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余計な一言

「うちと紫音しおんくんが丹精込めて選んだプレゼントだよ」


「あんまり僕が選んだって強調して言うのやめて。よりちゃんがどうしてもって言うからそれにしただけなんだから……」


 俺とレンがプレゼントを渡してすぐに依が無地の紙袋を持って蓮奈れなの前にやって来た。


 俺達と依達は一緒にプレゼントを買いに行ったけど、買った場所は別々だから依達が何を買ったのかは知らない。


 買った後に合流した時も紫音は疲れたような反応をしてたから多分依が変なものを買ったのだろう。


「確認なんだけど、開けたら針が飛んできて私の目を潰すようなトラップはない?」


「うちをなんだと思ってるのかな? それなら絶対に触る場所に針を仕掛けて毒を仕込むでしょ」


「依ちゃんはそっち派なんだ。つまりプレゼントの本体に毒を仕込んで触ったらアウト系もありえると」


「紫音くんの反応はそういうのじゃないから。シンプルにプレゼント選びで疲れちゃっただけ」


 依がニコニコと嬉しそうに言う。


 あの感じは依が蓮奈をからかう目的でプレゼントを買って、紫音はそれに呆れてるのか、プレゼントが特殊すぎて呆れてるのか。


 それとも……


「とにかくこれ。れなたそが絶対に喜ぶものだから」


「なんのブルーレイディスクかな。大きさ的にワンクールものだよね」


「そういうのじゃないから。もっと実用的なもの」


「……そうか、依ちゃんにとってアニメは実用的じゃないのか。やっぱりリア充になるとリアルの方が楽しいんだね……」


 蓮奈が残念そうに紙袋を受け取る。


「全否定できないのが悲しいけど、別にオタ活をやめるわけじゃないからね?」


「いいよ。依ちゃんは無理せずにリア活を頑張って」


 蓮奈が寂しそうに言うと、依がすがるように蓮奈にしがみつく。


「うちを見捨てないでぇ……」


「別に見捨ててないよ? ただ依ちゃんは依ちゃんの幸せを選べばいいって言ってるだけだよ」


「うちの幸せはリアルも二次元も愛することだよぉ……」


「そう。つまりこのプレゼントは、私のことは愛するリアルに含まないってことでいいね?」


 蓮奈が真顔で言うと、蓮奈にしがみつく依が肩をビクつかせた。


「……蓮奈お姉ちゃん大好き」


「誤魔化すってことは肯定なんだね?」


「違うよ! うちはれなたそのこと大好きだもん」


「で?」


「いいでしょう教えてしんぜよう。それでお兄様を悩殺すれば面白そうじゃない?」


 蓮奈の真顔がどんどん呆れ顔に変わる。


 蓮奈は紙袋の中を覗いただけで中身を出したわけじゃないから俺達にはプレゼントの内容はわからないけど、ろくでもないものなのはわかった。


「あのね、私は確かに舞翔まいと君のことが好きだけど、恋火れんかちゃんを好きな舞翔君も好きなの。わかる? わかんないよね。リアルに生きる依ちゃんには」


「煽られた? うちだって純愛を壁のシミになって見たい趣味はあるけど?」


「え……」


「引くんじゃないよ。ラブコメが好きなオタクは自分で恋愛するよりも人の恋愛見たい派でしょうが」


「え……」


「紫音くんよ、そういう意味じゃない」


 本来なら依が蓮奈をからかっていたのだろうけど、依だからそんなに人生上手くいかない。


 やっぱり依は見てるだけで面白い。


「まあ悩殺は置いといて、どうせ買おうと思ってたでしょ?」


「なんでわかったのか聞きたくないけど聞いていいかな?」


「言っていいの?」


「……いいや、どうせ聞いても意味ないだろうし。だからそれはいいんだけど、黒は違うでしょ」


「それは大人なれなたそに合わせた結果ですよ」


 呆れる蓮奈にニコニコの依が答える。


 あの顔はわざとだ。


「結局プレゼントってなんなの?」


「下着」


「おう、ストレートに答えるんだ」


「別に隠すことでもないでしょ。プレゼントだし、これって依ちゃんが着た時にしおくんがどういう反応するか見たかっただけでしょ?」


「ちゃ、ちゃうわ!」


 最初にプレゼントが下着と聞いた時は依っぽいと思ったけど、蓮奈の説明と依のエセ関西弁でものすごく依っぽくて安心した。


 それと同時に、蓮奈のプレゼントと言われて依が着るかもしれない下着を一緒に買いに行かされ、そして一緒に行ったということは一緒にお店に入ったということで……


「紫音も大変だったな」


「うん。まーくんなら気にせずに入れるんだろうけど、いたたまれないし恥ずかしいしでほんとに嫌だった……」


 俺ならってところが気になるけど、どんまいだ。


 つまりそれが依の恋人になるということだから頑張るしかない。


「まあでも、プレゼントはありがとう。しおくんは依ちゃんの勝負下着がわかったんだから、黒を着てる時は察してあげるんだよ?」


「れなたそ!」


「その前に高校生のうちは変なことしたら駄目だからね?」


「れなたそぉ……」


 完全に自業自得だけど、涙目で蓮奈に抱きつく依を見てるとこっ……可哀想だ。


 それはそれとして、蓮奈がお姉さんしてるのはでいいものだ。


 めったに見れないから目に焼けつけておかないと。


「舞翔君から熱い視線を感じる」


「お気になさらず」


「お気になるよ。あ、この下着着た私とか見たい?」


「別に?」


「そうか、私にはそんな魅力ないか……」


「あるから断ったんだが?」


 蓮奈に限った話ではないけど、女子の下着姿なんて見れるわけがない。


 だから紫音はああ言ってたけど、俺だってレンと一緒に下着を買いに行くなんて出来ない。


「サキって結構ピュアなんだよ」


「れんれんの下着姿を見た時に照れちゃった?」


「そう」


「おう、みんな認めるじゃんか」


「普通にわかるだろ。『これ』の全部をサキには見せたんだから」


 レンが自分のうなじを親指で指しながら言う。


 いつの間にかみんなに伝えていたから今はフードを被っていないから見えている。


 確かにレンから火傷について話された時は服を脱がれたから普通に恥ずかしかった。


 当たり前のことだけど。


「依ちゃんってほんとにデリカシーないよね」


「それはね、自分でも思う」


「レンも負けず劣らずだから似た者同士だな」


「サキ、オレだって本気でキレる時はあるんだからな?」


「それはうちに失礼すぎないかい?」


 確かにいくらなんでも依と一緒にするのは失礼だった。


 デリカシーの無さで言ったらレンの方が圧倒的に……


「なんで目を逸らすんだ?」


「レンと目を合わせるのが恥ずかしくて」


「じゃあ合わせなくていいからこっち向いて思ったことを言え」


「そんな、レンのご尊顔を拝見するなんて恐れ多いです」


「ふーん」


 はい、俺の人生終了です。


 そんなに俺はわかりやすいのか。


 愛莉珠ありすもだけど異常がすぎると思う。


「イチャイチャは帰ってからにしてね」


「それもそうか。帰ったら覚えとけ」


「忘れっぽいから無理かも」


「じゃあ別に忘れてもいいよ。オレは覚えてるから」


「……誰か泊めてくれる聖女いない?」


「そんな恐れ知らずはここにはいないよ」


 依から無情にも切り捨てられた。


 だけど言いたいことはわかる。


 キレたレンに逆らうなんて、威嚇してるライオンにちょっかいを出すようなものだ。


「追加な」


「レンは猫みたいで可愛いって思っただけだよ」


「どんな猫だ?」


「子供を谷に突き落とすバイオレンスな猫」


「バイオレンスはオレはサキを谷に突き落とす程度じゃ許さないかもしれないけどいいか?」


 レンの笑顔が恐ろしい。


 どうしたら許してもらえるだろうか。


 ……二秒考えたけど無理なのがわかったから甘んじて受け入れよう。


「お兄様が全てを諦めた顔してる」


「そういうとこだぞ」


「呆れられた。それで、寝ちゃった二人はどうする?」


 依が俺の後ろで蓮奈の毛布にくるまりながら二人で支え合って眠る水萌みなもと愛莉珠に目を向ける。


「寝かしといてもいいけど、水萌とありすが蓮奈のケーキを買ってくるって話だったから起きるまでケーキ抜きになるよ」


「それはいいけど、水萌ちゃんとありすちゃんが買ってきてくれたんだ」


「そう。なんか最近のスイーツ巡りって蓮奈の誕生日に向けてやってたんだって」


「何それ、嬉しすぎて抱きしめたいんだけど」


 自分達が食べたいのも少なからずあったのだろうけど、一ヶ月前から蓮奈の誕生日ケーキを選ぶ為に色々なお店に行っていたとのこと。


 蓮奈の誕生日を知らなかった俺とは大違いだ。


 それから俺達は水萌と愛莉珠が起きるまで他愛ない話をして、起きた二人が持ってきてくれたケーキを食べた。


 確かに巡って買ってきただけあって美味しかったけど、水萌が言うには「本当に一番美味しいのはここのなんだよね」とのこと。


 つまり蓮奈の両親が作るケーキが一番美味しいけど、それは夜に蓮奈の誕生日を祝う時に食べるだろうから次に美味しいところのを買ってきたらしい。


 こういう気の使えるところが水萌のいいところで、レンにはもう少し見習って……


 ということで、蓮奈が両親と紫音に誕生日を祝われている中、俺はレンから三つ分のお叱りを受けたのだった。

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