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不安な気持ち

「ふむ、なかなかいいラブコメだった」


「でしょ? ちなみに私は目の前の舞翔まいと君にドキドキして集中できなかった」


 蓮奈れなの部屋で蓮奈のお悩み相談を受けていた俺は、隣の紫音しおんの部屋からよりの叫び声が聞こえたから蓮奈と向かい合って壁に耳を付けた。


 そして依と紫音の仲睦まじい会話を聞いていたのだけど、目の前の蓮奈は俺をジッと見つめていて、俺が何かと視線を向けるとサッと逸らされた。


 嫌われたのかと思ったけど、そういうことなら少し安心した。


「そういえばさっき何か言いかけてなかった?」


「あぁ、ちょっと蓮奈に聞きたいことがあったんだよね」


「私の好きなタイプでも聞きたいの? あれかな、私を守ってくれる感じの人かな」


「違うけど、確かに蓮奈って一人にすると危ないから過保護なぐらいに守ってくれる人がいいかもね」


「ねー」


 蓮奈が笑顔で圧をかけてくる。


 こういう笑顔を見ると思う。


 この子は紫音の親戚なんだと。


「それでほんとは何?」


「いやさ、蓮奈、何か不安に思ってることない?」


 俺がそう聞くと、蓮奈の顔が少し曇った。


「……ほう、なぜにそう思った?」


「なんとなく? 最近は蓮奈と一緒に居る時間も増えたからかな?」


「一緒に居る時間が増えることは私の変化に気づけることにはならないんだけどね。まあ舞翔君なら女の子の些細な変化にも気づいちゃうのか。大好きだから」


 それだと俺が女好きみたいに聞こえるからやめて欲しい。


 俺は確かに蓮奈のことも好きだけど、それはあくまで友達としてであって、蓮奈が可愛い女の子だから好きというわけではない。


「なんかさ、舞翔君って私達が毛先を一ミリ切っただけでも気づきそうだよね」


「それはさすがに無いだろ。蓮奈が最近薄く化粧してるのはわかるけど」


「……よし、耐えたぞ。いや無理。嬉しくてにやける」


 蓮奈がニマニマした顔を手で押さえる。


 蓮奈はほんとにここ最近、薄くだけど化粧をしている。


 理由は知らないけど、もしかしたら恋でもしたのかもしれない。


「ちなみに私は舞翔君以外の男子はまだ無理だから」


「え、じゃあもしかして……」


「女の子しか愛せないとかじゃないわ!」


「さすが蓮奈。それじゃあなんで?」


「……不安だったんだよ」


 蓮奈が少し俯きながら少しトーンを落として言う。


 これは多分シリアスな話ではない。


「私も高校三年生になるわけじゃん? 大学に行くつもりはないから、卒業したらうちの店を継ぐか、嫌だけど仕事を探して働くわけで」


「うん」


「学生のうちは『校則があるから』って言い訳ができるけど、社会人になるとそうも言ってられないわけで」


「そういうやつね。つまり、社会に出た時にメイクの仕方がわからないのが怖いから今のうちに練習してると」


「そう。依ちゃんから色々教えてもらってるの」


 確かに化粧は女の武装と聞くこともあるし、女の人は大人になったら嫌でも化粧をしなければいけないのかもしれない。


「ぶっちゃけめんどくさい?」


「うん。今は始めたばっかりのせいなのかもしれないけど、今までやってなかったことをやってるわけだからめんどくささはある」


「だよな。蓮奈の場合はする必要ないことをしてるわけだし」


「なして?」


「すっぴんで可愛いから」


 蓮奈に無言で頬をつねられた。


 ほんとのことを言っただけでつねられるのはおかしい。


「落ち着け私。どうせ舞翔君はみんなに同じことを言うんだから」


「言うけど。実際レンも水萌みなも愛莉珠ありすも、みんなすっぴんだけど可愛いわけだし」


「確かに顔面偏差値高いよね。依ちゃんだってお化粧の練習の意味合いでやってるだけで、すっぴん可愛いし」


 それはちょっと聞き捨てならない。


 思い返してみると、依は俺の前ですっぴんを見せてない。


 それなのに蓮奈には見せたとなると差別だ。


「俺も依のすっぴん見たい」


「それは無理だよ。女の子って好きな男の子にお化粧した後の顔を見せると、付き合うか結婚するまですっぴんは見せられない行き物だから」


「それで男がすっぴん見て『なんか違う』って勝手なこと思って別れるやつな。結局顔かよって」


「舞翔君は絶対に顔で判断しないんだろうけど、君もその男の一人だからね?」


 蓮奈が呆れたように俺の頬をつついてくる。


 実際、すっぴんを見て「何かが違う」となって別れるのはおかしいと思う。


 確かに第一印象として顔立ちを見るのはわかるけど、別れる理由が「すっぴんがなんか違うと思ったから」なんて、顔さえ良ければいいのかとなる。


 本当に好きならフィルターがかかってどんな顔立ちでも好きになるはずなのに。


「でも俺の自論なのか」


「女の子の理想」


「まあ女の人も『なんか違う』で別れることもあるからどっちもどっちじゃない?」


「それはそうだよね。結局みんな全肯定してくれる人が好きなんだよ」


 結局はそこになる。


 お互いが相手のことを尊重していればお互い幸せの永久機関が完成する。


 尊重と言っても、相手のすることを全部認めるのではなく、違うことは違うと言って、それを受け入れることも必要だ。


「恋愛って難しいよな」


「そうだね。舞翔君と恋火れんかちゃんは思ったことを全部言い合ってるからストレスフリーだろうけど」


「全部言い合ってたらレンがなんで寝不足なのか知ってるだろ」


「恋火ちゃんの言いたくないことは聞かないっていうのも大切なんじゃない? 知らないけど」


 なんだかんだ言ってるけど、俺も蓮奈も恋愛初心者だから想像に過ぎない。


 というかほとんどラブコメで見たものを自分の解釈で話してるだけだ。


「まあいいや。化粧の話はこれくらいにして、本題に入ろう」


「何かあるの?」


「だからさっき聞いたじゃん、何か不安があるのかって」


「それは今話した通りで、将来に対する不安だよ?」


「それも確かにあるんだろうけど、直近で何かあるだろ。不安で不安で夜しか寝れないようなこと」


「寝れてるやないかい!」


 想像通りの突っ込みをしてくれた蓮奈だが、将来の不安も確かにあるだろう。


 だけどそれはまだ時間があるからそこまでではないと思う。


 だから蓮奈が最近感じている不安はもっと直近の、すぐに訪れるものな気がする。


「舞翔君には何も隠せないね。実はまた大きくなって入らなく──」


「言えないことなの?」


 蓮奈が胸を押さえながら何か言い出したので素直に聞く。


 レンと同じで言いたくないなら聞く気はない。


 ただ蓮奈の場合はレンほど隠してる様子もないから聞いているだけで。


「言えるんだけど、なんか子供っぽいって思われそうでやだ」


「大丈夫だよ」


「その心は?」


「俺は蓮奈のことをずっと子供っぽいって思ってるから」


「ふーん」


 なんだか想像と違う反応。


 同時に思う「あ、間違えた……」と。


「久しぶりに入っちゃった♪」


「……満足したら話してくれる?」


「もっちろん♪ まあ、私が悦べたらの話だけどね♪」


 こうして俺は久しぶりスイッチの入った蓮奈に弄ばれた。


 もう二度と蓮奈を子供扱いしないと心に決めました。


 まあ、数日後、早ければ今日中には忘れて子供扱いするのだろうけど。

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