私は誰でしょうゲーム
「書けた?」
「うん。やろうか」
紫音がちゃんと異性が好きなのかを聞く為に始まった私は誰でしょうゲーム。
お互いに『私』が決まったので紙に書いて渡した。
今回は掲げることはしないで床に伏せている。
「ちゃんとルール決めようか。まず、質問の数が少ない方が勝ちでいいんだよね?」
「そうだね。それと答えを間違えても負けにはならないけど、答えの回数が多いと質問が少なくても負けね」
「質問は『はい』か『いいえ』で答えられるものだけ?」
「うん。大丈夫だと思うけど、答えがまーくんが今考えたオリジナルのものだったら負けだからね?」
「さすがにそんなことはしない」
ルールを要約すると、勝ちの条件は回答数の少ない方で、同じ回答数なら質問の回数が少ない方。
そして質問は『はい』か『いいえ』で答えられないといけない。
最後にこれは大丈夫だけど、もしも俺の考えたオリジナルのキャラクターなんかを『私』に設定していたら、たとえ質問無しで答えを当てたとしても負け。
「それじゃあ僕からやるね」
「いいよ」
「じゃあねぇ……僕は人間?」
「そうだな。人間」
俺が答えると紫音が「いきなり当たった!」と喜ぶ。
多分だけど、紫音はなんとなく俺が何を書いたのかわかっていると思う。
俺が書くのなんてわかりやすいだろうし。
「じゃあ次ね。僕は女の子?」
「そう。君は女子」
「なんか言い方がやだ」
「そういうゲームなんだから仕方ないだろ。他意はない」
紫音がジト目で睨んでくるが、俺は『私』に対して女子と言ってるだけで、紫音のことを女子とは言ってない。
「これで五人に絞れたから遊ぼ。まーくんは僕のこと好き?」
「はい」
「いじわるしないの。ちゃんと言葉にして」
「『はい』と『いいえ』で答えられない質問は無回答で進むぞ?」
「さっきまで普通に答えてた人が何か言ってる。はーやーくー」
紫音が俺の手を掴んで揺すってくる。
別に今更紫音相手に『好き』と言うのが恥ずかしいとかないし、言うのはいいんだけど、あえて言わないでこのまま紫音の反応を見るのも面白そうだ。
「あ、まーくんがいじわるする時の顔になった」
「してないしてない」
「じゃあ言って」
「俺はあなたが好き。それなりに」
「答えをありがとう。でも普通が良かったな!」
紫音が俺から離れてそっぽを向いてしまった。
これが見れたのならいいか。
「質問は三つしたよね。もうちょっと遊ぼ」
「お前、別に負けてもいいからって色々質問して楽しむ気だろ」
「え?」
「その絶対に聞こえてるのに聞き返すのは鈍感系主人公の特権だぞ」
「まーくんっでことね。それよりも次の質問。まーくんは僕のこと、女の子として見てる?」
紫音が首をコテンと傾けながら聞いてくる。
どうやら紫音はゲームに勝つ気がないので、俺に質問を続けて変なことを聞いたやり返しをするようだ。
「見てるよ。女の子なんだから」
「そういう意味じゃなくて、まーくんが恋火ちゃんと付き合ってなかった場合、僕と付き合う未来はあった?」
「そういうね。あるよ。あなた限定じゃなくて、全員にあるよ。一緒に居て辛い人なんていないんだから」
実際に付き合える付き合えないは別にして、俺がレンと付き合ってなかったら、他の子を好きになっていた未来もあったかもしれない。
それだけみんな魅力的だから。
「ラノベで言う『ifルート』があるならみんなと付き合ってるだろうな」
「いふるーと?」
「パラレルワールドみたいなやつ。もしもの世界」
「なるほど。つまりそのいふるーとなら僕とまーくんが付き合う世界もあるんだね」
「そうだな。今の『僕』が一人称なのか『私』の方なのかは考えないでおくけど」
俺がそう言うと、紫音はニコニコ笑顔で返してくる。
「それじゃあ次の質問ね」
「そろそろ答え言えよ」
「えー、だってー、まだ誰だかわからないしー」
紫音が嬉しそうに体を左右に振る。
これは紫音が飽きるまで終わらないやつだ。
「まーくんも納得してくれたところで次の質問ね。まーくんは僕は……僕のことどう思ってると思う?」
紫音が少し頬を赤くしながら聞いてくる。
なんとなくだけど、紫音は最初からこれが聞きたかったような気がする。
それはそれとして、やっぱり照れた紫音は可愛い。
「抱きしめていい?」
「い、今は駄目!」
「残念。まあ答えると、それはお前の気持ちだから俺は正しい答えを言えない。その上で言うなら、一緒に居ることに苦はないと思う。紫音と同じ気持ちじゃないかな?」
少し答えを具体的に言いすぎたかもしれない。
そもそも質問が『はい』か『いいえ』で答えられるものでもなかった。
別にいいけど。
「そっか。それは嬉しいかも」
「お前らは二人ともそういう話苦手そうだから、ゆっくりがいいんだろうな」
「いきなりそんな話したら普通は困っちゃうよ」
「確かに」
レンも俺がいきなり告白したら固まって動かなくなった。
あれはレンがそういう話に耐性がなかったからかも思っていたけど、あれが普通の反応なのかもしれない。
「でもびっくりだよ」
「何が?」
「まーくんがそういうのわかるってこと」
「別にわかったわけじゃないよ。結局なんとなくだし」
俺に人の気持ちなんてわかるわけがない。
ただなんとなく。
なんとなくそんな気がするからちょっかいをかけてしまう。
俺はされたら嫌がるんだろうけど。
「つーかもう答え言えよ」
「あ、そうだね。答えは『依ちゃん』だね」
「正解」
俺はそう言って島田側にある紙を表にする。
そこには『より』と俺の字で書かれている。
「なんでひらがな?」
「カタカナの方が良かった?」
「漢字書きたくなかったのね」
「漢字難しいから」
「多分僕達の中で一番依ちゃんが簡単なんだけどね」
確かにその通りだ。
ぶっちゃけ俺のは慣れてるから書けるけど、俺の『舞翔』だって書きたくはない。
だけど俺達の中では簡単かもしれないけど、漢字がめんどくさいことには変わりない。
「ちなみに僕達の名前は全員書ける?」
「……」
「大丈夫。僕もありすちゃんのはさすがに書けないから」
紫音のフォローが胸に刺さる。
言い訳をすると、ちょっとみんな漢字が難しすぎる。
水萌とレンの恋火と依はまだ書けるけど、蓮奈と愛莉珠はあやふやになる。
紫音は『紫』がわからなくなる時があるし。
「でもまーくんが一番難しいからね?」
「ほんとに。親に文句つけるわけじゃないけど、漢字はできるだけ簡単にして欲しいって思っちゃうんだよな」
漢字が難しいと小学生の時は習うまでひらがなだし、書けるようになったらなったでめんどくさい。
そして画数が多いと必然的に書く時間が増えて、テストの時なんかは他の人よりも解く時間が減る。
まあ誤差だから勉強に打ち込んでない俺は気にしないけど。
「じゃあ自分の子供には簡単な名前付ける?」
「どうだろうな。未来がどうなってるかなんてわからないし、実在に子供ができる頃には考え方も変わってる可能性だってあるわけだしな」
「現実的。でもそうだよね。今は依ちゃんのこと嫌いでも、明日には好きになってる可能性だってあるよね」
「そうだな。今は依のこと……嫌い?」
今紫音は依のことを『嫌い』と言った?
俺の聞き間違いだろうか。
それとも俺をからかっている?
「やっぱりまーくんは勘違いしてたんだ。僕ね、依ちゃんのこと嫌いなんだよね」
さっきまで笑顔を絶やさなかった紫音から感情が消えた。
演技にしては迫真すぎる。
なんだか怖い。
だけど聞かないわけにもいかない。
一旦ゲームを終了して、紫音と向き合うことにした。




