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未来の話

「みーなーもーしー。うちの名は?」


「……」


 よりの誕生日兼バレンタインが終わり数日が経った。


 その数日の間毎日見ている光景。


 依が水萌みなもにだる絡みをして名前を呼ばせようとしている。


 それと言うのも、依の誕生日のことを知らなかった水萌とレンは俺と同じように『なんでも言うことを聞く券(常識の範囲内)』をプレゼントにした。


 レンと水萌のはその日限りという条件も付いていて、レンには水萌にするお願いに関して全面協力をするというお願いをした。


 そして水萌には、依のことを名前で呼ぶことをお願いしていた。


「結局誕生日の時にれんれんに協力してもらって嫌々言ったっきりで、それから呼んでくれないじゃん」


「私と恋火れんかちゃんのはあの日限りだもん。だから私が文月ふみつきさんの名前で呼ぶ理由はない」


「そんなこと言うと、お兄様に頼むよ」


「何を?」


「水萌氏にうちの名前を呼ぶ協力してって」


 依が俺に笑顔を向けてくる。


 そう、レンと水萌のはその日限りだったけど、俺のは期限を特に決めてないから依は俺に何もお願いをしていない。


 その時がくるまで取っておくらしいけど、今なのだろうか。


「残念だけど、舞翔まいとくんの常識に私を困らせることは無いから」


「水萌氏、きっと困って焦ったところを見せたらお兄様は微笑ましくて頭を撫でてくれるよ」


「……そんなことしなくても舞翔くんは撫でてくれるもん」


「一瞬揺らいだっしょ。ほんと可愛いんだから」


 依がニマニマしながら水萌の頭に手を伸ばすと、とてつもない速さで手を打ち落とされた。


「依ちゃんごときが私の頭を撫でられると思ってるの?」


「辛辣すぎん? なに、ツンデレですか?」


「依、お前はなんでそんなに残念なんだ……」


「な、お兄様までうちのことを……ん?」


 依がおでこに人差し指を当てて何かを考えだした。


 多分今話した内容を思い出してるんだろうけど、はたして気づけるのか。


「残念な依ちゃんには気づけないよ」


「それもそうか。残念な依ちゃんだもんな」


「お兄様はやめれ。普通に恥ずい」


 依が気づいたようだけど、なぜか感極まらないで頬を赤く染めて照れている。


 あの水萌が名前で呼んでくれたのに喜ばないなんて依らしくない。


「いやさ、水萌氏に名前で呼ばれたのは素直に嬉しいよ。だけどお兄様にちゃん付けされるのはむず痒くて、意識が全部持ってかれた」


「水萌、依は水萌に名前で呼ばれてもそんなに嬉しくないみたい」


「うん。散々呼べって言うから呼んでみたのに悲しいね。もう二度と文月さんのことは下の名前で呼ばない」


「君らはうちの話聞いてたか? 嬉しいって言ってんの。ドゥーユーアンダースタン?」


「よりうるさい」


 俺のベッドでいつの間にか寝ていたレンが起きて、少しキレ気味に依に言う。


 最近レンはマイブームなのか、俺の部屋に来るといの一番に俺のベッドに潜り込んで気がつくと寝ている。


 寝不足なのだろうか。


「れんれんって寝起き悪すぎん?」


「誰だってよりのうるさい声で起こされたら機嫌悪くなんだろ」


「いやいや、少なくともお兄様は雀のさえずりと同等に思ってくれるよ」


 依が「ね?」と言って俺にウインクをしてくるが、俺もうるさくされるのは好きではないし、正直雀のさえずりもうるさいからあんまり好きじゃない。


 起こすなら普通に起こして欲しいものだ。


「サキもオレと同じ意見だって」


「くっ、なぜこうもうちの味方はいない」


「だって依は同調するとめんどくさくなるタイプだから」


「そんなにうちをからかって楽しいか!」


「うん」


「そくとぅ……」


 依が拗ねてしまったようで、律儀に部屋の隅に移動して体育座りをした。


「座敷わらしごっこか」


「お兄様なんて知らないから。許して欲しかったらうちを慰める為にここまで来なさい」


「そういえばありすの受験って終わったんだよね?」


「かまえー」


 かまちょちゃん……じゃなくて、拗ねた依が叫びながら俺に突進してきた。


 まあそんなことはどうでもよくて。


「その言い方だとありすが受験失敗したみたいに聞こえるだろ」


「まだ結果は出てないから受かったかはわからないじゃん」


「確かにそうだけど言い方な?」


「あれ? うちのこと完全無視の世界線? 泣くよ?」


 さすがに依が可哀想になってきたので右手だけは依を構うことにして、レンと話しながら右手で依の頭を撫でる。


「うちはそんなチョロい女じゃないぞ」


「そんなだらしない顔して何言ってんのか」


「れんれんが構ってくれたー」


「……うざ」


「おい、小さい声でガチっぽく言うな。ほんとに泣くぞ」


 水萌に名前を呼んでもらったおかげなのか、今日の依はテンションが高い。


 確かに少し相手をするのは疲れる。


「依ってしゅんとすると異常なぐらいに可愛くならない?」


「ギャップがすごいからだろ。なんか物足りなさはあるけど」


「そうやってうちが本気で落ち込んだ時だけ優しくして。うちの痛めつけられた心の傷はそう簡単に治らないから」


 依はそう言いながらもニマニマして嬉しそうだ。


 実は蓮奈れな以上に素質があるのかもしれない。


「依ってさ、褒めれば褒めたで嫌がるじゃん?」


「嫌がってはないよ。照れてるだけ」


「ほんとにめんどくさいよね」


「あれ? 今うちのセリフカットされた?」


「カットはしてないよ? 無視はしたけど」


 依に無言で頬をつねられた。


「あんまりそうやってうちで遊んでると嫌われるよ」


「……ごめんなさい」


 依に嫌われるのは困るので素直に謝る。


 こういう時は自分の非を認めて謝るにすぎる。


「でた、急に弱くなったフリしてうちを悪者にするやつ」


「正確には依の嗜虐心を煽って楽しんでもらおうかと思って」


「うちは別にドMでもドSでもないんだけど?」


「え?」


「おいやめろ。れんれんからも言ってやれ」


「え?」


「知ってたよ! 水萌氏!」


「ありすちゃんの合格のお祝いって何かやるの?」


「知ってたよ!」


 依は本当にいい反応をしてくれる。


 やっぱりこれは依がいい反応をしすぎるのが悪いんであって、俺達は悪くない。


 そう、仕方ないことなんだ。


「開き直りの香りがするぞ」


「みんな依のことが大好きなんだよ」


「いきなりそんなこと言うなし」


「それはそうと、ありすの合格祝いな」


「上げて落とすも好きよな……」


 依がまた拗ねて部屋の隅に行って体育座りをする。


 とりあえず放置するけど、自分でやっててなんだが、そろそろ可哀想に見えてくる。


 だからって依を普通に構うと依が調子に乗ってめんどくさいし、どうすればいいのか。


「依って何したら純粋に喜ぶと思う?」


「よりが純粋?」


「そこは気にしないで」


「まあ普通に水萌を与えとけば喜ぶだろ。それかサキ」


「それが今の状況では?」


 水萌を依と二人っきりにしたら水萌に蔑まれすぎて依が新しい扉を開いてしまう。


 俺と二人っきりになったら、多分今と変わらない。


「なんだかんだでよりも喜んでるだろ?」


「うちは傷心中でーす」


「ほら」


 依の拗ねが演技なのはわかってるけど、全てが演技だとは思わない。


 きっと少しは本気で落ち込んでいると思いたい。


「それか紫音しおん?」


「ここで紫音が出てくるか」


「よりって紫音のこと好きだろ?」


 レンが放ったその発言を聞いた依の顔がボっと赤くなる。


「た、確かに紫音くんのことは好きだけど、そういうのじゃなくて普通に友達としてだけど!?」


「いや、そのつもりで言ったんだけど?」


「そ、そうだよね。なんかマジっぽく反応しちゃったけど、本当に紫音くんは友達として好きなだけだからね?」


 別にみんなわかっている。


 少なくとも依は紫音のことを友達と思っている。


 紫音がどうかは知らないけど。


「これはただの興味本位っていうか、なんとなくで聞くだけだから適当に答えてくれていいんだけど、依って紫音を一人の男子としては見れるの?」


「また難しい質問だね。要は異性として、好きの対象として見れるかってことだよね?」


「そう。依と紫音が付き合う可能性はあるのかって話」


 紫音は可愛いけど、俺と同じで男だ。


 俺と同じでたくさんの女子に囲まれてるのだから、俺がレンと付き合ったように紫音も誰かと付き合う可能性だってあってもおかしくない。


 そんな素振りは一切見てないけど。


「まあ可能性で言ったらあるんだろうね。うちは紫音くんのこと友達としては好きなわけだし」


「そりゃそうか。まあ紫音は依と二人になるの嫌がってたけど」


「そういうのは本人に聞かせるもんじゃないでしょ?」


「いい意味で」


「その言葉は全てを解決させる魔法の言葉じゃないんだよ」


 またも依に頬をつねられる。


 紫音が依をどう思ってるかはわからないし、わかってたところで俺が何かすることはないけど、もしも二人が付き合うのなら祝福する。


 毒舌王子とサンドバッグ姫のカップリングなんてお似合いすぎる。


 まあ今のところはそんな未来が来ることはないだろうけど。


 そこからは依と紫音の話はやめて、愛莉珠ありすの合格祝いの話を進めた。


 合格すること前提の話し合いだけど、最近元気の無い愛莉珠を見てると、合格のお祝いじゃなくて、最悪の自体も想定しないといけなくなる。


 そんな未来が来ないのは知っているのだけど。

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