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波乱だらけのお渡し会

「はい、一番にチョコを渡したい人挙手」


「一番はありす!」


 色々あったが、やっと本題に入る。


 どうやら一番最初に俺へチョコをくれるのは元気に手を挙げる愛莉珠ありすのようだ。


「ありすって一番に何かするの好きだよな」


「だってみんなキャラが濃いからありすみたいな普通な子は後になると『あ、こんなもんか。可愛いのは結局顔と体と性格だけなんだ』って思われちゃうから」


「安心しろ、ありすは多分負けず劣らずキャラが濃いから」


 愛莉珠が他の子にキャラの濃さで負けてるとは思わない。


 むしろ勝ってるまである。


「ありすの渾身のボケはスルーなの?」


「可愛いってやつ? 俺はありすから何を貰っても幻滅はしないし、実際顔も体も性格も可愛いだろ」


 愛莉珠は自他ともに認める美少女なんだから、それをボケとは思わなかった。


 そしてその愛莉珠がより一層可愛くなっていく。


「か、体も可愛いなんて、先輩のえっち……」


「なんで顔を赤らめる。ありすは小さくて可愛いだろ」


 愛莉珠が頬を赤く染め、両手で頬を押さえている。


 愛莉珠だけでなく、レンと水萌みなもにも言えるけど、小さい子は可愛い。


 なんて言うとまた『ロリコン』とか言われるだろうけど、多分俺は上目遣いや下から見上げられるのが好きなんだと思う。


 だから俺はロリコンではない。


蓮奈れなさん、先輩は小さいのが好きだそうですよ」


「それをなんで私に言うのかな?」


「一番大きい人だからです」


「ありすちゃんは私のコンプレックスをいじるのは駄目だよ」


「でも先輩相手にならむしろ押し当ててますよね?」


「だって舞翔くんって余裕そうに見えてウブだから反応が可愛いんだもん」


 蓮奈が無邪気な笑みを浮かべながら言う。


 最近、たまにだけど俺に「疲れたー」とか言って抱きついてくることがあったが、まさか俺の反応を見て楽しむ為にやっていたとは。


 シンプルにやめて欲しい。


「先輩は女の子の扱いは上手だけど、女の子に耐性はないんだよね」


「そうそう、一緒に寝るとか、抱きしめるとかは大丈夫だけど、お風呂とか女の子の部分に触れるのは恥ずかしいんだよね」


「先輩可愛い」


「俺をいじるのかチョコを渡すのかどっちかにしてくれる?」


 愛莉珠と蓮奈が仲良くなったのは嬉しいけど、せっかく本題に戻れたんだから脱線しないで欲しい。


 というか俺をからかうのをやめろ。


「先輩はそんなにありすのチョコが欲しいんだぁ」


「欲しいからはよ」


「うわ、雑。そんな先輩には『オプション3』だ」


 愛莉珠はそう言うと、自分の鞄から一口サイズのチョコを取り出した。


 そしてそれを自分で食べる。


「なに、見せつける系のやつ?」


「ひらいまふー、ほうふるんれふー」


 愛莉珠の顔がどんどん近くなっていく。


 そして……


「おい」


 案の定レンが愛莉珠の肩を掴んで止める。


「ひゃい?」


「何しようとしてる?」


「ひょほをわはほうほ?」


「とりあえず飲め」


「えー……」


「飲め」


「ひぁい……」


 レンの眼圧とあげた右手を見た愛莉珠が慌てた様子でチョコを飲み込む。


「それで?」


「いや、その、普通にあげてもインパクトが弱いかと思いまして、それで、その……」


「で?」


「……ごめんなさいです」


 レンの圧に負けた愛莉珠が今にも泣き出しそうな顔で謝る。


「レン、怖い」


「お前もお前だからな? 普通に受け入れようとしてたろ」


「だって絶対にレンが止めるだろ?」


「もしもオレが止めなかったらどうするんだよ」


「それは俺が飽きられたってことだからとりあえずありすを止めて慰めてもらう」


 愛莉珠だって止められること前提のイタズラだろう。


 レンだってそれをわかってはいるけど、わかっていても抑えられないのがレンだ。


 だから俺は何もしないでレンを待っていたのだけど、本当にレンが動こうとしなかったらさすがに愛莉珠を止めている。


「ったく。次はないからな」


「でた、レンのツンデレ」


「蓮奈さん、サキを可愛がる権利いります?」


「え、欲しい。ストレス発散にいいんだよね」


 なんだかさりげなくやばいことが約束された気がする。


 俺がレンをからかいすぎて、しかもレンから何をされてもやめないからといって、蓮奈を使うと?


「さっそく後でやろうかな」


「やだ」


「だーめ。舞翔まいと君に逆らう権利ないの」


「……ありす、慰めて」


「ほんとに先輩ってそういうのに耐性ないよね。ありすじゃ貧相すぎて練習にもならないだろうけど、ついでにね」


 愛莉珠はそう言って俺に向かって俺の足の上に馬乗りする。


 そしてさっきのチョコをもう一度取り出した。


「この耐性えっちだ」


「そういうのいいから。またレンに怒られるよ?」


「それは駄目だ。じゃあちょっとえっちなあーん」


 愛莉珠が俺に体をくっつけながらチョコを口元に運んでくる。


 これは確かに練習になるかもしれない。


 まあ今現在すぐにでも離れたいのだけど。


 とりあえずこの体勢を終わらせる為にチョコを食べる。


「ごめん、ちょっと指食べちゃった」


「わざと食べさせたの」


 愛莉珠はそう言ってチョコを運んできた指を舌でチロっと舐める。


「甘いチョコのはずなのに、大人の味がする」


 愛莉珠が細目で俺を見つめてくる。


 なんか妖艶で、大人っぽく、だけど……


「顔赤いぞ」


「うるさい! 先輩だってドキドキしてるくせに!」


「俺以上に心臓ドキドキさせてる人がいると逆に落ち着くんだよな」


「くっ、本当に落ち着いてきてるし。おねえちゃーん」


 愛莉珠が涙目で水萌みなもに駆け寄る。


 そして水萌が愛莉珠を受け止めて「よしよし」と言って頭を撫でている。


「なんかいつもの光景だ」


「まーくんだもんね」


「まるで俺がありすを返り討ちにして楽しんでるみたいな言い方やめろ」


 愛莉珠に代わって今度は呆れ顔の紫音しおんと蓮奈がやってきた。


「あれはありすちゃんの自爆だよ。恋火れんかちゃんだってこうなるのわかってるから止めないし」


「つまり僕達もこっちがまーくんよりも照れれば何しても平気ってことだよね?」


「しおくんは駄目。舞翔君の部屋の床に血溜まりができちゃうから」


 蓮奈は何を妄想しているのか。


 紫音が俺に愛莉珠がやったようなことを本気でやるわけがない。


 いくら紫音が可愛い系男子だとしても、男子なことに変わりないんだから。


「ティッシュで頑張って」


「箱ティッシュかトイレットペーパー常備しようかな」


「冗談はそこら辺でいいから、二人はくれるの?」


 俺が言うと催促してるみたいで嫌だけど、さすがに愛莉珠に代わって前に出てきたんだからチョコを渡しに来てくれたんだと思う。


 それなら早く貰いたい。


「そんなに欲しいならあげようじゃないか。まあ私は結局作らせてもらえなかったから市販のだけど」


「まーくんの舌がバカになったら僕達のを本当の意味で楽しめなくなっちゃうんだから仕方ないの」


「そんなに酷くないもん。舞翔君は手作りと市販で区別しないだろうからいいけど、来年はリベンジするから」


 蓮奈はそう言って最後までチョコたっぷりなお菓子を開封して一本取り出し、俺の口にくわえさせた。


「今年は合コンごっこだけで諦めるよ」


「……」


「なんか恋火ちゃんからの圧を感じるけど、気づかないフリしてやるだけやって、さっきの舞翔君を可愛がる権利を使ったことにしたらセーフかな?」


「……」


「あ、駄目そう。じゃあせめて──」


 蓮奈が俺のくわえてる方とは逆の方をくわえて一口かじる。


「私を一緒に召し上がれ」


「恋火ちゃんジャッジは……、ギリギリセーフなんだ」


 レンの圧が解けて緊張感が無くなる。


 ぶっちゃけレンのセーフのラインはどこなのかわかりにくい。


 とりあえずいつまでもくわれてても仕方ないので食べることにした。


「ごちそうさまでした」


「……」


「どした?」


「いや『私を一緒に召し上がれ』とか言ったけど、それで『ごちそうさまでした』って言われて、なんか恥ずかしくなってきた」


「だったら言うなよ」


 愛莉珠といい蓮奈といい、恥ずかしくなるなら最初からやらなければいいものを。


 俺だって無傷ではないんだから。


よりちゃーん」


「お姉ちゃんも自爆。じゃあ今度は僕だね。僕はどうしよっかな」


「普通にちょうだいよ」


「いやいや、ここまできて普通にあげるだけじゃつまんないでしょ」


 つまるつまらないの話なのだろうか。


 もう普通に貰って普通に食べたいのに、紫音は「いいこと思いついた」と、何やら悪い顔をしている。


「まーくん……いや、()()


「やめとけ、それは俺よりもそこの腐ってる二人に刺さる」


 紫音のやりたいことはわかったけど、俺にはそういう趣味はないから、俺よりも後ろですごい期待の眼差しを向けている二人の腐ってる女子達が反応してしまう。


「なに、()以外のやつのこと考えてるの? そんな悪い子にはイタズラしないとな」


 紫音がノリノリで鞄からマフィンを取り出す。


「さすがはパン屋のバイト」


「その余裕の表情がいつまで持つのかな」


 紫音はそう言ってマフィンを俺の口元に運んできた。


 俺はそれを一口食べるが……


「うわぁ、やっと普通に美味いやつ……」


 愛莉珠の時は味を楽しむ余裕はなかったし、蓮奈のは市販ので、やっぱり味を楽しむ余裕がなかった。


 だけど紫音のは俺にそういう趣味がないおかげで余裕を持って味を楽しめる。


「さすがはパン屋のバ──」


 さっきと同じことを言おうとしたが、最後まで言えなかった。


 紫音が口元に口付けをしたから。


「こういうのって『おべんと付いてる』って言えばいいのかな?」


 どうやら俺の口元にマフィンの欠片が付いていて、紫音はそれを取ってくれたらしい。


 それはありがとうなんだけど、耳元で「お茶目さん」と囁くのは駄目だ。


「なるほど、これはやばい」


「ストップ。紫音はさっさと離れろ。それとお前らは床を汚さないように気をつけろ」


 どうやら紫音のこれはレンのストップ判定に入るようだ。


 まあ、さすがに俺も新しい扉を開きそうだったし、()()も鼻を押さえる子がいるなら仕方ない。


 とりあえずチョコのお渡し会は一旦中止になった。

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