似た者同士のバカップル
「で?」
「ほらぁ、依ちゃんが余計なことするからまーくん怒っちゃったじゃん」
「それを言うなら紫音くんがうちに目で合図送ってきたのが悪いんじゃん」
目を瞑ってだいたい五分後、俺は目を開けた。
その五分間で二人で何をしてたのかは知らないけど、物音的には変なことはしてない。
ちなみに俺が見てないからってイチャついたりはしてないということで、それ以外の変なことならしていた。
「で?」
「あ、まーくんが本気で怒ってる。ごめんなさい」
「いやいや、お兄様が怒るなんて夏の沖縄で雪が降るような──」
「……」
「調子に乗ってすいませんでした」
俺が無表情のまま二人を見ていたら紫音と依が頭を床に擦り付け出した。
「謝るってことは俺に怒られるようなことをしたって自覚はあるんだな?」
「うち的には悪いことはしてないよ?」
「まーくん、依ちゃんは頭がちょっと残念な子なの。だから許してあげて」
「ちょい、誰の頭がお花畑だって?」
「僕と依ちゃんが結婚したら『花宮 依』になるから頭がお花畑みたいになるね」
「い、いきなり何言ってんのさ」
ぶっちゃけそんなに怒ってなかったけど、一応俺は怒ってる設定なのによくイチャつけるものだ。
じゃれ合う二人を見てるとなんだか力が抜ける。
「やっぱり舌打ちぐらいはした方のが良かったか?」
「お兄様の舌打ちは多分本気で怖いからやめて」
「……」
「真顔の無言はもっと怖いからやめてください……」
依が紫音の背中に隠れる。
俺には色々とやめろって言ってくるのに自分は俺を使ってイチャつくのはどうかと思う。
「それで人に目を瞑らせて俺の口に指を当ててキスしたごっこを提案したのはどっちだ?」
「紫音くん」
「紫音に効く罰ってなんだ?」
「あれ? いつもみたいに無条件で依ちゃんが疑われるところじゃないの?」
いつもは確かに何かあれば依が悪いことにしているけど、それは実際に依が悪いからそうしてるだけで、今回は紫音が悪いのは明白だ。
「僕が悪いって言うならそう言えるだけの理由があるんだよね?」
「逆にそんな楽しそうな顔して違うとかよく言えるよ」
紫音は俺が目を開けてからずっとニコニコだ。
いつもそうと言われたらそうなんだけど、紫音は人をからかって遊んでる時は二割増しで楽しそうになる。
そして今もそうなっている。
「まーくんは僕を信じてくれないの……?」
「お前はむしろ依を守ろうとしないのかよ」
「だってまーくんにいじめられてる依ちゃん可愛いから」
「紫音くんってさ、うちとお兄様にいじめられるのを見るのが好きって言ってるけど、浮気したら絶対にキレるタイプだよね。結構ヤバめに」
別に紫音は俺に依がからかわれることを許してるだけで、それ以外は許してないと思う。
俺が依をからかうと可愛い彼女が見れるから俺は依の傍にいることを許されてるけど、多分紫音は独占欲の塊だから他の男が依の傍に来ようものなら……
「あれだろ? もしも俺が依に過激なからかいしたら明日の朝日は拝めなくなるんだろ?」
「お兄様と過激って結びつかないけどね」
「ほんとに。まあ、もしもそんなことしたら夕日が見れないかな?」
紫音が一度外を見てから心が笑ってない笑顔を俺に向ける。
冗談なのはわかってるけど、ゾッとした。
冗談、だよね……
「えへっ」
「どうしよう依。紫音が可愛い」
「いや、そこは『怖い』でしょ」
「紫音、依に怖いって思われてるぞ」
「ちょっとショック……」
「わ、わかってるんだからね。うちをからかう為に落ち込んでるフリしてる……ごめんなさい」
ほんとに依はからかいやすく、ほんとにいい子だ。
からかって謝られると普通は罪悪感が湧くはずなのに、しゅんとするものだから可愛くてまたやってしまう。
「じー」
「反発されて少しでも意識に入れてもらいたいって思うのは小学生男子が好きな人にやるようなやつなんだろうけど、俺と紫音がやってるのは好きだからとかじゃなくて普通に依で遊んでるだけだからな?」
「僕も巻き込まないでよ」
「実際のとこさ、依が可愛い反応するのも悪いけど、俺と紫音がやってることっていじめと変わらなくない?」
「さりげなくうちも悪いことにされた?」
「違うだろ?」
「うちが、悪いの……?」
しゅんとしながらの上目遣い。
さすがは依だ。
今回は意図的だけど、これを毎回無意識にやられては癖になっても仕方ない。
「いじめってしてる方はいじめだと思ってないから害悪なんだよね」
「それ。実際俺だってからかってるだけとしか思ってないし」
「うちとしてはお兄様にからかわれるの好きだからいじめだとは思ってないけど、確かに他の人にやられたらいじめって思うかもね」
「謝罪だけでは足らないのはわかってるけど、今まで本当にすいませんでした」
今更ながらに依へ謝罪をする。
俺に依の本心はわからないから本当はいじめだと思ってる可能性だってあるが、多分そうは思ってないと信じる。
だけどそれはそれとして俺が忌み嫌う『いじめ』になるようなことをしてたならちゃんと謝る。
「うちはお兄様のその後の言葉が聞きたいな」
「これからもいじめにならない程度にからかうからよろしく」
「それでこそお兄様だよね。ちなみにお兄様は感情の機微に敏感すぎるからうちが少しでも嫌な気持ちになったら気づいて本気の謝罪から何からするのわかってるんだ」
「俺は依を含めたみんなと仲良くしてきたいから頑張ります」
依の場合、本気で気持ちを隠されたら気づける自信はないけど、それでも何とかしてみせる。
「これはれんれんに嫉妬されちゃうな」
「言ってろ。というか今はレンよりも隣でしゅんとしてる可愛い彼氏を気にしてやれよ」
「え、これって放置すればするだけ可愛くなるやつじゃないの?」
なんだか謝ったのが馬鹿らしくなってきた。
紫音は今、依をいじめていたことに気づいてしゅんと項垂れている。
それを見た依はさっきの紫音のように楽しそうにしている。
「似た者同士のバカップル」
「だからうち達はお互いにからかってることを責めないんだよ」
「さいで。じゃあ俺は目を瞑るから二人でお楽しみください」
「気遣いのできるお兄様好きー」
依がそう言って紫音に向かって行ったところで俺は目を閉じた。
それからしばらくは似た者同士のバカップルのお楽しみ時間が続いた。
俺は見てないから何をしてたのかはわからないけど、紫音に「見ていいよー」と言われて目を開けると、そこには満面の笑みの紫音とぐったりした依がいた。
数秒考えて、これは突っ込んだら駄目なやつだと思ったからそれからは依をからかったり……依をからかったりしていた。
お疲れ様でした。




