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許しの一撃

「なんかさ、謝る隙を与えないで完結してオレ達が悪者になってないか?」


「なってるね」


 なんとか愛莉珠ありすを言いくるめることができて、レンと水萌みなもの誕生日を祝えるようになったけど、愛莉珠に巻き込まれたレン達がジト目を送ってくる。


 その視線の先が愛莉珠ではなく俺に向いているのは気のせいだろうか。


「別に謝ることなんてないじゃん。レン達は俺のことを心配してくれたんだから」


「サキは自分の話をされるのが嫌なだけだろ?」


「うん。そんな話をするぐらいならレンと水萌を祝いたい」


「それはそれでいつかちゃんと話す必要があるか」


 まるで俺が悪いみたいにレンがため息をつく。


 一体俺が何をしたと言うのか。


「そんなことよりもレンと水萌の誕生日会をしよ」


「とりあえずお兄様をトリにして渡してく?」


「俺が最後なの?」


「そうでしょ。水萌氏はれんれんに比べたらあれかもだけど、れんれんはうち達のプレゼントなんて興味ないだろうし」


 さすがにそんなことはないだろうけど、最初だろうと最後だろうとあげることに変わりないからどっちでもいい。


 喜んでくれればいいけど。


「否定しないあたりほんとにお兄様のプレゼントにしか興味ないんだね」


「別にそういうわけでもないけどな。ただ、サキが新しい女と選んだプレゼントが気になるのは事実」


「ちなみに先輩についたピンクの悪い虫は美的感覚がおかしいですよ」


 愛莉珠が手を挙げてレンに言う。


 確かに詩彩しあはこけしを可愛いと言う、女子高生にしては珍しい感性をしてるけど、別におかしいと言うほどでもない。


 むしろ自分の『好き』を言えるのは美点だと思う。


「まあ先輩は好きなタイプだよね」


「素直な子は好感が持てる」


「つまり素直に気持ちを伝えてるありすのことが好きってこと?」


「もちろんありすのことは友達として大好きだよ」


「先輩が成長してるんですけどぉ」


 愛莉珠にジト目を向けられる。


 俺だっていつまでもレンを悲しませるような人間じゃない。


 思いつきではあるけど。


「今日はいい子だな」


「嬉しい?」


「それなりに」


「とか言って?」


「うるさい」


 レンに軽くデコピンをされた。


 レンも最近は力の抑え方を覚えたのか、痛くないデコピンをしてくる。


 これも成長なのか。


「何をデコピンされて笑ってんだよ。ドMか」


「レンになら何されても嬉しいんだよ」


「ふーん」


「そういうのは後でやってくれるかな、バカップル」


 よりに言われてみんながいることを思い出す。


 レンと話してると楽しくなって周りが見えなくなるから困る。


「絶対に困ってない顔だ」


「ありすは心を読まないの」


「以心伝心だから仕方ない」


「レンもありすを見習って俺のこと理解しような」


 なぜか愛莉珠は俺の考えてることを読む。


 まあそれは別にいいんだけど、レンも俺の考えてることを読んでくれれば勘違いも起こらないのにと思ったり思わなかったり。


「サキがオレの心を読めばいいんだよ」


「俺のことを理解して欲しいの。レンなんてわかりやすいんだから心を読む必要もないし」


「じゃあオレが今なんて考えてるかわかんの?」


「言っていいの?」


「言ってみ」


「早く誕生日会を終わらせて邪魔者がいなくな──」


 今起こったことを簡単に説明しよう。


 レンに押し倒された。


 難しい説明すると、顔を赤くして焦ったレンが俺の口を手で押さえ、そのまま俺を押し倒した。


 ちゃんと頭の後ろに手を入れてくれたから痛くはないけど、自分で言えと言ったのだから焦らないで欲しい。


 危ないから。


「れんれんってほんとむっつりだよね」


「それだけまーくんのこと大好きなんだよ」


「じゃあうちの誕生日の時は紫音しおんくんと二人っきりになれるってこと?」


「話の繋がりはわかんないけど、僕はいつでもそのつもりだよ?」


「今はこっちのバカップルの時間なんだからそっちでも始めないの。水萌ちゃんとありすちゃんは飽きたからって二人でお誕生日祝わない」


 みんなのお姉ちゃんは大変だ。


 蓮奈れなには今度みんなで「ありがとう」を伝えなければ。


舞翔まいとくん、ありすちゃんからケーキのクッション貰ったー」


「……」


「うん! これを抱いて眠れば夢の中でもケーキが食べれそう」


「……」


「でも嬉しいよ?」


「当てつけか?」


 今の俺はレンに口を塞がれているから喋れない。


 一応喋ろうとはしてるけど、声は出てないから水萌にアイコンタクトしかできないのだけど、水萌はそれで全てを察してくれた。


 レンには出来なかった『心を読む』を見せつけるようにやるものだからレンが水萌にジト目を向ける。


 ちなみに俺が水萌に言ったのは、最初が「良かったな」で、次が「夢だと味とかわかんなくないか?」だ。


「私は舞翔くんと以心伝心だから」


「言いたいだけだろ」


「嫉妬?」


「あ? なん、ちょ──」


 いつもの姉妹喧嘩が始まりそうだったのでレンを抱き寄せて止める。


 せっかくの誕生日まで喧嘩することもないだろう。


 去年の二人の誕生日?


 そんな昔のことは忘れた。


「離せ!」


「どうせ後で似たようなことするんだからいいだろ」


「しな……うるさい! 今は離せ!」


 否定しきれないところが可愛い。


 まあ可愛いのは言ってることだけで、暴れる力が強すぎて押さえ切れなくなりそうだ。


「舞翔くん、恋火ちゃんはキスされれば静かになるよ」


「それは思ったけどさ、したらまたしばらく動かなくなるじゃん」


「あぁ、恋火ちゃんってむっつりさんだけどピュアだから」


「水萌お前覚えとけよ。絶対に泣かす」


 レンがキッと睨むが、水萌は「恋火ちゃんこわーい」と言ってレンの頭を撫でる。


 なぜに火に油を注ぐのか。


 後で怒られるのは俺なんだからやめなさい。


「蓮奈、お姉ちゃんとしてこの場をなんとかして」


「すごい無茶ぶりだ。でも可愛い弟からのお願いなら聞くしかないな」


 さすがは頼れるみんなのお姉ちゃんだ。


 だけどなぜだろう。


 頼ったのは俺だけど、自信満々な蓮奈ほど怖いものはない。


「恋火ちゃん、私からのお誕生日プレゼントあげるね」


「今はそれどころじゃないんで後で貰います」


「そんなこと言っていいのかな? 私の秘蔵の一枚をプレゼントしようと思ってるんだけど」


「秘蔵の一枚?」


 あ、これは駄目なやつだ。


 蓮奈がスマホをいじっておそらくとある画像を探しているけど、何を出してくるか俺にはわからないけど、絶対にレンには見せてはいけないものを出すのがわかる。


 今止めてもレンは見るまで諦めないだろうし、蓮奈を信じることにする。


「これだ!」


「……」


「可愛くて言葉も出ないでしょ。私の膝ですやすや眠る舞翔君。ずっと恋火ちゃんに見せるか悩んだんだけど、やっぱり彼女である恋火ちゃんには見せようかなって思って」


 蓮奈がニコニコしながらレンにスマホを向けている。


 暴れるレンは確かに止まった。


 止まったのだけど、その画像はいけない。


「蓮奈さん、質問していいですか?」


「うん。あ、プレゼントだからもちろんあげるよ? 消さないけど」


「その画像は貰います。別に消さなくてもいいです」


「意外。消せって言われるのかと思った」


「どうせバックアップ取ってるでしょうし、言っても消さないでしょ。それよりも、聞きたいことがあります」


 こういう、これから起こることを考えたくない時は素数を数えればいいのだろうか。


 どっちにくるのか。


 どっちに行っても地獄なんだけど。


「オレはサキが蓮奈さんに膝枕をされてるところは何回か見てます。だから膝枕で寝てることは別にいいんですけど、蓮奈さんの膝で寝てるサキにスマホを向けてる蓮奈さんを見たことはないんですけど?」


「それは……あぁ、これはミスっちゃった?」


「うん。だけどまだいける。ありのままを話せば……レンは信じないから無理だ……」


 全てが絶望に終わる。


 レンは誰よりも人間だから真実よりも信じたいことを信じる。


 つまりあれが俺と蓮奈が会ってすぐの時に初めて膝枕された時のものだと言っても信じない。


 ちなみに隣の紫音の部屋にレンは居た。


「諦めるにはまだ早いよ舞翔君」


「何かあるのか?」


「要は恋火ちゃんが信じたくなるようなそれっぽい嘘をつけばいいんだよ」


「なるほど。俺達に被害がないような嘘だけど、レンが信じたくなるようなことか」


「そう。だけど問題なのはそんな嘘はそう簡単に思いつかないことなんだよ」


「つまり?」


「諦めてごめんなさいしよ」


「おけ」


 ということで俺と蓮奈はレンに怒られる前に声を合わせて「ごめんなさい」と謝る。


 レンからは『許しの一撃』をもらって解決した。


 レンが許してくれた理由として蓮奈が「多分舞翔君の可愛い寝顔が想像以上に可愛かったからだよ」とか意味のわからないことを言ってたけど、そもそも俺と蓮奈は何も悪いことはしてない。


 ちょっと蓮奈の包容力に抗えなかっただけだ。


 つまり不慮の事故であって仕方ないこと……とか言ってると浮気の言い訳をしてるみたいで嫌だけど、そういうことだ。


 とりあえずこれで本当に一部では始まっている誕生日会を始められる。

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