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閑話休題 めんどくさい双子

心彩みあさ、あの先輩嫌いなんだよね」


「唐突に返事に困ることを言うのやめてくれるかな」


 今は先輩がピンクとプレゼント選びという名のデートに行くと言うから先輩の潔白を証明する為に仕方なく後をつけている


 それになぜか水色もついて来たのだけど、先輩達が楽しそうに話してるのを見た水色が何か言い出した。


「あなた先輩にアプローチしようとしてなかった?」


「心彩がしようとしたのは、心彩と詩彩しあが入れ替わって、それに気づかないで相手してるのをあざ笑おうとしてただけ」


「想像以上にクズなことしようとしてたな」


 水色とピンクが性格に難ありなのは知ってたけど、まさかそこまでだったとは思わなかった。


 結果的に先輩が二人を見分けてピンクが先輩に惚れて水色はご機嫌ななめだけど。


「ピンクが惚れたのが悪いんであって、先輩はむしろ被害者じゃん」


「は? 詩彩みたいな世界一の美少女に好かれたのにキープしてるクズ男が被害者?」


「色々と突っ込みたいところがあるけど、どこから突っ込んで欲しい?」


「心彩は変なこと言ってないし」


 水色が拗ねたようにそっぽを向く。


 変なことしか言ってない自覚はないようなので自覚させてあげることにしよう。


「じゃあ最初から順々にいこうか。まず、水色とピンクは容姿が同じなんだからピンクが世界一の美少女なら水色もそうなるけど?」


「あーちゃんは何もわかってない。心彩と詩彩は確かに似てるけど、性格とかは全然違うし、何より詩彩は心彩と違って顔もいいから」


 ありすにはその顔も同じに見えるのだけど、それはやっぱり本人には違く見えるのだろうか。


「じゃあそれはいいや。次だけど、先輩は別にキープなんてしてないじゃん。ピンクが先輩に付きまとってるだけで」


「だからそれはあの人がちゃんと断らないで詩彩を弄んでるからでしょ」


「日本語が通じないってこういう感じなんだ。ありす今まで人とあんまり話してこなかったから出会ったことなかったけど、確かにこれはめんどくさい」


 確かにピンクは先輩に告白をした。


 それはありすと水色も見ていて、その後にしっかりと断った。


 だけど諦めないで付きまとっているのはピンクだ。


「ありす達も確かに先輩のことが好きで一緒に居るけどさ、みんな『あわよくば』を狙ってるだけで、本気で恋火れんかさんから奪おうとか思ってないわけ。だけどあれは違うでしょ?」


「詩彩の気持ちをわかってて弄んでるってことでしょ?」


「ほんと話通じないな。なに、ありすが悪いの?」


 ありすなりにわかりやすく説明してるはずなのに水色は自分の解釈を変えようとしない。


 確かにこれは人と話すのが嫌になる。


「そんなに先輩が嫌いならピンクと一緒に二度と先輩の前に現れないでよ。ありすは言ったよね? 先輩には近づくなって。それなのにピンクが勝手に近づいてるのはどう説明すんの?」


「それだけ詩彩が本気ってこと。それなのに……」


 もういいや。


 こういうのには何を言っても無駄だから諦めた。


 ありすは頑張ったから後で先輩に褒めてもらおう。


「あの人が女をとっかえひっかえしてるとか噂流したら詩彩も正気に──」


「そんなことしてみな。ありすだけじゃなくて、先輩の味方の全てが本気であんたを学校に居られなくするから」


 水色の減らず口がやっと閉じた。


 やっぱり相手の顔を伺うよりも、自分の気持ちを素直に伝えた方が理解してくれるようだ。


 だけど震えているのはなんでだろう。


 もしかしてありすが怖い?


 ありすよりも怖い人を敵に回そうとしてたくせに?


「先輩が優しいからって調子には乗らない方がいいよ。多分先輩はピンクのことは嫌いじゃないからあんたのことは許すだろうけど、先輩が許してもありす達は絶対に許さないから」


「……」


「返事は?」


「すいません、でした……」


「謝るんじゃなくて、誓えないの?」


「調子に乗りました。余計なことは絶対にしません」


「いい? 先輩に関しての変な噂が流れたらたとえあなたがやったことじゃなくてもありすはあなたのせいにするから」


「……はい」


 釘は刺した。


 これで水色が先輩が不利益になるような嘘を言うことはない。


 こんなことをずっとしてるよりさんはほんとにすごい。


「ちょっとした嫉妬なの」


「言い訳して自分を正当化しようとしてる?」


「そう……かもね。聞き流してくれてもいいよ。勝手に話すから」


 別に聞くだけだったらいい。


 どうせ今は先輩とピンクを見失って暇だから。


「詩彩って、すごい引っ込み思案だったの。今は心彩と見分けがつかないぐらいになってるけど、昔は心彩の背中に隠れてるような人見知りでね、それはもう可愛かったの」


 どうしよう、想像以上にどうでもいい。


 先輩だったらちゃんと最後まで話を聞いて最高の返しをするんだろうけど、ありすは興味が無さすぎて聞く気がおきない。


 聞くけど。


「だけどいつからか、詩彩が心彩の真似をするようになって、それからは誰も心彩と詩彩を見分けられなくなったの」


「ちょっと待って、確かピンクって先輩に見分けてもらえたのが嬉しくて好きになったんじゃなかった?」


 ほんとに聞き流すつもりだったけど、さすがにそれは聞き捨てならなかった。


 自分で個性を消して姉の真似をして、それで見分けてもらえなくなったのに、先輩が見分けられたら嬉しくなったとか意味がわからない。


「うんとね、ちょっと説明が難しいんだけど、見分けてもらったのが嬉しかったのは事実だよ。だけど好きになった理由は、心彩の真似をしてる詩彩を、詩彩として見てくれたことなの」


 ありすは五秒ぐらい頑張ったんだよ。


 だけどありすの繊細な頭では理解しきれなかった。


「詩彩はね、自分に自信がなかったんだけど、それを詩彩の中では自信のお手本だった心彩の真似をして自信をつけたの。だけどあの先輩は詩彩を詩彩として見てるから」


「それならわかった。でもさ、それにしてもチョロすぎない?」


 ありすが言えた義理ではないけど、ありすだって先輩を好きになるのに……


「自分のチョロさに絶望でもした?」


「うるさい。それよりも、先輩は別にピンクをピンクとして見てたかどうかはわかんなくない?」


「多分ね、敬語を指摘されたのが大きいかも。詩彩って無意識に敬語使う時があるんだけど、それは詩彩であって心彩ではないんだよ」


 確かに水色が敬語を使ったところも、使うイメージもない。


 逆にピンクはたまに敬語を使うことがある。


 ありすは特に興味がないから気にしてなかったけど、先輩はそういうところ目ざといから気づいてしまう。


「それでピンクが先輩に惚れて、水色は見下せる相手を取られて先輩にあたってたと」


「心彩は見下してなんて……」


「ないとは言えないでしょ。ずっと自分の後ろに隠れてた可愛い妹。自分の真似をしてくれる可愛い妹。どっちにしたって水色はピンクの前にいる。それが気持ちよかったけど、今はピンクが自分の意思で、自分を取り戻して先輩と一緒に居る。それが気に入らないんでしょ?」


 ほんとに聞く価値のない話だった。


 結局は自分がいないと何もできないと思っていた妹が自分の意思で行動してるのが気に食わないのを先輩に八つ当たりしてただけの話。


 心底くだらない。


「別にピンクの味方するわけでもないけど、妹だからって姉のおもちゃじゃないんたからね?」


「うん。後で詩彩と先輩さんには謝って──」


「何を?」


「詩彩、こういう時はさりげなく隣に居るものなんだよ」


「あ、ごめんなさい」


 ありすとしたことが近づいて来る先輩に気づけなかった。


 気がつけばすぐ近くに先輩とピンクが居た。


「……いやぁ、先輩偶然だね」


「ついて来てたの知ってるから隠さなくていいよ」


「そう? じゃあいいや。ちなみにありすと水色の話聞いてた?」


「なんか暗い話してそうだったから聞く前に声かけた」


「さすが」


 先輩のこういう気が使えるところは見習わないといけない。


 女心はわからないくせに。


「ていうか呼び捨てにしてなかった?」


「そういう約束で俺のプレゼント選びに付き合ってもらったから」


「なんて傲慢な」


「えっへん」


「別に褒めてないし」


 胸を張って偉そうにしてるピンクは無視して、ずっと俯いている水色に視線を移す。


「あ、あの」


「あ、これあげる」


「え?」


 多分意を決して今までの謝罪をしようとしてた水色に先輩が手に持っていた紙袋を渡す。


「詩彩が誕生日過ぎてるって言ってたから買ってみた」


「心彩は先輩さんからプレゼントを貰えるような人間じゃないですよ……」


「何を言ってるのかわからないけど、プレゼントなんてあげる側の自己満足なんだから受け取る側の気持ちとか知らないよ?」


「息を吸うように嘘言うじゃん」


 先輩ほど相手の気持ちを考える人はいない。


 絶対に水色の雰囲気が暗いからって空気を変えようとしてる。


 優男で好き。


「心彩、受け取って。詩彩と先輩で選んだの」


「詩彩も?」


「うん。ちなみにそこには先輩から詩彩へのプレゼントも入ってるから、心彩が先輩に返すと詩彩へのプレゼントも返すことになるから」


「先輩らしい姑息な渡し方だ」


「さっきからうるさいぞ君」


 先輩に怒られちゃったからお口にチャックをする。


 ありすのチャックは壊れてるからすぐに開いちゃうけど。


「じゃ、じゃあ貰います」


「開けてみて」


「え、うん」


 ピンクが嬉しそうに言われて水色が紙袋を開ける。


 そして一瞬固まってから、中身を取り出す。


「こけし?」


「そう、こけし」


「……なんで?」


「可愛くない?」


「いや、え? ……え?」


「ほら、こけしはやっぱりおかしいって」


「いやいや、可愛いですって」


「詩彩は日本人形とかも可愛いって言うタイプ?」


「どっちかっていうとマトリョーシカですかね」


「よくわからん」


 ありすもわからない。


 誕生日プレゼントに先輩からこけしを渡されたらさすがに戸惑う。


 先輩からなら何でも嬉しいけど、さすがにこけしは意味を考えてしまう。


「誕生日プレゼントがこけし……」


「ほら、心彩さん嫌がってるじゃん」


「えー、せっかくお揃いのこけし買ってもらったのに」


「特別扱いして欲しいとか言ったくせにな」


「だって、やっぱり心彩と一緒が良かったんですもん」


 どうやら全部解決したらしい。


 ほんとにめんどくさい双子と知り合ってしまった。


「他のもの買いに行くよ」


「嫌です!」


「でも──」


「こけし、ありがとうございます。一生大切にしますね」


「いいの?」


「はい。なんかだんだん可愛く見えてきたので」


「ほら、心彩もこう言ってますから」


「気を使われてるんだよ? いいならいいけど」


「本当に、ありがとうございます」


 水色がこけしを大切そうに抱きしめる。


 結局先輩に全て持っていかれた。


 別にいいけど、水色が先輩を好きにならなければ。


 大丈夫、だよね?


 ピンクは要観察だけど、これは水色も観察対象に追加しなければいけないかもしれない。


 ほんとにめんどくさい双子だ。


 そうしてありすが目を光らせながらみんなでお家に帰ったのでした。

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