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二度目の夏休み

「なっつやっすみー、だぁ」


「じゃあ宿題やろうか」


 新学期が始まったと思ったらあっという間に夏休みになった。


 イベントらしいイベントが蓮奈れな愛莉珠ありす、そしてレンと水萌みなもの誕生日だけしかなかった気がするから時間の流れが早かった。


 レンと水萌の誕生日の日、俺とレンは二人っきりになったけど、お互いその時の記憶が消えていた。


 うろ覚えでなら思い出せるけど、レンに「今は忘れよう」と言われたので忘れることにした。


 その時がきたら思い出せるだろうし、今は考えることをやめた。


 とりあえず、俺がレンに渡したペアリングが首に掛かってるうちは忘れてていいだろう。


「そういえばさ、サキからプレゼント貰った嬉しさで忘れてたけど、オレもサキの誕生日にペアリングあげたよな?」


「うん。ぶっちゃけこれを選んだ時はガチで忘れてたけど、考えることは一緒なんだな」


「忘れんなよ。なんだ、オレからのプレゼントなんてどうでもいいから忘れてたのか?」


「どうでもいいことはないんだけどさ、中身見なすぎて忘れてた」


 俺がレンからのプレゼントを見たのは貰った時だけだ。


 それと言うのも、貰ったペアリングをそのまま箱に戻して枕元のレンカの隣に飾ってあった。


「れんれんも大事にされてるのはわかってるからそんなに怒ってないんだよね」


「ぶっちゃけたこと言うとさ、オレもサキから貰ったプレゼントがネックレスなの忘れてたんだよな」


「君達お互いに酷いな」


 よりに呆れ顔を向けられた。


 確かにその通りだから何も言い返せないけど、俺とレンはもう依と紫音しおんのように、常にお互いのことを考えているような時期は終えている。


 多分これからはもっと雑な関係になっていく。


「あれだよね、付き合いたての『好き好き状態』が終わって、慣れてきた『落ち着き状態』になった感じ」


「何それ」


「付き合いたては別れる心配とかでお互いを大切にするけど、慣れてくるとどこまで雑に扱っても平気かわかってくるってこと」


「依もいずれは……あぁ、そっか」


 依と紫音も時間が経てば俺達のような関係になると思ったけど、なんとなくこの二人はそうならない気がした。


 だって……


「お兄様よ、言いたいことがあるなら言いなさい」


「特にない」


「嘘をついたらうちだけしか持ってないお兄様の秘蔵の一枚をれなたそに見せるぞ」


「君らは秘蔵の一枚を持ちすぎじゃないか?」


 最近はよく『秘蔵の一枚』という言葉を聞く。


 大概が俺の寝顔だけど、そんなのは出回ってるし、今更なんだと言うのか。


「サキは依とも寝たのか」


「依が紫音以外の男と寝れると思う?」


「え、絶対に無理。紫音とも寝れなそうなのに」


「紫音くん、あなたの彼女があそこの老夫婦にいじめられてるよ。助けて」


 依が何か意味のわからないことを言いながら紫音に這い寄る。


 まさかとは思うが、老夫婦とは俺とレンのことを言っているのか。


 確かに肉体年齢と精神年齢に差がある自覚はあるけど、同級生に年寄り扱いされるのはさすがに……


「僕と依ちゃんも老夫婦カップル目指そうね」


「年相応にね。今はまだ普通でいいよ」


「イチャつきたいから?」


「お兄様はこういう時だけ入ってくるんじゃないよ」


 依にジト目を向けられるが、依と紫音は何でも分かり合う老夫婦というよりは、いつまでもイチャイチャしている方が想像しやすい。


 そう思うのも、依がからかわれ上手だからなのだろうか。


「それよりも、サキの秘蔵の一枚ってなんだよ」


「お兄様の小さい頃の写真さ」


「ちょうだい」


「水萌氏、無言で無音でいきなり目の前に現れないでよ。ドキッとしちゃうから」


「……」


「催促の無言やめて、普通に恥ずい」


 水萌が文字通り目と鼻の先で依を見つめている。


 こんな時でしか水萌が自発的に依に近づくことなんてないから依が顔をほのかに赤くして戸惑っている。


「やっぱり照れる依って可愛いよな」


「サキ?」


「まーくん?」


「思わん?」


「まあ、思わなくもない」


「僕も思う」


「いや、からかって遊んでないで助けてよ……」


 いつの間にか壁まで追い込まれていた依が俺達にヘルプを出すが、自分でまいた種なんだから自分でなんとかすればいい。


 というか依からしたら大好きな水萌から迫られて嬉しいはずなのだから別にいいのではないだろうか。


「水萌氏はお兄様絡みになると怖いんだよ!」


「そういうのいいから早くちょうだい」


「いや、その、お兄様をからかう為に言ってみただけで、これは誰にもあげるつもりはないと言いますか……」


「……」


「言わなきゃ良かった……」


 依が涙目になりながらスマホを取り出す。


 俺の小さい頃の写真で依が持ってそうなのは俺が依と初めて会った時に母さんが盗撮でもしてたのだろうか。


 それを依が母さんから貰ったか、親コミュニティで貰ったか。


 どっちにしても俺の小さい頃の写真なんて、見ても面白くはないのに。


「依、自業自得だけどその写真はあげたくないの?」


「……うん」


「ほんとに依って以下略。可愛い依に免じて今回だけは味方になってあげよう」


「とか言ってサキってほんとに困ってる相手がいたら助けるよな」


「それがまーくんだからね」


「そこ、うるさい」


 本当に今回は仕方なくだ。


 男は女の涙に弱いからとかでもいい。


「水萌、要は俺の小さい頃の写真が欲しいんだよな?」


「うん」


「じゃあアルバムから好きなの選んでいいよ。さすがに現物あげたら母さんが怒るから無理だけど、母さんの許可が出ればスマホに移せると思うから」


「ほんと? だったらそっちがいい」


 水萌は呆気なく依から離れて前に見た俺のアルバムを取りに行く。


 水萌としても引き際がわからなかっただけで、依をあそこまで追い込むつもりはなかったのだろう。


 多分、きっと、知らんけど。


「じゃあ、ありすも選ぶね」


「別にいいけど欲しいの? さりげなく蓮奈も行ってるけど」


 水萌が吟味しているところに愛莉珠と蓮奈も寄って行く。


 俺の写真をあげるのは別に構わないけど、俺はひねくれてるからタダであげるのがなんか嫌だ。


「水萌達の小さい頃の写真もちょうだいよ」


「私のは無いよ?」


「ありすのは駄目。小さい頃は可愛くないから」


「私のは……あるけど、まともに写ってるのは少ないからあげれないかなぁ」


 水萌の写真が無いのはなんとなくわかる。


 だからそれはいいとして、笑顔で否定してきた愛莉珠と、あからさまに挙動不審になった蓮奈は話が違う。


「じゃあ二人は無しね」


「ほんとに駄目なの! ありす可愛くないから」


「ありすはいつでも可愛いよ」


「先輩がそう言うなら……って駄目だよ! ほんとに可愛くないから」


「じゃあ俺の写真も無しね」


「……み、見せるだけなら」


 愛莉珠が苦渋の決断でもするかのように言う。


 そんなに昔の自分を見られたくないのか。


「私のはほんとにまともに写ってる写真ないよ?」


「それはそれで可愛いからいいよ」


「うーん、まあ舞翔まいと君ならいいか。私達を見た時のセリフ『可愛い』しか知らないし」


 実際可愛いのだから仕方ない。


 自分のボキャブラリーが貧弱なのは理解してるけど、鍛えようとも思ってないし、多分鍛えたところで一番最初に『可愛い』が出るのは変わらない。


「じゃあ二人は今度見せてね」


「……わかった」


「まず自分で見なきゃいけないのが地獄だよ……」


「水萌のは残念だけど……あれ?」


 そういえば、俺は水萌の小さい頃の写真を見たことがなかっただろうか。


 いや、ある。


 そして持っている人もこの場にいる。


「ん? あぁ、持ってるよ。だけど一枚は前にも見せたやつだから」


「つまり他にもあると?」


「言い方ミスった。まあ、あるけどそれは見せられない」


「理由は?」


「サキをからかう為に使いたいから」


 なんて理由だ。


 だけどそれはつまり、いつかは俺をからかう為に見せてくれるということ。


 ちょっと楽しみだ。


 そんなこんなで、俺達の二度目の夏休みが始まった。

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