閑話休題 一方そのころ
「終わると思ったか、終わらないんだよ!」
「依ちゃんのいつもの発作が出たよ」
なんだかいい感じで終わりそうな雰囲気を感じたから叫んでみたけど、紫音くんに呆れられてしまった。
「紫音くんが冷たいからありすちゃん構って」
「わたしって先輩いないと人見知りがすごいですよ?」
「それがむしろそそ……とか言ったらお兄様に怒られるから言わないけど、構って」
うちはそう言ってありすちゃんの手に自分の手を伸ばすが、途中でやめた。
「あ、今ので依さんのこと好きになりました」
「今まで嫌いだったのか……」
「正直、依さんと紫音さんと蓮奈さんはどう接したらいいのかわかってないのが本心です」
「それもそうだよね。よし、じゃあこの際だからみんなで仲良くなっちゃおー」
ありすちゃんとは出会って一ヶ月は経っているけど、全てお兄様が一緒に居た。
だからこうしてお兄様抜きで話すのは初めてだ。
「そうだね、僕達も仲良くなりたかったし」
「うん。舞翔君抜きで会うことも少ないしね」
「うんうん、お兄様の仲直りはどうせ成功してるだろうし、うち達は仲良しになっておこー」
うちが手を掲げながら言うが、紫音くんとれなたそは普通に無視してありすちゃんの隣に座る。
うん、これはお兄様の悪影響を受けているぞ。
「こういう時はお互いを知ることが大切だよね」
「そだね。じゃあしおくんから質問攻めにしていいよ」
「おいおい、そんなことされたら困っちゃ──」
「じゃあ依ちゃんのご趣味は?」
「そんな合コンみたいな質問して。まあいいけどね、えっと……っておい! なんでうちに質問すんのさ!」
「この際に仲良くなるんでしょ?」
紫音くんが笑顔でうちに言う。
これはからかわれているんだよね?
そうだよね……?
「じょ、冗談だよ? まーくんが依ちゃんをからかって遊んでるのをやってみたくて、ごめんなさい。僕は依ちゃんのこと大好きだから」
「私もやろうとしてたからごめんなさい。それどころじゃなさそうだけど」
れなたその嬉しいな顔が腹立つ。
うちが紫音くんに「大好き」と、建前で言われたのをわかっているのに照れたのが悪いんだけど、やっぱり腹立つから襲う。
「うがー」
「おい、こら! この場に舞翔君がいないからって揉むな」
「ありすちゃん、あっちで話そ」
「あ、紫音さんも先輩と同じで耐性ない感じなんですね」
「まーくんと一緒……うん、ない。それよりも、ああいうことってまーくんがいるところだと恥ずかしがって出来ないのに、僕の前だと出来ることが不思議でしかないんだけど」
紫音くんが後ろ姿だけど呆れているのがわかる。
だって紫音くんはお兄様と違ってちゃんと顔を赤らめてくれたりして可愛い反応を見せてくれるから。
「依ちゃんってさ、着痩せするタイプでしょ」
「やめろ、うちが実は巨乳だってバレたらお兄様に嫌われるだろ」
「そこまでは言ってない。私のこと襲ったんだから私もやっていいよね?」
「え、いや、女の子同士でそういうのはうちにはまだ早いと言いま、って服を脱がすな! うちは服の上から──」
紫音くんが耳を塞いでくれた。
ありすちゃんはなんかガン見してるけど、うちは少しの間、目の色が変わったれなたそに襲われたのだった……
「依ちゃんふっかーつ」
「おはよ。昨日は舞翔君のこと考えすぎて寝れなかったの?」
「うちを快楽の海に沈めた張本人が白々しい」
なんかありすちゃんを含めた三人でガールズトークをしてる感じのれなたそがこちらに見向きもしないで適当なことを言ってくる。
せめて見ろ。
そしてうちを混ぜろ。
「依ちゃんも目を覚ましたから依ちゃんの悪口大会はやめよ」
「そうですね。依さん拗ねちゃいますし」
「拗ねないと思うよ? むしろ楽しくなりそうだから続けてみよ」
なんか目の前でうちの悪口が言われそうになっている。
本人のいないところで言う悪口は陰口になるからいけないことだけど、だからって本人の前で悪口を言っていいんけじゃないと思う。
泣くよ?
「じゃあ続きね、依ちゃんはねぇ、一人でなんでもやりすぎなんだよね。勝手に責任感じて勝手に全部なんとかしようとする。もう少し僕達を頼って欲しいよね」
「わかる。そのくせ構われないと拗ねるんだからね」
「それはそれで可愛いですよね。先輩も依さんのそういうところが好きなんでしょうし」
「よしわかった、それ以上はやめとけ。依ちゃんのライフが尽きる」
何が悪口大会だ。
そういうのはお兄様にだけやりなさい。
「そういえば大晦日にうちにお泊まりした依ちゃんの可愛い寝顔見る?」
「あ、見たいです。わたしも先輩のは見せたくないので見せられないですけど、水萌お姉ちゃんと恋火さんのなら持ってますよ」
「じゃあ司法取引といこうか。さすがに依ちゃんの寝顔で舞翔君のとトレードは価値が釣り合ってないからね」
なんか本人の前で不当な取引きが行われそうで、しかも失礼なことまで言われてる気がする。
まあ、うちは寛大だから『相応の対応』で許してあげるけど。
「じゃあこれが可愛い依ちゃんのねが、って、ちょい!」
「あ、可愛い」
れなたそがうちのあられもない姿をありすちゃんに見せたのを確認してから、うちは自分のスマホに貯蔵しておいた秘蔵品をれなたそのスマホに重ねる。
「見せていいのは見られる覚悟のあるやつだけだぞ」
「今すぐ消せー!」
れなたそがうちのスマホを奪いさろうとしたのでうちが先にスマホを回収する。
れなたそのも含めて。
「油断も隙もないんだから」
「依ちゃん、私のスマホで何をした」
「それはもちろん、ひ・み・つ」
「消していいのは消される覚悟のあるやつだけだぞ」
「戦場は隙を見せたやつから死んでいくのさ」
「隙ってのは生まれるものじゃなくて生むものなんだよ!」
れなたそがそう言ってうちに襲いかかろうとする。
だけどうちに同じ手は効かない。
「甘い!」
「甘いのは依ちゃんの匂いだ!」
「なんか色々とまずいからやめろ!」
れなたそを避けて背中に回り込むうちだったけど、それを読んでいたのかれなたそが振り返って睨み合う。
「なんか二人が楽しそうに遊んでるから僕の依ちゃんと交換する?」
「おー、語弊しか生まれない言い方ですけど、やっぱりみんな寝顔は撮りますよね」
「うん。あ、僕はお姉ちゃんがやってたから真似しただけで、変な意味とかないからね?」
「先輩には見られない初々し反応。ごちそうさまです」
なぜだろうか。
うちとれなたそは女子同士で取っ組み合いをしているのに、男女の紫音くんとありすちゃんの方が女子同士のつつき合いをしている。
そういうとこだぞ、紫音くん。
「そういえば紫音さんは先輩にバレンタインあげるんですか?」
「どうしようかなって思ってる。今って男の子があげるのもあるんでしょ?」
「そうですね。逆チョコってやつで」
「なら作ろうかな。お姉ちゃんは作るなら一人で作ったら駄目だよ?」
「えー」
うちと取っ組み合いをしていたれなたそは、飽きたのか自分のスマホを回収して拗ねながら紫音くんの隣に帰って行った。
れなたそはダークマター製造機らしいので、お兄様同様でうちも一度れなたその料理を食べてみたい。
「依ちゃんもあげるんでしょ?」
「一応ね。紫音くんにもあげるから」
「ほんと? やったー」
正直バレンタインデーにいい思い出がないから好きではないけど、お兄様も紫音くんも大切な異性なのであげない理由がない。
まあでも、今年はちょっと楽しみではある。
お兄様の驚く顔が見れるかもしれないから。
「あ、依ちゃん。いくらなんでも、舞翔君へのチョコに変なもの入れたら駄目だからね?」
「れなたそに言われるのだけは納得いかないんだけど。れなたその料理見たことないから知らないけど」
「私は一応食べれるものしか入れてないから。そういうのじゃなくて、愛が重すぎてチョコに『異物』を混入させたら駄目だよって話」
うちは無言でれなたそのれなたそを揉みしだいてやった。
うちをなんだと思っているのか。
それなら自分にチョコをかけてやるわ。
……ちょっと面白そうとか思ってない。
思ってないよ?
思ってないけど、バレンタインが余計に楽しみになったのは言うまでもない。