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忘れられない日

「すごい静かになった」


「寂しいだろ?」


 水萌みなもにプレゼントを渡して、みんなが気を使ってレンと二人にしてくれたのはいいけど、その静けさに寂しさを覚える。


 さすがのレンも静けさが気になって毛布から顔を出すぐらいに。


「別に寂しくはないだろ。サキがいるし」


「ほんと二人になるとデレ期入るよな。誘ってんの?」


「ヘタレのサキに受けれんの?」


「無理だよ? だってレンがまたかくれんぼ始めるから」


 俺のことを『ヘタレ』と言うレンだけど、結局俺が何かしたらすぐに恥ずかしがって毛布に隠れる。


 俺はそれでレンとの時間が減るのが嫌だから何も出来ない。


 これが負のスパイラルというやつか。


「ちなみにだけどさ、サキは、その……」


「いじるのと真面目に答えるのどっちがいい?」


「真面目な方で」


「正直なところ、あんまりそういう感情はないかな。レンを心配してとかよりも、俺はレンを撫でてるので満足しちゃうんだよ」


 レンと恋人的なことをしたいかどうかは正直わからない。


 多分俺の知識的に、レンという女の子に触れるだけで一般的な男子高校生の考える恋人的なことなんだと思う。


 それ以上はまだよくわからないし、怖さもある。


「サキって奥手とかじゃなくて、普通に異性の体とかにも興味ないんだろうな。変な意味はなく」


「実際レンの背中見ただけで頭真っ白になったし」


「異性に対してお子様すぎんだよ」


「レンが言えんの?」


 確かに俺は性の耐性に関してはお子様だけど、それはレンも同じだ。


 その証拠に何かあればすぐにかくれんぼを始める。


「オレはいざとなったら平気だし」


「ふーん」


「信じてないだろ」


「うん。だってレンだし」


 思ってることをそのまま伝えたらレンが拗ねて毛布で口元を隠しながらジト目を向けてくる。


 可愛いの提供ありがとうございます。


「なんか腹立つ」


「レンが可愛いのが悪いだけだから。それよりもプレゼントをあげよう」


「子供扱いしたろ」


「ほられんかちゃん。お誕生日おめ──」


 俺の顔の横に突風が流れた。


 後ろを振り向くと、そこには俺の枕が落ちていた。


 うん、これ以上は命に関わるからからかうのはやめておこう。


「で?」


「愛しのレンよ、誕生日おめでとう」


「お前さぁ……」


 俺がプレゼントの入る箱を片膝を立ててレンに差し出すように渡す。


 これは決してからかっているわけではなく、俺の気持ちを表してるだけだ。


「それはプロポーズのつもりか?」


「受け取り方は自由」


「あっそ。大きさ的に中身が指輪とかのありきたりなやつじゃないんだろ?」


「……」


「はいはい、オレもサキとの付き合い長いんだからそういうのわかるから」


 レンが呆れたように俺の手からプレゼントの箱を受け取る。


 もう少し恥ずかしがるレンを求めてたのだけど、ちょっと残念だ。


 まあ、期待を裏切らないのがレンだと信じているから別にいいが。


「これさ、水萌と同じとかある?」


「……」


「あ、同じなのね」


 おかしい。


 俺の考えてることがわからないで有名のレンが俺の心を読んでいる。


 このままでは俺の仕込みがバレる可能性がある。


「うん、マトリョーシカだな。あれなんだっけ? ありすの友達の子がこういうの好きって」


「そう。詩彩しあにはこけしあげた」


「なんか日本人形とかも好きそうだな」


「あぁ、確かに。後はにわとか?」


 俺にはよくわからないけど、詩彩は今言った全てを『可愛い』と言いそうだ。


 何が可愛いのかはわからないけど、そういうもの達を見て『可愛い』と言っている詩彩は可愛い。


「今浮気したか?」


「出た、レンの口癖」


「サキがオレと居るのに女のこと考えるからだろ」


「嫉妬するレンが可愛くて」


「後付けありがとう」


 レンが呆れ顔でため息をつく。


「ため息つくと幸せ逃げるぞ」


「逃げる幸せがあるってことだよ」


「つまり?」


「サキと居れるのが幸せってこと」


「なるほど。つまりレンは俺と一緒に居られる幸せを逃がしてると」


「逃がさせてるのはお前だからな?」


 またもレンから幸せが逃げた。


 そんなに逃げる幸せがあるってことはそれだけ俺と居られて幸せだということ。


 可愛いやつめ。


「ポジティブだな」


「ほんとにどうした?」


「サキって二人になるとわかりやすいんだよ」


「幸せが溢れ出てるってことか」


「あー、そうそう」


 レンが手元のマトリョーシカを開けたり閉じたりして遊びながら適当に言う。


 泣いていいか?


「そんでその詩彩さん? って可愛いの?」


「うん」


「どういうとこが?」


「自分の『好き』をちゃんと言えるとこ? 結局好きなものに好きって言える子可愛くない?」


「言いたいことはわかる」


 まさかレンに伝わるとは思わなかった。


 別に詩彩に限らず、好きな気持ちを抑えずに『好き』と言える子は可愛いと思う。


 やっぱり何事も我慢はよくない。


「その詩彩みたいに好きなものがちょっと特殊……って言うのは良くないんだろうけど、そういうものに対して気持ちを隠さず『好き』って言ってるのは確かに可愛いかもな」


「うん。そういうのって本気で好きなわけじゃん? 本当に好きなものを見てる時ってあどけなさとか、目がキラキラしてたりとかがあって可愛いんだよね」


「つまりサキはオレのことを本気で好きじゃないってことか」


「レンを見る時にいつもと変わんないから? それは普通にレンの顔を見るのが恥ずかしいだけだけど?」


「可愛い理由をありがと!」


 顔を赤くしたレンがそっぽを向く。


 こちらこそ可愛いの過剰摂取をさせてくれてありがとうだ。


 それはそれとして、マトリョーシカ遊びをそろそろやめないのだろうか。


「サキはなんだかんだで可愛いんだよ、な?」


 レンが呆れながらマトリョーシカを開けていくと、最後の一つを開けたところで固まった。


 ついに俺の仕掛けにたどり着いてしまったらしい。


「指輪……」


「安物だけどね。そろそろちゃんとしようかなって」


「ちゃんと……?」


 俺はレンからマトリョーシカを受け取って固定してあって指輪を取る。


 そしてさっきと同じポーズで指輪を差し出し……


「俺と、結婚を前提にお付き合いしてください……ってやつ」


「……ふっ」


 レンに笑われた。


 これは心が折れて闇堕ちルートか?


「ひよってんじゃん」


「さすがに今更改めて言うの恥ずかしいでしょ」


「じゃあなんで言ったの?」


「レンが浮気ばっかり心配するから、俺の本気を見せる為?」


「本当は?」


「半分は本当だよ。もう半分はレンの恥ずかしがる顔が見たかった」


 実際は俺の方が恥ずかしがって嬉しそうなレンを見るはめになったけど。


 まあそれはそれで良かったが。


「それで、そろそろ答えてくれないとほんとに浮気しかねないよ?」


「意志弱いな。そんなだとこれからも浮気の心配しなきゃじゃないかぁ?」


 レンが嬉しそうにそう言いながらベッドから下りて俺の頬をつついてくる。


「やっぱりこういうのはまだ早かったですか。じゃあこれから浮気は絶対にしない証明をしていくよ」


「何をする気だ?」


「さっきも言った通り、行動で──」


 指輪を持つ手が引かれて体が引っ張られた。


 そして俺の言葉は止められた。


 物理的に。


「……こうやって?」


「……ばか」


「やっぱりサキって攻められると弱いよな。めっちゃ可愛い」


「うるさい! 何をしても、何もしなくても可愛いしかないレンのくせに!」


「はいはい、サキはオレよりも可愛いよぉ」


 レンがものすごく嬉しそうに俺の頭を撫でてくる。


 このままではいけない。


「指輪あげない」


「いやいや、それはオレへの誕プレだろ?」


「プレゼントはマトリョーシカだし」


「拗ねるなよ」


「何言われてもあげないから」


「それは反則だろ。オレに勝てないからってそれは」


 何を言われてもあげない。


 どうしてもと言うなら……


「レンが目を瞑ってくれたら考える」


「……なるほど。いいぞ」


 レンが何かを察したように目を瞑る。


 レンは多分俺がキスをするフリをして何かしら違うことをすると思っているのだろう。


 だから俺はその逆手を取ってキスをする……なんてのはつまらない。


 散々人のことをからかったのだ、俺の満足いくまでからかわせてもらう。


「とか思ったけどごめん。目を閉じたレン可愛すぎ」


 結局目を閉じてキス待ちしてるレンの可愛さに負けて唇を重ねる。


 最近キスをすると思うことがある。


 日に日に時間が長くなって濃密になってるような感じがする。


 もう一段先にはまだいけないけど。


「……サキのえっち」


「誘ってんの?」


「誘ってるよ?」


「……止まらなくなる前に答え聞かせて」


「言わなくてもわかれよ」


「レンが恥ずかしがりながら言うのを聞きたいんだよ」


「お前は余計なことを言わないと喋れないのか。まあいいけど。じゃあ返事だけど……今更聞くなばーか」


 レンはそう言って俺の手から指輪を奪い取った。


 そして俺を押し倒してそのまま……


 それからはあまり記憶がない。


 途中でよりからのプレゼントをレンが開けに行ったのは覚えてるけど、その後にレンが俺に何かを口移しで飲ませて、そこからは完全に記憶がない。


 多分思い出したら駄目な気もするから思い出さないけど、一線は越えてないはずだ。


 お互い乱れてはいたけど服は着てたし。


 俺達にとって忘れられない日になりました。

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