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続いていく関係

「っていう夢を見た」


「夢オチきたぁ!!!」


 昨日見たリアル過ぎる夢をみんなに話したらなぜかよりが興奮気味に叫び出した。


 一体何がそんなに嬉しいのか。


「うち、夢オチって好きなんだよね」


「変わってるな」


「そうかい? アニメとかの夢オチってこれから起きる予知夢か絶対に回避しなきゃいけない悪夢じゃん? そんでだいたい良い方向にしかいかないから好きなんよね」


 なんとなく依の言いたいことはわかる。


 確かに夢オチは本編では使えないような際どいものを出すのに使ったり、今後の展開をふわっと見せて期待を持たせる為に使われることが多い。


「終わりフラグの可能性もあるけどな」


「何も聞こえませーん」


「聞きたくないことは聞こえない耳っていいな」


 耳を塞いで聞こえないフリをしてる依はほっといて、さっきから俺の袖をあざとい上目遣いを向けながら引っ張ってる愛莉珠ありすに意識を向ける。


「大人のありすに惚れちゃった?」


「そういう話してなかったよね?」


「大丈夫だよ、恋火れんかさんには黙ってるから」


「そういう気遣い大丈夫だよ、レンも興味無さそうに聞いてるから」


 今日はみんながいるからレンだってこの場にいる。


 いつものレンが。


「なんかまーくんが恋火ちゃん見つめてる」


「あれじゃない、恋火ちゃんの未来の新妻姿を夢で見て期待しちゃってるやつ」


「何に期待するの?」


「それは……やっぱ無しで」


「照れるなら言うな。それと紫音しおん蓮奈れなで遊ぶんじゃない」


 勝手にあらぬ疑いをかけておいて恥ずかしがってる蓮奈も蓮奈だけど、そうなるのがわかってて知らないフリで聞く紫音はやっぱり黒い。


 俺がレンを見てたのは……特に意味はない。


舞翔まいとくん」


「何?」


「未来の私ってどんな感じだった?」


「……可愛かったです」


 水萌みなもが愛莉珠とは逆の袖を引っ張りながら聞いてくるのでそのまま答える。


 間があったのはきっと気のせいなので気にしたらいけない。


「何か言いにくいこと?」


「俺の男の子の部分が邪魔をして言いにくいかな」


「つまり恋火ちゃんよりも私の方が魅力的になって好きになっちゃったってことだね」


「拡大解釈ありがとう。まあでも、大人の水萌は今の水萌がそのまま成長した感じだったよ」


 レンより魅力的かは置いておくとして、多分この中で一番大人になって変わっていたのは水萌だ。


 愛莉珠はちょっと大人びてはいたけど、甘えたな性格は変わってなかったし、蓮奈は真中まなか先輩の相手の仕方が変わってたぐらいで蓮奈だった。


 依と紫音は紫音の黒さが増して、二人のイチャつきに深みが加わっていたけど変わった感じはなかった。


 レンはレンで、水萌はもう見た目から性格から結構変わっていた。


 根幹の部分は変わってないんだろうけど、今ほど甘えてきたりはしないし、文字通り大人になった感じだ。


 直視はできなくなったけど。


「なに、水萌って将来蓮奈さんになるの?」


「俺がそれ言ったら今の時代セクハラになるからノーコメント」


「水萌も蓮奈さんもサキからのセクハラなんてむしろ喜ぶだろ。でもそういうことならちょっと話は変わるぞ」


 ずっと興味が無さそうにして聞いていたレンが片膝を立てて俺を睨んでくる。


「どした?」


「所詮夢だからって聞き流してたけど、さっき言ったよな、将来の水萌は男の子の部分が邪魔して話せないって」


「聞き流してないじゃん」


「揚げ足取るってことは認めるんだな?」


 さすがはレンだ。


 多分みんなが気づいてはいたけどレンが言った方が面白いからと放置してたことをちゃんと聞いてくれた。


「サキもやっぱり男ってことか」


 レンがなぜかニマニマと笑いながら俺を見てくる。


「嬉しそうだな」


「あのサキが恥ずかしがるようなことがあるのがしれたからな」


「俺をなんだと思ってるんだよ。俺にだって羞恥心はあるっての」


「ここまであからさまなのは珍しいだろ」


「そうでもないと思うけど」


 俺が恥ずかしがる度にこの話をしてる気がするけど、俺は別に反応が薄いだけで人並みに恥ずかしがる。


 レンは俺が恥ずかしがる姿なんて一番見てるくせにこの話を一番してくるのはなんなのか。


「ていうかさ、レンはそう言うってことは男の体のパーツは何も気にせずシラフで全部言えるってこと?」


「体のパーツ? 内臓の種類とかの話?」


「男女の違い的な意味」


「……セクハラ」


 理不尽照れいただきました。


 俺だって男なのだから女性の体のパーツを口に出すのは自重する。


「舞翔くんは今の私と大人の私はどっちが好き?」


「どっちも水萌だからどっちとか無くない?」


「言うと思ったー」


「押し付けるものがあると困った先輩が見れるからやっぱりあった方のがいいのかな? だけどそうなると距離置かれる? これはハリネズミさんだ」


 右では嬉しそうに揺れている水萌がいて、左には意味のわからないことを言って何かを考えている愛莉珠。


 丸くなってるレンを励まそうとして返り討ちに遭う依。


 それを見て呆れ顔の紫音と蓮奈。


「……」


「舞翔くん?」


「レンの言った通りで所詮は夢なんだけどさ、俺はこの風景って好きなんだよ。あの夢が正夢なら嬉しいなって思って」


「大丈夫だよ。結局みんな舞翔くんのこと大好きだから」


「俺を好きだからずっと仲良くしてくれるって? 違うよ」


 それは水萌の勘違いだ。


 水萌は呆れたような顔になってるけど、こればっかりは絶対に違うのがわかる。


「舞翔くんはそろそろ自虐をやめた方がいいと思うの」


「先輩がそうやって自虐してありす達に構って欲しがってるのはわかってるけど、ほんとに駄目だよ」


「そういうことなんだよ」


「「え?」」


 水萌と愛莉珠が同時に首を傾げる。


 他のみんなも顔だけこちらに向けて話を聞いている。


「水萌達も勘違いしてるみたいだけど、みんなが俺を好きだから大丈夫みたいに言ってるけど、俺がみんなを好きだから離れたくないんだよ。だから俺はみんなを離さないから」


 俺はそう言って水萌と愛莉珠の手を強く握る。


 大人になるにつれて人は疎遠になる。


 だから俺達はずっとそれが怖かったけど、こうしてずっと関係を手放さなければ拒絶されない限り関係は続いていく。


 俺は決めた。


 みんなが俺を拒絶するまではこの手を離さないと。


「ということでこの場の全員は俺が嫌になるまで俺と仲良くしないといけない契約になったから」


「……」


「反応無し。これは早々に拒絶されてない? 泣けばいい感じかな?」


 全員からの真顔の無言はさすがにくるものがある。


 自虐をやめろと散々言われてきたから俺の気持ちを伝えたのに、やっぱり俺は──


「これ以上はサキがほんとに泣くからやめとこう」


「うん。ちょっと嬉しさと呆れで固まっちゃったけど、大丈夫だからね?」


「あ、お気遣い感謝です……」


「あーあ、先輩が泣いちゃった。泣いちゃった男の子には可愛い女の子がキスすればいいんだっけ?」


「別にお兄様泣いてないし、泣いた男の子を泣き止ますには女の子のハグの方がいいでしょ」


「じゃあお姉さんが一肌脱ごうか」


「蓮奈お姉ちゃんが一肌脱ぐのは色々とまずいからやめて。絶対にまーくんが包容力で泣き止んじゃう」


「紫音、俺はまだ泣いてないし、その言い方だと俺を泣かせたいように聞こえるぞ?」


 紫音からの無言の笑顔。


 ほんとに黒くなったものだ。


「それで何が嬉しくて何が呆れなの?」


「うんとね、嬉しいのは舞翔くんが私達のことが大好きで仕方ないことがわかったことで、呆れは私達が好きなの理解してるくせに私達が舞翔くんを拒絶するとか言ってること? 信用されてないことを含めたら悲しさもあるかな」


「そういうね。だけどそれが俺なんだよ。それを含めて俺を嫌になったらって話」


「私達はそれを含めて舞翔くんが好きだよ。まあこう言っても舞翔くんは信じてくれないんだろうけど、とにかく私達は舞翔くんに拒絶されない限りは離れる気ないから」


 水萌が優しい笑顔で言いながら俺の手を優しく握り返す。


 なんだろう、これは──


「お兄様のメインヒロインが水萌氏になった瞬間であった」


「依ちゃんってほんとにそういうところあるよね」


「うんうん、ドM願望ってやつだね」


「ご要望通りやってやるよ。頭出せ」


「れ、れんれんよ、真顔で手をパキパキするのやめなさい。指が太くなって指輪入んなくなるよ」


「それ迷信だから」


「と言いつつやめるれんれんかわぁぁぁぁぁ」


 見慣れた光景。


 こうした光景をこれからもずっと、ずっと見ていたい。


「あ、そうだ。浮気者」


「その呼び方やめろ。何?」


「サキって男の子だから可愛い女の子の一糸まとわぬ姿って直視できないよな?」


「直視だけじゃなくて普通に見れないな」


「だよな。じゃあ浮気の罰として水萌の一糸まとわぬ姿を手足縛った状態で見せてやるよ」


「それをして誰が得するんだよ」


「え、オレ?」


 それはそうだった。


 目を瞑れば何とかなりそうだけど、レンがそんな簡単な突破口を残すわけがないし、詰んだ?


「私の写真って恋火ちゃんとお風呂入ってる時のでしょ? しかも小さい時の」


「言うなよ」


「それでも舞翔くんは恥ずかしがると思うけど、恋火ちゃんが私の見せるなら私も恋火ちゃんの見せるけどいいの?」


「なんでお前が持ってんだよ」


「逆になんでお母さんから恋火ちゃんだけ貰って私が貰ってないと思ったの?」


 レンの顔が引き攣ってきた。


 どうやら形勢逆転のようだ。


「あ、ちなみに恋火ちゃんがやめるなら私が自発的に私達の写真見せてあげるね」


「なんで敵が増えた?」


「私も舞翔くんの恥ずかしがる姿が見たいから?」


「さいですか。やめてって言ったらやめてくれる?」


「可愛く言ってくれたらやめるかも」


「俺に可愛さを求めるなよ。諦めました」


 どう抗っても詰んでるならさっさと諦める。


 きっとレンが水萌を止めてくれるだろうし何とかなるだろうし。


「それよりもそろそろ今日の本題入ろうよ」


「そういえば今日は蓮奈お姉ちゃんの卒業旅行にどこ行こうか会議で集まったんだっけ」


「うん。多分最終的にはインドアしかいないから行かない選択肢になりそうだけど」


「それでいいよ。舞翔君達が修学旅行行けなかったから行くって話だったけど、舞翔君達が別に行きたいって思ってないし」


 蓮奈の言う通りで、俺達は別に旅行がしたいわけではない。


 今日の集まりは会議をするという建前で集まっただけ。


「まあ、一応話だけはしようか。未来の話はしてる時が一番楽しいんだから」


 俺の言葉にみんな呆れ顔で頷く。


 きっとこれからもこんな感じで適当にやっていくのだろう。


 あの夢のように何かあれば集まるし、気が向いたら会いに行く。


 そんな感じの緩い関係が続く。


 それが俺達だ。


 俺達の関係はこれからだ。


 後日談ではあるが、旅行はいつか行くことになった。


 多分行かないけど『いつか』行く予定だ。


 それと写真は……はい。


 俺達の関係は続く、続かせてみせる。

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