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番外編 ガチ恋

蓮奈れなさん、お誕生日おめでとう」


「ありがとう、実怜みれいちゃん」


 新学期になって初めての土曜日。


 今日は実怜ちゃんが私の誕生日をお祝いしてくれるとのことで、私の部屋に実怜ちゃんと舞翔まいと君をお招きしている。


 なんで舞翔君がいるのかって?


 それは、実怜ちゃんと舞翔君がお互いに用があったから。


「なんかすごい場違い感がある」


「後輩くんはそんなの気にしないでしょ?」


「ですね。普段から女子に囲まれてますし、最近は歳上の人に囲まれることも増えましたから」


 ほんとに舞翔君はすごい。


 私なら異性に囲まれたら萎縮しかしないし、ましてや歳上の人なんて絶対に無理だ。


 だからって歳下なら大丈夫かと言われたらそうでもないし。


「蓮奈さん、後輩くんは悪いお手本だから見習っちゃ駄目だよ?」


「俺、何か悪いことしました?」


「したかしてないかで言ったらしてるよね。たくさんの女の子をたぶらかしてるんだから」


「語弊しか生まれないこと言うのやめてくれます? 確かに俺は蓮奈達のこと好きですけど、それは友達としてですから」


「そういうとこなんだよなぁ」


 実怜ちゃんがニマニマしながら舞翔君を見つめる。


 それを舞翔君は嫌そうな顔で見返している。


 なんかちょっとモヤモヤする。


「こういうタラレバって好きじゃないけど、後輩くんはもしも今の彼女さんと出会わなかったら誰と付き合ってた?」


「そういうタラレバって意味あります? そういうのって実際にそうなってみないとわからないじゃないですか」


「そうだね。だから私も好きじゃないんだけど、今の彼女さんってさ、一番最初に出会った二人のうちの一人なんでしょ? 出会ってないんじゃないとしても、出会いがみんな一緒だったとしてもその子を選んでた?」


「たとえ出会いが一緒でもレンを選んでたって言ったらそれで満足なんですか?」


「それが君の本心なら満足」


「本心ですよ。そもそも最初に出会ったのは水萌みなもなんですから順番を言うなら俺は水萌と付き合ってなきゃじゃないですか」


「もっと言うと蓮奈さんの従兄弟くんとその彼女さんとも会ってるわけだもんね。いらさ、あの子達も可愛いけど、彼女持ちとは言っても蓮奈さんに目移りしないのがすごくて気になっちゃって」


 そんなことだろうと思った。


 実怜ちゃんは、自分で言うのもあれたけど、引くぐらいに私のことを好いてくれている。


 だから私が舞翔君のことが好きなのを知ってからは、私と舞翔君がなんで付き合ってないのかをずっと考えているらしい。


 別に私としては確かに舞翔君のことが好きだったけど、今は異性としてというよりは、気の合う友達として、そして弟としてというのが強い。


 なので今更舞翔君の恋人になりたいなんて大それたことを思ったりはしないのです。


 って何回も実怜ちゃんには言ってるけど、私が遠慮してるみたいに思ってるみたいで聞いてくれない。


「実際蓮奈さんに揺らいだりしないの?」


「揺らぐって言うのがレンに向ける感情と同じものを向けるってことなら無いですかね」


「聞いといてあれだけど、ストレートに言うね」


 舞翔君はいい意味で嘘がつけない。


 だから私に対して恋愛感情が一切無いのは事実なんだろうし、それを私も知ってたけど、そんなにストレートに言われるとちょっぴり傷ついたり傷つかなかったり……


「蓮奈って恋人って言うよりは姉とか母親って感じで、家族みたいに接しちゃうんですよ。さすがに家族相手に恋愛感情は沸かない……ですよね?」


「そういうね。家族に恋愛感情は沸いたら駄目なだけで、別に沸くことはあるんじゃない? だから蓮奈さんに恋愛感情が沸くことはいいんだよ」


「なるほど。まあ俺は姉である蓮奈と付き合うことはないですけど」


「ふむふむ」


 なんか実怜ちゃんがじっと私のことを見てくる。


 一体なんだと言うのか。


 ちょっと今は頬が熱いから見ないで欲しいのだけど。


「よし、可愛い蓮奈さんも見れたことだし、お誕生日会を始めようか」


「まるで普段の蓮奈が可愛くないみたいな言い方ですね」


「は? 蓮奈さんは常に完璧美少女ですけど?」


「もう許してよ……」


 二人して私をからかうのはやめて欲しい。


 私みたいなジャージ姿の芋女を捕まえて『可愛い』だの『美少女』だの言うのはやだ。


 そんなこと言うなら実怜ちゃんの方がよっぽど可愛いし美少女だもん。


「「はぁ……」」


「なんで二人してため息つくのさ」


「だって……」


「ねぇ……」


 舞翔君と実怜ちゃんがアイコンタクトで話し合う。


 なんか、やだ。


「蓮奈さんはわざとやってるのかい?」


「わざとじゃないから可愛いんですよ」


「なるほど。ちなみに鏡見せたら理解したりすると思う?」


「先輩だって鏡見たところで自分を可愛いなんて思わないですよね?」


「蓮奈さんを知ってなくても思うわけないね」


「そういうことです」


「え、私今口説かれてる?」


「……」


 なんでだろう。


 舞翔君が女の子と仲良くしてるのはいつも見てるはずなのに、実怜ちゃんと仲良くしてるのを見るといつも以上にモヤモヤする。


 ちょっと毛布にくるまりたい。


「やりすぎちゃったよね?」


「そうですね。でも、蓮奈がそこまで真中まなか先輩のことを取られたくなかったなんて思ってなかったです」


「君はなんでそうも残念な子なんだ……」


 実怜ちゃんが呆れた様子でため息をつきながら私の方に来る。


「せっかくだから伝えとくけど、私は女の子しか愛せないから後輩くんのことは『気の合う後輩』としか思えないんだよ。だから蓮奈さんが心配するようなことはないよ。それと、私は蓮奈さんにガチ恋してるから大丈夫」


「……」


「どうしよう、蓮奈さんが信じてくれない」


「まあ、家族に恋愛感情を持つのと同じぐらい同性愛って珍しいですからね」


「じゃあこれも冗談に思われちゃうのか」


 実怜ちゃんはそう言って鞄の中から小さな箱を取り出した。


「わ、私の気持ちです」


 実怜ちゃんが少し照れながら箱を私に差し出してきた。


 多分私の誕生日プレゼントなんだろうけど、今?


「えっと、ありがとう?」


「こういう時でも返事をしてくれる真面目な蓮奈さん大好き」


「……」


「今はそういうこと言わない方がいいですよ」


「くっ、蓮奈さん相手だと嘘がつけない私が恨めしい」


 よくわからないけど、とりあえず実怜ちゃんからのプレゼントを受け取る。


 そしてアイコンタクトで開けていいかを聞くと、実怜ちゃんが控え目気味頷いた。


 開けていいのかわからなかったけど、とりあえず開けてみた。


「……指輪?」


「えっと、婚約指輪的な、これからもずっと一緒に居てください的な、そういうやつ、です……」


 箱の中にはペアリングが入っていて、それを私は実怜ちゃんと交互に見る。


「まだ、からかってる?」


「信じられないかもだけど、本気のやつです」


「……実怜ちゃんの『好き』って、ほんとに恋人的なやつ?」


「……はい」


「あ、そう、なんだ。えっと……ありがとう?」


 頭の中がこんがらがって意味がわからない返事をしてしまった。


 実怜ちゃんが私のことを好きだっていうことは本人が言っていたから知ってたけど、それは友達としてたとばかり思っていた。


 舞翔君の様子を見ると知ってた感じだけど、それは……え?


「こんなこと言われても困るよね。忘れて」


 実怜ちゃんが寂しそうな顔でそう言う。


「え、忘れない」


「え?」


 忘れるわけがない。


 私みたいな地味で陰湿なのと仲良くしてくれてるだけで嬉しかったのに、そんな私を好きと言ってくれた。


 そんなの、忘れられるわけがない。


「じゃあ……」


「えっと、お返事に関してはちょっと待って」


「え?」


「私ね、舞翔君以外の男の子って苦手なの。だから実怜ちゃんが好きって言ってくれて、一生一緒に居てくれるって言うのも心から嬉しいの」


「じゃあ──」


「でもね、ここで私も実怜ちゃんのことを好きって言ったらどうなるの?」


 私だって実怜ちゃんのことは好きだ。


 だけどそれは友達として。


 これからずっと一緒に居るのは全然いいのだけど、それは友達としてなのか、それとも恋人としてなのかでは話が違う。


「実怜ちゃんは私とえっちなことがしたいってこと?」


「……」


「大事なことだから目を逸らさないで言って」


 私から目を逸らす実怜ちゃんの顔を押さえて私と目を合わせる。


「実怜ちゃんは、私とどういう関係になりたいの?」


「……たい」


「ちゃんと」


「キスとかそれ以上のこととか、恋人同士がするよなことも全部やりたいです!」


 実怜ちゃんが頬を真っ赤にして涙目になりながら叫ぶ。


 なんかあれだ。


「照れる実怜ちゃん可愛い」


「ちゃんと言ったのに茶化された……」


「さっきのお返し。でもそっか、実怜ちゃんは私の体が目当てなのね」


「ち、違……うとも言えないけど、私は蓮奈さんのたまに見せる幼さとか、包み込んでくれる包容感とか、そういう内面も好きで、とにかく大好きなの!」


「そっか。じゃあ私も実怜ちゃんを恋人として好きになれるように頑張る」


「え?」


 実怜ちゃんがここまで言ってくれたんだ。


 それで私が「そうですか」で済ませるわけにはいかない。


 実怜ちゃんの本気に私も本気で向き合わないと。


「とりあえず私は実怜ちゃんを好きになるように頑張るから、実怜ちゃんは私が好きになれるように頑張って」


「つまり、アプローチをしていけと?」


「そうだね。舞翔君を忘れられるようにしたら実怜ちゃんの勝ち。出来る?」


「……やってやろうじゃないか」


 実怜ちゃんの瞳が燃えている。


 そんなに私のことが好きなのか。


 ちょっと照れる。


「じゃあ頑張れの意味を込めて」


「ん? な──」


 私は実怜ちゃんの頬にキスをした。


「つまりはこういうことがしたいわけだよね?」


「……」


「あれ、実怜ちゃん?」


 実怜ちゃんが石化した。


 もしかして私の唇にはゴルゴンの目と同じ効果が?


 いくら揺すっても動かない実怜ちゃんをどうしようかと舞翔君に助けを求めたら「動かなくなった相手にすることは一つだよ」と言って私に実怜ちゃんへのホワイトデーのお返しである水萌ちゃんおすすめのカヌレが入った紙袋を渡して立ち上がった。


「後は二人で楽しんで」


「帰っちゃうの?」


「うん。中を深めるなら二人っきりが一番だから」


「なるほど」


 さすがは彼女持ちだ。


 確かに実怜ちゃんのことを深く知るには二人っきりの方が実怜ちゃんもやりやすいだろう。


 そうして舞翔君とバイバイした私は、実怜ちゃんを起こす為に舞翔君から聞いた方法を試そうと思ったけど、さすがに唇同士は恥ずかしかったので、反対の頬にキスをした。


 すると実怜ちゃんは完全に気絶した。


 実怜ちゃんを深く知るのは難しいかもしれない。


 とりあえずこれから私は実怜ちゃんを恋人として好きになれるように頑張る。


 そういえば、ホワイトデーのお返しで思い出したけど、アレはどうなったのだろうか。


 何も話題に出てないから多分誰も何もしてないのだろうけど。


 まあ学年の違う私が考えたところで仕方ないことだから考えるのをやめて、今は気絶した実怜ちゃんと一緒の毛布でくるまることにしました。

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