シュレディンガってる
「じゃあ今度こそうちからプレゼントを渡そうじゃないか」
「多分もうまーくんからのプレゼントしか感情は動かないだろうけど、頑張れ依ちゃん」
いつも通り始まるまでに時間がかかった誕生日会が始まった。
もう渡してる人もいるけど、とりあえず依がプレゼントを渡すようだ。
紫音が何かおかしなことを言ってるけど、みんなが何を選んだのか少し気になる。
「れなたそのプレゼントのインパクトが強すぎて絶対に『ふーん』ぐらいで済まされるのはわかってるよ」
「いや、さすがに口には出さないから」
「でも思うでしょ?」
「ぶっちゃけよりからのプレゼントってネタに走りそうだからそうなるかも?」
確かに依なら「心を込めて選びました」みたいな顔してスッポンの生き血とかを出してきてもおかしくはない。
だけどレンはわかってない。
「依はネタに走ったとしても根が真面目すぎるから保険で真面目なプレゼントも用意してるんだよ」
「あぁ、確かによりならしそう」
「ボケ殺しをするんじゃない!」
どうやらほんとにそうだったらしい。
頬を膨らませた依がレンにプレゼントの袋を渡す。
「水萌氏には一つだけど、一生懸命選びました」
「水萌にネタを渡したら本気で嫌われるからってチキったろ」
「そ、そんなことないけどぉ?」
あからさまに同様している。
確かにレンなら変なものを渡しても怒るだけで済むけど、水萌の場合は依相手だと一生口を聞かないとかがありえなくもない。
一昔前なら。
「そっか、依ちゃんは私と仲良しって思ってくれてないんだ……」
水萌が依から貰ったプレゼントの袋を優しく抱きしめながら寂しそうに言う。
「違います! いや、確かにネタに走って嫌われる恐怖はあったけど、それ以上にうちが選ぼうとしたのが水萌氏だけじゃなくて、みんなから引かれるのが確定だったもので……」
「お前、水萌に何渡そうとしてんだよ」
俺には依が水萌に何を渡そうとしたのかはわからない。
多分わかってはいけないことだけはわかるけど、いくらネタとはいえ、水萌のような白い心の持ち主に変なものはあげるべきではない。
水萌が黒いのはお腹だけで……
「水萌さんの笑顔が怖いっす」
「お兄様が変なこと考えたからでしょ」
「依がへんなこと言うのが悪い」
「そんなこと言うお兄様にいいこと教えてあげる。水萌氏にあげようか悩んだものはお兄様のベッドの下にそれっぽく隠しといたから」
「ふざけんな」
とりあえず無言で俺のベッドに向かった愛莉珠を捕まえて蓮奈に渡す。
多分そういう本を俺のベッドの下からレンが見つけて変な空気にしたかったのだろうけど、いざとなって怒られるのが怖くなったから言うのが依らしい。
「おー、スイーツカタログだ」
「水萌はもう興味をなくしてプレゼントですか」
「舞翔くんからのプレゼントも楽しみにしてるね?」
「圧をありがとうございます。というかカタログってなんか誕生日感はないな」
普通カタログと言ったらお中元やお歳暮なんかで贈られるもので、誕生日プレゼントには聞かない。
「カタログならさ、相手の好きなジャンルさえわかってればあげられるし、その人の好きなものを絶対にあげられるじゃん?」
確かに頭はいい。
何をあげたら嬉しいのかわからないからお金を渡す人もいるけど、そんなに生々しくもなく、だけど相手に選ばせる。
だけどジャンルだけは選ばれてるから貰った側は選んでる感じはない。
さすがは狙って学年一位を取れる依だ。
「じゃあオレのもカタログ?」
「れんれんのはちゃんと選んだよ」
「嫌な予感しかしないんだが?」
笑顔を向けるだけで説明をする気のない依にジト目を向けながらレンがプレゼントを袋から取り出す。
「……えっと、スカーフか?」
「もう一つを見て見ぬふりしたよね?」
「してないが? それよりもスカーフね……」
レンが袋から取り出したのは水色のスカーフ。
要はそういうことだろう。
「うちが気にしたられんれんが困るんだよね? だから気にしたわけじゃないの。ただね、お兄様もれんれんの可愛いお顔と綺麗な髪を見ながらデートとかしたいかなって思って……」
依の表情が暗くなっていく。
俺が言うことではないんだろうけど、レンが外でフードを被ることを依が気にすることはない。
今はフードをしてないわけだし、依は無関係なのだから。
「サキはオレの顔と髪好きなの?」
「当たり前なことを聞くね。一生見てたいレベルで好きだよ?」
「それは比喩で? それともそのままの意味で?」
「後者」
「愛が重いな。まあ、サキがそんなにオレの顔と髪が好きって言うなら今度フード無しでデートしてやろう」
「マジ? やっ……たぁ……」
大変な事実に気づいてしまったせいで喜び切れなかった。
レンは今までフードを被っていてその可愛い顔と綺麗な髪を見せていなかった。
だけどそれを解放すると言うことは……
「レンの可愛さが世間にバレる」
「フードを被ると可愛くなくてごめんな」
「レンはフードを被ると『可愛い』よりも『怖い』が強くなるから」
「あ?」
「俺にとっては全部可愛いけど」
「うっさいわ!」
レンが頬を赤くしながら俺のお腹をドスドスと殴ってくる。
なんで性格や雰囲気、顔立ちまで全てが可愛いのに力加減だけは可愛くないのか。
いや、逆に可愛いと言えるのか?
「ほんと、お兄様とれんれんには敵わないよね」
「いやいや、君らバカップルには負けるよ」
「まあ仲の良さではうちと紫音くんの方が勝ちだもんね」
「は? 俺とレンの方が仲良いが?」
「張り合うなバカ」
散々人なことを殴っていたレンが呆れた様子で俺の頭をコツンと叩く。
今回はレンが許したからそれでいいが、次は俺とレンがどれだけ仲がいいかを見せつけなければ。
「絶対どうでもいいこと考えたろ」
「大事なことしか考えてない」
「あっそ」
「自分で言い出しといて呆れんなし。それよりも、もう一つのネタ枠ってなんなの?」
「……秘密」
レンに目を逸らされた。
一体何を貰ったというのか。
「サキ、もしも将来何か飼うってなっても亀だけはやめような」
「動物苦手だから別にいいけど、なぜに亀?」
「サキのそういうとこだけ鈍いのオレはいいと思う。うん」
ほんとになんだというのか。
そんなに俺に見られたらやばいものを貰ったと?
依が最初に水萌にあげようとしてたネタ枠並のものを。
なんか気になる。
「後で教えるから今は聞くな」
「絶対?」
「絶対。嘘ついたら依を好きにしていいから」
「なぜにうち!?」
「お前がこんなん寄越すからだろ!」
「だけど嬉しそうじゃん」
「別に嬉しかないわ! ただ……」
「ただ?」
「うっさい、ばか」
可愛いをありがとうだけど、ほんとになんなんだ。
耳まで赤くして袋を抱きしめる姿はなんか愛おしく見える。
抱きしめてるものがやばいものじゃなければほんとに愛おしいのに。
これがシュレディンガってるというやつなのか。
知らんけど。
ということでプレゼントお渡し会は続いていく。




