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姉さんの不安

「それで姉さん、何を悩んでるの?」


「おお、舞翔まいと君が成長した。今は十歳ぐらい?」


 さすがにあの年齢を演じるのに疲れたので、精神年齢を上げた。


 蓮奈れなの言う通り十歳ぐらいをイメージしてみたけど、これもこれで精神が削られそうだ。


「十歳ってことは反抗期前?」


「うん。まだ姉のことが好きだけど、なんとなく呼び方を変えてみる歳」


「あれだね、同級生の子達がお姉ちゃんのことを嫌いとか言うから『お姉ちゃん』って呼ぶのが変なのかもしれないって思う歳だね」


 まるで見たことかあるかのような言い方だけど、あの紫音しおんがお姉ちゃん呼びを変えるとも思わないし、多分気のせいだろう。


「紫音って反抗期あった?」


「あるよ。あれはね凄かった」


 なぜだろうか、普通は弟のような存在の紫音が反抗期になったら困ると思うのに、蓮奈はどこか嬉しそうにしている。


「そんなに可愛かったの?」


「それはもう。あれはね、多分言ったらしおくんに本気で嫌われちゃうから言えないけど、可愛かった。とにかく可愛かったよ。表すなら……」


「表すなら?」


「ごめん、私にはあの可愛さを表現することができない。とにかく可愛いの。舞翔君が拗ねた時並に可愛いの」


 蓮奈が少し興奮気味に言うが、俺が拗ねたところなんて可愛いわけないんだから大したことないと思う。


 蓮奈がここまで興奮しているのだから可愛いことは事実なんだろうけど、もう少し表現の仕方を考えた方がいい。


「紫音が可愛いのはわかったよ。それで結局蓮奈は何が不安なの?」


 紫音がどう可愛かったのかは置いておいて、本題に戻る。


「つーん」


「出た、自分のやって欲しいことをしてくれなかったからって聞こえてるのに聞こえてないフリをするやつ。しかもそういうふうにしてるのを相手に気づかせて『なんだよ』って言われるの待つやつだ」


「つーん」


「はいはい、可愛い可愛い」


「……つーん」


「口元緩んでるよ、姉さん」


 蓮奈が拗ねたフリをしてるのは、俺がショタごっこをやめたからだ。


 だけど褒めたら口元を緩めてしまうあたりが蓮奈だ。


「あんまりめんどくさいことをしてると呆れる年齢だからね?」


「それは大変。まあ呆れて無視されたところで構いに構うのが私だけど」


「思春期の弟にそういうことするのやめてあげてよ。蓮奈みたいな姉だと本気で恋しちゃうから」


 本当の姉弟でないからわからないけど、蓮奈みたいな可愛い姉からだる絡みなんてされたら嫌いになるどころかガチ恋してもおかしくない。


 さすがに禁断の恋は求めていないので普通にお願いしたい。


「蓮奈?」


「あぁ、はいはい。姉さんにガチ恋しちゃうからそういうのやめて」


「もう、仕方ないなー。そんなにお姉ちゃんに興味津々ならお姉ちゃんのことをもっと教えてあげる♪」


「……」


「真顔やめて。お姉ちゃんのガラスのハートが砕け散る……」


 ちょっと反応するのが嫌だったので無視して蓮奈を見つめていたら、蓮奈が胸を押さえてうずくまった。


 自業自得だけど俺の豆腐メンタルではこの状態の蓮奈を放置すると罪悪感で軽く死ぬのでショタごっこを続けることにする。


「姉さん」


「なんだい舞翔君。私は今心がないから舞翔君に抱きつかれてもドキドキしないよ? むしろ本能だけで舞翔君を襲……誘ってるのか」


 とりあえず蓮奈を抱きしめてみたら、蓮奈が想像以上にハートブレイクされていたようで、いつも以上に意味のわからないことを言い出した。


「姉さんの心が回復するなら喜んで」


「つまり私と禁断の恋をしたいってこと?」


「姉さん相手ならやぶさかでないかな」


「難しい言葉使って。おませさんにはこうだ」


 蓮奈におでこを人差し指で軽く押してくる。


 そして柔らかい笑みを向けてきた。


 なんだろうか、とてつもなく可愛くて誰もが好きになるような笑顔なんだけど、まるで俺が変なことを言ってるみたいに聞こえる。


 絶対に俺が悪いわけじゃないはずなのに。


「俺にガチ恋させてどうしたいの?」


「同級生の彼女に浮気を匂わせて『実は姉弟でした』みたいなノリがして見たい」


「本音は?」


「弟に恋をしたら……だめ?」


 蓮奈が上目遣いで頬を赤らめながら言う。


 可愛い、可愛いのは確かだ。


 だけどなぜだろうか、俺は無性にこう言いたい。


「姉さんあざといよ」


「こんなお姉ちゃん嫌い?」


「結構好き」


「だから私も舞翔君が好き」


 蓮奈が微笑みながら俺な頭を撫でる。


 蓮奈に頭を撫でられるのはとても落ち着く。


「姉さん」


「なぁに? 私の母性にガチ恋した?」


「もう少しでしそう。だけどそうじゃなくて、やっぱり言いたくない?」


 さっきから俺が蓮奈の不安の理由を聞こうとするとなぜか話が逸れている。


 別に言いたくないなら聞かないから、そうなら言って欲しい。


「あのね、舞翔君」


「なに?」


「別に私は話を逸らしてるわけじゃなくて、舞翔君と話すのが楽しくて逸れちゃうの。もっと言うとね、舞翔君と弟プレイが楽しいのもある」


 つまり、蓮奈は話したくないわけではなく、俺達のいつもの癖のせいで話せていないと言いたいらしい。


 後のやつは反応したら負けだと思うので無視をする。


「じゃあ話してくれる?」


「うん。えっとね、まず第一になんだけど、この時期って不安にならない?」


「あぁ、そういうやつね。大丈夫だよ、姉さんって実は成績いいんでしょ?」


 四月と言えば新学期。


 つまり蓮奈の悩みとは無事に三年生になれるかという……やつではないのはわかる。


「……」


「姉さんなら大丈夫だよ。もしもの時は真中まなか先輩がなんとかしてくれるから」


 誰だって思うだろう。


 新学期で新しいクラスになったら大丈夫なのかどうか。


 特に蓮奈は一度不登校の経験があるからなおさらだろう。


 思い出したからなのか、蓮奈の表情が無になる。


「姉さん?」


「そっか、三年生になったら実怜みれいちゃんと離れ離れになるかもしれないんだね……」


 一瞬『実怜ちゃん』とは誰かと思ったけど、確か真中先輩の名前が実怜だった気がする。


 今まで蓮奈も『真中さん』と呼んでいたから忘れていた。


「呼び方変えたの?」


「うん。昨日変えたんだけど、今思うと離れ離れになるかもしれないから変えたのかも」


 蓮奈が体育座りをして自分の指をいじりながら寂しそうに言う。


 多分真中先輩的にはシンプルに蓮奈と名前で呼び合いたいのがあったのだろうけど、そういう考えもあったのかもしれない。


「でもさ、三年生ってほとんど受験とか就職のことで忙しくてクラスの人と絡むこと少ないんじゃない?」


「それでも無いわけでは無いでしょ?」


「まあね。でも姉さんはあの地獄を乗り越えたんだから大丈夫だよ」


「……私の黒歴史を思い出させたんだ、それ相応の甘やかしは覚悟しな」


 蓮奈が頬を膨らませて頭を差し出してきた。


 どうやら蓮奈にとって修学旅行はそれほどのことだったようだ。


「舞翔君」


「なに?」


「私の不安ってね、新学期のことじゃないんだよ」


「……ここにきてそれ言う?」


 蓮奈の頭を撫でていると、蓮奈が拗ねた様子で言ってくる。


「もうさ、三月も後一週間ぐらいで終わるじゃん?」


「そうだね。一年ってほんとに早いよ」


「うん、一年って早いよね。だから一ヶ月ってもっと早いよね」


「一ヶ月? 確かに早……」


 蓮奈の頭を撫でる手が止まる。


 今になって思い出した。


 俺は一ヶ月前にみんなから贈り物を貰った。


 そして今月の十四日はそのお返しの日だった。


「舞翔君は私達のことをなんとも思ってないのかなーって不安になってね」


「……」


「おう、無言で綺麗な土下座をされた。これは撫でがいがありそうだ」


 俺はそれから蓮奈のおもちゃになった。


 それだけのことをしたから無抵抗で全てを受け入れる。


 ホワイトデーのお返しは後日改めて考えることにした。

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