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番外編 一方的な恋愛感情

よりちゃん、ぎゅーってしていい?」


「表現が可愛いけど、恥ずかしいから駄目」


 依ちゃんと付き合うことができて、今日は僕の部屋で一緒に過ごすことになった。


 だからとりあえず今したいことを伝えてみたけど、案の定断られてしまった。


紫音しおんくんよ、うちは確かに紫音くんとこ……いびとになったけど、いきなりハグはハードルが高いのよ」


「今の詰まったやつは嫌だから? それとも恥ずかしかったから?」


 僕との関係を言うのに詰まるのは、別にいいんだけど、その理由が嫌だったからとかだと悲しい。


「恥ずかしいからに決まってるでしょ? 言わせんな」


「そっか、嬉しいんだ。じゃあさ、あんまりこういうの聞きたくないんだけど、僕のどんなところが好き?」


「出た、恋人に聞かれて一番困る質問」


「一番なの? 本当に好きならいくらでも出てくるものだと思ってた」


 好きな相手の好きなところを聞かれたら即答だきるものではないのなろうか。


 でも、確かにまーくんもそれで困っていたから普通は困るのかもしれない。


「煽られたから答えるけど、うちね、紫音くんの初々しい感じが多分好き」


「初々しい? 僕が?」


 ちょっと何を言ってるのかわからない。


 女々しいと言われたことはたくさんあるけど、初々しいは初めて言われた。


「多分ね、お兄様の印象が強いからだと思うんだけど、紫音くんはちゃんとうちがちょっかいかけると照れてくれるでしょ? それがうちの女心を刺激したわけですよ」


「えっとつまり、まーくんよりもチョロいから好きってこと?」


「君はなんでそうも卑屈に捉える。あのね、うちってお兄様とかに陽キャとか思われてるけど、浅く広い関係を築いてるのよ。そんでね、その中に男友達って数人なんだけど、ぶっちゃけ興味ないからどういう人かは知らないんだよ」


「うん」


「だからね、うちの中での男子のお手本? じゃないか、とにかく、うちは男子をお兄様基準に考えるの。それが仕方ないのはわかる?」


「わかんない」


「わかってくれて嬉しいよ。要するに、お兄様と紫音くんを比べるのは仕方ないことで、そこに深い意味はないの。むしろ紫音くんの方がうち好みって言ってるんだから喜んで欲しいぐらいなのに」


 依ちゃんの言いたいことはわかるけど、やっぱりモヤモヤする。


 依ちゃんが僕のことを本気で好きではないことはわかっているけど、それでもまーくんを比較対象に出されると、いくらポジティブなことを言われてるとしても悪い方にしか考えられない。


 結局まーくんが恋火れんかちゃんと付き合っているから依ちゃんは僕を選んだんだって。


「逆に紫音くんはうちのどこが好きなのさ。自分で言うのもあれだけど、うちってお兄様と愉快な美少女達の中じゃ底辺だと思うけど」


「美少女の時点で好かれるのは当然だと思うけど。僕が依ちゃんを好きな理由ね……」


「まさかのない? それだとさすがに傷つくぞ?」


 依ちゃんが頬を膨らましながら僕の腕をポスポスとパンチしてくる。


 すごく可愛い。


「あるよ。あるけど、嘘とほんとのどっちが聞きたい?」


「何そのこれからの関係性を決めるような選択肢。あれかな、嘘を選ぶと何も知らないで幸せに付き合えるけど、一生秘密を抱えてて、それがバレた瞬間に破綻して、ほんとの方を選ぶとその場で別れる可能性があるけど、うちが寛大な心で全てを包み込めばより深い関係性を築けるやつ?」


「長文の説明ありがと。そういうこと」


 僕が依ちゃんを好きな理由はあるけど、それはあまり言いたくない。


 言ったら依ちゃんだけでなく、まーくん達にも嫌われる。


「うーん、じゃあねぇ……」


 依ちゃんがあごに手を当てて考え出す。


 依ちゃんがどちらを選んでも僕にはよくない結果になる。


 だけどそれは話さなければいけないことで、その結果で僕が依ちゃんと別れることになっても自業自得だから何も言えない。


「きーめた」


「……どっち?」


「どっちも聞いてあげないんだ」


「え?」


 依ちゃんが楽しそうに言うけど、僕にはちんぷんかんぷんだ。


「うちは考えたのですよ。嘘を聞いたら後々厄介になって、ほんとのを聞いたら厄介なことが起こるんでしょ? それなら聞かないのが一番頭がいい答えでしょ。さすがうち」


 依ちゃんが胸を張って自信満々に言う。


 ものすごく可愛いけど、それでいいのかな?


「紫音くん、うちはね、紫音くんのこと好きなの」


「あ、ありがとう」


「その反応ですよ。じゃなくて、うちは好きな紫音くんと仲睦まじい関係を目指してるから、不安定要素は無しにしたいんだよ。つまり聞かないのが吉」


 すごい堂々と言うからなんか僕の方が気が抜ける。


「じゃあ、依ちゃんは僕がなんで依ちゃんを好きになったか聞かないの?」


「紫音くんが話したいなら聞くよ? でも、本当は話したくはないんでしょ? それなら聞かないよ。だけど『あ、聞いてくれないんだ……』みたいに落ち込むのはやめてね?」


 さすがにそんな理不尽は言わないけど、女の子はそういうのを気にするものだと思っていたからちょっと驚いた。


「紫音くんがうちを好きでいてくれるならそれでいいよ」


「……」


「あれ? 無反応だ。これは依ちゃんの脆く儚いハートが崩れ落ち──」


 依ちゃんが何か言っていたけど、僕に聞いてる余裕はない。


 依ちゃんの叫びを無視して、隣でまーくんと蓮奈れなお姉ちゃんが聞いてるのを無視して依ちゃんと戯れる。


 これが一方的な恋愛感情なのはわかっているけど、やっぱり抑えられない。


 僕の依ちゃんへの気持ちが僕の初恋に元づいているとしても、今の気持ちは本物だ。


 たとえ隣にその初恋相手がいるとしても、それは小学生の時に終わった恋。


 僕がお姉ちゃんを好きだったことは一生心に秘めておく。

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