クラス発表
「蓮奈、良かったな。真中先輩と同じクラスみたいだぞ」
「なんでわか……あぁなるほど」
微妙な雰囲気のまま学校に着き、校門をくぐるとクラス分けが貼られていると思われる場所に人だかりが見えた。
そしてその一番後ろに見覚えのある先輩が両手を組んで神に祈りを捧げていた。
多分蓮奈と同じクラスになれたことを神に感謝しているところだ。
「とりあえず無視して俺達の見に行くか」
「そうだね。実怜ちゃんは忙しそうだし」
「蓮奈は先輩を抱きしめに行ってもいいよ?」
「確かに一緒のクラスなのは嬉しいけど、今の実怜ちゃんに近づいたら私も変な人に思われちゃうし」
蓮奈の言う通り、今の真中先輩は完全に変人だ。
三年生の中では知れ渡っているのか、他の先輩っぽい人達は呆れ顔で見るだけだが、俺達と同級生っぽい人達は割とガチめに引いている。
「先輩っていつもあんななの?」
「いや? いつもはもっと真面目な人なんだけど、たまにああやって変になるの」
「蓮奈が狂わせてるのか」
「私のせい? 確かに私と一緒の時は特に変になることが多いけど、噂では一人の時でも変になってるみたいだよ?」
「あの人蓮奈狂いだから」
真中先輩は蓮奈を本気で愛している。
百合とかそういう可愛いものではなく、蓮奈がいれば他には何もいらないと思えるぐらいにマジなやつで。
当の蓮奈は友達としか思ってないのが残念だけど、いつか蓮奈にも気づいてあげて欲しい。
「それはそれとして。みんなお楽しみのクラス発表にいこうか」
「舞翔君、結構余裕だね。みんな鬼気迫る感じなのに」
蓮奈の言う通り俺の背後ではものすごいオーラを放たれている。
「余裕っていうか、俺はみんなと同じクラスになるって信じてるから」
「最悪でも恋火ちゃんだけがいればいいんだもんね」
「レンと一緒なのは確定事項だけど?」
レンは俺と同じクラスになる為に寝不足になってまで神に祈ってくれた。
これでレンと同じクラスにならなかったらレンの努力が無駄になり、俺は神を滅ぼす為に闇堕ち主人公に転生しなければいけない。
「転生ものが始まるか?」
「やり直しものじゃない?」
「そっか。まあその必要はないみたいだけど」
人だかりを抜けてクラス分けの紙を見ると、無事に俺とレンが同じクラスになっていた。
「愛の力ってやつかね」
「それいいな。神頼みとか必要なくなるじゃん」
「蓮奈さん、サキ、そのぐらいにしてやって」
レンが俺の肩を困り顔でつつきながら言う。
確かに自分のことしか考えてなかった。
愛の力が足りずにクラスが分かれたバカップルがいるのに。
「俺とレンが一組で、依が二組。そんで水萌と紫音が三組か。見事に分かれたな」
「こういうのって仲がいいやつらは分けられるんだよな?」
「そうやって聞くよな。だから俺と水萌と依は分けられたのかね」
「逆にオレとサキって友達の友達ぐらいに思われてるんだろうな」
「学校じゃほとんど絡んでないもんな」
本当に仲のいい人が分けられるのかは知らないけど、それなら分け方に納得がいく。
俺と水萌と依は一年生の時にクラスでもずっと一緒で、仲がいいことは認知されていた。
そしてレンと紫音も教室で話してるところを見られていたみたいだから認知されていただろう。
だから同じクラスだった俺達は分けられ、違うクラスのレン達とは偶然で同じクラスになった。
「でもその考え方だと私と実怜ちゃんは?」
「蓮奈は逆に仲のいい真中先輩が一緒じゃないと不登校になる可能性があるからじゃないの? その考え方はウザいけど」
これ以上考えるとさっきのが始まるから考えないけど、もしも蓮奈は真中先輩がいれば不登校にはならないみたいなことで一緒のクラスになったのなら気分は良くない。
「結果的に実怜ちゃんと同じクラスになれたから私は嬉しいよ。それよりも、そろそろ絶望してるみんなに目を向けよ?」
蓮奈が絶望で固まる水萌と依と紫音に目を向ける。
いや、依はわかるけど水萌と紫音はお互いに失礼だろ。
「とりあえず出よ。俺が水萌で蓮奈が紫音でレンが依な」
「男女とか姉妹を気にしないところが舞翔君だよね」
「蓮奈が依の方がいい?」
「別に嫌とか言ってないよ。きっと頭に浮かんだ順で言っただけだろうし」
さすがは蓮奈だ。
俺の適当さをよくわかっている。
それはいいとして、とりあえず俺は水萌の手を引いて人だかりを抜ける。
レンと蓮奈も依と紫音の手を引いて抜けることに成功した。
「さて、どうしたものか」
「こういう時は今の嫌な気持ち以上の嬉しい気持ちで上書きさせればいいんだよ」
「どうやって?」
「要は水萌ちゃんは舞翔君と同じクラスになれないのが嫌で、依ちゃんとしおくんはお互い一緒のクラスになりたかったけどなれなかったことに落ち込んでるんだよね? だったら……」
「たら?」
「………………無理くない?」
だから困っている。
俺だってレンが同じクラスだからこうして普通でいられるけど、もしも一人だったらあちら側になっていた。
自慢ではないけど、俺は水萌達以上にめんどくさいことになっていたと思う。
「レンなら誰とも同じクラスになれなかった時に何してもらったら元気になる?」
「オレ? 多分何されても元気にはならないと思うぞ?」
「そうだよな、俺もそうだもん。じゃあ何になら希望が持てる?」
「オレが一年の時にやってたのは、帰ったらサキに会えるって思うことかな?」
可愛いをありがとうということでレンの頭を撫でる。
レンが睨んでくるが、満更でもなさそうなので撫でるのを続けながら話を続ける。
「でもさ、水萌ちゃんは常に舞翔君と一緒にいたいだろうから無理じゃない?」
「最近は俺よりもありすの方が好きそうだけどな」
「それはスイーツ巡りしてたからでしょ? それはいいとして、水萌ちゃんは舞翔君とずっと一緒にいたいから休み時間だけじゃ足りないんだよね」
「同じクラスでも休み時間しか話したりできないんだけどな」
だけど言いたいことはわかる。
結局は話したりできないけど、それでも一緒の空間にいたいのは俺も同じだ。
だから水萌の気持ちはわかるんだけど、こればっかりはどうしようもない。
「話は盗み聞かせてもらったよ」
「普通に隣に居たんで気づいてたから大丈夫ですよ?」
俺達が人だかりから抜けてすぐに合流していた真中先輩が声を発した。
これは妙案があると期待していいのだろうか。
「要するにクラスが別で良かったって思うのが最高の展開で、クラスが別だけどギリギリ大丈夫ってなるのが及第点ってことだよね?」
「そうですね。何かいい案ありますか?」
「え、ない」
「俺の期待を返してくれます?」
勝手に期待したのはこっちだけど、言い方が悪い。
どうする──
「ちなみに修学旅行の班はクラスとか関係ないよ」
「マジか、反応あり」
さっきまで無反応だった水萌達が反応を見せる。
少しだけ顔が動いただけだけど、反応したことに変わりない。
ここで畳み掛けないと次はない。
「クラスは違くても休み時間には会えるし、お昼も今まで通り一緒だから。それに真中先輩が言ってくれたけど、修学旅行の班は一緒になれるみたいだから、一年頑張ろ」
水萌達は俺の方を見てはくれてるけど反応がない。
やっぱり駄目なのか。
「……なでなで」
諦めかけたところで水萌がやっと声を発した。
「え?」
「帰ったら毎日なでなでしてくれたら頑張れる」
「いいよ? それで水萌が頑張れるなら」
「……頑張る」
まだ元気はないけど、とりあえず水萌は大丈夫そうだ。
後は依と紫音だけど、あの二人は多分ほっといても平気だろう。
「うん、別にクラスが違うからって会えなくなるわけじゃないんだから大丈夫だよね」
「寂しいけど、休み時間には会えるし、バイトがなければ放課後も会えるもんね」
「そだよ。修学旅行も同じ班になれるなら気にすることはないね」
「そうだね、来年は同じクラスになれるように頑張ろ」
何を頑張るのかはわからないけど、ポジティブになったのなら良かった。
とりあえずはこれで大丈夫だろう。
後で真中先輩にはホワイトデーのお返しと一緒に何かお礼をしなくては。
そんなこんなで俺達はそれぞれの教室へ向かうのだった。




