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「やあ、久しぶりだね後輩くん」


「何してるんですか先輩さん」


 愛莉珠ありすの時と同じく、今日もレンに部屋から追い出された。


 何をしようか考えようとしたタイミングでスマホが鳴り、蓮奈れなに『私の部屋にしゅーごー』とメッセージがきた。


 可愛いとかは後回しにしてとりあえず蓮奈の家に来て、顔パスで蓮奈の部屋まで来たのだけど、そこには真中まなか先輩が蓮奈のベッドにうつ伏せで倒れていた。


「『何』か。長くなるけど聞くかい?」


「手短に」


「そこに蓮奈さんのベッドがあったから」


「わかりやすい説明をありがとうございます。とりあえず通報すればいいですか?」


 俺はスマホを取り出して一番上にある連絡先を開く。


「そのスマホでどこに通報すると言うんだい。警察に通報するフリをしたって無駄だよ。警察はそんな簡単に動かな──」


「蓮奈? ちょっと蓮奈の部屋に変態が紛れ込んで、るんだけど?」


 真中先輩が突進してきたのでそれを躱しながら話し続ける。


「そうそう、今その変態さんに襲われてるから助けて」


「言い方に語弊があるでしょ! それじゃあ蓮奈さんに勘違いされる!」


「どっからどう見ても俺が襲われてますよね? 言い表すなら俺がマタドール」


「誰が闘牛だ!」


 真中先輩の突進が止まらない。


 ここは二階だからこんなに走り回ったら絶対に迷惑になるんだからやめさせないと。


「ちょうどいいところに先輩が突っ込んで来そうな布が」


「だから私は牛じゃ……」


 真中先輩から逃げていたらちょうど蓮奈のベッドの前まで来てたので、蓮奈のベッドからタオルケットを拝借してヒラヒラとしたら真中先輩が目の色を変えて突っ込んで来た。


「この人見た目はかっこいいのに、中身残念すぎるんだよな。俺は結構好きだけど」


舞翔まいと君ってほんと変な人好きだよね」


「蓮奈、自分のことを変な人なんて言うもんじゃないぞ」


 入るタイミングを探っていた蓮奈が呆れ顔になりながら部屋に入ってきた。


 手に持ったお茶の載ったおぼんを床に置きながら蓮奈が俺の前に座る。


「ほんとに二人仲良しだよね」


「先輩いい人だし」


「それは知ってるけど、ちょっと嫉妬」


 蓮奈が頬を膨らませてそっぽを向く。


 そんなに俺と真中先輩が仲良くするのが嫌なのだろうか。


 まさか俺が先輩を独り占めする心配でもしてるのか?


「蓮奈って変なところで心配性だよな」


「舞翔君にだけは言われたくないね。それと実怜みれいちゃんはそろそろ私のベッドから下りなさい」


「蓮奈に見られたことを忘れる為に現実逃避してるから無視してるよ?」


 真中先輩はもちろん蓮奈が来たことに気づいている。


 だけど今更ベッドから下りたら悪いことをしてるのをわかってやってると言ってるようなものだから蓮奈に気づいてないフリをしている。


「別に実怜ちゃんなら嫌じゃないからいいけど」


「現地取れた?」


「やっぱり無視してたんだね。そっか、実怜ちゃんも私を……」


「まじでごめんなさいでした」


 真中先輩がものすごい勢いで蓮奈に抱きつく。


「実怜ちゃん、謝るならさりげなくさわさわするのやめない?」


「衝撃の事実なんだけど、私って蓮奈さんを前にすると変態になっちゃうんだよね」


「それは知ってる」


「え!?」


 真中先輩の手以外が止まる。


 俺も驚いたけど、真中先輩はあれで隠してるつもりだったらしい。


 隠す気があるならせめてその手を止めないと。


「多分だけど、気を使わせてるよね?」


「なんの事?」


「私ね、そういう実怜ちゃん前は好きだったけど、今は嫌い」


 蓮奈のまっすぐな言葉を聞いた先輩の手がさすがに止まる。


「実怜ちゃんはさ、私が学校で暴走したのを気にさせない為にそういうことしてるよね?」


「……」


 真中先輩が無言であからさまに視線を逸らす。


「やっぱり……。ごめんね、無理させて」


「え、えっと、嫌いって言うのは、私が自己犠牲みたいなことをしてるからって解釈で合ってる?」


「……うん」


「そっか、そかそっか。えとね、素です」


「え?」


「後輩くんに説明する権利をあげよう。私はまだ回復していないのだ」


 真中先輩からドヤ顔で光栄な権利? をいただいた。


 取り繕ってはいるけど、多分真中先輩は結構ショックを受けている。


 だからってまたも蓮奈のベッドに潜り込むのはどうかと思うけど。


「蓮奈に説明すると、真中先輩の無言は肯定の無言じゃなくて、蓮奈に『嫌い』って言われて絶望したからだよ」


「……ほんと?」


「先輩、ここで蓮奈の可愛さに悶えて黙ったら蓮奈は本気で落ち込みますからね?」


「わかってる。わかってはいるけど、可愛すぎて直視したら心臓が弾ける……」


 真中先輩が胸を押さえてうずくまる。


 気持ちはわかるんだけど、蓮奈のことを思うなら早くしないと取り返しのつかないことになる。


 というかなってる。


「……」


「はい、蓮奈がまた真中先輩のせいで夏休み明けから不登校になります」


「ちょいちょい、今のは確かに私が悪いけど、前のは私のせいなのかい?」


「え、まさか蓮奈の心が弱かったからとか言います?」


「何言ってんの? 私のことを意識してくれてるってことなんだから普通に嬉しいだけなんだけど?」


「それだけ蓮奈のことが好きなら蓮奈を悲しませるのやめてくれます?」


「そっくりそのまま返すが? 蓮奈さんの気持ちをもてあそんだのは君だろ?」


「誰がいつ弄んだ? 好き勝手言うのもいい加減、に?」


 俺と真中先輩がよくわからない言い合いをしていると、蓮奈がいきなり俺と先輩の手を握った。


「喧嘩、やだ」


「……」


「……」


「……原因、私だよね? 私が悪いん──」


「蓮奈さんは何も悪くないから!」


「そう、悪いのは真中先輩と俺」


「ちょい、その言い方だと私の方が悪いみたいに聞こえるぞ?」


「そう言ったから」


「ほうほう、喧嘩売ってんな?」


「いい値で買ってくれる?」


「ちゃんとお釣り用意しとけよ」


 ほんとになんなのか。


 多分真中先輩も何を言ってるのかわかってない。


 落とし所を見失った今、俺と先輩を止められるのは……


「けんか、やだぁ……」


 蓮奈が涙目になりながら言うのを見て、俺と真中先輩はお互いに視線を合わせる。


「後輩、喧嘩売るのやめなさい」


「それなら煽るのやめてください」


「正直なこと言うとちょっと楽しくなってた」


「俺もですけど、蓮奈の為にやめましょう」


「喧嘩ごっこはやめるけど、別に敬語はやめていいんだよ?」


「そっちは無意識だったんで忘れてください」


 確かに今思い返してみればさっきまで先輩に対してタメ口を使っていた。


 俺の自分ルールとして『相手に言われるまでは年上に敬語を使う』を破ってしまった。


 ちなみに今作られたルールである。


「ふたりは、なかよし?」


「やばい可愛いな。仲良しだよ、ぶっちゃけ蓮奈さんの次に好きだからね」


「同性しか愛せない先輩に好かれた」


「蓮奈さんは恋愛感情で、後輩は親愛だから調子には乗るな?」


「蓮奈、先輩が喧嘩売ってくるんだけど。買っていい?」


「だめ!」


 蓮奈が俺を抱き寄せて拘束する。


 なので羨ましそうにしてる人に自慢するように視線を送る。


「蓮奈さん! 後輩が私に喧嘩売った!」


「舞翔君、ほんと?」


「俺がそんなことすると思う?」


「うん」


「知ってたけど信頼ねぇのな。まぁしたから何も言えないけど」


 蓮奈には全てお見通しだ。


 まあ別に元から隠すつもりもなかったし、結果的に真中先輩の望みとは違うことになる。


「さあ蓮奈さん、私の胸に飛び込んでおいで!」


「舞翔君、実怜ちゃんをいじめたら、めっだよ」


「はーい」


「なして!」


 勘違いしないで欲しいが、蓮奈は別に俺を贔屓してるわけではない。


 ただ、喧嘩を売られて可哀想な俺を守って、喧嘩を売った俺を怒ってるだけだ。


 同じことをしてる真中先輩に何もしないのは多分順番が悪かったからだと思う。


 蓮奈は優しいから最初に守る行動を取って、次に近くにいた俺を怒ることにしたんだろう。


「つまり蓮奈のことを理解してるのは俺ってことですね」


「私後輩嫌い!」


「それは残念です。今から先輩が泣いて喜ぶことをしようかと思ってたんですけど」


「今の私は不機嫌だからそう簡単に喜ばないから」


 真中先輩が拗ねたようにそっぽを向く。


 わかりやすい『待ち』の状態だ。


 先輩に嫌われるのは嫌なので仕方ないから喜ばせてあげよう。


「蓮奈、さっきのは訂正しないでいいの?」


「さっきの?」


「真中先輩のこと嫌いってやつ」


「あ、そっか」


 俺が蓮奈にそう言うと、蓮奈は急いでベッドに乗って真中先輩と向かい合う。


「実怜ちゃん、さっきはごめんなさい。私ね、実怜ちゃんが私の為に変な人を演じるのは嫌だけど、それ以外は大好きだよ」


「……」


 真中先輩はそっぽを向いたまま動じない。


 多分蓮奈と目を合わせたら耐えられないから振り向けないんだと思う。


「蓮奈、言葉だけじゃ先輩の傷ついた心は治らないよ」


「どうしたらいい?」


「先輩チョロいからほっぺにキスでもしたら機嫌直るよ」


「わかった」


「いや、え、ちょま──」


 蓮奈は返事の後すぐに真中先輩へ顔を近づけた。


 そして真中先輩は返事の後すぐに顔をこちらに向けた。


 二つの『すぐ』が重なった結果……


「……危なかった」


「ほ、ほんとに」


 蓮奈の唇は真中先輩に届いた。


 だけど蓮奈が顔をずらしたおかげ? せい? で真中先輩の唇には重ならなかった。


「やばい、ドキドキで心臓が破裂しそう」


「私も。でもほんとに良かったよ、唇同士はまだ早いもんね」


「そうだね、まだ……まだ?」


「あれ? 私は実怜ちゃんが初めてが良かったけど、やっぱり実怜ちゃんは……って実怜ちゃん!?」


 真中先輩のキャパシティがオーバーしたようだ。


 顔を真っ赤にして頭から煙を出しながらベッドに倒れた。


 これは、うん。


 いい百合をありがとう。

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