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そのままの君でいて

「お兄様がおこだから例のものを」


「そう言いながらまーくんに怒られるのが怖いから自分でやるよりちゃんなのであった」


 水萌みなもの様子はあきらかにおかしかった。


 目はとろけていたし、ほっぺたもいつもより赤く見えた。


 そしていつも眠りにつくのが早い水萌だけど、今のはさすがに早すぎる。


 その全てを合わせて考えると、水萌に何かをしたのは確実だ。


「どうぞ、お納めください」


「依、ふざけてるなら怒るけど?」


 依が頭を下げながら見覚えのある箱を俺の前に差し出してくる。


 どうやら水萌が俺の机に入っていた謎の箱を持ち帰ってきていたらしい。


 そしてその箱を開けた結果が水萌の暴走。


「ていうか、誰からかのものかもわからないのに勝手に開けるなよ」


「水萌氏は誰からのものか知ってたみたいだよ?」


「それはそれでどうなの?」


 水萌は誰が俺の机にこれを入れたのかを知っていた。


 つまりは俺に何かを渡したかったのだろう。


 それを俺が見る前に勝手に開けるのはよろしくないのでは?


「これがぐうの音も出ないってやつか。でもさ、名前も何もないプレゼントを開けられる?」


「普通に無理。俺的には勝手に開けてくれて助かったけど、別に俺も一緒に開けて良かったんじゃないの?」


「それはうち達の嫉妬だから許して」


 ちょっと何を言ってるのかわからないけど、そういうことにしておく。


 今はとりあえず水萌が酔った原因だ。


「ちなみになんだけど、依達的にはこれって嫌がらせだと思う?」


 水萌が酔っている。


 多分だけどいくら水萌でも勝手に食べることはしないと思う。


 だから香りだけで酔っている。


 それだけ強いアルコールが入っているものがこの中にあるのなら、それは俺に飲酒の疑いをかけるタイプのやばい嫌がらせの可能性がある。


「うち達がなんともないんだから違うよ。普通に水萌氏とれんれんが弱すぎるだけ」


「あ、やっぱりレンもなんだ」


 水萌はあからさまにおかしかったからすぐに気づいたけど、レンも確かにおかしかった。


 何せ、水萌に押し倒されて抗わなかったのだから。


「あれか、水萌は酔うとキス魔になって、レンはされるがままになると」


「お兄様、れんれんを酔わせてどうするつもり!」


 なんか依が嬉しそうなので無視をする。


 とりあえず水萌の様子がおかしかった理由はわかったが、ちょっと引っかかることがある。


「水萌って甘酒じゃ酔わなかったんだよな」


「甘酒ってアルコール入ってないでしょ?」


「しおくん、アルコールが入ってるチョコの香りで酔っちゃう子ってね、甘酒でも雰囲気酔いしちゃうものなんだよ」


「そうそう、多分れんれんはガチ酔いするよ」


 紫音しおんには何を言ってるのかよくわからないだろうけど、オタク脳の持ち主からしたら常識のことだ。


 甘酒で酔う美少女と洋酒入りのチョコで酔う美少女。


 そしてなぜか異様に催眠術に掛かる美少女は。


「逆にありすちゃんは強そうだよね」


「それはわかる。ちなみに酔えないけど酔ったフリしてる美少女ってどう思う?」


「「可愛いしかない」」


 どうやら俺と依と蓮奈れなは趣味嗜好が同じようだ。


 アルコールに強くていくらお酒を飲んでも酔えないけど、普段言えないことを酔ったフリをして言ってしまうが、フリなのがバレて恥じらう子は可愛い。


 だけどそれは『美少女』と言っていいのだろうか。


 少女はお酒を飲めないのだけど。


「二十歳を超えた可愛い系のヒロインって美少女って言っていいのかな?」


「童顔なら美少女でしょ。綺麗な顔立ちで、普段は主人公をかかってるけど、たまに不意打ちくらって可愛くなるのは美女かな」


「可愛い系美女って矛盾してるみたいだけど、二次元ってなんでも組み合わせられるからすごいよね」


「キモカワ的な?」


『キモイ』と『可愛い』が同居するのは意味がわからない。


 だけどそれが言葉として成立するのだから面白いものだ。


『ツンデレ』や『ヤンデレ』と言った、様々な組み合わせ属性。


 日本人特有の考え方なのかはわからないけど、たとえ真逆の性格でも同居させてしまうのが二次元のすごいところだ。


「さて、紫音が置いてきぼりになってるから本題に戻ろうか」


「僕には難しすぎるお話だった」


「紫音の『可愛い男の子』もそうなんだよな」


「お兄様って『おとこの娘』とは言わないよね」


「紫音は娘ではないからな。あくまで可愛い男の子だから」


 紫音は男ということだけは変えてはいけない。


 そのラインを越えたら、何かが崩壊するような気がするから。


「僕的にはまーくんになら女の子扱いされてもいいって思ってるよ?」


「やめなさい。紫音が男ってことが俺が安心できるところなんだから」


 紫音が男でなかったら、俺は六人の女子に囲まれていることになる。


 それだとまるで俺がハーレム主人公みたいになってしまう。


 だけどそこに紫音という男子が一人いてくれることによって、ハーレムでも俺が主人公でもなくなる。


 知らないけど。


「よくわかんないけど、まーくんは僕が居ると安心するんだ」


「する。だから紫音はそのままでいてくれ」


「うん、まーくんの為に僕は僕でいるね」


 結局真剣にお願いしたつもりだったけど、紫音はなんだか嬉しそうにふわふんしている。


 本当にわかってくれたのだろうか。


「れなたそ」


「なんだい依ちゃん」


「うちさ、どうしてもあの二人でBLを展開できないんだけど、れなたそはできる?」


「無理だよ。だってしおくんが恋する乙女なんだもん」


「そうだよね。これはあれかな『紫音くんチャラ男計画』を実施しなきゃかな?」


「なるほど、舞翔まいと君を受けにすると。いや、チャラついてるしおくんを舞翔君がいつもの調子で攻めるのもいいのか……」


 なんだか近くで花園が腐るような会話が聞こえてくるので、紫音と一緒に謎の箱を開けることにした。


 開けてみると、そこには一つ一つが区切られている高そうなチョコが入っていた。


 そして確かに少しアルコールの香りがする。


 なのでそっと蓋を閉じてローテブルに置いた。


 やっぱり嫌がらせなんだろうか。


 水萌は誰が俺の机に入れたか知ってるらしいし、これ以上嫌がらせが続くなら相応の対処をしなければいけない。


 今はなんだか考えがまとまらないから今度考えることに……しましたでした。

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