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番外編 可愛い吸血鬼

「サキ、吸っていい?」


「……夢か」


 気がつくと、目の前になまめかしいレンが俺に覆いかぶさっていた。


 部屋は俺の部屋だけど、なんかピンクっぽい感じの雰囲気で、夢の中だとわかる。


 そもそもレンには八重歯のような牙はないし、目も赤くない。


 まあ夢なら楽しむのもやぶさかではない。


「レン吸血鬼モードってことでおけ?」


「吸血鬼になっちゃった♪」


「ほう、性格まで変わるのか。いつもとのギャップで可愛さ倍増で俺が死ぬやつね、理解」


 いくら夢とはいえ、いや、夢だからこそこんな可愛いレンを見せられたら俺は死ぬ。


 どうしてやろうか。


「サキに死なれたら困るんだけど? 死ぬ前に吸わせて」


「何が吸いたいの?」


「精気♪」


「そこは血であってくれぇ……」


 吸()鬼と言っているんだから血を吸って欲しい。


 確かに精気を吸う吸血鬼もたまにいるけど、本当の意味で死にそうで怖い。


「まあ血は血で死ぬんだけど」


「ちなみにぃ、えっちな意味でもいいよ?」


「やめろぉ、そういうのはありすの役目であって、レンはそれを怒る立場なんだよ……」


 愛莉珠ありすが今のレンのようなことを言うのは全然イメージ通りなんだけど、レンが言うと今までのイメージが崩壊する。


 可愛すぎて俺の理性が保てなくなる。


「ふーん、他の女の子の名前出すんだぁ」


「俺が悪かったから体を押しつけるのやめなさい」


 愉しそうに笑ったレンが寝ている俺の背中に腕を潜り込ませて絡みつくように抱きついてきた。


 さっきからドキドキしっぱなしの俺は体温が上がっていて、だけど吸血鬼のレンは体温が低くてひんやりしているからとても気持ちいい。


 なんか色々とやばそうだけど。


「えっちな気分になっちゃう?」


「やめろ、レンはそんなに『えっち』なんて言わないんだ」


「えー、でも嬉しいでしょ?」


「否定はしない」


 普段のレンなら「えっち」なんて口が裂けても言わないだろうけど、こうやって連呼されるとギャップもあってとても可愛い。


 欲を言えば言った後に照れてくれると完璧なんだけど、それは現実のレンに任せることにする。


「今他の女の子のこと考えたでしょ」


「俺はレンのことしか考えてないよ」


「うっそだー、だってさっきありすの名前出したし」


「そういう揚げ足取るんじゃない。それと顔が近いからそろそろ離れろ」


 レンはさっきから俺に絡みついているから顔が文字通り目と鼻の先だ。


 さっきから可愛いことばかり言われて恥ずかしいのに、可愛い顔まで近いと俺の死期が近くなる。


「サキはやっぱりオレに抱かれるの嫌……?」


「は? 嫌なわけないが?」


「言質取ったぁ」


 レンが頬を緩めながら俺をギュッと抱きしめる。


 そんなことされて何か言えるか? 俺は言えない。


「じゃあ吸っていい?」


「どこから来た『じゃあ』だよ。ちなみに精気吸ったどうなるの?」


「それはオレが? それともサキが?」


「どっちも」


「オレは力がみなぎってくるからサキを襲って、逆にサキは元気が無くなるからされるがままになる」


「なるほど、つまり俺に損はないと」


 要はいつもと逆になると言うことだ。


 レンがいつもされてる気持ちがわかるし、ちょうどいいかもしれない。


 レンにいじめられるのは好きではあるし。


「サキのそういうところがほんとに好き。気に食わないところはオレがこうして密着しても顔色変えないところ」


「別に気に食わないところいらなくない? 心臓ドキドキしてるのは聞こえるでしょ?」


「聞こえるけどぉ、もっと照れて慌てふためい欲しいのー」


 レンが頬を膨らませて拗ねたように言う。


 そんなことを言われても俺は自分を抑えるのでいっぱいいっぱいでそこまで気を回せない。


 レンを喜ばせる為にもう少し表情筋を緩めないといけない。


「だ・か・ら、サキの精気を吸ってえっちなことをたくさんするんだぁ」


「むしろ萎えない?」


「大丈夫、そこは上手くやってサキの抵抗力だけを無くす感じに吸って、逆にオレを襲いたくなるようにするから」


「あ、襲うのは俺なのね」


「別にオレが襲ってもいいけど、どっちがいい?」


 さっきはレンが襲うみたいなことを言っていたから俺は襲われる気でいた。


 ぶっちゃけどっちでもいいけど、せっかくならレンに襲われてみたい欲はある。


 どうせ夢だし。


「じゃあレンが襲って」


「サキってやっぱり襲われたい欲があったんだな。今まで気づかないでごめん。これからは毎日襲ってくから」


「毎日だと飽きるから月一……週一ぐらいがベストだと思う」


「ほんとサキのそういうとこ好き」


 レンが嬉しそうに笑って抱きつく力を強めた。


 これも吸血鬼の能力なのだろうか、力が強くて身動きが取れない。


 だけど痛みが無いのがすごい。


「じゃあ吸うね。痛かったり、男の子しちゃう時は子犬みたいな目でオレを見て」


「見るとどうなるの?」


「可愛すぎて興奮しながらむさぼる」


「うわ、アニメとかで目をハートにしてるやつじゃん。そんなレン超見たいんだけど」


 レンが理性を失って俺の首筋に牙を立てるなんて見たい以外ない。


 だけど問題があって、俺に子犬のような目はできない。


 死んだ魚のような目ならやろうと思わなくてもできるけど。


「サキってさ、実は性欲強いよね」


「レン限定でね」


「うれしぃ……って、オレが照れさせられてどうすんだっての。もう吸うからね!」


 レンが頬を少し紅くしてから舌なめずりをする。


 そして俺の首筋に牙を……


「レン?」


「……なんでもない」


 レンが首筋ではなく俺の顔に自分の顔を近づけてきて、途中で固まった。


 そして顔を真っ赤にして俺の首筋を噛んだ。


 牙は立ててないようで痛みはないけど、何かを吸われてる感は確かにある。


 俺の何かがレンに流れ込んでいくような感じが。


「ごちそうさまでした。どう? えっちなことだけをしたくなるように調整してみたんだけど」


「……なんか、変?」


 確かにさっきまでとは少し違うように感じる。


 レンのことを無性に抱きしめたい、あわよくばもっと色んなことをしたい。


 だけど自分からは何もしたくない。


「あぁ、ちょっとミスしちゃったかな? 今のサキは『好きな子をめちゃくちゃにしたい欲はあるけど、実際にする勇気はない奥手くん』って感じか」


 確かにそうかもしれない。


 レンに触れたいけど、自分から触れるのは恥ずかしいからできない。


 レン達と出会った時の俺みたいだ。


「ふむふむ、まあでもサキは襲われたいタイプだからいいのか。ということで、変身してみよう」


「変身?」


「そう。吸血鬼って見た目変えられるんだよ。ということで、変身」


 レンがそう言うと、レンの見た目が変わる。


 その姿が蓮奈れなのようになった。


「大人のお姉さんモード」


「見た目のモチーフが蓮奈ってこと?」


「うん。さすがに本人そのものの姿だと蓮奈さんに悪いし、サキもやりづらいかなって」


 確かにレンが蓮奈の見た目で迫って来たら違和感しかない。


 というか普通に蓮奈に悪い。


「サキも男の子だから豊満なボディの女の子が好きなんでしょ?」


「……」


「反応が薄い。やっぱりサキってちっちゃい子が好きだったのか。仕方ない、彼女としてサキのそういう性癖も受け止めないと。変身」


 俺が黙って見ていたらレンがもう一度姿を変えた。


 今度は普段のレンよりも小さい、中学生ぐらいの女の子に。


「どう? サキ好みの小さい子だよ。ほら、中身はオレだからどんなことしても許されるよ?」


 レンがそう言って馬乗り状態で腕を開く。


「……」


「あれ? なんでそんなに反応が薄いの? 今のサキって女の子見たら襲いたくなるけど、理性で踏ん張ってる状態のはずで、その理性を壊してるはずなのに」


 レン(幼女モード)が不思議そうに首を捻る。


 確かに可愛い見た目ではある。


 だけどレンは何もわかっていない。


「俺はさ、お姉さんとか幼女が好きなんじゃなくて、レンが好きなの。いくら中身がレンでも、見た目だけで誘われても反応できるわけないじゃん」


「……やっぱりサキのこと好きだわ」


 レンの見た目がいつもの可愛いレンに戻る。


「あれ? 吸血鬼でもなくなった?」


「あっちのが良かった?」


「ううん、あのレンも可愛くて好きだけど、やっぱりいつものレンが大好き」


 俺はそう言ってレンを抱き寄せる。


 やっぱり俺はこうして抱きしめただけで顔を真っ赤にするレンが一番大好きだ。


「レンはレンのままでいてね」


「結局こうなるんだよ。嬉しいからいいんだけど」


 レンはそう言って触れる程度のキスをする。


 それがトリガーになったのか、俺の意識が切り替わる。


 簡単に言うと目が覚めた。


 やっぱりあれは夢のようで、今更だけど俺はやっぱりレンが好きだと確信できた。


 いい気分でベッドから下りて顔を洗いに洗面所に向かい、鏡を見ると、首筋に何かの跡があったけど、あれはなんだったのだろうか。

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