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大人への第一歩?

「うち、帰還!」


「ただいまー」


「修学旅行から帰って来て荷物置いて次にすることがうちに来ることって元気だな」


 三泊四日の修学旅行が終わり、より紫音しおんが無事に帰って来た。


 そして一度家に荷物を置いたその足でうちに来てくれたようだ。


「まったく、お兄様はいくら修学旅行が嫌だからっておサボりはいけないよ」


「……迷惑かけてすいませんでした」


「あーあ、せっかくサキが忘れかけてたのによりのせいでまた落ち込んだ」


「依ちゃん最低」


水萌みなも氏のガチめの『最低』ってくるものがある。そしてお兄様のガチ落ち込みは絶対にうちをからかうものなのがわかってても罪悪感がやばい」


 さすがは依だ。


 俺にからかわれすぎて本気とからかいの区別がつくようになってきている。


 これからはもっと精進しなければ。


「サキはよりに罪悪感を持たせないようにわざとやってるんだろ」


「だよね。お兄様ってほんとに熱出たんでしょ?」


「オレと水萌が来た時には治ってたけど」


「愛の力?」


「サキの修学旅行に行きたく無さが強すぎて熱が出ただけで、行かなくてよくなったから治っただけ」


「なんて都合のいい体」


 それは俺も思う。


 俺だってせっかく諦めて行く気になっていたのに熱が出て、それを知っていたら夏休みをもっと楽しめたはずだ。


「病は気からってマジなんだよな」


「それって普通は治らない病気に対して使う言葉だけどね」


「サキに普通を当てはめようとするな。無駄だから」


 レンがとても失礼なことを言い出す。


 そう言うならレンは普通だと言うのか。


 というかそれもりも、なぜみんな納得したような顔をしている。


「自覚ありなんだから別にいいだろ」


「俺は普通だが?」


「誰から見て?」


「俺から見て」


「はいはい」


 わかってたけど呆れられた。


 実際のところ、俺は自分のことを『普通』だとは思ってない。


 だって『普通』とは何かわかってないから。


 結局『普通』はその人の捉え方次第で変わるんだからぶっちゃけなんでもいいだろうし。


「そんな不毛な会話はいいんだよ」


「不毛、だけど。なに、じゃあよりと紫音から修学旅行の思い出話でも聞くの?」


「ちなみにあるの?」


「うーん、自由行動は紫音くんと回れたから楽しかったけど、他は特に思い出になるようなことはなかったかな。とにかく早く帰りたかったとは思ってたけど」


「僕もそうかな。一応修学旅行デートはできたけど、まーくんのことが心配で二人してずっとソワソワしてて集中できなかったし」


「すいません……」


 俺が熱を出したせいでみんなに迷惑をかけた。


 どう責任を取るのが正しいのか。


「まーくんがちゃんと治ったことを連絡してくれれば良かったんだよ。そうしたら僕達は何も気にしないでデートできたのに」


「うちと紫音くんを除け者にして五人でお楽しみしてたんでしょ?」


「ちょっと本気の謝罪しなきゃだな」


 さすがに罪悪感がやばい。


 紫音の言う通りで、俺は熱が治ったことを二人に連絡していない。


 普通に忘れてレン達と楽しく話をしていた。


 反省。


「冗談はこのぐらいにしとかないとお兄様が本気で落ち込むから、お待ちかねのお土産ターイム」


「報連相もできない俺なんかが貰えるお土産なんて無いので部屋の隅で静かにしてます」


「依ちゃんがまーくんいじめるから拗ねちゃった」


「紫音くんよ、明らかにいじめたのは君だからね? それとあれは拗ねたんじゃなくて真面目に落ち込んでるやつ」


「まーくん、まだ熱が下がりきってないのかな。ちょっと確認してくるね」


「どさくさ紛れにお兄様とイチャつこうとしないの。れんれんが嫉妬に狂うから」


 また俺を使って二人がイチャついている。


 まあ、今の俺が言えるようなことは何もないんだけど……


「そういえば先輩達って修学旅行どこだったんですか?」


「その話の方向転換ができるのすごい」


「依ちゃんの相手の気遣いを全部無駄にするそれもすごいよ」


「あ、すいません……」


 今度の標的は愛莉珠ありすになった。


 誰彼構わずだ。


「せんぱーい、依さんと紫音さんの恋人アピールがちょっと嫌なのでありすと先輩も見せつけよ」


「俺なんかにありすの相手を務める資格ないですよ」


「じゃあ勝手に先輩で遊……殺気を感じる」


 確かに今、愛莉珠の後ろの方から恐ろしい気配を感じた。


 直線上に居た俺に対しての殺気の可能性もあるけど、愛莉珠は何かを察したように俺から離れていく。


「わざとなのはわかるけど、それにしては殺気が強くない?」


「抑えきれないものってあるじゃないですか」


「恋火ちゃんってしおくんと依ちゃんとは違う意味で恋人アピールしてくるよね」


「しないとあなた達調子に乗るでしょ」


「別にアピールしても乗る人は乗るけどね」


 レンの盛大なため息が聞こえた。


「じゃあ配るよー」


「紫音くん、なんか色々とめんどくさくなったからっていきなり始めないの」


「だっていつまで経ってもお土産渡せないんだもん」


「それはそうなんだけどね」


 全てを無視して紫音がみんなへのお土産を準備する。


 確かにそうでもしないと話が進まない。


 主に俺のせいで。


「じゃあまーくんからあげるね」


「その心を聞いても?」


「僕達に連絡しなかったこととか、恋火ちゃん達を巻き込んだことをずっと気にして受け取らなそうだから?」


 つまりめんどくさいやつは先に済ませようと。


 効率重視の考え方、さすがです。


「なんかめんどくさい勘違いしてるだろうけど無視するね。どーぞ」


 紫音はそう言って俺に小さな紙袋を渡してくる。


「ありがとう。開けていいの?」


「いいよ。その間にみんなに渡してるね」


 紫音は笑顔でそう言うと、レン達に俺と同じ紙袋を渡していく。


 中に入っているものを見てなんとなく察した。


「そういうやつ?」


「多分そう。今の僕達にはピッタリかなって依ちゃんと決めたの」


「ちなみにうちはお金を出しただけです!」


 依が胸を張ってドヤ顔をする。


「依もありがとう」


「素直に感謝を向けられるとむず痒いな」


「ネタばらしすると、最初にお土産の方向性を決めたのは依ちゃんだよ」


「言うなし!」


 紫音な顔を赤くした依にポカポカと叩かれている。


 そうだとは思ったとは言わないでおく。


「あ、それとありすちゃんの質問に答えると、修学旅行で行ったのは京都だよ。だから無難に八つ橋も買ってきたから食べよ」


「ニッキ」


「八つ橋のことを『ニッキ』って言うの多分まーくんだけだからね?」


 八つ橋と言えばニッキだから俺は八つ橋と聞いたらニッキと答える。


 そこに特に意味はないが、反射的にそう言っているのだから仕方ない。


「こうして意味の無い会話をいつまで続けられるのかわからないけどさ、できるだけしてきたいな」


「いきなりなんだよ」


「最近将来についてよく話すから」


「まあ、確かに頻度は減るだろうけど、多分大丈夫なんだと思うんだよな」


「なして?」


「だってサキがいるから」


 レンの意味不明な説明に首を傾げていると、なぜか他のみんなは納得したような顔をしている。


「舞翔くんがいればね」


「まーくんだもん」


「結局お兄様だし」


「舞翔君だから」


「つまり先輩とありすは一心同体」


「一人おかしいのがいたけど、サキは絶対に繋がりを大切にするから心配の必要はないんだよ。寂しがりなのもあって」


 最後の余計な一言ですごく納得した。


 俺は結局みんなと出会って一人で生きることができなくなった。


 つまり何がなんでもみんなと関わろうとするだろうから、頻度は減っても繋がりを断つことはしない。


 拒絶さえされなければ。


「サキが弱々しく『会いたい……』とか言えばここにいるやつらはチョロいから会ってくれるよ」


「一番チョロい人が何か言ってるー」


「何か言ったか?」


「一番チョロい人が何か言ってるー」


「今のは確実に喧嘩売ったな? 買ってやるから頭出せ」


「恋火ちゃんのバイオレンスー」


「かち割れろ」


 可愛い双子の追いかけっこが始まった。


 室内なのもあって二人とも膝立ちなのが可愛い。


 大人になればこんな風景は見れないかもしれない。


 だからこそ今を楽しみ、充実させる。


 そして大人になったら「昔はこんなことをしてた」みたいな会話が出来るのかもしれない。


 いや、俺達なら大人になっても同じことをしてる可能性も?


 それはそれでいいけど、そんな未来の為にも今を楽しみ未来も繋がりを保ちたい。


 その為に今できることは、八つ橋を食べながら双子の戯れを眺めることなのだ。


 つまりこれが大人への第一歩……なのかな?


 兎にも角にも、俺達の未来に幸多からんことを。

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