久しぶりの補給
「さてさて、皆様に集まってもらったのは他でもありません……」
「白々しく言うのかと思ったらどんどん弱くなって最終的に土下座した」
蓮奈の不安の理由を無事に聞き出すことに成功した俺は、その原因が俺がホワイトデーを忘れていることだと知り、翌日に全てを準備を終えてみんなに集まってもらった。
そして誠心誠意の土下座で謝罪をする。
「これってなんの集まりなの?」
「しおくんは優しいね」
「なんのことかな? 僕は本当になんのことかわからないから聞いてるだけだよ? 断じてまーくんが僕達の気持ちを忘れてたことを今更蓮奈お姉ちゃんに言われて思い出した集まりだなんてわからないよ?」
「さすがしおくん。舞翔君の心をえぐるのが上手いね」
俺が百悪いから何も言えないけど、蓮奈の言う通り紫音の発言で俺の豆腐のハートは崩れ落ちた。
こういうのを自業自得と言うのだろう。
「あんまりサキをいじめるなよ」
「ここで彼女登場だー」
「よりうるさい」
誠心誠意謝罪中の俺の頭をレンが優しく撫でてくれた。
それだけで俺の全てが報われる。
「恋火ちゃんはいいの?」
「何が?」
「恋火ちゃんが一番忘れてたことに怒りそうだから」
「あぁ、怒るよ? だけどそれはオレの役目であって紫音にやられるのは嫌なだけ」
俺の頭を撫でるレンの手がうなじに向かう。
嫌な予感しかしなくて背中がゾワゾワしてくる。
「れんれんは独占欲のかまたりみたいな女の子だからね」
「塊な? 誰が独占欲の塊だよ!」
「自分で言ったんじゃん。それよりもここでえっちなことはしないでね?」
依が余計なことを言ってくれたから俺の背中に潜り込んでいるレンの手が依のおでこに向かって……いかないのはなぜなのか。
「貴様まさか……」
「いや、別に何もしないわ。よりに興味がないだけ」
「あのさ、最近ほんとみんなうちの扱い雑すぎるからね?」
「優しいのは紫音だけ?」
俺がゾワゾワを我慢しながら顔を上げて依に言うと、無言で依に頬をつねられた。
「おい、サキをいじめるのはオレの役目だって言ってんだろ」
「うるさい独占欲!」
「どういうあだ名だよ。つーかお前らオレが寝てる間に付き合ってたのな」
今日は最近では珍しくレンが起きている、というか無理やり起きてもらった。
一応レンにも紫音と依が付き合ったことは伝えていたけど、二人が付き合ってからちゃんと話したのは今日が初めてのようだ。
「同じクラスなのに話さないの? 実はしおくんと恋火ちゃんって仲悪い?」
「僕は友達だと思ってるよ?」
「言い方よ。最近は眠いから紫音が気を使って俺に構わないようにしてたんだろ? それとも普通に嫌いだから関わらないようにしてた?」
「恋火ちゃんがいじわる言う!」
「うん、しおくんと恋火ちゃんが仲良しなのはよくわかったよ」
喧嘩するほどなんとやら……この二人の場合は文句を言い合うほどなんとやらなのか。
「依、紫音が浮気してるぞ」
「……」
「紫音、依がガチ嫉妬してるぞ」
「まーくん今日元気だね」
紫音が嬉しそうにいじけている依に近づいて行く。
「あれでしょ? 久しぶりに恋火ちゃんが起きてるのが嬉しいんでしょ?」
「サキはオレのこと大好きだからな」
「……もちろん」
「あ、なんかごめん」
なんか蓮奈に謝られた。
確かに一瞬間ができたけど、謝られたら俺がレンと居ることとは別の理由で元気だと言ってるようではないか。
「そうか、サキはオレのことなんてどうでもよくなったんだな……」
「証明いる?」
「オレはサキのこと信じてるから大丈夫」
せっかく久しぶりにレンをいじって遊べると思ったのに残念だ。
というかそろそろ俺の肩甲骨をいじって遊ぶのをやめて欲しい。
「そういえばレンは今日お眠じゃない?」
「昨日は寝落ちしたから平気。それにベッドは使われてるし」
レンの言う通りで俺のベッドは今天使のような寝顔の小悪魔姉妹二人に使われている。
なんで誰かしらは寝ていないといけないのか。
「これが黙ってると可愛いってやつだよな」
「水萌とありすは喋ってても可愛いよ?」
「サキからしたらな。オレからしたら生意気な妹二人なんだよ」
それはつまり可愛いということではないのだろうか。
まあ確かに寝ても起きても天使なレンからしたら違うのかもしれないけど。
「それでさっきは何で喜んでたんだ?」
「あぁ、レンが起きてるのが嬉しいのはあるけど、いつも依と紫音にやられてることのやり返しができたのが嬉しかった」
いつもいつもいつも、レンに俺が浮気してるだのなんだのを言ってくる依に言えたのと、それを見たレンが嫉妬したとかを言ってくる紫音にも言えたのがシンプルに嬉しかった。
依のいじけが想像以上に可愛かったのも楽しくなった理由の一つではある。
「サキの変な性癖がわかったのはいいとして、その依は今紫音にいじめられて見てはいけない姿になってるぞ?」
「こう見ると普通に可愛い女の子同士がゆりゆりしてるようにしか見えないから大丈夫。依も楽しそうだし」
何が大丈夫なのかはわからないけど、今の状況を簡単に言うと、紫音が顔を真っ赤にした依の頬に手を当てて目をジッと見つめている。
他には何もせずに、ただ見つめている。
健全なはずなのに不健全に見えるのは心が汚れてる証拠だ。
「無言で写真撮ってる蓮奈はほっとくとして、レンの寝不足はいつぐらいに終わるの?」
「もう少し。四月に入ったら普通に寝れると思う」
「じゃあ理由は?」
「教えなーい」
レンが舌をチロっと出しながら小悪魔的笑顔を向けながら言う。
さて、そんな顔をされた俺がどうすると思うのか。
とりあえず俺の肩甲骨で遊んでる悪い手を抜き取って起き上がりレンを引き寄せる。
「な、なんだよ」
「誘ったんでしょ?」
「違うから。だから落ち着け。オレが寝てる間に姉弟ごっこしてたお前のお姉ちゃんが鼻を押さえてスマホ構えてるから」
レンが何か言ってるが知らない。
売られた喧嘩は買うのが礼儀とどこかの母さんが言ってたような気もするし。
「最近は俺の相手してくれなかったし、レン成分が不足してんだよなぁ」
「いや、わかったから、わかったから今はやめよ? さすがに見られるのは……」
「大丈夫だよ。俺もレンの嫌がることはしたくないから」
「別にされること自体は嫌なわけじゃないからな? それは勘違いしないで──」
「言質取りました」
レンからの許しも得たのでレンを補給していくことにする。
とりあえず補給の初めは押し倒すところからということで、右手を恋人繋ぎにして、左手はレンの頬に当てる。
そして顔を真っ赤にして目をキョロキョロさせているレンの……目をジッと見つめるのだった。
期待されたって蓮奈が鼻血を堪えながらスマホを構えている状態で変なことをできない。
だからそういうのはまた今度。




