メンタルの弱さ
「お互い言うことは?」
「「ごめんなさい……」」
いつもの姉妹喧嘩を終わらせる為に軽いお説教をしたらレンと水萌もわかってくれたらしく、ちゃんと仲直りをしてくれた。
手まで繋いで、仲がいいのは良いことだ。
「水萌、もうくだらない喧嘩はやめよ」
「うん。舞翔くんを怒らせるのは、だめ……」
水萌が泣き出してしまった。
レンはその水萌の背中に腕をさすりながら「怖かったな」と優しく声をかけている。
あれではまるで俺のお説教が怖かったみたいではないか。
俺はただ二人に「喧嘩をするな」と言っただけなのに。
「マジトーンでな?」
「そんな怖かったの?」
「あれだよ、普段怒らない人が起こると怖いってやつ」
「俺って水萌の前で怒ったことあるよな?」
俺は別に怒ったことがないとか、そういうわけでもない。
確かに本気で怒るのはめんどくさいからしないけど、何度かみんなの前で本気でキレたことはあると思う。
「あるけど、それはオレ達に向けたものじゃないだろ? 毎回オレ達を守る為の怒りであって、実際その怒りを向けられたら……」
レンがゆっくりと俺から顔を逸らして水萌と向き合う。
普段怒らない人がいきなり怒るのが怖いのはわかる。
俺だって母さんがキレたら普通に泣く自信があるから。
だけどそれは前提がおかしい。
「俺、別に怒ってなくない?」
「いじめと同じ」
「捉え方ってやつね。マジでごめんなさい」
俺からしたらほんとに軽いお説教のつもりだったけど、どうやらレンと水萌にとっては本気で怒られているように思われたようだ。
それはよろしくない。
とりあえず土下座をしているけど、謝って済むならいじめで不登校になる学生はいない。
「いや、元はと言えばオレと水萌が悪いわけなんだし」
「そ、そうだよ。いじめはいじめる人が悪いけど、舞翔くんは私達の為に怒ってくれただけだもん」
「気を使わせてほんとすいません……」
俺から理不尽に怒られただけでなく、俺が気にしないように気を使わせるなんてほんとに俺は……
「あ、これはサキが自虐モード入った」
「恋火ちゃん」
「なんだよ」
「こういう時は彼女の出番だよ」
「こういう時だけオレを彼女にするんだな」
「え、じゃあ私がやっていいってこと?」
「ごめん、気を使ってくれたやつね」
レンと水萌が何か話している。
あれかな、俺がどれだけ最低なクズなのかでも話してるのかな……死にたい。
「サキってメンタル強そうなのにくそ弱いんだよな」
「優しいからね。それよりも早くしないと舞翔くんが絶望して恋火ちゃんのことを信じられなくなって私が彼女に……もうちょっと待つ?」
「はいはい、そうやってオレを煽るからサキが心配するんだよ。オレよりも水萌の方がよっぽど素直じゃないよ」
「素直だもーん。今のだって本音九割ぐらいだし」
「そこで『十割』って言わないあたり、本当なんだろうな。でも残りの一割が水萌の本心なんだろ?」
レンに何か言われた水萌がほっぺわ膨らませてそっぽを向いた。
また……
「あぁ、はいはい。ほら、サキー、いい子だから元気になれー」
レンがベッドに上がって俺をあやすように頭を撫でる。
「大きい赤ちゃんだな」
「舞翔くんと恋火ちゃんの赤ちゃんは私が育ててあげるね」
「やめろ。絶対にふわふわしためんどくさい子供になる」
「子供を産むことはもう決まってるんだー」
「よし、後でサキがいないところでその喧嘩買ってや──」
「喧嘩、だめ……」
喧嘩と聞こえて、俺の体が勝手に動く。
喧嘩を買うと言っていたレンを抱きしめて見つめる。
レンの方も固まって俺の顔をジッと見つめてくる。
「風邪引いた時もそうだけどさ、なんでサキって弱るとこんな可愛いの?」
「恋火ちゃんも可愛いよ」
「そういうの求めてない。それ)りもちょっと心配にならないか?」
「舞翔くんの可愛さに恋火ちゃんが負けて何かしちゃうこと?」
「お前、サキの耳がほとんど聞こえてないからって素になりすぎだろ」
レンがため息混じりに言うが、さっきと違って二人の声は聞こえている。
反応はできないけど。
「別に隠してるわけじゃないからいいよ。それよりも何が心配なの?」
「サキってメンタル弱いけどさ、もしもオレ達が全員いないとどうなるのかなって」
「私達と再会する前なら平気だったけど、今は寂しくてうさぎさんになるって言ってたね。でも、私達がみんな一斉に舞翔くんから離れることなんてあるの?」
「修学旅行」
「あぁ、そっか。班行動は私達と同じになれるかもだけど、お部屋は……」
水萌が心配そうに俺を見てくる。
存分に心配して欲しいものだ。
多分駄目だから。
「サキの抱きしめる力が強まったぞ」
「修学旅行のお部屋ってさすがに男女別だもんね。それも他のクラスの人と同じになれればしーくんと一緒になれるけど、違かったら私達以外に友達のいない舞翔くんは一人ぼっちになっちゃう」
「一応言っとくと、サキだけじゃなくてオレ達全員一人だけどな」
俺達は俺とレンが一組で依が二組、そして水萌と紫音が三組だから均等に分かれている。
つまりみんな一人になるわけだけど、依は別に俺達以外に友達がいるだろうし、紫音はサバサバしてるから特に気にしないだろう。
レンも特に誰かといなければ駄目というわけじゃないから平気だし、水萌は未だにファンが付いているから何とかなると思う。
だけど俺は……
「サキって変な噂のせいで男子から嫌われてるからな」
「いや、舞翔くんはそういうの気にしないから別にいいでしょ。気にするところは私達が誰もいないのが寂しいってこと」
「そんで一人寂しがって弱るとこうなるんだよな」
「え、やばいじゃん。舞翔くんのこんな可愛い姿を見られたらせっかく変な虫がつかないようになってるのに無駄になっちゃう」
「割とそう。他クラスと同じ班になれてくれればいいんだけど、そればっかりはどうなるのかわかんないからな」
レンが優しく俺の頭を撫でてくれる。
今はレンが頭を撫でてくれてるから大丈夫だけど、これが帰って部屋に一人になってこの事を思い出したら泣くかもしれない。
俺はどうしたらいいのか……
「一つだけサキが大丈夫になるかもしれないっていうことはあるんだよな」
「私もわかった。じゃあ方向転換?」
「いや、追加でいこうか。なんとかなるだろ」
「まあ修学旅行までに間に合えばいいもんね」
「そうだな。ということでサキは楽しみにしとけ」
「……ほんと?」
「水萌、許してやるけど一緒にやるか?」
「珍しい。喧嘩したら駄目って言われたから?」
「いや、さすがに三人しかいないのに水萌を一人にするの可哀想だったから」
「恋火ちゃんのそういうところが好き。だけど素直に『一人だと恥ずかしい』って言ってもいいんだよ?」
「オレはお前のそういうところが嫌い。別に嫌ならオレ一人でやるからいいよ」
「恋火ちゃんも一緒にどーん」
水萌がそう言いながら俺とレンに両手を広げながら突っ込んできた。
それからは二人に撫でられたりして、赤ちゃんプレイみたいなことをしていた。
そしてその日は帰って一人になるのが嫌だったから泊めさせてもらい、床に三人川の字で寝ました。




