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てんとう虫

「おサボりさんだー」


「ありすと会えない時間が嫌だがらって仮病なんて使わなくていいのに」


「おかえり」


 修学旅行を休んだ俺はレンと水萌といつも通りの時間を過ごし、気がつくと学校が終わる時間になっていた。


 そして学校終わりの蓮奈れな愛莉珠ありすが遊びに来てくれた。


「ナチュラルに『おかえり』って言われるとドキッとするね」


「先輩の胸がありすの帰る場所だー」


「うるさい小娘」


 俺に駆け寄ろうとした愛莉珠の首根っこをレンが掴んで止める。


「やー、鬼嫁ー」


「シバくぞ」


恋火れんかさんも変わったね。もう『嫁』って言われても何とも思わないんだ」


「うっさいわ」


 レンが愛莉珠の頬をうにうにと引っ張って照れ隠しをしている。


 何とも微笑ましい。


「私は頑張って乗り切ったのに舞翔まいと君はサボったんだー」


「偉そうなこと言ってたのにごめん」


「いや、舞翔君はほんとに熱出したの知ってるから。心苦しいから本気で謝らないで」


「蓮奈の優しさに涙が出てくる」


「あくびして無理やり涙出そうとしないでいいの」


 蓮奈が呆れ顔で俺の偽りの涙を拭ってくれる。


 そういうとこだぞ。


「恋火さんも蓮奈さんの嫁力を真似した方がいいですよ」


「あれは蓮奈さんだから出来ることだろ」


「それはそうかも? ありすも先輩の涙を拭うことは出来るけど、下心出ちゃう」


「水萌も昔なら出来たんだろうけど、今は腹黒だから無理だし」


「舞翔くーん」


「そういうとこ」


 仲のいい三姉妹だ。


 それはそれとして、蓮奈さんは俺の頬をうにうにとつねって何がしたいのかな?


「舞翔君って肌綺麗だね」


「いきなり何?」


「女の子ってね、男の子の清潔感? とかを意識してるんだって。髪型とか服装もなんだけど、肌とか見てる人は髪質まで」


 どこ情報なのかはなんとなくわかるけど、あの人は蓮奈にそれを教えて何がしたいのか。


 というか普通にくすぐったいから髪をいじるのやめて欲しい。


「舞翔君ってこうしてちゃんと見ると女の子みたい」


「ほんとやめなさい。熱がぶり返すでしょ」


「照れてるの?」


「こそばゆい」


「舞翔君はいっぱい攻められるよりもこうやって小さい攻撃される方が恥ずかしいんだ」


 蓮奈が嬉しそうに俺の頬をつつきだす。


 なんでみんな俺の困ることを見つけるとこうして無邪気な笑顔を向けるのか。


 それが一番困る。


「先輩、っていうか、男子って結局蓮奈さんみたいな無邪気、下心のないスキンシップが一番ドキドキするんですよね」


「ほんとそれ。サキもやっと立派な男子になれたんだな」


「恋火さん的にあれはセーフです?」


「だって蓮奈さんにその気がないし。あれでサキがその気になったらしつけをする」


宦官かんがんってやつですね。それとも恋火さんが使い物にならないくらっ!!」


 いつも通り意味不明なことを言っていた愛莉珠の頭が後ろに飛んだ。


 理由は言うまでもないが恋火による見えないデコピン。


「ありすとよりってあそこまでいくとわざとなのかね」


「恋火ちゃんのこと大好きだよね」


「ちなみに水萌はわざと?」


「私は言いたいこと言ってるだけー」


 知ってた。


 いつの間にか蓮奈の俺いじりに参加していた水萌はレンに対して異常にドライな時がある。


 姉妹で双子だからこそなんだろうけど、要するにレンはいじられキャラということだ。


「そういえば水萌ちゃん達は良かったの?」


「何が?」


「愚問なんだろうけど、修学旅行行きたかったとか無いのかなって」


「無いよ? 私も恋火ちゃんも別に旅行が好きとかないし、行くんだとしても知らない人となんて嫌だもん。だから舞翔くんがいないなら行く理由が無い」


 それを聞いて少し安心した。


 レンと水萌が修学旅行に行きたがってる感じがないのは知ってたけど、もしもほんとは行きたいのに俺を気遣ってサボってたのだとしたら責任を取る必要が出てくる。


 有り体に言えば、いつか二人を旅行に連れて行くみたいな。


「俺と同じで旅行嫌いなら別にいっか」


「私も恋火ちゃんも旅行は嫌いだけど舞翔くんは好きだよ?」


「つまり?」


「舞翔くんとなら旅行行きたいなー」


「善処する」


「絶対に行かないやつだ」


 蓮奈が俺の頬をつんつんとつつきながら余計なことを言う。


 確かに旅行に行きたいか行きたくないかで言ったら行きたくはない。


 わざわざどこかに行くぐらいなら部屋でのんびり話している方がよっぽど楽でいいから。


 だけど水萌が行きたいと言うなら俺だってきっと行く。


 俺も水萌達がいるなら『行きたい』とはならないけど嫌ではないから。


 それはそれとして……


「蓮奈はそろそろ俺の顔で遊ぶのやめろ」


「あ、普通に楽しくて忘れてた」


「じゃあ次は私ね」


「順番にやるやつじゃないから」


 蓮奈が笑顔と共に手を離すと、代わりに水萌が手を伸ばしてきたのでその手を握って止める。


 そして……


「そう言って舞翔君が水萌ちゃんの手を楽しんでるじゃん」


 水萌の手を握ったら離せなくなり、そのまま蓮奈のように水萌の手をいじり出したら蓮奈に呆れたよう顔を向けられた。


「水萌だけじゃないけど、中毒性あるんだよな」


「くすぐったいけど舞翔くんならずっと触ってていいよー」


「さすがにずっとは遠慮するよ。ほんとにずっとやってるから。だから後五分」


「あ、続けはするんだ。それと『後五分』は絶対に五分で終わらないやつ」


 さっきから蓮奈はなんなのか。


 そうやって事実しか言わないでマジレスする人は嫌われるぞ。


 俺はちゃんと言われる方が好きだけど。


「サキはそろそろ浮気やめとけよ」


「浮気違う。戯れ」


「ありす達とは遊びだったの!」


「少なくとも今日はまだありすと遊んでない」


 二人仲良く戯れてたレンと愛莉珠もやっとこちらに合流した。


 愛莉珠のおでこに赤い跡があることには触れないでおく。


「ほら、水萌なんかの手よりもオレのにしとけ」


「いやいや、フレッシュ差でありすを選ぼ」


「私の番だから駄目ですー」


「じゃあさっきのお詫びに私のでいいよ」


 今のよくわからない状況を説明しよう。


 俺の目の前に四人の右手が差し出されている。


 ちなみにまだ水萌の手と戯れてはいる。


「一人を選べ的なやつ?」


「普通にオレを選べば何も無いだろ」


「脅してる」


「ありすはおでこをてんとう虫にしたいのか?」


「例えが可愛いですね」


「主流は七つ星だったよな?」


「そんな暴力に染まった手を先輩に取らせるわけにはいかない」


 茶葉が始まった。


 これは俺が誰かを選ばない限りみんなが手を引くことはないのだろうか。


 多分しばらく放置してたらレンあたりが羞恥心に負けて手を引くとは思う。


 それでもいいけど、せっかく合法的に戯れる許可も得たので選ぶことにする。


 俺が選ぶのは……普通にレンだけど。


 水萌から手を離してレンの手をいじる。


 寂しがってる水萌には悪いけど、これが一番後腐れない。


 それにレンが自分からこんなことをさせてくれることなんてめったに無いことだから楽しませてもらう。


 ということで俺は存分にレンの手を楽しんだ。


 それはもう存分に。


 簡単に表すなら、俺のおでこに三ツ星てんとうができるくらい。


 そんな感じで修学旅行休み? を堪能しました。

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