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男二人の親密会議

紫音しおんってさ、よりのこと好きなの?」


「あのまーくんが僕と恋バナってどうしたの?」


 珍しく紫音と俺の部屋で男二人きりだったので、なんとなく思いついたことを聞いてみたら、紫音に真面目な顔で心配され、おでこに手を当てられた。


「熱はないね。やっぱり恋火れんかちゃんが最近構ってくれないから心身的な疲れが出てる?」


 紫音の言う通りで、この前の愛莉珠ありすの合格祝いからレンは俺を構わないですぐに帰ってしまう。


 紫音いわく授業中は寝ていないようだけど、その分放課後は睡眠に使っているようだ。


「ないとは言わないけど、なんとなく気になっただけ。紫音って女子に興味あるのかなって」


「そう思うことが珍しいんだよ。まーくんって、ぶっちゃけ僕達と話したりするのは好きなんだろうけど、僕達の好きなこととか趣味みたいなのには一切興味ないでしょ?」


「一切ってことはないけど、興味あるのかって聞かれたら確かにわざわざ聞くことはしないかな。そして今気づいたけど、俺は紫音の趣味って知らない」


 俺は紫音達と他愛ない話をしてるのが好きで、わざわざ紫音達のことを深く知ろうとはしてなかった。


 より蓮奈れなみたいに好きなことをオープンにしている場合は別だけど、俺は紫音達の好きなことを聞こうとしないから何も知らない。


水萌みなもは食べることが好きなことでいいのかな? レンは最近そのイメージないけどゲーセン? ありすは妄想だよな」


「ありすちゃんだけ雑じゃない? 言いたいことはわかるけど。それで僕は?」


「一番謎」


 ぶっちゃけ他の子なら無理やり思いつくこともできるけど、紫音だけは無理だ。


 俺が何も聞いてこなかったせいなのもあるけど、紫音には謎が多すぎる。


 まず、紫音の中身は本当に男なのかということとか。


「じー」


「そういうとこだぞ」


「僕は何も言ってませーん」


「ということで紫音のことを知っていこうの会だ。それで最初の質問だけど、依のこと好きなの?」


 まずは異性のことが好きなのかどうかだ。


 紫音が異性として好きな可能性が一番高いのが依なので、依のことが好きならそれで紫音は身も心も男だと証明される。


 単純に依のことを異性として見れない場合は依を後で責めることにする。


「なんか依ちゃんのくしゃみが聞こえたような?」


「依なら今頃蓮奈とデート中だろ?」


「最近できたアニメショップ行くって言ってたね。まあ最近毎日のように行ってるけど」


 今日俺と紫音が二人っきりなのは、レンは寝る為に家に帰り、依と蓮奈はデート。


 そして水萌と愛莉珠は食べ歩きをしてるらしい。


「それで紫音よ、さっきから話を逸らしてるけど、依のことは秘密系?」


「うん。まーくんには教えなーい」


 ほんとに紫音はよくわからない。


 正直紫音が依のことが好きかどうかはどうでもいいのだけど、それを微塵も表情に出さない。


 これがレンや依ならあからさまに同様してすぐにわかるのに。


「まーくんが本気で僕のことを知りたいって言うなら教えるけど、なんとなくって言うならやだ」


「俺は紫音のそういうめんどくさいとこ結構好きなんだよな」


「そんなこと言って僕を喜ばせたって教えないもーん」


 紫音がニコニコしながら体を左右に振る。


「じゃあこれだけ教えて。紫音はちゃんと女の子が好きなの?」


「前もそれ聞かなかった? まあ確かに普段の僕を見てたらまーくんが大好きな同性愛者に見えるのか。うーん、でも普通に教えるのはなんかやだからゲームしよ」


「俺が勝ったら紫音を赤裸々にできるゲーム?」


「そうそう。最終的に僕がちゃんと男の子って証明する為に脱ぎ合うやつ」


「紫音と二人だと俺が全部負けるんだな」


 紫音が元気なのもあるんだろうけど、さっきから俺は紫音の手玉に取られている。


 このまま負け続けるのはなんか癪だからせめてゲームに勝って紫音の照れ顔ぐらいは拝みたい。


「絶対に勝って紫音の可愛い顔を余計に可愛くしてやるから」


「そんなに僕にしたいことがあるんだ。えっちー」


「ありすのせいで紫音が変な言葉を覚えてしまった……」


「ふっ、今日の僕はまーくんが困ることをたくさんやって楽しむのが仕事なんだ」


「誰だ、誰が純粋無垢な紫音を汚した!」


 紫音はずっと笑顔を絶やさない。


 これが紫音の素だったらいいけど、誰かに俺を陥れろと言われているのなら抗う。


 紫音はそんな悪い子ではないのだから。


「僕を歪めたのはまーくんだよ?」


「あ、さーせん。でも俺が何した?」


「まーくんが鍵になって僕の鍵穴に刺さった」


「言い方に悪意を感じるんだけど、要するに依と蓮奈が余計なことを言ったってことでいい?」


「さすがまーくん。名探偵だね」


 今のを聞けばさすがなわかる。


 紫音がわかって言ってるのかはわかないけど、紫音ならきっと俺が紫音の新しい扉を開ける鍵だと思って言ったことなんだろう。


 そういうことにしておく。


「それでゲームって何するの?」


「『愛してるゲーム』っていうのをやろうかなって思ったけど、よくよく考えてみたらまーくんに絶対に勝てないからやめる」


『愛してるゲーム』とは確か、相手の目を見て「愛してる」と言い合って目を逸らしたり、真顔を崩したら負けというやつだった気がする。


 だけどそれは普通男女でやるものであって、男同士でやっても決着がつかないと思う。


 相手が紫音でなければ。


「紫音に言われたら誰だって反応するだろ」


「まーくん以外ね。多分まーくんって恋火ちゃん相手でも真顔貫けるもん」


「それは違う。レンがそもそも目を合わせられないから勝負にならない」


 依も同様で、俺と目を合わせること自体ができない。


 蓮奈は目を合わせることはできるけど、どちらかが「愛してる」を言ったら終わる。


 水萌はすぐに楽しくなってしまうから終わる。


「つまり紫音と俺とありすしかまともに勝負にならないと」


「恋火ちゃんと依ちゃんが弱いのはわかるけど、まーくんが強すぎるのもあるよ?」


「感情薄くてごめん。嬉しいとは思ってるだよ?」


「それは僕達もわかってるよ。でもとにかくまーくんは強いから違うゲームにするね」


 紫音の話を聞く為のゲームだから紫音にゲームの決定権がある以上は従う。


 だけどいつかみんなで愛してるゲームをやってみたい。


 トーナメントで。


「そうだなぁ、じゃあ『私は誰でしょうゲーム』にする?」


「それって『二十の質問』と同じやつ?」


「多分そうかな? 質問の上限はないから少し違うけど」


『私は誰でしょうゲーム』は確か、人でも物でもなんでもいいから紙に名前を書いて、それを相手は見えないように置くでも掲げるでもして、紙に書かれたものを当てるゲーム。


『二十の質問』は二十個の質問以内に当てなければいけないルールだけど、『私は誰でしょうゲーム』には質問の上限はない。


「それで先に当てた方の勝ちと」


「うん。いい?」


「もちろん。やろうか」


 俺はそう言って立ち上がり、紙とペンを取りに向かった。


 まさかあんな悲劇が起こるとはこの時の俺は考えてもいなかった……


 みたいなことが起これば面白いけど。

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