双子の姉妹
『せんぱい、こっちみて♡』
「わざわざ連絡しないで入って来いや」
休み時間に一人ボーッとしてたらスマホが鳴ったので見てみると、愛莉珠からメッセージがきていて、廊下に視線を送ると、そこには手を振る愛莉珠がいた。
いつもは人の目なんか気にせずに入って来るのにどうしたのか。
「まあでも、これが普通の対応か」
一年生の愛莉珠が二年生の階に来るだけで普通は気が引けるのに、教室に入って来るなんて今までがおかしかった。
多分、依が裏でいつものをやってくれていたおかげで何もなかったのだろうけど、変な噂が立ってもおかしくはないし。
「むしろそれを狙ってたり?」
「もっちろん♪」
愛莉珠の元に行って声を掛けると満面の笑みが返ってきた。
「先輩今日は一人?」
「うん。今日って言うか、この時間は水萌達が次体育だから」
体育は依のクラスの二組と、水萌と紫音の三組が合同で行っている。
だから体育の前の休み時間は基本的に一人でボーッと外を眺めている。
「そっか、でも恋火さんってほんとに外だと猫かぶりなんだね」
「また怒られるからやめとけ」
俺とレンは同じクラスだけど、あまり関わりはない。
別に関係を隠してるとかではなく、お互い用がないとわざわざ学校で話すような性格じゃないからだ。
それを愛莉珠は『猫かぶり』と言ってレンに怒られていた。
「なんか水萌お姉ちゃん達が可哀想に見えてくるよね」
「ありすよ、考えてみな。同じクラスの男女が休み時間の間ずっと一緒に居るのを見るとどう思うか」
「あぁ、先輩と恋火さんのを同じ教室でやられたら『家でやれよリア充が』って思うかも」
結局はそういうことだ。
何か用事があって話すのは別に構わないけど、特に用事もないのにわざわざ相手の席に行って、からかって遊ぶのは普通に見てて鬱陶しい。
だから俺達は用がある時しか教室では話さないようにしている。
別に知らない人だらけの空間で一緒に居るのが恥ずかしいとかではない。
「初々しいな」
「うるさい。それで用は何?」
「用がなかったら来ちゃ駄目?」
「いつも用がないのに来てるだろ」
そろそろ邪魔になるだろうと思って廊下に移動する。
いつものようにいきなり教室に入って来ないでメッセージを送ってきたあたり、何かしらの用事があることは確実だ。
愛莉珠のことだから、そんな特殊なことをする時は大事な用事があるのだろう。
そしてその用事とは、愛莉珠の後ろに居る水色とピンクの髪留めをした二人の女の子のことだろうか。
「さてさて、察しのいい先輩ならもう気づいたかな?」
「ちょっと感動してる」
「別に友達ってわけじゃないからね?」
「えー、そんなこと言うの?」
「心彩と詩彩はりーちゃんのこと愛してるのに」
愛莉珠の後ろでそっくりな少女二人が似た声で喋り出す。
そういえば愛莉珠がこの前の相談の時に同じクラスに双子がいると言っていたが、それがこの子達ということなのか。
「ありす、同い歳のともは大切にしなさいよ?」
「その心は?」
「友達いないとグループ活動で困る」
「うわ、すごい的確なアドバイスだ」
実際俺も中学までは困っていた。
学校というのは無駄に団体行動をさせようとしてぼっちを駆除しようとするから本当に困る。
ぼっちだって生きているんだからもう少し生きやすくしてくれてもいいと思う。
「そうだよ」
「りーちゃんは心彩と詩彩を学校を生き抜く為の駒にしてくれればいいの」
「そうすれば心彩と詩彩はあーちゃんと一緒に居られてハッピー」
「りーちゃんはグループを作るのが楽になってハッピー」
「「つまりウィンウィンだね」」
さっきは愛莉珠に友達ができたことに感動したけど、今度は別の意味で感動した。
レンと水萌もたまに以心伝心はしてたけど、相手の言葉を先読みして喋るのは『ザ・双子』みたいで感動する。
「先輩ならこの二人のこと気に入ると思った」
「えー」
「りーちゃんの想い人に」
「好かれちゃうなんて」
「罪な女だね」
「は? 図に乗んな」
愛莉珠が真顔になって二人を見ると、からかうようにニマニマしてた顔がキリッとする。
愛莉珠は怒らせると怖いのだから余計なことは言わないで欲しい。
「怒ったありす、嫌だよね……」
「傍から見てる分には好き」
「良かった……」
愛莉珠がホッとしたように息を吐く。
俺が今のように本気で愛莉珠に怒られたらわからないけど、第三者として見てる分にはギャップがすごくてむしろ好きだ。
多分怒られてる側はそのギャップでやられるのだろうけど、この双子はまた違うようだ。
「怒ったあーちゃんも……」
「怒ったりーちゃんも……」
「「可愛すぎる」」
「この二人は見ての通り変だから気にしないで」
「ありすが愛されてるのはよくわかったよ」
愛莉珠は可愛いから男子に好かれすぎて女子から毛嫌いされて浮いてないか心配だったけど、むしろ可愛いから信者ができている。
そのことに純粋に安心した。
誰目線なのかわからないけど。
「さすがあーちゃんの想い人先輩」
「心彩と詩彩まで好きになっちゃうかも」
「というかもう?」
「好きだね」
「「先輩好きです、付き合ってください」」
水色の心彩が右手、ピンクの詩彩が左手を出して頭を下げる。
俺はこういう冗談好きだけど、愛莉珠の前でやるべきではなかった。
「……」
「ありす、冗談なんだから怒らないの」
「この二人には先輩に彼女がいること話してるの。それなのにこんなことしてるんだよ? 呆れるでしょ」
「大丈夫かそれ。ブーメランにはなってない?」
水を差すようになってしまうけど、当たり前だが愛莉珠も俺に彼女がいることを知っているけど告白的なことを結構してる気がする。
あれも冗談なのはわかってるけど、それは今肩を震わせてる双子も同じではないだろうか。
「ありすは先輩とも恋火さんとも仲がいいし、妹だからいいの」
「仲はいいけど妹ではないだろ。せめて義理は付けないと」
「水萌お姉ちゃんは妹にしたのに?」
「あれも設定的には義理だから」
「ふーん」
信じてないようだけど、水萌を妹にしたのは仕方ないことであって、あれがあの時の最適解だと今だって思う。
そもそも妹にしたと言っても、別にそういう設定にしただけであって本当に妹になったわけではない。
「一つ言っとくと、ありすは妹だろうとそうじゃなかろうと俺は許すよ。レンだって怒りはするけど、ありすのことを可愛い妹的な存在だって思ってるだろうし」
「そっか。それは嬉しいや」
愛莉珠かま少し照れたようにモジモジする。
可愛い。可愛いのだけど、後ろで抱き合って座り込んだ双子が気になって仕方ない。
「あんなあーちゃん見たことないよぉ」
「りーちゃん可愛すぎだよぉ」
「これはつまり」
「あれをしよう」
「「うん、そうしよう」」
双子が何かを決めて俺の方を見る。
なんとなくわかるけど、嫌な予感しかしない。
「今更ですけど」
「自己紹介します」
「心彩は月見里 心彩。水色の髪留めで覚えてね」
「詩彩は月見里 詩彩。ピンクの髪留めで覚えてください」
「ちなみに『やまなし』は」
「『月見里』って書きます」
「「以後、お見知り置きを、先輩」」
月見里姉妹が同時に同じ角度で頭を下げる。
愛莉珠が連れて来たのだからこれからも付き合いはあるとは思ったけど、愛莉珠の想像外のことが起こりそうで怖い。
とりあえず今はチャイムが鳴るので愛莉珠達は帰って行った。




