寂しがりを放置
「なんかリア充が増えたよね、ほんと」
「グループ内でカップルができるとそのグループは崩壊するって聞くけど、最近の会う度にお久しぶり状態がそれなのかな?」
愛莉珠と蓮奈が彼女をあやす俺達のことを呆れ顔で見ながら何か言っている。
蓮奈の言ってることは確かに聞くけど、俺達の場合はカップルができて気まずくなったとかではなく、各々が自由人だから好き勝手やってるだけだ。
「そうやって疎遠になっていくと……」
「思う?」
「舞翔君が私達のこと大好きだからないかな」
「だよね」
俺は確かにみんなと疎遠になる気はないけど、それは俺の気持ちだけでどうにかなる問題ではない。
みんなが俺のことを嫌になったと言うなら俺は……
「お前ら、サキがいつもの卑屈で勝手に落ち込んでるぞ」
「つまり恋火ちゃんがよしよしして慰めるってこと?」
「するけどお前達はそれでいいんだな?」
「恋火ちゃんからのお許しが出たから私がよしよしするー」
「させるかよ」
俺にはいはいで近寄って来た水萌との間にレンが入り、俺を抱きしめながら盾になる。
今のは完全にレンが煽っていたと思うけど、心地いいからいいや。
「レン、大好き」
「……」
「舞翔くんにいきなり『大好き』って言われたからってニマニマしないの」
「してねぇわ!」
レンが照れ隠しで俺を抱きしめる力を強める。
そんな俺だけにしかわからない照れ隠しはやめて欲しい。
なんかこそばゆいし、普通に痛い。
「ニマニマ恋火ちゃんはいいとして、舞翔くん」
「……なに?」
「私は舞翔くんと疎遠になるつもりはないからね?」
「ほんとに?」
「うん! だから恋火ちゃんが嫌になったらいつでも言ってね。私が慰めてあげるから」
レンのことが嫌になることは絶対にないけど、水萌が疎遠にならないと言うなら良かった。
だけど、今はみんな一緒に居られるけど、これが大人になったらやっぱりこうして頻繁には会えなくなるのだろうか。
それは悲しい。
「会えなくなるのが悲しいなら集まる日を作ればいいんだよ。例えば今日みたいに誰かの誕生日だけはみんな集まるみたいに」
「ありすって天才?」
「今更気づいたの? そう、ありすはただの可愛い女の子じゃないのですよ。まあ、そうやって断れない集まり方をしてるとそれはそれで関係崩壊に繋がるんだけどね」
「ほんとは来たくないけど来なきゃみたいな? 無理させてごめん、ありす……」
その発想が出るということは愛莉珠がそう思っているということ。
そもそも誰かの誕生日は集まるというのは今もやってることで、最近全員集合してるのは誕生日の時ぐらいだし。
「ありすは望んで来てますー」
「ごめんねありすちゃん。私の誕生日なんか興味なかったよね……」
「出た、そうやって一人をみんなでいじめるのいけないと思う。そういうことするから嫌になるんだからね?」
「嫌になった?」
「蓮奈さん……蓮奈お姉ちゃんは今日の主役だからいいけど、先輩は違うから許さない」
愛莉珠がぷいっとそっぽを向いてしまった。
だけど諦めるのはまだ早い。
「だから早くありすを抱きしめないとだよ?」
「それはオレに喧嘩を売ってるってことでいいか?」
「喧嘩としてみなしてくれるんですね。つまり恋火さんは先輩が年下女子を抱きしめたぐらいで気持ちが移るって思ってると。先輩って信頼ないね。ほんとにありすに鞍替えする?」
「しないよ。俺はありすのことも好きだけど、レンが好きだから」
「普通にフラれた。病みそうだから抱きしめて慰めて!」
なぜそんなに抱きしめて欲しいのかはわからないけど、強がりなレンから「うるさいから黙らせてこい」と言われたので愛莉珠を抱きしめた。
すると本当にしてもらえるとは思ってなかったのか、愛莉珠が挙動不審に視線をキョロキョロさせている。
「いざとなったら恥ずかしがるんだな」
「は、恥ずかしがってないもん! 恋火さんじゃないんだから」
「そんなんでよくサキをオレから奪おうとか考えられるな」
「先輩の優しさに漬け込めばコロッと落とせそうなので」
「……現実味がありすぎて怖いんだが」
レンが本気で不安そうな顔をしてるけど、ないから。
確かに弱いところを見せられたら親身にはなるけど、だからってレンを裏切るようなことは絶対にしない。
なんか色んなところから怒られそうだし。
「先輩、先輩にフラれてショックすぎて明日から学校行けないよ……」
「ありすとの学校生活楽しみにしてたんだけど、ありすが駄目そうなら俺も一緒に休むよ?」
「という感じで先輩は傷心中のありすに付き合って学校を休んだのでした。そしてお互いの本当の気持ちに気づいて、気がつくと……」
「嘘ついた?」
「……」
愛莉珠が顔を逸らして無視をする。
冗談なのはわかっていたけど、それでも本心ではそうなのかもと心配したが、そうでないなら……
「嘘なら良かった。蓮奈は態度に出してくれるからわかりやくていいけど、ありすも本当は新学期が嫌なのかもしれなかったから」
「そういうところですよ先輩」
「何が?」
「教えてあげませーん」
愛莉珠がニコニコの笑顔を俺に向ける。
心底ホッとした。
この笑顔ができるならきっと愛莉珠は大丈夫……だよな?
「正直怖いのはあるけど、先輩達がいるのわかってるし、大丈夫だと思うんだよね」
「何かあったら絶対に言いなさいよ?」
「もちろん。それを口実に毎時間会いに行くね」
「別に何もなくても来ていいから」
「先輩は来てくれないの?」
「ぶっちゃけ往復するのがめんどくさい」
「ありすも最初はやるかもだけど、結局めんどくさくなって行かなくなりそう」
一年生と二年生の教室は同じフロアにはなく、階段を使わないといけないから毎時間の往復はめんどくさい。
移動だけで休み時間の半分ぐらいは使うだろうし、それならわざわざ来なくてもスマホで連絡すればいいと思ってしまう。
「お昼は一緒しましょうね」
「ありすが来ればお昼は全員集合するな」
「ありすは二人っきりでもいいよ?」
「寂しくない?」
「さすがうさぎさんの先輩だ」
自分で自分にびっくりする。
去年の今頃はむしろ他人と居ることに不快感を持っていたのに、今では誰かと一緒に居ないと不安感がある。
人間関係でこうも人は変わるものなのか。
「別にレン達が俺と一緒は嫌だって言うなら我慢するけどさ」
「だって恋火さん。ありすの為に身を引く気はあります?」
「あると思うのか?」
「微塵もないですよ? でも、先輩は不安に感じてますし」
「何に?」
「先輩が寂しがるから皆さんが付き合ってくれてるんじゃないかって」
さすがにバレるのか。
今は当たり前のように集まってみんなでお昼を食べているけど、優しいみんなは俺が寂しがりなのを知っているから来てくれているのかもしれない。
本当は別の人と食べたいかもしれないのに。
「サキの卑屈って、聞いてるとだんだん腹立ってくるよな」
「うん。さすがに私もやだ」
「私達の気持ちを尊重してるんだろうけど、もう少し私達の気持ちを理解してくれてもいいよね」
「まーくんだもん。いじめたくなっちゃう」
「こら、紫音くん、本音が出てるから。でも確かにそろそろわからせた方がいいかも。あえてお兄様を一人ぼっちにしてうち達を懇願したくなるようにするとか」
「依さんの鬼畜さに全米がドン引きした。でも泣きながらありすを求める先輩……見たい」
いつの間にか復活していた紫音と依を含めてなにかものすごい怖い提案がされた気がする。
今の俺が一人ぼっちになんかなったら孤独死する可能性もあるけど、そうなったらみんなは逮捕されるのではないか?
それが嫌なら俺を……
「一人にしないで……」
「……よし、一人五分でいいですか?」
「少ないよ。一人一時間!」
「それは長い。十分でいこう」
「じゃあありすちゃんは五分で恋火ちゃんは十分。僕達は一時間?」
「そうだね。とりあえずうちから──」
俺に手を伸ばした依が無言で連れて行かれた。
そして愛莉珠も引き剥がされて、俺は完全に一人になった。
蓮奈の気持ちがわかった気がする。
確かに心が沈むと何かにくるまりたくなる。
ということで投げ捨てられていた蓮奈の毛布を取ってサナギになりました。




