生まれつきの性格
「やっぱり先輩に自信を持たせるのがいいよね。それか先輩はみんなに愛されてるって自覚させる?」
「本日の主役を無視して話を進めるんじゃないよ」
愛莉珠が今日の主役であるレンと水萌の許可もなく話を進めるのでさすがに止める。
俺の自虐をやめさせる為の話し合いなんて無益なことは誰も望まない。
そんなことをするならレンと水萌を──
「自信がないから愛されてる自覚が持てないんだろ?」
「そうだよね。舞翔くんは自分が好かれるわけがないって未だに思ってるだろうから、まずはその間違った認識を変えないと」
「乗り気かよ……」
レンと水萌が呆れてそれで話が終わるはずだったのに、二人が乗り気なせいで話が続く。
「まだだ、ここには俺の理解者が居るはずだ」
「期待に添えずにごめんね。うちもお兄様にはもう少し自分を好きになって欲しいから」
「うん。僕もまーくんは自分の評価を上げた方がいいと思う」
「俺は諦めない」
依と紫音までが俺の敵になったけど、まだ慈愛の塊である蓮奈がいる。
蓮奈ならきっとこの中の誰よりも心が綺麗だから敵しかいない俺を可哀想に思って味方についてくれるはずだ。
そんな期待を込めて蓮奈に視線を向けると、蓮奈が優しく微笑んで両手を広げたので嬉しくなって蓮奈の胸に飛び込んだ。
「蓮奈は俺の味方だよね?」
「……味方のフリして敵になって拗ねる舞翔君を引き出そうとしたけど、もっと可愛い舞翔君を見せてくれたら私が舞翔君の味方つくよ」
「……お姉ちゃんのいじわる」
「私の舞翔君をいじめるのは誰だ! 私の可愛い弟をいじめるなら私が相手になる!」
もう二度と誰かの弟にはならないつもりだったけど、またこうしてなってしまった。
でも結果的に蓮奈だけは味方についてくれたからこれでどうでもいい俺の話なんてしなくて済む。
それはそうと、苦しい。
「別にいじめてないですよ? ありす達は先輩はすごい人だって先輩自身にもわかって欲しいだけなんです」
「舞翔君はそんなの望んでないの。私達が舞翔君のことをすごいって知ってればそれでいいでしょ?」
「確かにそうなんですけど、先輩が自分のことを貶してるのを見るのは嫌じゃないですか?」
「嫌だよ? だけど、その時は私が甘やかす」
味方になってくれたのにあれだけど、蓮奈のことだからすぐに誰かに言いくるめられて俺の敵になると思っていた。
だけど言ってることの意味はわからないけど愛莉珠に言い返していることを素直に驚いている。
このままいけば本当に……なんて上手くいかないのが蓮奈だけど。
「じゃあ考え方を変えましょう。自分に自信を持って少し調子に乗る先輩とか見たくないですか?」
「え、見たい」
ほら。
だけど俺は諦めない。
羞恥心を捨てさればまだなんとか──
「それに、やっぱり先輩が自分を卑下するところなんて見たくないじゃないですか」
「それはそうなんだよね」
蓮奈が俺の頭を優しく撫でる。
これで愛莉珠の思惑通り、俺への文句大会が始まる。
「そっちの味方になるなら離して」
「舞翔君ご機嫌ななめ?」
「そう。だから離して」
「拗ねた舞翔君可愛い。一応言っておくけど離さないよ? 弟はお姉ちゃんに守られないといけないからね」
「裏切り者のくせに」
「じゃあお姉ちゃんのこと嫌い?」
「好き」
「じゃあこのままー」
蓮奈が頭を撫でながら抱きしめる力を強める。
正直なことを言うと、苦しいから離して欲しい。
蓮奈に抱きしめられるのは落ち着くから嬉しいのだけど、それは精神的な意味で、物理的に苦しいからせめて優しく抱きしめて欲しい。
贅沢な悩みなのはわかっているけど。
「うちもれなたそに埋もれたい」
「依ちゃんはいやらしい顔になるからやだ」
「そんな……」
「男の子の先輩はよくて依さんは駄目って、先輩は実は女の子説があるんじゃないですか?」
「舞翔君が女の子……」
全員の視線が俺に集まる。
そしで全員が何か納得したような顔をする。
いや、笑うか飽きれろよ。
「もしも舞翔君が女の子だったら、今みたいに抱きしめることに理由を付けなくていいんだよね」
「あ、弟設定って抱きしめる口実だったんだ」
「当たり前でしょ。そうしないと年下男子を無理やり抱きしめてるショタコン女じゃないか」
「誰がショタだ」
なんとか顔だけを自由にして蓮奈に文句を言う。
高校生の俺の年齢でショタはさすがにない。
蓮奈がもっと年上なら話は別だけど、一歳差ではそもそもショタとか言える年の差ではないと思う。
「まあ一応、恋火ちゃんに勘違いさせない為でもあるけど」
「蓮奈さんって、サキのこと好きなのはわかるんですけど、絶対に踏み込まないのがわかるから特に心配はしてないんですよね」
「確かにれなたそってお兄様に対する接し方が大人だよね。二人っきりだと幼くなって、うち達と居る時は年上っぽく一歩引いて、我慢できなくなったら姉弟設定を持ち出すし」
「なんで二人っきりの時のことを知ってるのかは置いとくけど、私は別に舞翔君と恋人になりたいわけじゃないからね。今の友達の状態で満足してるから変に荒波を立てないようにしてるのさ」
蓮奈がドヤ顔で言う。
言ってることはちゃんとしてるけど、それは俺を子供扱いしていい理由にはならない。
だから俺を離せ。
「絶対に俺を弟じゃなくて息子だと思ってるだろ」
「こんな可愛い子が自分の子供だったらちょっと困る」
「愛想悪くて世間体的に?」
「弟とならまだしも、親子で禁断の恋なんて……ねぇ?」
何が「ねぇ?」だ。
そもそも『まだしも』も意味がわからないし。
「もういいからレンと水萌の誕生日会始めようよ」
「とりあえず先輩の話が済んだらね」
「俺の自虐は直らないから」
「その心は?」
「元がそういう性格なんだから直る直らないとかいう問題じゃない」
今の俺は生まれたままの俺であって、ほとんど性格に変化はない。
レン達に出会って多少は人間らしさを得たけど、それでけで、自虐的な性格は生まれつきだ。
「今の俺に不満があるなら仕方ないけど、それは俺の性格を直すんじゃなくて、自分達好みに矯正してるんだからね? 俺はそれでもいいけど、俺を全否定したいなら最初からそう言って」
俺だって別に愛莉珠達に嫌われたいわけじゃない。
だから愛莉珠達が嫌だと言うなら自分の性格をねじ曲げてでも愛莉珠達好みの性格になってもいい。
そこに俺という個人の性格は消えるけど。
「蓮奈よ、頭を撫でるでない」
「目先の利益に目が眩んだ私に何なりと罰をください」
「意味わかんないし。まあ何かしてくれるならレンにいじめられた時はこうして慰めて」
「喜んで」
蓮奈の腕の中はなぜか無性に落ち着く。
蓮奈の包容力がすごいのは今更だけど、最近それがまた増してきている気がするから落ち込んだ時はお願いしたい。
「ということでありすちゃん。私は今の舞翔君が好きだからごめんね」
「あ、大丈夫です。ありすも反省中なので」
俺の膝に右手を置いて土下座をする愛莉珠がそう言う。
何をしてるのかと思ったら反省中らしい。
猿か。
「ごめんなさい先輩。ありすごときが先輩に口出しできることなんてなかったよ……」
「別にいいよ。むしろ俺に不満があったわけじゃなくて安心した」
「ありすを選んでくれないことは不満だけど、結局それも含めて先輩なんだもんね」
なんかよくわからないけど、とりあえず愛莉珠が笑顔になったから解決ということでいいのだろうか。
これでレンと水萌の誕生日会が再開できる。
その前に愛莉珠に巻き込まれて、愛莉珠の後ろで愛莉珠にジト目を送る人達をどうにかしないのだけど。




