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健気な女の子

「暇だな」


「うん」


 より紫音しおんが仲睦まじくなってしまって一緒の空間に居るのが気まずくなってレンと一緒に外に出たのはいいけど、やることがない。


 いつ終わるかもわからないから待ってなきゃだし、だからって何かしたいこともない。


「そういえばそのメイド服って依の私物?」


「うん。前にサキの誕生日で紫音が着てたろ?」


「あったな。めっちゃ可愛かったやつ」


 俺の誕生日の時に紫音の女装を見たいと言った俺の無茶ぶりをした時に依の私物のメイド服を紫音が着てくれた。


 とても似合っていたのにあれ以降着てくれたことはない。


「よりが着てたのが紫音が着てたので、オレのが予備だって」


「予備ってなんだよ」


「知らない。紫音と着たかったんじゃないの?」


 なるほど、つまりペアルックというやつか。


 でもそれなら依には前のように執事の格好をして欲しいものだけど。


「まあそういうのは二人の自由か」


「そうそう、オレ達が口を挟むことじゃないよ」


「それじゃあ俺達の話をしようか」


「まあ、そうなるよな」


 今は俺とレンしかいない。


 つまりは俺がずっと気になっていたことを聞いていいということだ。


 例えば……


「依にスカーフの下のことは話したの?」


「いきなり本題に入らないのはサキらしいな。話したよ。なんで火傷したのかは話してないけど、多分察したとは思う。今は大丈夫そうだけど、何か変なところあったらお願い」


「おけ」


 レンのうなじのあたりには火傷の跡がある。


 うなじというか背中なんだけど、範囲がうなじにまで届いているのでレンはずっとフードを被って生活している。


 その火傷の原因というのが育児代行をしていた依の母親ということで、依がそのことを気にしないようにレンはずっと隠していた。


「でもよく見せたな」


「一応さ、ありすには見せてるわけで、そろそろみんなに話した方がいいかなって」


「そういえばありすはどんな反応だったの?」


 レンと愛莉珠ありすは大晦日の夜に一緒にお風呂に入っている。


 俺はその間に寝落ちしたからどういう感じになったのか知らないけど、ありすの態度を見る感じでは変に意識してるようには見えない。


「……ちょっと思い出したくない」


「嫌な思い出?」


「……そうだな、これは嫌な思い出だから絶対に話さない」


「何されたの?」


 レンが本当に嫌で話したくないことを素直に認めるわけがない。


 つまり、特に嫌なことを言われたとかではなく、恥ずかしい思いをしたというやつだろう。


「言わない」


「じゃあ、ありすに聞くか」


「いいのか? サキに『変態』のレッテルを貼るけど」


「ちょっとありすに電話かけるから待ってて」


 レンを無視してスマホを操作していると、レンがスマホを奪おうとしたのでレンから遠ざける。


「渡せ!」


「じゃあ話せ」


「サキにはありすを嫌いになって欲しくないんだよ……」


「じゃあ説教も兼ねて今からありすに聞く」


「やめろぉぉぉ」


 レンが血相を変えて俺のスマホを奪いにかかる。


 ほんとに何をされたのか。


 というかいきなり抱きつくな、恥ずかしい。


「なんだよ、意を決して火傷の跡見せたけどありすがレンの肌色の方に興奮したのか?」


「……」


 俺の言葉を聞いたレンが動きを止める。


 どうやら当たったらしい。


「仕方ないよ、レンの素肌なんて一般人には刺激が強いんだから」


「サキも興奮してたもんな」


「語弊の生まれる言い方するな」


「なんだ? オレの体じゃ興奮しないって?」


「煽るなよ、どうせレンが恥ずかしくなって終わるんだから」


 彼女の素肌を見て興奮しない彼氏はいない。


 俺は見たら絶対におかしくなるから極力見ないようにしてたから平気だったけど、普通に見るなんてできるわけがない。


「正直に言うとさ、頑張って見せたのに反応が薄かったことは別にいいんだよ。むしろ過剰に反応される方が嫌だったから」


「そりゃそうだな。じゃあ何が嫌なの?」


「……ありすの反応がサキと同じだった」


「つまり?」


「サキとありすの思考回路が似てるのが嫌」


 体育座りのレンがぷいっとそっぽを向いてしまった。


 これはあれだろうか、可愛すぎる罪で俺がレンを捕まえていいやつか?


 いいやつだな。


「すごい優しく抱きしめるな」


「抱かれるの待ちだった?」


「少し」


「素直ないい子にはオプションを付けよう」


 俺はそう言ってオプションとしてレンの頭を優しく撫でる。


 するとレンの顔がもにゅもにゅしだして、なんか……うん、可愛いがすぎます。


「このままこうしてたい」


「だけどサキにはそれができないんだなー」


「帰ったら続きね」


「今だけしか許しませーん」


「じゃあ飽きるまで続ける」


「ほんとにいいの? 今じゃないとオレは答えないかもよ?」


 レンが俺の腕を握りながら上目遣いで言う。


 ほんとにずるい。


 こんな顔されたらやめたく無くなるけど、レンがこう言うならほんとに答えてくれない。


 なんだかんだで答えてくれるんだけど。


「帰ったらもっと強くしよ」


「楽しみにしてる」


「してろ。それで本題だけど、最近の寝不足は何?」


 俺がずっと聞きたかったことだ。


 この、約一ヶ月ぐらいの間ずっとレンは寝不足を続けていた。


 その理由を四月になれば教えてくれると言っていたけど、今日は四月の一日だから教えてもらえるはずだ。


「今日って四月の一日じゃん?」


「俺とレンにエイプリルフールはないから」


「マジかよ。まあいいけど。寝不足の理由を簡潔に言うと、ちょっとやることがあったんだよな」


 それはさすがにわかる。


 何もないのに寝不足、昼間に寝るなんてそれこそ病気を疑ってしまう。


「オレさ、この一年ずっと思ってたことがあったんだよ」


「何?」


「『水萌みなもと依ずるくね?』って」


 レンがジト目を俺に向けながら拗ねたように言う。


 これはあれか?


 可愛い理由すぎるからもう一度抱きしめていいやつか?


「今は待ってないからちょっと待て。紫音が途中で転校してきたからひとりぼっちではなくなったけど、サキと違うクラスなのがオレは嫌だったんだよ」


「その言い方だと俺はそう思ってないみたいに聞こえるけど?」


「実際そうだろ? サキはオレのこと好きかもしれないけど、四六時中一緒に居たいとは思ってないだろうし」


 そう言われると困る。


 俺はレンと一緒に居たいとは思っているけど、確かに一人の時間も大切だと思っている。


 一緒に居られるなら常に一緒には居たいけど、無理に一緒に居る必要はないと思う俺がいるのは確かだ。


「言い訳していい?」


「別に責めてるわけじゃないけど、言い訳あるなら聞く」


「これは俺の個人的な考えなんだけど、ずっと一緒に居ると別れる確率上がる気がするんだよな」


 恋人なら常に一緒に居るものと思うだろうけど、四六時中一緒に居たら倦怠期が来てしまうと思う。


 倦怠期がどんな恋人にも来るのなら、常に一緒に居るよりも、たまには一緒に居ない時間を作った方が倦怠期に対して耐性が付きそうだし、来るまでに時間ができそうだ。


 それにお互いに知らないことがあればそれを知ろうとして常に新鮮な気持ちで付き合えると思う。


「オレ達ならありえないって思ってても、実際はわからないもんな」


「うん。別に定年後もバカップルでいるとかは思わないけど、レンとはずっと一緒に居たいからさ」


「あっそ。じゃあサキは二年に上がってもオレとは同じクラスにはなりたくないと」


「偶然って三回以上続くと必然とか運命になるんだよ?」


「つまり?」


「なんだかんだで俺とレンは同じクラスになる。もっと言うと水萌と依と紫音も」


 確証があるわけではない。


 もしかしたら俺だけが違うクラスになってレン達がみんな同じクラスになるかもしれない。


 だけど、俺は引き寄せの法則を信じる。


「運命とかで片付けられるとオレの一ヶ月が無駄になるんだよな」


「もしかして神社でお参りとかしてた?」


「めっちゃした。三社参りって言うんだっけ? 昼はとりあえず色んなとこ回ってお参りして、夜はお守り握って祈ってた」


「お前、眠いから帰るって言っといて神社行ってたのかよ」


「実際眠かったのは事実だよ。祈る時って目を瞑るじゃん? それで何回も寝落ちした」


 なんて可愛らしいことをしてるのか。


 抱きしめたくなるぐらいに健気で……とりあえず抱きしめる。


「大丈夫だよ、レンが健気で可愛くていい子なのは神様も見てるから」


「ぶっちゃけ神様とか信じてないんだけどな」


「せめてクラスが発表されるまでは信じとけよ」


「だって神様が居たら今のこれも見られてるんだろ?」


「うん」


「恥ずいじゃん」


 見てるか神様よ。


 こんな可愛い子が一ヶ月を使ったんだ。


 それが報われなければ嘘だろ。


「じゃあ一緒のクラスになれなかったら俺達の再会は全部俺達の力で引き寄せた運命ってことだな」


「そうなると一緒のクラスになれたら神様の力になるけど?」


「その時は神様の力を超えた運命にすればいいんだよ」


「悪いことだけ神様のせいとか、人間らしいな」


 レンがそう言うとポケットからお守りを取り出した。


「運気倍増」


「めっちゃ信じてんじゃん」


「何もやらないで負けるよりも、やるだけやって負けた方が文句も言えるだろ?」


「その発想は好き」


 俺はそう言ってレンからお守りを受け取る。


 結局神様がいるかどうかなんてわからないんだから自分を騙すことに使うしかない。


 もしもいるなら、悪い結果になったらそれは神様が意図的にそうしてるわけなんだから神様のせいにしても正当性が取れる。


 だからそういうことにしておけばいいのだ。


 どうせ俺とレンは同じクラスになれるのだから。


 そうして俺とレンは部屋の中から覗き見をしていた依と紫音が声をかけるまで他愛ない話を続けたのでした。

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