすごい暑くて、そこでやめようって思ったの」


「それで?」


「だけどね、文月ふみつきさんが『男の子は女の子の肌を流れる汗を見るのが好き』って言ってたのを思い出して、やってみようかなって思ったの」


 ここでも登場する文月さん。


 あの人は水萌にどれだけのろくでもないことを吹き込んでいるのか。


「だけど想像以上で、こんなんじゃ気持ち悪いよ、ひゃん!」


 水萌が意味のわからないことを言い出したので、頬に触れて黙らせる。


「別に水萌が流す汗を気持ち悪いなんて思わないから。それと、文月さんの言うことをなんでも鵜呑みにするのはやめなさい」


「ひゃ、ひゃい」


 水萌がなにかに気づいたように俺の手から顔をバッと離す。


 さすがにいきなり顔を触られるのは嫌だったか。


「いきなりごめん」


「う、ううん。舞翔くんに触られたのが嫌とかじゃなくてね、舞翔くんの手が汚れちゃうから」


「水萌に触れて何が汚れると?」


「うぅ……」


「余計に身体の熱上げてどうすんだよ」


 水萌が顔を押さえて丸くなり、レンには呆れたような顔をされた。


 なんでいつも真実を言うだけで俺が責められるのか。


「ち、ちなみに舞翔くんは、女の子の流れる汗って好きなの?」


「多分文月さんが言いたいのってあれでしょ? 軽く運動した後に首筋に流れる一本の汗のやつ。好きか嫌いかで言うなら普通?」


「好きか嫌いで言ってないじゃねぇか」


 レンに鼻で笑われながら突っ込まれる。


 正直わからない。


 だってそんなの見たことないんだから。


「こういう言い方すると変態みたいだけど、水萌の汗は嫌いじゃないよ」


「おい変態。水萌の熱を下げる為に休憩してるのに上げてどうすんだっての」


 レンに呆れながら言われるが、そんなことを言われても困る。


 そもそも変態言うなし。


「水萌、どうせ言われるんだから最後のも聞いとけ」


「大丈夫かな……?」


「サキだぞ?」


「そうだけど……」


 たまにやるけど、こうして二人で会話するのをやめて欲しい。


 普通に寂しい。


「舞翔くん」


「なに?」


「私、臭くない?」


「なして? それって水萌から一番程遠い言葉だろ?」


 言ってる意味がわからないので、水萌に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。


 いつも通りの甘いいい香りだ。


 むしろ普段よりも水萌っぽい匂いで好きかもしれない。


「ずっと嗅いでたい」


「それはさすがに変態」


「自覚あり。まあ水萌とレンも俺のベッドに顔押し付けてることあるし似た者同士だろ」


「うるせぇ」


 レンに肩を軽く小突かれた。


 水萌は胸を押さえてホッとしたような顔になっている。


「でも汗をかくのは仕方ないだろ。水萌は長袖のパーカーにフードまでしてるんだから」


「同じ格好の恋火れんかちゃんは汗かいてないけどね」


「オレはあんまり汗かかない体質だから」


「ずるい……」


 二人の格好は夏に見かけたら通報されるようなレベルでおかしい。


 長袖のパーカーでフードを被り、下も足が見えないようになっている。


 色が派手でなければ怪しさマックスだ。


「それを言うならサキもだろ」


「俺はフード被ってないし。それに薄手のパーカーだからそこまで暑くない」


「舞翔くんもずるい……」


 別にずるくない。


 水萌は金髪が目立つからフードは外せないし、レンとのお揃いだからパーカーを変えることもできないだろうけど、それならそれでやりようはあるはずだ。


「新しいお揃いの服買わないの?」


「新しいパーカー?」


「パーカー縛りでもしてるの? まあパーカー好きだから俺はいいと思うけど」


「舞翔くんが好きならパーカーしか着ないけど、そっか、新しいの買えばいいのか」


「ちなみにさ、その服って一着しかないの?」


 俺が覚えてる限り、レンが違うパーカーを着てた記憶がない。


 毎日同じパーカーを着てるのか、それとも同じパーカーが二着あるのか。


「オレは毎日洗濯して乾燥機に入れてる」


「私も着た時はそうしてる。まあ最近のお洗濯は全部恋火ちゃんがやってくれるんだけど」


「当たり前だろ。びっくりしたわ、洗濯ネット知らないって」


 俺も前に聞いて驚いたけど、水萌は洗濯ネットの存在を知らなかった。


 レンは家で家事スキルを強制的に覚えさせられたから知ってるようだけど、そういう俺には教えにくいところを水萌に教えてあげて欲しい。


「何も知らない状態で一人暮らししなきゃいけなくなったんだから仕方ないけどな」


「そうだよ! 私は頑張ったもん」


「そう言われると何も言えないんだよな。水萌ってスマホも無いし」


 今の若者ならスマホで調べれば大抵のことはわかる。


 だけど水萌はスマホを持たされてないから手探りでやるしかない。


「掃除はできたと思うけどな」


「恋火ちゃんはそうやってすぐに酷いことを言うんだから」


「でも水萌はちゃんと掃除できたじゃん」


 俺がレンに見惚れていた時に、水萌はしっかりと掃除を終わらせた。


 むしろできなかったのは俺の方だ。


 後日ちゃんと俺とレンで水萌の部屋の掃除はしたが。


「あれから散らかってないだろ?」


「一応は」


「だって最近はすっごい楽しいし、帰っても恋火ちゃんと一緒なんだもん」


「それは確かに嬉しいな」


 水萌の部屋が散らかっていたのは単純にストレスからだ。


 学校で人見知りなのに毎日人に囲まれて話を聞かなければいけない。


 そんな状態からくるストレスと、帰ったら一人という寂しさから全てが抜け落ちる。


 俺と居ることを喜んでくれる水萌だけど、さすがに家までは一緒に居られない。


 だからレンが一緒に住んでくれてるのは本当に良かった。


「舞翔くんも一緒に住む?」


「そういうのは高校を卒業したらね」


「したらいいの?」


「いいんじゃないの? 知らないけど」


 成人さえすれば大抵のことは自己責任でなんとかなる。


 それこそ、なぜか勝手に決められているお泊まりだって親の許可無くできるはずだ。


「それまで我慢する」


「あの水萌が?」


「しない方が私らしい?」


「いや、余計なこと言った。我慢を覚えたならした方がいい」


 レンが慌てながら言う。


 俺としては水萌に我慢はさせたくないけど、さすがに一緒に住むことはできないから我慢してくれて助かる。


 まあ水萌が我慢しなかったとしても、さすがに一緒に住むことはしないけど。


「それより水萌は顔洗って来いよ。塩になったらさすがにサキも嫌がらないにしろ、違和感はあるだろうから」


「洗う。だけど洗えるところ無いよ?」


 水萌が公園を見回すけど、水道らしき場所は見当たらない。


 ここの公園は小さい頃に何度か来たことがあるけど、ここからだと見えない場所にあるから見つからないのも当然だ。


「それならあっち。ここからだと木の影になって見えないんだよ」


 俺が言おうとしたことを先にレンに言われた。


 別にそれが悔しいとかではなく、なんで知ってるのかが気になった、


「なんで知ってるのかって? いやさ、入る時は気づからなかったけど、昔来たことあるんだよね、ここ」


「は?」


「なぜにキレる」


「俺会ってない」


 俺だって小さい頃にここには来たことあるが、レンのような可愛い女の子とは出会った記憶がない。


 あるのは誰かと遊んだ……のかは覚えてないけど、一緒に居た記憶だけだ。


 確か「まーくん」とか呼ばれてたような気がしないでもない。


「オレだって別に頻繁に来てたわけじゃないから。たまに家を抜け出して来てただけで」


「俺の居る時にしてよ」


「知るか。そういえばここで誰かと遊んだかもしれない」


「レンの浮気者」


「いや、子供の頃はノーカンだろ。それに全然覚えてないけど女子だった記憶があるような無いような?」


 別に女子だったらいいわけではない。


 世の中には女の子同士でも好きになれる人は結構いるのだから。


「まあいいからさっさと水道行って来いよ。それで早く帰ろう」


「帰ってシャワー浴びたい」


「舞翔くんと一緒に?」


「どこからその発想がきたのかな? 水萌はレンと一緒に入ってなさい」


「やったー」


「普通に嫌だけど?」


 水萌は聞く耳持たずにレンが示した水道まで駆け出す。


 ほんとに入るのかは後でにするとして、俺達も水萌の後をついて行く。


 だけど水萌が途中でスピードを緩めて、水道に辿り着く前に立ち止まった。


 水萌に追いついた俺は水萌が立ち止まった理由がわかった。


 どうやら水道のところに俺達と同い年ぐらいの子が座っていたようだ。


 見事に水萌は人見知りを発動した。


「そういうね。水萌って同性でも駄目なんだ」


 俺の数秒後に追いついたレンも理由を察したようだ。


「同性? まあ文月さんも女の子だしね」


「オレはその文月さんを知らないけどな。別にあの女の子なら言えばどいてくれそうだけど」


「どかすのも悪いけどな。まあちょっとだけ使わせてもらおうか」


 レンの言い方が少し気になるけど、俺は固まる水萌を素通りして水道に向かう。


「ちょっと使ってもいいですか?」


「あ、すいません。すぐにどき……」


 座っていた子に声をかけると、とても可愛らしい声で返事がきた。


 服装は俺でもわかるぐらいに男物なんだけど、声と顔立ちがとても可愛らしく、ギャップがすごい。


 そんなことを考えていると、その子がなぜか俺を見て固まっている。


「サキのジゴロが発動したか?」


「レンうるさい。えっと、何か?」


「まーくん?」


 とても懐かしい呼ばれ方をした気がする。


 懐かしいけどさっきちょうど考えていた、そんな呼び方を。


 俺が思い出そうとしているうちに、その子は顔を真っ赤にして走り出してしまった。


 なんだかよくわからないけど、とりあえず固まった水萌を現実に戻すのであった。

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