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ホワイトデーのお返し

「それで紫音しおんの好きな人って誰なの?」


「まーくんってほんとにすごいね。彼女の恋火れんかちゃんが嬉しさのあまりに気絶してるのに放置してこっちに来るなんて」


 呆れた様子の紫音の言う通りで、レンは俺の背後で嬉しそうに気絶している。


 レンに首を噛まれたからやり返して首を甘噛みしてみたら倒れた。


 ベッドも未だにさっき一度起きた水萌みなもがまた眠っているから使えず、仕方ないからそのまま放置した。


「すぐに起きるから大丈夫」


「まーくんって恋火ちゃんの扱い雑じゃない?」


「そんなことはない。あんまり無防備なレンを見てると、ちょっとね」


 気絶して無抵抗なレンを見てるとどうしても触れたくなってしまう。


 どこまでしたら反応があるのかとか、どんな可愛い反応をくれるのかとか、レンで遊ぶのが俺の趣味になってきている。


 だから気絶したレンは放置している。


「それとも君らの前でレンの体を弄ぼうか?」


「是非に!」


「紫音、君の彼女が変態だからどうにかして」


「まーくんの言い方が悪いでしょ。要は恋火ちゃんのほっぺたとかをつついたりするってことでしょ?」


 さすが紫音だ。


 どこかの変態さんとは違って俺の言葉の真意を理解している。


「あれでしょ? 今ありすちゃんがやってるみたいなことをするってことでしょ?」


「そうそう。そうなんだけど、ありすは目がちょっとマジすぎるから止めないと」


 愛莉珠ありすは今、水萌と一緒に俺のベッドに居る。


 そして眠っている水萌の頬に手を当てて頬を紅く染めている。


「ありすってそっち系なの?」


「違うよ。水萌お姉ちゃんが可愛いから目覚めそうなだけ」


「水萌が許してるなら何も言わないけど、許可は取ってる?」


「愛に障害はつきものでしょ?」


 ちょっと危ないので愛莉珠を水萌から離す。


 水萌に見惚れてるせいか結構あっさりお姫様抱っこができた。


「そこに水萌の分身がいるからそっちで遊んでなさい」


「……恋火さんは違う」


「レンに失礼だろ。それとレンは俺のだからあげるつもりはないから」


「やっぱりまーくん、恋火ちゃんの扱い雑だよね?」


 紫音の呆れたような視線を感じるが、俺は本当にレンを大切に思っている。


 だけど大切だからこそ適当に扱ってしまうこともある。


 つまり付き合いたての初々しさが終わったとあうことだ。


「倦怠期?」


「別にレンを好きな気持ちは一切変わってないよ? 多分、付き合いたての『嫌われるかも』みたいな心配が無くなった感じ?」


 誰だって付き合ってすぐは別れたくないから相手のことを尊重して伺い合うと思う。


 だけどそれも数ヶ月も経てばお互いのキレるポイントとかがわかって適当になってくる。


 つまりそういうことだ。


「紫音も夏ぐらいになればわかるよ」


「わかりたくないな。僕はよりちゃんのことを変わらずに相手するもん」


「俺もな、最初はそうだと思ってたんだよ。それが……」


「聞きたくない!」


 紫音が耳を押さえてうずくまった。


 現実逃避をしたいのはわかるけど、現実からは誰も逃げきれないものだ。


「あんまりしおくんをいじめたら駄目だよ?」


「俺は現実の恐ろしさを教えてるだけ」


「新入社員をいじめる二年目社員みたいなことしないの」


「先人の話は聞いといた方がいいぞ」


舞翔まいと君のは絶対にお手本にならないから」


 蓮奈れなが失礼なことを言い出した。


 まるで俺とレンがまともな恋愛をしてないみたいな。


 まあ少しは心当たりが無くはないから何も言えないけど。


「それよりだよ。紫音の好きな人」


「話を逸らしたってことは負けを認めたね」


「違うな。俺はそもそも勝負の土台には上がっていない。勝手に不戦勝にすればいいさ」


「すごい屁理屈だ。まあいいよ。私は勝ったってことだから」


 なんか誇らしげに胸を張る蓮奈だが、そもそもの話、勝ったからなんだと言うのか。


 そんな意味の無い勝利よりも、俺は紫音の好きな人の方が気になる。


「そういえば聞いてなかったけど、紫音って好きな人教えてくれるの?」


「なんか話す流れだったけど、別に言わないよ?」


「だよな。でもそれならなんで好きな人がいたって言ったんだ?」


「まーくんが勘違いして落ち込まないように」


 それは気を使わせてしまった。


 確かに紫音が少し考え込んでいたのを見てどうしたのかとは思っていたけど、好きな人がいることをカミングアウトすることもなかったのに。


 本当に。


「しおくんの好きな人は舞翔君だったってことでいいじゃん」


「そうだね。実際まーくんのこと好きだったし」


「別にいいけど。今は依のことが好きなんだよな?」


「うん。それは確かだよ」


「それならいいや。本物の修羅場なんて見たくないし」


 紫音と依が付き合ったこのタイミングで紫音の好きだった人が登場でもしたら修羅場が起こる。


 他人の修羅場なんて正直どうでもいいけど、さすがに紫音と依がその中心に居るとなると少し気まずい。


「しおくんの好きな人はもういいよ。それよりも早く舞翔君の誠心誠意の謝罪とお返しちょうだい」


「そういえばそういう集まりだった。ちょっと待ってて」


 今日の全員集合は俺が忘れていたホワイトデーのお返しを渡す為に集まってもらったものだ。


 それがいつの間にか紫音の好きな人を聞くことや吸血鬼退治になっていた。


「昨日の今日だったから大したもの用意できなかったんだけど、とりあえずホワイトデーを忘れててごめんなさい」


 これ以上先延ばしにはできないと思ってとりあえずのお返しを準備した。


 そのお返しを持ってみんなに頭を下げる。


「誠意を見せろー」


「そうだそうだー」


「丸坊主謝罪をお望みでしょうか?」


 謝罪の誠意と言えば丸坊主のイメージがあるけど、さすがにそれは抵抗がある。


 だけど蓮奈と依がそうしろと言うのなら忘れてた俺に拒否権はない。


「いや、舞翔君は今のままがいいからむしろ丸坊主は駄目」


「右に同じ。ちなみにれなたそとうちは『誠意』って言いたいだけだからお返し貰えるだけで嬉しいよ?」


「女神……」


 蓮奈と依がそんなことを言わないのはわかっていたけど、二人の優しさに涙が出てくる……ような気がした。


「絶対に思ってないよ」


「だよね。とりあえず褒めとけばの精神だから」


「いや、実際蓮奈と依って女神じゃない? 天使って感じじゃないし、悪魔とかでもないから」


 俺の価値観ではあるけど、蓮奈と依は慈愛に満ちすぎているから女神感が強い。


 まあいいところだけを見たらの話だけど。


「余計な一言を感じた」


「うちも」


「気のせい。それで紫音とさっきから俺の背中で遊んでるありすは許してくれる?」


 蓮奈と依には寛大な心で許してもらえたので、次は最難関である紫音と俺の背中に呪詛のようなものを書いている愛莉珠に聞く。


「うーん、どうしようかな。じゃあお返しが良かったら許す」


「ありすもー」


 まあ妥当な答えだ。


 正直今回のお返しは前にもやったことがあるものだから新鮮味はないから喜んでもらえるかわからない。


 むしろ簡単に済ませたことを怒られそうだ。


 だけど昨日の今日で準備できたのはこれしかなかった。


「わかった。じゃあどうぞ」


 俺はそう言って六枚の紙を取り出した。


『何でも言うこと聞く券』と書かれた紙を。

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