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言ってはいけないこと

「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ」


「あの、縛られながら土下座してるのシュールすぎるんでそろそろ拘束解いてくれません?」


 今の状況を簡単に説明すると、愛莉珠ありすのお父さんが両手両足を縛られたまま土下座している。


 縛られたままだから椅子も一緒についているのだけど、土下座した時に思いっきり顔面着地をしていて痛そうだった。


「もう舞翔まいと君に嫌な態度取らない?」


「取りません。誠意を見せる為なら何でもします。あ、ありすが望むなら……」


「望むならぁ?」


「苦渋の決断なんだから煽らないの」


 嬉しそうに先を急かす愛莉珠の頭を撫でながら、縛られながら土下座をしているお父さんの頭を撫でるみやこさんを見る。


 俺は確か拘束を解いてくれとお願いしたと思ったけど、京さんにはその気がないようだ。


「あら、舞翔君から熱い視線が」


「先輩はお母さんに呆れてるの。自分の歳を考えて」


「そんなこと言うんだぁ。明後日知らないわよ?」


「それ以上言ったら二度と口聞かない。お父さんと」


「なんで!?」


 お父さんが肩で体を支えて顔を上げる。


 とんだとばっちりを受けたものだ。


「明後日何かあるんですか?」


「先輩は知らなくていいの。明後日になったら教えてあげるから」


「よくわからないけど、変なことじゃないならいいや」


 京さんは知ってるみたいだし、俺が無理に聞くようなものでもないだろう。


 親切の押し売りはありがた迷惑でしかないし。


「そういえば今年はありすの誕生日祝えるのか」


「そういえばありすの誕生日って……」


 思い返してみたら俺は愛莉珠の誕生日を知らない。


 だからちょうど話が出たので聞こうと思ったが、隣の愛莉珠の機嫌が一瞬で最悪になったのがわかった。


「あーあ、これは本当にありすが口聞いてくれないやつだ」


「え?」


「あの子根に持つから本当に二度と口聞いてもらえないかもね」


 なんだあの京さんの楽しそうな顔は。


 それはそうと、愛莉珠は俺に誕生日を知らせたくなかったということなのか。


 なんかちょっと悲しい。


「……もういいや。先輩が悲しむ方が嫌だから教えるけど、明後日はありすの誕生日なの」


「早く言ってよ……やっぱり言いたくなかった?」


「言いたくなかったのは確か。だけどちゃんと理由があるから絶望するのはそれを聞いてからね?」


 愛莉珠に優しく頭を撫でられたおかげで絶望一歩手前で留まれた。


 愛莉珠に言われた通り、絶望するのは話を聞いてからだ。


「話さかなったのは単純で、当日に伝えて祝う準備してくれてないことをいじろうとしてたの。祝って欲しくないわけじゃないけど、先輩なら来年も再来年も祝ってくれるだろうし、だったら初めての今年は焦る先輩の姿を誕生日プレゼントにしようかなって」


「……そういうの、やだ」


 愛莉珠の言いたいことはわかる。


 俺は来年以降も愛莉珠の誕生日を絶対に祝う。


 だからまだ知らない今年はからかう為に使いたかったのだろうけど、俺は……


「大切な相手の誕生日とか、大切な日は祝いたいよ……」


「好き……は考えてる方だ。可愛いかよ」


 考えてることと口に出た言葉が逆になるみたいな現象なんだろうけど、今の俺は愛莉珠の手をいじって悲しさを紛らわすことで忙しい。


「三年分ぐらいの誕プレ貰っちゃったんじゃないのこれ」


「じゃあ舞翔君の誕生日にはありす自身がプレゼントになって一生分のプレゼントにならないとじゃない?」


「なれたらなってるし。先輩には彼女がいるの。知ってるでしょ?」


「そうよね、ありすじゃ舞翔君の一生分のプレゼントにはなれないわよね」


「なれるし! なれるけど恋火れんかさんに悪いからやらないだけだし!」


 京さんに煽られた愛莉珠が頬を膨らませて俺の腕に抱きつく。


 こうしてからかわれてる愛莉珠は新鮮で、京さんはああ言うけど俺は愛莉珠のこの姿が見れればそれで満足だ。


「先輩チョロイんだよ」


「ありすじゃ舞翔君をドキドキさせられないだけでしょ?」


「おい、どこ見て言った!」


 京さんの視線は明らかに愛莉珠の顔よりも少し下を見ていた。


 正確に言うなら俺の二の腕のあたりで、愛莉珠の……


「先輩は控えめな子の方が好きなの」


「性格でもありすじゃ……」


「先輩! 可愛い後輩であるありすがいじめられてるよ! 助けて!」


 眉間に皺を寄せて頬を膨らませる愛莉珠が俺を巻き込む。


 俺としてはこのまま親子の会話を楽しんでいたいんだけど、愛莉珠が巻き込むなら俺も加わるしかない。


「俺はちゃんとありすにドキドキしてるよ」


「ありすの味方をして! でもありがとう!」


 顔を赤くした愛莉珠がそっぽを向いてしまった。


 俺としては愛莉珠の味方をしてたんだけど、やっぱり女心は難しい。


「血は争えないってことね」


「俺はあんまり知らないけど、咲良さくらさんの想い人もあんな感じだったの?」


「あなたはそのなんでも口に出す癖ほんとにやめた方がいいわよ? 次に会った時は半殺しって言ってたけど、それで済まなくなっちゃうから」


「怖いこと言わないでよ」


「……」


「あ、終わったやつですか……」


 今日で何度目だろうか、お父さんが京さんに頭を撫でられる姿を見るのは。


 だけど今回のは今までのとは違い、京さんのお父さんを見る目が悲しそうだ。


 それこそ死地に向かう夫を見つめるような、そんな。


「もう十分話したし帰ろっか」


「ありすって結構淡白だよな」


「美白とか褒めないでよぉ」


「肌が綺麗なのは知ってる」


「さりげなく俺のことを心配してくれたフリしてイチャついてるああいうところも似てるんだよね?」


「似てる似てる。ほんとに懐かしいよ」


 さっきから気になることを話してるけど、京さんは俺の父親について知ってるのだろうか。


 まあ咲良さんの妹らしいから知ってても不思議ではないけど、そんなに俺は父さんに似てるだろうか。


「ほら、先輩帰るよ」


「俺、今日君のお父さんにお礼を言いに来たんだけど?」


「お礼を言われるような人じゃないってわかったからいいよ」


「俺、すごい久しぶりに会った娘に一時間も経たずに嫌われたんだけど?」


「しかもあなたは顔を見れてないし」


 愛莉珠は別に嫌ってるのではなく、久しぶりで照れくさいだけだと思う。


 その証拠に全てを見てる京さんはお腹を抱えて笑いを押し殺すように笑っているし。


 まあ、愛莉珠のお父さんを見る目が冷たいのは見て見ぬふりをするけど。


「せーんーぱーいー、帰ってイチャイチャするからはーやーくー」


「イチャイチャはしないけどわかったから引っ張らないで。えっと、ありすが帰りたがってるので手早く済ませますけどすいません。水萌みなものことを見てくれてありがとうございました」


「終わったならはーやーくー」


 愛莉珠が俺の腕をグイグイと引っ張ってくるので仕方なく腰を上げる。


 最後にお父さんに頭を下げたけど、お父さんは変わらず地面に顔を付けているから何を考えているのかはわからない。


 京さんがニコニコ笑顔で俺に手を振ってくれたので悪い印象は与えてないと思いたい。


 とりあえずお礼は言えたから、次は明後日のことに頭を切り替えました。


 ちなみに帰った後はいつも通りレンと水萌と合流してのんびりおしゃべりをしてました。

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