表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/300

問題解決

「さて、みんなに集まってもらったのは他でもない」


「初めての彼女の誕生日をどう祝おうか悩み中ですか。惚気んな」


 時の流れは早いもので、五月も中盤に差し掛かった。


 つまり来月はレンと水萌みなもの誕生日になる。


 よりはレン限定で話しているけど、俺は二人の誕生日について相談したい。


「依はそういうところ女心がわかってない」


「そんなこと言うなら相談に乗ってあげないよ?」


「調子乗りました。これからは呼び捨てではなく依様と呼ぶのでどうか」


「謝ってるようでうちを辱めるのやめてくれるかな」


「そんなつもりはありませんよ、依様」


 依がポカポカと叩いてくる。


 自分は人のことを『お兄様』とか呼んでくるくせに理不尽ではなかろうか。


 まあこれ以上はほんとに相談に乗ってもらえない可能性があるので控えめにからかっていく。


「確かにレンの誕生日を祝いたいけど、俺は水萌の誕生日もちゃんと祝いたいんだよ」


「れんれん、嫉妬深いから怒るよ?」


「じゃあレンだけ祝えと?」


「そんなことしたら嫉妬深い水萌氏が拗ねちゃうよ?」


「だから相談してるんだろ?」


 俺だってレンと水萌とは一年付き合ってきた。


 だからどちらかを優先したらどちらかが怒って拗ねるのはわかっている。


 そう思ったから二人をちゃんと祝おうと思ったんだけど、彼女であるレンを特別扱いしないとレンは拗ねる。


恋火れんかちゃんだけをお祝いするっていう選択肢はないんだよね?」


「ないな。俺がレンをお祝いして、みんなに水萌のお祝いを頼む選択肢もあったけど……」


「水萌ちゃんなら表面上は喜んでくれるけど、内心では泣いてるかもね」


 紫音しおんの言う通りだ。


 泣くかはわからないけど、水萌はレンと違ってせんさ……空気を読みすぎる性格だから、無理はさせたくない。


 別にレンのことはディスってない


「水萌お姉ちゃんってわがままに見えてそういうところは一歩引いちゃうもんね」


「そうなんだよな。レンは逆に普段は一歩引いていざって時は絶対に譲らないタイプなんだよ」


「見た目もよく見ないと似てる感じしないし、二卵生ってやつなのかな?」


「二卵生って性格も真逆になるの?」


 アニメとかではよく聞く設定ではあるけど、双子なんてめったに出会うものではないからよくわからない。


 そもそも性格なんかは育ち方で変わったりするし。


「ありすのクラスには逆にそっくりな双子いるけど」


「双子の希少さが無くなっていく……」


「いやいや、はぐれものと連続でエンカウントすることだってあるよ。うち達の親が知り合いなことみたいに偶然は重なるものなんだよ」


「まあ確率で言えば何千分の一と連続エンカウントだってあるわけだもんな」


「乱数なんて嫌いだ!」


 依と俺がゲーム脳を爆発させていたら、蓮奈れなが頭を抱えて叫ぶ。


 どうやら乱数に嫌な思い出があるようだ。


「ん? でも蓮奈って人狼やりたがってなかった?」


「確かに。人狼ってあんまりやったことないけど、役職の偏りとかで乱数ゲーに近くない?」


「私はパーティーゲームでガチにならないよ。楽しくやる分には自分が勝とうが負けようがどっちでもいいから」


「楽しみたいなら人狼を提案するな」


 蓮奈の言いたいことはわかるけど、誕生日会でやることに人狼を提案して、それで実際に人狼をして楽しめるのかと言ったら絶対に微妙だ。


 まあでも……


「しおくんの誕生日なら大丈夫かもって思ったでしょ?」


「なんのことかな」


「わかるよ。しおくんって人狼強そうだし」


「人狼って紫音とか水萌みたいに日頃から真実と嘘を絶妙に混ぜてる人が強いからな」


 当たり前たけど、人狼は相手に嘘がバレなければ基本勝てる。


 つまり普段から嘘をついてないように見える人は強い。


 水萌は嘘をつこうとすると失敗するかもだけど、それでも笑顔で嘘をつくイメージがなぜかあるから強そうだ。


 紫音はもう……


「まーくんに言われたくないもん!」


「俺は嘘つけないから」


「それが嘘!」


「俺が紫音に嘘ついたことある?」


「昔公園で遊んでた時に僕のことを一生大切にするって言った」


「じゃあ嘘ついてないじゃん。俺は紫音を一生大切な友達だと思ってるから」


「ほんとだぁ」


 これは茶番か?


 俺が忘れているだけなのか、そんなことを言った記憶はないけど、そうなると紫音が笑顔で嘘をつく確証が取れた。


 まあ、紫音の満面の笑みに心打たれた少女が蓮奈に看取られて逝ってしまったのでそちらを気にする。


嬉死うれしってやつ?」


「……いい笑顔だよ。これで、死んでるんだよ……?」


「まだ間に合うよ。こういう時は王子様の人工呼吸キスで──」


「依ちゃん(お姫様だよ)ふっかーつ」


 蓮奈の膝枕を堪能していた依が勢いよく立ち上がる。


 どうやら現世に未練があって蘇ったらしい。


「紫音、やれ」


「はーい」


「な、何をするつもりだ! うちはこうして元気いっぱ、ちょ、紫音くん、目をキラキラさせながら近づいて……れなたそバリア」


「どさくさ紛れに悪いことする依ちゃんをしおくんに献上」


 紫音から逃げるように蓮奈の背中に隠れた依が、変な手つきで蓮奈を抱きしめるものだから蓮奈があっさり裏切って依と紫音の距離が埋まった。


「悪いのはうちの手であって、うちの意志とは関係ないの!」


「じゃあ私の感触を堪能してないんだね?」


「……もちろん」


「私の膝とどっちが良かった?」


「そりゃあ、おむ……ライス!」


「しおくん。依ちゃんの減らず口を物理的に塞いでいいよ」


 さて、人狼最弱と最強の戯れはほっといて、俺の本題に戻るとする。


「つまり俺はレンと水萌の誕生日に何をすればいいと?」


「もうさ、水萌お姉ちゃんと恋火さんの二人をありす達とお祝いして、その後に恋火さんだけ特別に先輩がお祝いしたら?」


「それで水萌は納得する?」


「そこはお姉ちゃんの優しさに甘えちゃえば? 先輩とレンさんがイチャイチャチュッチュしてる間はありす達がお姉ちゃんと『捨てられた女の会』開いて慰め合いしてるから」


「言い方な? いや、言い方な?」


 同じことを言ってしまったけど、二度変なことが聞こえたから仕方ない。


 というか後者を聞かされたら本当にいいのかわからなくなってしまう。


「先輩のそういうところは優しくていいかもしれないけど、優柔不断なのはみんなを期待させて絶望に落とすだけなんだからね?」


「……そうだよな」


 俺はもうレンと付き合っている。


 だから他の誰かに告白されようと付き合うつもりはない。


 それなのにレンの嫌がるのをわかって他の子を優先しようとするのは誰も得をしない行為だ。


「じゃあレンはみんなとは別に祝うから、その時は水萌のことお祝いしてあげてくれる?」


「任されてあげよう。先輩のおかげでお父さんとお母さんと仲直りできたし」


「俺は何もしてないけど、良かった」


 俺は愛莉珠ありすの誕生日でフォトフレームを渡しただけで、それを上手く使って仲直りしたのは愛莉珠だ。


 そもそもこの親子は何もしなくても仲直りしてただろうし。


「うん、『捨てられた女の会』の話す題材は『先輩の自虐をどうするか問題』にしよう」


「何それ?」


「先輩には一生わからない問題だよ」


「フェルマーかよ」


 そうなるとその問題が解決されるのは何百年かかるのか。


 まあ別に解決したところで賞金も何も出ないから誰も本気で解決しようとしないだろうけど。


 とにかくレンと水萌の誕生日なついての問題は解決したので、最強に襲われている最弱を助けに行くことにする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ