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番外編 いとこ同士

「れなおねーちゃん、あそぼ」


「しおくん? 来てたんだ」


 私が自分の部屋で漫画を読んでいると、従兄弟いとこのしおくんが部屋に入って来た。


 そういえばお母さんが四月に入る前に一度来るとか言っていた気がする。


 しおくんか引っ越す前までは頻繁に会っていたけど、今は長期休暇の時だけうちに遊びに来るしおくんの相手を私がさせられている。


「前も言ったけど、入る前にノックしなさい」


「したよ? だけどいつもと同じで反応なくて」


「あ、ごめん」


 実際はノックなんて必要ないんだけど、ちょっとお姉さんぶりたくてしおくんには入る時にノックをしなさいと言っている。


 だけど毎回私は漫画かアニメ鑑賞に夢中で気づかない。


「お姉ちゃん忙しい?」


「んー、漫画読み返してるから忙しいけど、暇つぶしだから忙しいわけではないかな?」


「つまり?」


「しおくんと遊ぶ」


 回りくどいのは私の悪い癖。


 オタク特有の癖かもだけど、しおくんみたいな素直な子はそんなの気にせずに駆け寄って来てくれるから好きだ。


「しおくんは可愛いなぁ」


「かわいい……」


「あ、そういう意味じゃなくて、なんて言うか……」


 こういう時に私のボキャブラリーが貧弱なのが恨めしい。


 しおくんが女の子扱いされることが嫌なのを知ってるのに、思わずそう思わせるようなことを言ってしまう。


「人見知りで誰ともまともに話せないクソザコのくせにしおくんを傷つけた最低な私を煮るなり焼くなり好きにしてください……」


「べ、別にお姉ちゃんは悪くないよ! ちょっと思い出しちゃっただけで……」


「嫌なこと思い出させてごめん。ほんと、生きててごめんなさい……」


 しおくんが引っ越したのはしおくんのお父さんの仕事が理由とは聞いたけど、幼稚園で心無い言葉に傷ついていたのは聞いている。


 しかもうちのお父さんとお母さんも悪ふざけがすぎてしおくんを嫌な気持ちにさせた。


 なんかそっちの方はしおくんが感謝してたからよくわからないけど。


「僕はお姉ちゃんのこと大好きだもん。だからお姉ちゃんは生きてないとだめ」


「ほんといい子。もっと私を責め立てていいんだよ? ほら、カモン」


 しおくんはもう少しわがままを言った方がいい。


 そうやっていい子でいすぎると悪い人に騙されてしまう。


 だからこれはしおくんが悪い人に騙されないようにする為のことであって、他の意味はない。


「ほら、私をなじって」


「なじるって何?」


「私もよくわかってない。とにかく私の悪口言ってみたりして」


「やだ!」


 しおくんが叫びながら私に抱きついてきた。


「お姉ちゃんに悪いところなんてないもん!」


「やば、従兄弟って結婚しても平気なのかな? 駄目でも法を犯すだけの価値はあるんじゃないか?」


 私のことを可愛いむぅ顔で睨んでくる従兄弟を優しく抱きしめ頭を撫でる。


「お姉ちゃん?」


「気にするなしおくんよ。しおくんはいい子の天使ってことだから」


「天使って……」


「違うよ!」


 しおくんは悪くないけど、さすがに『天使』を『女の子扱い』とするのは過剰ではないだろうか。


 だけどこれは使えるのか。


「しおくん、私はしおくんが強く言わないとこれからも『可愛い』とか『天使』とか言うよ? それは嫌なんだよね?」


「お姉ちゃんなら……」


「素直に」


「……やだ」


 危なかった。


 私の胸の中で目をウルウルさせるしおくんは破壊力が強すぎる。


 こんな姿を見せられたら男子はイチコロだろう。


 実際、しおくんは幼稚園や今の学校でいじめられてるわけではない。


 しおくんは女の子扱いしてからかわれてると思っているけど、本当は可愛すぎて新しい扉を開く男子達が続出してるだけだ。


 これが本当の『可愛いは罪』というやつである。


「お姉ちゃん?」


「なんでもない。それよりどうする? 私は自重なんてしないよ?」


 これはしおくんの為の試練だ。


 私だって心がおど……痛い。


 だけどしおくんの為に心を鬼にしてやってもらわないといけない。


「お姉ちゃん、なんか嬉しそうじゃない?」


「そんなことないよ。私も心が痛いけど、しおくんの為ならそんな痛みは気にならないから」


「本当に?」


「……ホントウダヨ?」


 しおくんのつぶらな瞳を汚れた心の持ち主は私は直視できない。


 しおくんの為とか言って、実際は私の打算しかない提案をしおくんは許してくれるだろうか。


 許してくれないなら、それはそれで……


「やっぱり嬉しそう」


「そんなことないって。物は試しって言うし、私をなじってみよ」


「だからなじるって何?」


「そうだなぁ、例えば『俺の為とか言って、実は自分の為なんだろ? この欲しがりさんめ』みたいな? ちなみに『欲しがりさん』を『クソザコ』とかにすると更になじりポイントが上がる」


「……お姉ちゃん、大丈夫?」


 しおくんが真面目な顔で私を心配してくる。


 確かに私もしおくんが「僕のことなじって」とか言ってきたら本気で心配するけど。


 だけど違うんだ、私はしおくんになじられたいんじゃなくて、可愛い子になじられるうらやまけしからん主人公の気持ちを味わいたいだけなんだ。


 決して私の趣味じゃない。


「僕のせいで疲れてるなら言って。お姉ちゃんに迷惑はかけたくないから……」


「違うでしょ? そこは『俺の手を煩わせるとか何様?』とか言わないと」


「お姉ちゃん……」


 ここまできたら引けるわけがない。


 私はこのまま突き進む。


「ほら、そろそろ呆れてきたでしょ? そのまま私をなじろう」


「僕ね、お姉ちゃんのこと大好きなの」


「うん、毎回言ってくれるよね。私もしおくん好きだよ」


「お姉ちゃんの『好き』は、弟としてみたいなやつだよね? 僕はお姉ちゃんと結婚したい『好き』だよ?」


「……ひゃい?」


 しおくんの突然の告白に固まってしまった。


 確かに私もしおくんのことは好きだけど、しおくんの言う通り弟的なやつだし、それに私としおくんはいとこ同士だから結婚できるかは微妙なところだ。


 だから私はしおくんの気持ちを受けるわけにはいかない。


 お姉さんとして。


「し、しおくんの気持ちは嬉しいけど、私はしおくんと結婚はできないよ」


「……」


「ごめんね。別にしおくんが嫌いとかじゃなくてね、いとこ同士で結婚はできないんじゃないかなーって」


 しおくんの顔がどんどん暗くなっていく。


 なんか罪悪感がすごいけど、これもお姉さんとして私が言わなければいけないことで──


「お姉ちゃん」


「な、なに?」


「僕はお姉ちゃんのことを『お姉ちゃんとして』好きだよ」


「……この悪ガキがぁぁぁぁぁぁぁ」


 したり顔のしおくんを強く抱きしめる。


 顔が熱い。


「お姉ちゃんはどんな勘違いしたのかな? 僕は弟として僕を好きなお姉ちゃんとは違って、お姉ちゃんとして好きって言ったんだけど」


「うるさい! 私はなじっていって言ったんであって、からかえとは言ってないの!」


「別に僕はそんなつもりないよ? お姉ちゃんが勝手に勘違いしただけだもん」


「ああ言えばこう言うを覚えた悪い口はこれか!」


 百パーセント私のせいだけど、屁理屈を覚えた悪い子にほっぺうにうにの罰を与える。


「いふぁいおー」


「知らない!」


「おねえひゃんはわひい」


「いつかしおくんが恋人作った時に、しおくんはお姉ちゃんをからかって遊ぶ悪い子だって言ってやるからな」


「ほふのふひらひほはおねえひゃんみはいらひほらよ?」


「何言ってるかわかんないよ!」


 私みたいな変人が他にいては困るからしおくんは一生独身ということになる。


 私なんかを好きになった罰だ。


 まあ実際は私のことなんてお姉ちゃんとしか思ってないのは知ってたけど。


 こうして悪い子のしおくんは誕生したのでした。

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