真実の証明
「……」
「すごい気まずい雰囲気のはずなのに状況が気まずくならないのは舞翔君のせいだよね」
またも見られたくないところをちょうど紫音に見られた俺は、紫音が階段を下りる前に捕まえて蓮奈に預けた。
そして蓮奈のお父さんとお母さんに紫音を借りる許可を取りに行ったら「心ここに在らずすぎるからいいよ」と、軽く許可が下りたので部屋に戻り、紫音が逃げないように後ろから抱きしめている。
「俺が何か悪いことをしてるみたいな言い方やめろよ」
「してるんだよ? しおくんはしおくんで無反応だし。ほんとにどうしたの? 依ちゃんなら身を任せながら甘えた声で『たりないよ……』って上目遣いで囁いてるところなのに」
「するか。紫音くんもれなたその理想を信じて引かないの」
依には紫音が引いているように見えているらしいけど、紫音の顔は確かに引き攣っているが、これはどちらかと言うと悲しんでいるやつだ。
「まるで私が舞翔君にあんなことやこんなことをされたいみたいな言い方やめなさいよ」
「されたいでしょ?」
「否定はしない」
「だって。れなたそもこう言ってることだから泣くまでいじめてあげて」
「俺をなんだと思ってるんだよ」
いくら蓮奈が望んでいるとは言っても、蓮奈をいじめるなんて出来ない。
そんな酷いことは、レンと依にしかしないと決めているのだから。
「というか、そんなのはどうでもいいんだよ」
「残念だねれなたそ。お兄様はれなたそのこといじめたくないって」
「舞翔君は優しいからね。まあ優しすぎて興奮することもないわけじゃないけどぉ」
蓮奈が頬を紅くして自分の世界に入ってしまったので放置して、俺は本題に入ることにした。
「紫音、勘違いしてるかどうか教えて」
「……まーくんの裏切り者」
「全部を察して理解はしてるけど、気持ち的には嫉妬してしまうと」
紫音のわざとらしい言い方から、勘違いはしていないようだけど、嫉妬はしている。
俺にはそういう相手がいなくてわからないけど、これが好きな相手と異性が仲良くしているのを見た反応というやつなのか。
なんだかいじらしくて可愛い。
「なんで頭撫でるの?」
「紫音が可愛いから」
「もう……。まーくんが僕が悲しむのわかっててそういうことしないのは理解してるよ。だけどやっぱりモヤモヤしちゃうよ」
「そうだよな。だけど俺は変わらないぞ?」
紫音の気持ちを知っているなら、俺は依と関わることを減らした方がいいんだと思う。
そうは思うけど、俺はやめない。
なぜなら俺は多分誰が欠けても病める自信があるから。
「許してくれる?」
「もっと可愛く言って」
「無茶ぶりがやばい」
「じゃあ許さなーい」
紫音がそっぽを向いてしまった。
紫音の求める『可愛い』がどんなものなのかわからないけど、まさかこれを求められてるなら絶対に無理だが?
まあ紫音に許しては欲しいからやってはみるけど。
「笑うなよ?」
「微笑むのはいい?」
「仕方ないよな。俺も紫音が可愛いことする時微笑んじゃうし」
紫音の可愛さには笑みがこぼれる。
紫音に限らずではないけど、特に紫音の可愛さは頭を撫でたくなる可愛さがあるから笑みを抑えられない。
「まあいいや。とりあえず水萌をトレースして……紫音の方がいいのか? いっそ依……は逆に駄目か。蓮奈とありすは紫音には刺激が強いし」
「恋火ちゃんは?」
「紫音には見せてあげない」
レンの可愛さは俺が独占する。
それに多分レンの可愛さは紫音には刺さらないような気がするし。
なのでとりあえず紫音をトレースしてみる。
「よし。……紫音は、許してくれない……?」
紫音のことを強く抱きしめ、弱々しい声で囁くように言う。
ぶっちゃけ紫音の可愛さの一割にも至っていないけど、俺のできる限界はこれだ。
「……紫音さん、無視は俺の豆腐メンタルが崩れ落ちますが?」
「あ、ごめん。まーくんが可愛すぎて浮気しそうになっちゃった」
「紫音、優しいことはいいけど、その優しさは俺の心を抉る」
本当に可愛い紫音に『可愛い』と言われても悲しくなるだけだ。
まあ元々、紫音に許してもらうのが目的だから俺がいくら悲しんだってどうでもいい話だけど。
「ほんとに可愛かったよ? 証拠は二人いるから」
「あぁ……」
紫音の視線の先で二人の可愛い美少女が顔の下半分を手で隠している。
なんか既視感がある。
「だ、大丈夫。今日は堪えた」
「私も。危なかったよ、しおくんが舞翔君を反撃でいじめてたら床が血で染まってたけど」
血で染まらないなら良かったけど、この子達は腐りすぎているから俺と紫音が一緒に居るだけで流血するのはどうにかならないのか。
それはそれで可愛いから別にいいが。
「えっと、とりあえず許してくれるで大丈夫?」
「もちろん。そもそも元から怒ってないし」
「じゃあ今のなんなんだよ」
「まーくんの恥じらう顔が見たくて」
満面の笑みで紫音が言うので頬をつねってその綺麗な顔を歪ませる。
「いふぁい」
「うるさい」
「ほやほやひはろあほんほらろん」
「それはごめん」
何言ってるかはわかるけど、とりあえず紫音の頬から手を……離したけどもう一度ふにふにしてから離す。
「今のなに?」
「気にしたらいけない」
「僕のほっぺた触りたくなっちゃった?」
「うん」
「す、素直に認めないでよ!」
ニコニコ顔だった紫音が頬を赤くして俺の足をポカポカと叩いてくる。
可愛い可愛い。
「じー」
「見世物じゃないんだよ。それと水萌の真似すんな」
「うちに対するあたりが強いってば。でもぉ、水萌氏と同じ扱いされたのは嬉しいぞ♪」
「あ、ウザい」
「シンプルな罵倒をやめい! 気持ちはわかるが」
「じー」
「どうした紫音。可愛いだけだから睨んでくるな」
「扱い! わかるけど!」
紫音からのジト目と依のニマニマ顔が同じとか思わないで欲しい。
確かに依も可愛いが、依の場合はからかい要素が強くて素直に褒めたくない。
「まーくんはすぐ依ちゃんとイチャイチャするんだから」
「してないが?」
「してないよ!」
「すぐ仲良しするんだから」
どうしよう。
嫉妬する紫音が可愛くてずっと見てられる。
「なるほど。俺はリアルでもラブコメが好きなのか」
「何言ってるの。もういいや、あんまり考えてるとまーくんにモヤモヤしちゃうから言っちゃお」
「どうした紫音くん。もしや誰かに恋でもしたんか!?」
「うん。僕ね、依ちゃんのこと好きなの」
「そうかそうか、紫音くんはうちのことが………………」
「あ、固まった」
紫音の告白に依が固まる。
多分紫音の言葉が真実かどうかを必死に考えている。
「ほら紫音。依が普段の紫音が冗談ばっかり言うから信じきれてないぞ」
「僕そんなに嘘言ってないもん!」
「俺をからかって遊んでるだろ」
「それは仕方ないことじゃない?」
「お前な……。まあいいけど」
「からかわれるの好きだもんね」
「否定はしない。それでどうする?」
散々からかわれてきたんだ。
今ぐらいやり返してもバチは当たらないだろう。
ということで好き勝手やってやろうじゃないか。
「ほら、早くしないと依が今のを冗談で済ますぞ。そうしたら次からも全部冗談になるぞ」
「まーくん楽しんでるでしょ」
「もちろん。ほら、早く今のが冗談じゃないって示さないと」
俺はそう言って紫音を離す。
紫音にジト目を向けられるがそんなの知らない。
今の俺は結構腹黒い。
「恨んでやる」
「むしろ感謝しろ」
「ありがとう!」
紫音が舌を出してから依の方に向かう。
そして紫音が依に何かを耳元で囁き……依が爆発しました。
それからは若い二人を蓮奈と二人で暖かく見守るのでした。




