終わりへのカウントダウン
「見てくださいよ奥さん、見せつけてますよ」
「そうだね、そうなんだけど、僕を奥さんっ言うその悪いお口には罰いる?」
「やれるもんならやってみな」
俺がレンで遊んでいたら出て行ったみんなが普通に入って来て、なんかいきなり依と紫音がイチャつきだした。
ほんとに見せつけてくれる。
「お前らなんで入って来たんだよ」
「みんな、恋火ちゃんがもっと舞翔くんと二人っきりでイチャイチャしたいって。知らないけど」
「言ってねぇだろ。つーか聞く気は無いのな」
「だって二人なのをいいことにあんなことまでしたんだからもういいでしょ?」
「見てたのかよ」
「認めたー」
レンはなんでこうも素直なのか。
水萌の狡猾さをもう少し学んだ方がいいのではないだろうか。
俺はそんなレンが好きだし、狡猾になったら俺が困るからならないでいいけど。
「サキ、あいつに痛い目を見せる権利をくれ」
「駄目だから。それよりもみんな来てくれたんだから俺を祝って」
「ほ、ほら、お兄様もああ言ってるしうちをいじめるのはやめよ?」
「大丈夫だよ、多分もうちょっと始まらないから」
紫音に押し倒されて焦っている依が俺に視線で助けを求めてくる。
夫婦喧嘩は犬も食わないと言うし、触らぬ神に祟りなしということで。
「紫音の言う通りでどうせまだ始まらないだろうからあの二人は放置して、何かしてくれるの?」
「別にいつも通りかな。形に残るプレゼントはオレ達みんなからってことで選んだのがあるからそれを渡して、後は談笑と水萌が選んだケーキを食べるぐらい?」
「みんなからプレゼント貰ったのにまだ貰えるだ。紫音はくれてないけど」
既に俺にはもったいないぐらいのプレゼントを貰っているのにまだプレゼントが貰えるなんてどれだけ恵まれているのか。
それを貰えば数的にみんなから貰ったことになるから紫音は何もしなかったのだろうか。
「同性だからマウストゥーマウスでいい?」
「オレの前でそんなこと言うなんていい度胸だな」
「恋火ちゃんこわーい。依ちゃんたすけてー」
「どさくさに紛れて抱きつかないでよ! さっきの仕返しか!」
紫音の笑顔は『YES』という意味。
なんか押し倒した相手を抱きしめてるのを見ると少し生々しく感じるからそろそろ視界から外す。
「うちの義ーズがすいません」
「新しい単語を作るな。一瞬何かわからなかったろ」
「わかるサキがおかしいんだよ」
レンが呆れたようなため息をつくが、今のはわからない方がおかしい。
蓮奈の言う『ぎーず』の『ず』は複数形の『ズ』だろうし、それなら二人に関連する『ぎ』を探せばいいだけで、そんなの『義弟』と『義妹』しかない。
「正確に言うならしおくんは従兄弟だから弟じゃないから依ちゃんも妹にはならないんだけどね」
「いいんじゃないの、蓮奈ってみんなの姉兼妹みたいなもんだし」
「おいおい、大人のれでぃーである私を妹扱いする悪い弟は誰だ?」
「誰だと言いながら俺の方を見てくる麗しき乙女は誰だ?」
「弟にいじめられるお姉ちゃんってこんな気持ちなんだろうね。ブラコンの気持ちがよくわかるよ」
ちょっと何を言ってるのかわからないけど、蓮奈が納得してるならそれでいい。
俺だって蓮奈が姉ならシスコンになってるだろうし。
「蓮奈さんがみんなのお姉ちゃんならありすはみんなの可愛い妹だよね」
「末っ子感は確かにある」
「末っ子は一番可愛いって言うもんね」
確かにこのニコニコ笑顔を見れば誰もが可愛いと思うだろう。
その裏の顔さえ知らなければ……
「今なんておもったのー?」
「目が笑ってないぞー」
「あははー、大丈夫だよ。心も笑ってないからー」
怖い怖い。
末っ子は可愛いからと甘やかされて育つものだから何かを抱える人が多い(知らんけど)
そのせいでこうして自分の納得いかないことが起こると全てをこちらのせいにして他の人にすがる。
「ということでこれからありすを甘やかすことはやめよう」
「先輩、思い返してみて。みんなあんまりありすのこと甘やかしてない」
「そんなわけ………………ないよ」
「その間よ」
愛莉珠が呆れたようにため息をつく。
確かに思い返してみたら俺を含めてみんな誰かを甘やかすことをしないと思う。
結局みんな性格に難があるから人をからかうことしかしない。
まあ、『みんな』とは言ったけど例外は一人いて、依は優しさの塊だから甘やかすことをするんだけど、愛莉珠との関わりが少ないから甘やかされたことはないかもしれない。
「ちなみに蓮奈は?」
「蓮奈さんは優しいけど甘やかす感じではないかな。結局皆さんはありすも対等に扱ってくれてるから」
「依が尋常じゃないだけで、みんな優しいもんな」
結局みんなが甘やかしたりなんかの特別扱いをしないのは対等の友達だと思っているから。
だから逆に特別扱いされる場合はあんまり好かれてないということ。
レンが最初は名前にさん付けで呼んでるみたいな。
「先輩って依さんの評価すごい高いよね」
「あそこまで優しい人間そうそういないだろ?」
「それはわかるけど……あ、そっか、先輩って客観的に自分を見れないんだっけ」
愛莉珠がポンっと手を打って納得したように言う。
それではまるで俺が依並に優しくて、それを俺がわかってないみたいに聞こえる。
「そう言ってるの。今更だから別にいいけど」
「なんで俺は誕生日にまでそんなに呆れられなきゃいけないの?」
「先輩だから。そして唐突にプレゼントターイム」
「ほんとに唐突だな」
愛莉珠の掛け声と共にみんなが動き出す。
依の頬をつんつんとつついて遊んでいた紫音までもが動いた。
依も頑張って。
「何が始まるの?」
「全員サキに言いたいことは言ってるな?」
レンの問いかけにみんなが頷いて答える。
「じゃあ渡すだけでいいか。紫音が渡すんでいいのか?」
「僕でいいの? 後でまーくんと恋人的なキスする予定だけど」
「それは絶対にさせないから紫音でいいよ」
「紫音くんのうわきものー」
「証拠いる?」
「うちは紫音くんに絶対の信頼を置いてるからそんなの無くても信じてるよ」
「そう? 残念」
毎回思うのだけど、俺を使ってイチャつくのはどうにかならないのだろうか。
もう付き合っているのだから愛のキューピット的な存在もいらないだろ。
「天使姿のまーくん……」
「変な妄想やめろ。それで紫音は何を渡してくれるんだ?」
「あ、えっとね、これ」
紫音はそう言ってレンから受け取った紙袋を俺に手渡す。
大きさはそんなに無く、手持ちサイズぐらいか?
「サキは大きさイコール気持ちとか思わないだろ?」
「うん。そもそも貰えるだけで嬉しいし」
「サキは何を貰うかよりも誰に貰うかだもんな」
「そっくりそのまま返そう」
というか、誰しもそうではないだろうか。
大切な人から貰うプレゼントなら、それこそ石ころだって俺は嬉しい。
多分信頼してるからなんだろうけど、その石ころを選んだ理由がきっとあると思えるから。
そして対して仲良くもない相手から豪勢なものを貰ったら何か裏があるのかを疑ってしまう。
「だからそれはほんとに安物。その代わりにオレ達の気持ちを込めといた」
「結局そういうのが一番嬉しいんだよな」
まだ中身はわからないけど既に嬉しい。
これで受け取ったものが俺が喜べないものとかいうオチなら完璧なんだけど、根が真面目な人しかいないからそれはない。
そんなことを考えながら紫音から紙袋を受け取って中身を見る。
そこには小さなうさぎのぬいぐるみが入っていた。
「バニーの衣装が入ってて『今着て』とか言われたらさすがに喜べなかったかもだけど、これの意味は?」
「来年やろ。それはお守り」
レンがなんか聞き捨てならないことを言った気がするけど、もしもほんとにやるのなら俺もやる。
それはそれとして……
「お守り?」
「そう。サキが生き延びれるように」
「俺死ぬの?」
「場合によっては」
レンが冗談を言ってる感じはない。
それはつまり、俺は近いうちに死ぬ未来があるということ。
多分精神的になんだろうけど、一体何が……
「……」
「サキが思い出した」
「舞翔くん震え出したよ」
「息まで乱れてきた。私の時より酷くない?」
「お姉ちゃんは同じ班に友達、知り合いがいたでしょ。まーくんは……」
「このままだとお兄様泣いちゃうんじゃない?」
「そしたら先輩の大好きなありすの胸を貸してあげぇぇぇ」
言質は取った。
今はとにかく落ち着く為に温もりが欲しい。
「ほんとやばいな。打ち消せるかなって思ったけど、足りないか」
「舞翔くん可哀想。私が毎日よしよししてあげないと」
「そのレベルかもな」
「恋火ちゃんが許した……」
「サキが持たなかったらやばいからな。サキはあんなだけど、オレはサキと行きたいんだよ」
「新婚旅行だもんね」
「まだ結婚してねぇっての。とにかく、修学旅行までにサキをどうにかしないとな」
修学旅行。
行動班はレン達と一緒だからむしろ行きたい。
問題は部屋の班だ。
部屋の班は同じクラスの同性としか組めないことになっている。
つまり俺の死を表す。
俺は死ぬまで生きていられるのだろうか。
とりあえず今日は爆発した愛莉珠に代わってレンがずっと俺の手を握ってくれていたのでなんとか俺の生誕祭は無事? 終了した。
あといくつ寝ると、俺の永眠の日が来るのだろうか。




