番外編 親ーず集合
「大姉御、重役出勤お疲れ様です」
「その呼び方やめろって言ってんだろ舎弟二号。それと私は言われた時間に来てんだよ、違う時間教えたろ舎弟一号」
大晦日の今日、私の自称舎弟である吾郎くんの提案で親ーずが集まって飲むことになった。
そして最後に私達の姉御である咲良さんがやって来て席につく。
「やっぱり姉御である咲良さんには最後に来てもらわないとと思って」
「次に私のことを名前で呼んだら今日の支払いはお前な?」
「調子乗りました。さすがにこれ以上出費を増やすと唯さんが怒るのでお許しを」
悠仁くんがテーブルに手をついて咲良さんに謝る。
そういえば最近娘である水萌ちゃんに色々といい物を買い与え過ぎだと唯さんがボヤいていた。
「それで、なんでいきなり集まろうなんて言い出したんだよ」
「まぁ、普通に俺達の子供が繋がって、俺達もまた繋がりを持ってきたじゃないっすか。なんで、昔みたいに集まりたいなって」
「そういうね。まあ私も陽香には話したいことがあったしちょうど良かったけど」
咲良さんがピーナッツをポリポリと食べながら話を聞いていた私を睨んできた。
「私ですか?」
「……ほんとお前変わったよな」
「確かに変わったかもです。昔はピーナッツ好きじゃなかったんで」
昔はピーナッツみたいな一つが小さくてチマチマ食べないといけないものが嫌いだった。
だけど大人になってお酒を飲むようになってからはこういうのが大好きになっている。
「そうじゃないけど、まあいいか。それよりもお前の息子はもう少しなんとかならないのか?」
「舞翔が何か?」
ずっと私は舞翔に自分の仕事を隠していた。
だからシングルで生活が苦しいと思っていた舞翔がアルバイトをしたいと言ってきたので、私は咲良さんに頼み込んで舞翔をアルバイトとして雇ってもらった。
隠してた理由としては、単純に私が大翔さんの夢を壊したことを話したくなかったから。
ほんとに自分勝手で嫌になる。
「お前の息子に私をからかって遊ぶのやめさせろ」
「さすが舞翔くんだな。あのさく……三上先輩をからかうなんて」
「悠仁さんは昔からかおうとして半殺しにされたんですよね?」
「あれで二度と先輩には逆らわないと決めたよ……」
悠仁くんが遠い目をしている。
確かあれは咲良さんと出会ってすぐの頃だ。
咲良さんは昔からかっこよくて、男子に間違われることもあった。
だけど名前が『さくら』というのを聞いた悠仁くんが「可愛い名前」と、少し馬鹿にしたように言ったら、悠仁くんは次の瞬間には倒れていた。
それからだろう、大翔さん以外に咲良さんを名前で絶対に呼ばなくなったのは。
「あいつの息子だってほんとに思うよ」
「咲良さんは未だに大翔さんのことが好きで結婚できないんですか?」
「お前、ほんとに変わったよな。絶対にあいつの悪影響受けてるだろ」
咲良さんが呆れたようにため息をつく。
咲良さんは大翔さんのことが好きだった。
だけど大翔さんは私のことを好きになってくれたから、咲良さんは想いを告げることもなく、だけど今も初恋を引きずって誰とも付き合うことすらしていない。
意外にピュアなのだ。
「陽香、お前今なんて思った?」
「咲良さんはピュアで可愛いって」
「訂正する。舞翔はお前と大翔の悪影響を受けたからああなったんだな」
「いい子ですよね」
「そうだから困るんだよな。仕事はちゃんとやるし、私の無茶ぶりも文句は言うけど普通にこなしやがる」
「パワハラしてるからからかって仕返しされてるのでは?」
「あ?」
悠仁くんが正論をぶつけたら咲良さんに睨まれて唯さんに隠れる。
悠仁くんはほんとに昔から変わらない。
「舞翔は大翔にそっくりなんだよな。人の気持ちに寄り添える。しかもあっさり悩みも解決しやがるから腹立つけど、尊敬する」
「それは俺も思います。舞翔くんがいなかったら今でも娘達とすれ違いを続けてたと思いますし。大翔と同じで、踏み込むべき場所がわかってるんですよね」
「舞翔と大翔さんがすごいのは認めるけど、悠仁くんと唯さんはまだ反省が足りてないんだからね?」
息子と旦那が褒められるのは気分がいいけど、悠仁くんと唯さんに関してはまだ許していない。
最近はそれなりに話すようになってきたみたいだけど、だからって水萌ちゃんと恋火ちゃんを傷つけたことは変わらない。
まあ私が言えた義理でもないんだけど。
「反省と言えば、二号」
「なんですか?」
「お前言ったよな? あいつの面倒は見るって」
「それに関しては何も言い訳できません。確かに仕事が忙しくなって自由にする時間は増えましたけど、まさか姐さん達にも迷惑をかけてるなんて思わなかったっす……」
吾郎くんが歯を食いしばりながら手を強く握る。
「言い訳してんじゃねぇかよ」
「吾郎くんに言っとくけど、あの人が迷惑をかけた相手って私達じゃなくて子供達なんだからね?」
「……わかってます」
私も知らなかったけど、依ちゃんを舞翔と同じ学校に通わせて、舞翔の友達作りを邪魔させたりもしていたらしい。
まあ舞翔の場合はそんなのなくても一人でいたと思うけど。
「陽香はまあいいとして、悠仁と唯もだ。顔を変えてたみたいだけど、お前らがもう少し娘達と話し合って、もう少し家のことを考えてれば気づけてたことだろ」
「ぐうの音も出ないです」
「右に同じですね」
悠仁くんと唯さんがしゅんと小さくなっている。
この二人は私ももう少し反省が必要だとは思ってるからいいんだけど、なんかモヤッとする。
「ったく。お前らもう少し対話をしろよ」
「……」
「陽香、何か言いたいことあるのか?」
「いや、実は舞翔からとある話を耳にしたんですよね」
「……なんだ?」
「絶対察した。実はですね、とある店長さんが自分の親戚の子を預かることになったんですって。ですけどその店長さんはその親戚の子が預けられる本当の理由をわかっていたのに距離を置いたらしいんですよ。それでその親戚の子はすごく自分を責めて、舞翔だけが心の拠り所になったみたいで。だけどその店長さんは自分が親戚の子を追い込んだことを棚に上げて他の人を責め立ててるんですよ」
「……それは本当にすみませんでした」
咲良さんが私に頭を下げる。
「対話が必要だって知ってるのに、なんで距離を置くんでしょうね」
「あ、陽香さんが怒った」
「あれは許す気ないやつだ」
「姐さんが本気でキレたら止められるのは大翔の兄貴しかいないのに」
「陽香は簡単には酔わないから飲まして潰すこともできないんだよな」
「反省の意思はないと」
「おい、誰か陽香の弱味握ってるやついないのか」
どうやら本当に反省する気はないらしい。
私は最後のピーナッツを噛み砕いて全員を見据える。
せっかく集まったんだ。
昔みたいに言いたいことを言い合ってもいいじゃないか。
ということで私はお説教を開始する。




