効果てきめん
「んで誰からのプレゼントが一番嬉しかったんだ?」
「君達って不意に双子になるよね」
俺を不安にさせて部屋を出て行った水萌に代わって最後のレンが俺の部屋に入って来た。
そして開口一番で水萌と同じことを言うものだから八つ当たりを忘れて普通に突っ込んでしまった。
「水萌も言ったのかよ。つーかサキがそういうことされすぎなのが悪い」
「それ絶対に俺悪くないよな?」
「うん。だけど拒絶しきらないサキがやっぱり悪い」
それを言われたら何も言い返せないけど、俺だって最近は頑張っている。
頑張るだけなら誰にでもできるが。
「今自虐したろ」
「したが?」
「逆ギレはしなくていいんだよ。それよりもサキってオレに何かして欲しいこととかある?」
「おいで」
俺がレンにして欲しいこと。
それは一つしか……ないわけではないけど、ある。
さっきまで水萌がベストポジションに居てくれたおかげで寂しくなっているので、水萌を超えるベストフィットのレンを抱き枕にしたい。
だから両手を広げたらレンがあからさまに嫌そうな顔をされた。
「駄目?」
「いや、いいけどさ、それって水萌がしてたからして欲しいことだろ?」
「今日のレンはいつも以上に嫉妬深いな」
「うざい?」
「可愛い。余計においで」
なんでだろうか、嫉妬深い女子なんてウザくて関わりたくないと思うのに、レンだと可愛いという感情しか出てこない。
これが好きになったからなのか、レンがそういうものだからなのかどっちなのだろうか。
多分前者だけど。
「サキは水萌達がめんどくさいく嫉妬してても可愛いって言うだろ」
「実際あの子達の嫉妬って可愛いし。ジャストフィットありがとう」
これも俺が水萌達を好きだからなのかわからないけど、水萌達の嫉妬も見てて可愛いと思える。
というか水萌達はレンのように嫉妬で怒るタイプではなく嫉妬で拗ねるタイプだから多分元から可愛い。
レンはレンで怒りながらも甘えてくれるから結局可愛い。
「レンのフィット感ほんといいよな」
「チビで悪かったな」
「なんで小さいのをネガティブに捉えてるのかがわからないんだけど。レンは可愛いんだからいいだろ」
「つまりサキは小さいオレが可愛いから好きなんだな」
「俺はレンが小さくても大きくても可愛いと言い続けるから。レンは可愛いんだよ、わかる? レンはね、見た目も確かに可愛いけど、何より人をからかおうとして返り討ちに遭って恥ずかしがってる時が一番可愛いんだよ。そんで次点で他の全てが可愛いの。つまりレンは可愛いってことな? ここまで理解した?」
「オレが悪かったからそろそろ黙れ」
レンを後ろから抱きしめてるから顔は見えないけど、耳が赤い。
これが顔を隠して耳隠さすというやつか。
「ほんと可愛い」
「それ以上言ったら何もプレゼントあげないぞ」
「今で十分プレゼント貰ってる」
「じゃあいらないんだな?」
「レンそのものをプレゼントとして貰えればレンが用意したプレゼントも貰えるんじゃね?」
「オレは『物』か?」
「まあ、『者』って言えばそうなんじゃない?」
レンに手の甲をつねられた。
まったく、水萌がさっきまでやってたから水萌のああ言えばこう言うが移ってしまったじゃないか。
「サキってオレがいなくなったら水萌とかと普通に付き合うのかなって思ってたけど、実際どうなの?」
「いきなり何?」
「サキがオレのこと好きなのはさすがにわかってるんだけどさ、オレをからかう以上にオレのこと好きじゃん? だからもしもオレが……単身赴任的な理由で物理的に会えなくなったらどうなるのかなって」
想像もしたくないけど、したら泣きたくなった。
おそらくレンは俺の父さんが事故で他界してるから『死』を連想させる言い方を避けたのだろうけど、もしもレンが事故にでも遭って、それで……
「あぁ、ごめんって。例えばだからな? 今のところオレがサキから離れることはないから」
最悪の想像をして青ざめていた俺の頭をレンが腕を伸ばして撫でてくれた。
余計に泣きそうだ。
「ほんとに?」
「サキって弱るとほんとに可愛いよな、とか言ってると余計に不安になるから、ほんとだよ。オレはサキとずっと一緒」
「……レン、実は何かの病気とかじゃないよね?」
「それはマジで大丈夫だから。よりにもずっとフード被ってたのを病気のせいとか勘違いされたけど、ほんとに大丈夫」
レンが顔をこちらに向けてまっすぐ俺と視線を合わせながら言う。
こればっかりはレンの言葉を信じるしかないけど、レンがそういう話をするものだからやっぱり不安は消えない。
「サキの心配性舐めてたな。サキ、ちょい離して」
「……」
「どっか行くとかそういうのじゃないから。向かい合う感じにしよ」
そういうことならと、レンを抱きしめるのをやめてレンの手をしっかりと握る。
「だからどこも行かないっての。そんな心配性なサキには記憶消去の施術をする」
「何するの?」
「やっぱり記憶って他の他の強い記憶があれば弱いのは消えると思うんだよ。だから……」
レンがニコッと笑う。
「かわ、ん!?」
俺の口はレンによって塞がれた。
物理的に。
それどころか、何かに貪られて……俺は無事に記憶が消えました。
正確に言うなら、もうそのことしか頭にありません。
「満足」
「……レンの変態」
「そこは可愛く『えっち』と言えよ。言っとくけどオレは彼氏とキスをしただけだからな?」
「あれは……変態」
「サキってやっぱ自分が攻められると弱いんだな。これから困ったらそうやって黙らせよ」
レンが舌なめずりをしながらニマニマ顔を俺に向ける。
普通にえろいんだが?
そしてレンがこういうことを照れずにやれるようになると俺は絶対にレンに勝てなくなる。
こうして夫婦で男が尻に敷かれる関係が生まれるのだろう。
「これはいいな」
「……」
「なんだ、何か言いたいなら言っていいぞ? その口黙らせてやるから」
「調子乗んなよ恋火」
「な、ばっ……」
レンが体を引いて逃げようとしたから抱きしめてむしろ引き寄せる。
「さっきまでの強気はどうした恋火。顔が真っ赤だぞ恋火」
「おま、やめろ!」
「なんでだ? 俺は彼女の名前を呼んでるだけだけど?」
やられたらやり返すのが俺の性分だ。
最初は同じことをやり返してやろうかと思ったけど、なんとなくこっちの方がレンには効果的だと思ったからやってみたけど、やはり効果てきめんだった。
「恋火、可愛いよ」
「マジでやめろ、まい……」
「恋火なんて?」
「うっさい馬鹿サキ!」
体を抱きしめられてるせいか、レンは俺に暴力が振るえない。
最後の悪あがきとして俺に抱きついて背中をポカポカと叩いている。
ほんとに愛らしい。
こうして俺はしばらくの間腕の中のレンに『恋火』を囁き続けたのだった。




