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感性の違い

「あー、楽しかった」


「そうか。それは良かったけど、レンは生きてる?」


 愛莉珠ありすからのプレゼントを盛大に勘違いして自爆したレンを楽しそうに追い討ちしてた愛莉珠が満足そうに俺の隣に座る。


 愛莉珠が勘違いするように誘導してたところはあるけど、あれは完全にレンの自爆なので何とも言えない。


 そのレンは未だに俺のベッドで毛布にくるまって動かない。


恋火れんかちゃんがあんなだし、舞翔まいとくんは私にだけプレゼントくれればいいよ」


「レンに怒られたくないから駄目。とりあえずレンが生き返るまでの間で水萌みなもにプレゼントあげるね」


「貰うー」


 当分の間はレンが生き返りそうな感じはないから、絶対に長くなるお渡し会を今のうちにやってしまう。


 レンには後で渡してもいいわけだし。


「舞翔くんがありすちゃんのお友達の女の子と買いに行ってくれたやつだよね」


「色々と語弊を生むような言い方やめような」


「そうだよ。ピンクはありすの友達じゃないから」


「ありすはありすでそろそろ素直になれ」


 レンにも言われたけど、確かに俺はプレゼントを買いに行く時に詩彩しあと一緒に行った。


 だけどそれはレンと水萌のプレゼントのアドバイスを聞く為であって、他意はない。


 そして愛莉珠はむくれてないで心彩みあと詩彩を友達だと認めろ。


「なんか、よりを頑なに名前で呼ばなかった水萌を見てるみたい」


「その舞翔くんの新しいお友達の可愛い双子さんって依ちゃんみたいにめんどくさい人達なの?」


「水萌氏よ、それだとまるでうちがめんどくさい子みたいに聞こえるよ?」


「ん? そう言ってるんだよ?」


 水萌の真顔を見た依が無言で紫音しおんの胸に飛び込む。


 それを優しく包み込んで依の頭を撫でる紫音の姿は理想の恋人、なのだろうか。


「あんまり依をいじめるなよ?」


「いじめてないよ? しーくんに甘える理由を作っただけ」


「どこでそんな屁理屈を覚えたんだよ」


「舞翔くんとねぇ、依ちゃんでしょ、それと恋火ちゃんに蓮奈れなお姉ちゃん。後ありすちゃんも」


 つまり紫音以外の俺達全員ということだ。


 確かに紫音はマジレスはするけど屁理屈は言わない。


 逆に俺達はひねくれたことしか言わないからもう少し気をつけないと水萌の教育上よろしくない。


「でも確かに結果的には依が紫音に抱きつけて、紫音も依を抱きしめられてるから良いことしかないのか?」


「そうそう」


「うちが辱められてることは良くないよ!」


 依が真っ赤にした顔だけをこちらに向けて叫ぶ。


 体はガッチリと紫音が固めていて動けなさそうだ。


「恥ずかしがる依ちゃんって普段の何倍も可愛いよ」


「紫音くんまで魔王サイドに付かないの!」


 バカップルがイチャついている。


 まあそれは見飽きてるからいいんだけど、そういえば『魔王』のことを聞いてなかった。


「なんで俺って学校で『魔王』とか言われてんの?」


「それはシークレット情報だから教えないよ?」


「じゃあいいや」


「そこはもう少し興味持とうよ」


「持ったら教えてくれるの?」


「えー、どうしよっかなー」


「これが水萌へのプレゼントね」


「いや無視!?」


 依がめんどくさいことなんて俺だって知っている。


 そしてめんどくさくなったら無視が一番いい。


 かまってちゃんを構ってたら喜ばせるだけで話が何も進まなくなるから。


「開けていーい?」


「どうぞ」


「あ、ほんとに聞かないんだ」


「依ちゃん、今邪魔するとまーくんが本気で怒るから……口、塞ごうか?」


 うるさくなりそうな依を睨みつけようとしたら、自分から口を塞いでくれた。


 別に黙るなら後ろでキスしてようが何してようが邪魔はしないのに。


 なんてことを考えていたら、俺の服の袖がつんつんと引っ張られた。


「舞翔くん、これなーに?」


「マトリョーシカ」


 俺が水萌にあげたプレゼントはマトリョーシカ。


 知ってる人が聞いたら頭に思い浮かぶあれだ。


 丸っこい人形が真ん中で割れて、その中から同じ見た目の一回り小さい人形が出てくるやつ。


「中から小さいのが出てくる」


「最近の女子高生ってとりあえず何でも『可愛い』って言うんでしょ? だから奇をてらった一点狙いがいいというアドバイスをもらったもので」


 最近の女子高生相手に、にわか知識で可愛いものを渡すのはよろしくない。


 何でも可愛いとは言うけど、可愛いものを可愛いものとしてあげると、そこにはその人の趣味が出る。


 だから女子高生が何でも可愛いという習性を利用して、俺からしたら何が可愛いのかわからないマトリョーシカをあげるという選択になった。


 ちなみにあげた今でも本当にこれでいいのかわかってない。


「……」


「やっぱり詩彩の趣味だろこれ。可愛いどうこうは置いとくにしても、誕生日にマトリョーシカを貰って喜ぶ女子高生いんの?」


「お兄様に一つ言っとくとね、うち達って多分『普通の女子高生』じゃないと思う」


 少し落ち着いたのか、顔色がいつも通りになった依が紫音に抱かれたまま言う。


 依達が普通の女子高生かどうかは普通の定義を求めてからの話だけど、確かに一般的な女子高生とは違う生き方はしてると思う。


 俺はそんなみんなが好きだけど、逆に考えてみたら、俺なんかを好きとか言えるみんなは確かに普通ではない。


「やっぱり今からでもプレゼント変えるよ」


「え、なんで?」


「いやいや、だってあの水萌を黙らせるようなプレゼントだよ? 絶対に気に入ってないでしょ」


 水萌は基本的に反応がオーバーだから本当に喜んでいるのかわかりにくい。


 だけど今回は反応が薄い。


 つまりそういうことだろう。


「別にプレゼントが嫌で黙ってたわけじゃないよ? ただね、舞翔くんはこのプレゼントを選ぶ時に可愛い女の子と楽しそうに選んだのかなって思ったら複雑な気持ちになったの」


「……」


「やばい、先輩のフラストレーションが溜まってる」


 別にそういうわけでもないけど、確かに言われ飽きた感はある。


 彼女がいるのに他の女の子とプレゼントを買いに行ったのは今更ながらによろしくないのはわかる。


 だけどそれをレンに指摘されるのならわかるけど、そこまで言われるか?


「別にいらないならいいよ?」


「ごめんなさい、いります」


「それを見て複雑な気持ちになるなら変えるよ?」


「いいの、勝手に拗ねてただけだから。それにこの子可愛いし」


「まじで?」


 水萌の本心はわからないけど、なんかパカパカして遊んでいるから喜んではいる、のか?


 ほんとに女子の感性はわからない。


「水萌がいいならいいけど」


「うん、ありがとう」


「よし、これでみんな渡したね? まだ渡してない人いる?」


 依が手を挙げながら聞くと、沈黙が返ってきた。


 決して依を無視してるわけではない。


「レスポンスできる聞き方すれば良かった」


「俺がレンに渡してない」


「それは別にいいんだけど、そういうのは聞いてすぐに返して欲しかったな」


「だってそういう意味で聞いたんだろ?」


「うん。ということで、さん!」


 依がそう言うと、蓮奈だけが少し反応したけど、みんな意味がわからなくて無視をする。


 そもそも依も動く気がなかったようで何もしてないが。


「言いたかっただけかよ」


「人生で一度は言ってみたいシリーズだからね」


「そうですか」


「冷た。まあいいや、ほんとにみんな行こ。お兄様と寝たフリ中のれんれんを二人っきりにしてなんかいやらしい雰囲気にさせないと」


 依がそう言うと、もちろんみんな無視を……


「しないんだ」


「うちの話を聞いてくれるなんて……」


 感動してる依をよそにみんなが立ち上がっていく。


 水萌と愛莉珠はもう少し抵抗するかと思っていたけど、ちょっと意外だ。


「今日を恋火ちゃんにあげればまた今度舞翔くんを独り占めできるかなって」


「心を読むな」


「ありすは空気が読める子なので」


「いい子」


 ドヤ顔の愛莉珠に水萌がジト目を送る。


 仲がいいことで。


「じゃあうち達は紫音くんのお部屋で女子会してるね」


「その部屋の持ち主から許可得てるの?」


「うん」


「部屋を使う許可じゃなくて、女子会をする方な?」


 紫音の方に視線を向けると笑顔で首を振られた。


 紫音的には自分の部屋で水萌の誕生日会の続きをするのはいいけど、紫音(男)がいるのに女子会とはどういうことかと言いたいんだろう。


 まあそちらはそちらで楽しんでもらえればそれでいい。


「よしいこー。早く行かないとれんれんが拗ねて本当に新しい命が芽生えちゃう」


「俺が困るからいじるなら早く行け」


 これ以上はレンが持たない。


 導火線に火がつく前に火元を遠ざけないと。


「じゃあ今度こそ、バイバイ」


「また明日、水萌」


「うん。またねー」


 嬉しそうに手を振る水萌を見送る。


 さっきまであんなに騒がしかったのに、急に静かになった。


 少し寂しさを感じるけど、気を使ってくれたみんなに感謝をしながら俺のベッドでタイミングを伺ってるお姫様の相手をすることにした。

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