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サナギからの羽化

蓮奈れな誕生日おめでとう」


「……うん、ありがとう」


 なんだかんだあって蓮奈の誕生日を迎えた。


 久しぶりの全員集合だけど、蓮奈の顔色が悪い。


「毛布にくるまる蓮奈を久しぶりに見た」


舞翔まいと君と出会ってからはくるまる必要なかったからね……」


「ほんとに死にそうな顔してるな。いつもなんだよな?」


「うん。だけど今回は去年の不登校があるから余計にね。まあ舞翔君達がいるおかげでプラマイゼロではあるんだけど」


 それが本当なら毎年部屋に引きこもってサナギになっているということ。


 こう言うのは真面目にやっている蓮奈に失礼だろうけど、蓮奈のサナギは可愛さしかないから毎年の楽しみになってしまう。


「来年ってどうなんだろ」


「ふっ、親のすねかじりさ」


「ドヤるな。それと他のやつらはもう少し蓮奈に興味を持て」


 ドヤ顔で将来は自宅警備員宣言をする蓮奈はいいとして、珍しく全員集合して蓮奈の誕生日を祝ういうのにグループ分けされてしまっている。


 俺と蓮奈のグループとレンとより紫音しおんのグループ、そして水萌みなも愛莉珠ありすのグループ。


 ちなみに真中まなか先輩は気まずいからといって、後で個人的にプレゼントを渡すと言っていた。


「いいんだよ舞翔君。私は集まってくれただけで嬉しいんだから」


「いやいや、別に蓮奈さんに興味がないとかじゃなくて、サキがいきなり話し出したから待ってただけだからな?」


「じゃあどうぞ」


「そういうのいいから」


 待ってたとか言うから順番を譲ったのにこれだ。


 嘘をつくにしてももう少しまともなものにしてもらわないと俺の揚げ足取りでボロが出るぞ。


「さりげなく私を傷つけるのやめてね」


「そうだぞレン」


「オレのせいかよ。絶対にわかっててやったろ」


「レンが嘘つくから。まあレンはいい方なんだけどな」


 俺はそう言ってレン以上に蓮奈に興味を持たないバカップルと姉妹に目を向ける。


「今年の紫音くんの誕生日に何欲しい?」


「んー、依ちゃん……」


「こらこら、そういうのは駄目だぞ」


「が選んでくれたものなら何でも嬉しいな」


「こらこら、うちで遊ぶんじゃないよ」


「依ちゃんでもいいよ?」


「こらぁ……」


 ……


「明日からありす高校生だけど、大丈夫かな?」


「ありすちゃんなら大丈夫じゃない?」


「その心は?」


「何かあったら舞翔くんがなんとかするから」


「納得。先輩はありすのこと大好きだからありすがいじめられてたら許さないもんね」


 ……


「なんか、蓮奈には興味ないけど蓮奈に関する話はしてるんだよな」


「関してる?」


「だってバカップルの方は誕生日の話で、姉妹の方は新学期の話じゃん」


「そう言われたらそうかも?」


「つまり蓮奈さんの誕生日で蓮奈さんが主役なのをわかった上で無視してるってことか」


 レンが避けなことを言ったせいで蓮奈が顔を毛布の中に入れて完全なサナギになってしまった。


 早く羽化させなければ。


「サナギってどうしたら羽化するの?」


「こういうのは時間が解決するものだな」


「そうだよな。サナギのまゆを無理やり破いたらちょっとグロいのが出てきそうだし」


 つまり塞ぎ込んでサナギになった蓮奈には触れないで放置するのが正しい羽化の方法。


 ということで俺はレンと話すことに──


「放置は嫌!」


 蓮奈がくるまっていた毛布をバッと投げ捨てて出てきた。


「早かったなぁ」


「綺麗になりやがって……」


「それ言いたいだけだろ。一皮剥けたって意味ならそうかもだけど、多分元気ないのは変わってないんだろうな」


「だろうね。まあ空元気があるならいいよ」


 せっかくの誕生日に無視され、更に明日からの新学期に心を病んでいる蓮奈に元気があるわけがない。


 そんな蓮奈が空元気を出せたのならもうそれはお祝い案件だ。


 とりあえずもう一度毛布にくるまないように毛布は回収しておく。


「わ、私の鎧……」


「鎧って設定なんだ」


「か、返して……」


「どうしようレン。蓮奈が泣きそうで罪悪感がすごい」


「返してやればいいだろ……」


 レンに呆れながら軽く頭を小突かれた。


 確かにその通りなんだけど、せっかく羽化した綺麗な蓮奈をまた繭に戻していいのだろうか。


 否だ。


「れんれん、お兄様はれなたそがさっきまでまとってた毛布の温もりを感じたいんだよ」


「確かにあったかい」


「いい匂い?」


「蓮奈の香り」


「やめい!」


 依か変なことを言うから蓮奈が怒って毛布を取られてしまった。


 まったく、依のせいで。


「なんかうちのせいにされた感じがしたぞ?」


「明らかに依のせいでは?」


「いやいや、お兄様の変態性が垣間見えただけでしょ」


「依って『いやいや』にハマってるの?」


「別に? ただ何でも否定したがるお年頃なだけ」


 よくわからないけど、なんとなくわかるからそういうことにしておく。


 要するに依は反抗期の真っ只中と。


「馬鹿にした?」


「いやいや、可愛いやつだなーって」


「馬鹿にしてるね。よーし、やってやりなさい紫音くん」


「いやいや、何を?」


「この男共め!」


 さすが紫音だ。


 彼氏として依の一番可愛いところを引き出している。


 やっぱり依はからかわれてなんぼだ。


「それよりも蓮奈お姉ちゃん」


「なんだいしおくん」


「お誕生日おめでとう」


「そういうストレートなお祝いは反応に困るから駄目。ありがとう」


 蓮奈が紫音からのいきなりのお祝いに少したじろいでいる。


 気持ちはわかる。


 俺もいきなりからかいでもないストレートなお祝いをされたら言葉が詰まるかもしれない。


「じゃあうちも。れなお義姉ねえちゃん、お誕生日おめでとう」


「そう、こういうのだよ。こういうお祝いされれば『君にお義姉ちゃんと呼ばれる筋合いはない』って返せるし」


「呼ばせてくれないの?」


「依ちゃんにお義姉ちゃんとか言われると背中がゾワゾワするからやだ」


「酷くない?」


 依は不服そうにしてるが、蓮奈の言いたいことはわかる。


 今みたいに冗談のうちはいいんだけど、もしも『お義姉ちゃん』呼びが定着したら絶対に違和感がある。


 俺の場合は最初から『お兄様』呼びだったから違和感はなかったけど、蓮奈の場合は呼び方が変わるし、何より親戚だから少し違うけど、本当に義理の姉妹みたいな感じになるから余計だ。


「とにかく私のことは今まで通りに呼んで」


「わかった。つまり忘れた頃に呼ぶとれなたそがいい反応してくれるってことね」


「そういう悪いことするなら舞翔君を召喚するからね?」


「二度と呼ばないとこの場で誓います。署名とかいりますか?」


 頭を下げた依を見た蓮奈が立ち上がって紙とペンを持ってきた。


 そして依に署名をさせているけど、そもそも俺を召喚とはなんだ。


「これでよろしいか?」


「よろしい。それとこれはお姉ちゃんとしての言葉ね。しおくんを悲しませたら私は依ちゃんを絶対に許さないから」


「……肝に銘じておきます」


 さっきまでのほほんとしていた蓮奈の雰囲気がガラッと変わった。


 空気が変わったことに気づいた水萌と愛莉珠も喋るのをやめて固まる。


「お姉ちゃん、依ちゃんをいじめないの」


「じゃあしおくんにも同じことを言うね。依ちゃんを悲しませるようなことしたら駄目だよ? もしもしたらお姉ちゃんとして本気で怒るから」


「うん、僕は絶対に依ちゃんを幸せにする」


「よろしい。まあ高校生のうちは健全な関係にするんだよ? いくらラブコメ大好きな私でも、隣で仲睦まじくしてる声が聞こえてきたら気まずくなっちゃうから」


「はーい。じゃあ今まで通りお姉ちゃんが聞いても大丈夫なぐらいで仲良くしてるね」


 これぞ姉弟愛。


 お互いのことをちゃんと理解して、相手の気持ちを尊重し合える関係性。


 とてもいいじゃないですか。


「いやいや、え? れなたそはうちと紫音くんが隣でお話してるの聞いてるの?」


「さすがにそんなことはしないよ。だけど何かが始まった時は……ね?」


「……れなたそ大っ嫌い」


 顔を真っ赤にした依が紫音に抱きついた。


 隣の部屋に居るのだから聞き耳を立てなくても聞こえてくるのは仕方ないことだと思うけど、今の依には何を言っても聞かないだろう。


 つまり依は紫音に任せて放置しよう。


 バカップルのターンは終わり、次は姉妹の時間。

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