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仲直りは成功

「いやさ、確かに合鍵渡したけど、なんで俺の部屋でイチャついてんだよ」


「イチャついてねぇわ!」


 よりに背中を押されて水萌みなもと話す為に俺の部屋にやって来た。


 なんで俺の部屋に居るのかは後で聞くとして、なんかレンが毛布にくるまっている水萌に覆いかぶさっている。


 どんな修羅場に出会ってしまったのか。


「オレはこの強情ばかを説教してただけだ」


「バカじゃないもん!」


「ばかだろうが。くだらない意地のせいで勝手に落ち込んで」


「くだらなくないもん! 私にとっては大事なことだもん!」


 いつもの姉妹喧嘩が始まる。


 なんか懐かしさを感じるのと同時に嬉しさが込み上げてくる。


「何にやけてんだよ」


「なんでもないよ。それより、水萌は俺の話聞いてくれる?」


「……決まったの?」


 水萌が毛布から目元だけを出して言う。


 とても可愛いけど、俺はこれからその可愛い子を怒らせなければいけない。


「単刀直入に言うと、まだわからない」


「じゃあなんで──」


「ちゃんと話そうと思って。今度は絶対に『答えない』はしない」


 水萌の怒りを遮って俺の言葉を伝える。


 依達に協力はしてもらったけど、結局のところ俺がレンを好きになった理由は完全にはわかっていない。


 だけど、今度はちゃんと答える。


 それが水萌の求めてる答えじゃなかったとしても。


 なんとなく察してくれたのか、水萌が毛布から出てきてくれた。


「オレは邪魔?」


「水萌が邪魔だって思うなら出てって」


「その雑な扱いはオレを捨てに来たってことか……」


恋火れんかちゃんも居て。もしも私がまた逃げようとしたらさっきみたいに……」


 水萌がチラチラとレンを見ながらほっぺたを赤く染める。


「おい、変なところで止めるな。まるでオレが水萌に変なことをしたみたいだろ」


「……」


「あからさまに目を逸らすな。サキもなんかまずいものを見たみたいな顔やめろ。お前らほんとは仲直りしてるだろ」


 俺は理解のある人間だ。


 たとえ彼女が自分の姉妹に家族愛以上のものを感じてしまっても見て見ぬふりぐらいはできる。


 だから俺のことは気にせずに続きはよ。


「サキ、後で覚えとけ」


「なんで俺だけなんだよ」


「オレをからかって遊んだから」


「それが俺だ」


「開き直んな。もういい、オレは水萌の味方に付くから」


 レンはそう言って水萌の隣に座り、水萌の頭に軽くチョップをする。


「なんでぶつの!」


「お前もオレをからかったろ」


「え?」


「もう一回、今度は本気でやられたいか?」


「いや、恋火ちゃんがそう思ってないならいいけど……」


「ちょっと待て、からかってるんだよな? そうなんだよな?」


 レンが水萌の肩を揺すりながら必死に問いかける。


 水萌は顔を逸らすだけで何も言わない。


 ほんとにレンは何をしたのか。


「オレは何をしたんだよ……」


「落ち込んでた私に優しい声で『大丈夫』って言ってくれたり、笑顔で私の頭を撫でてくれたり、学校で恋火ちゃんから逃げようとしたら怒ってくれた」


「レンが水萌の彼氏してないか?」


 これだけ思わせぶりなことを言っておいて、実は何もしてないオチかと思ったら結構レンが彼氏していて驚いた。


 いや、普通に見たい。


「再現」


「するか!」


「そうだよ。あれは私と二人っきりの時にしか見せない顔だから」


「は? ずるくない?」


「ずるくないですー。舞翔まいとくんだって恋火ちゃんの可愛い顔独占してるんだからずるいもん」


「仕方ないだろ、俺とレンは付き合ってるんだから」


「それがずるいんだよ! 私だって恋火ちゃんを独り占めにしたい時だってあるもん!」


「話の論点ズレてるし、お前らオレをからかってるだけで仲直りしてるだろ……」


 俺と水萌が睨み合っていると、レンに呆れ顔でそんなことを言われる。


 今の話の論点は『レンが二人っきりの時に違う可愛さを出すこと』だ。


 つまりズレてない。


「舞翔くんの話は後回し。今は恋火ちゃん」


「そうだな。今はレンだ」


「そうやってオレをダシに使って本題を無かったことにしようとしてるだろ」


「「してないが?」」


「あ、はい……」


 俺と水萌が同時にレンを睨みつけながら言うと、レンが呆れたように体ごと引く。


 そしてレンがため息をつきながらベッドから下りて部屋の扉に近づく。


「なんかオレいらなそうだから晩ご飯の準備してくるな」


「「……」」


 レンが疲れた様子で扉に手を掛けながら俺達に言うと、俺と水萌は黙ってレンを見つめる。


「……うん、そっちのが面白そう。じゃあ後はお若いお二人で」


 レンはそう言って楽しそうに部屋を出て行く。


 このままだと沈黙で一日が終わるので、俺から切り出す。


「……あっと、水萌。とりあえず何から話す?」


「あ、えっと、じゃあ恋火ちゃんへの不満?」


「俺もそれがいいと思う。多分扉の前で聞いてるだろうから思ってること全部言ってやろう」


「うん」


 レンのことだから俺達を心配して扉の前でソワソワしながら耳を立てている。


 想像すると可愛いけど、そうするなら最初から出て行かなければいいのだ。


「恋火ちゃんね、ずっと私のことバカバカ言うの。舞翔くんに変なことを聞いて気まずくなったことをバカって」


「レンは水萌の悲しむ姿を見たくないんだよ。って言い方したら自意識過剰か」


「ううん、私の気持ちはわかってるんでしょ? それなら自意識過剰ではないよ。嬉しい」


「そうなのか。水萌としては俺に言ったことを後悔してるの?」


 水萌は首を振って答える。


「舞翔くんと話せなくなってたこの数日はほんとに辛かったけど、後悔はないよ。私は今でも聞きたい、舞翔くんがなんで恋火ちゃんを好きになったのか」


 水萌がベッドの上から俺を見下ろす。


 だけどその表情がとても悲しそうで、見下ろされてる感じがしない。


「さっきも言ったけど、俺はまだレンを好きになった理由はわかってない。わかってないけど、予想ならできる」


「予想?」


「好きになったタイミングなんてわかる方が珍しいんだよね? だから水萌が知りたいのはレンを異性として好きだと言える理由で合ってる?」


「うん。私達のことは友達として好きなのはわかるけど、恋火ちゃんのことはハッキリ異性として好きって言ってるんだから理由があるんだよねってことで」


 確かに俺はレンを異性として好きと言っていたけど、なんでそう思ったのかと言えば、そう思ったからだ。


 ありきたりなことを言えば「好きになるのに理由はいらない」ってやつだ。


「俺って多分本能的にレンのことを好きになったから理由を聞かれても答えられないけど、予想なら多分できる」


「聞かせて。納得するかはわからないけど」


「頑張るよ。まず大前提だけど、俺はレンと出会ってなかったら水萌を好きになってたんだよ」


 水萌が思いっきり頭をベッドに打ち付ける。


「ぽすっ」という可愛らしい音だったから痛みはないだろうけど、いきなりどうしたのか。


「大丈夫、続けて」


「うん。じゃあなんでレンと付き合ってるのかだけど、多分水萌のイメージが悪かった」


「私、舞翔くんに嫌われることしてた……?」


 水萌が今にも泣き出しそうな顔で俺を見てくる。


「違うよ。良い意味でイメージが悪かったんだよ。これは依のせいだけど、水萌って高嶺の花すぎたから」


 依の情報操作のせいで、水萌は完璧超人にされていた。


 だから俺なんかが仲良くするのはおこがましいことだと一歩引いて接していた。


 実際はこうだったけど。


「……」


「睨まない。だからさ、俺って水萌が初めてうちに来る時とか、レンに相談してたんだよ?」


 今では懐かしい思い出だけど、俺は最初、水萌とどう接したらいいのかわからなくてレンに相談していた。


 それに水萌が俺を避けるようになった時も。


「だからここからが予想なんだけど、俺にとってのレンって、ずっと隣に居た存在なんだよ。水萌っていう高嶺の存在と仲良くする相談相手みたいな感じで」


「つまり舞翔くんは私と友達になろうと頑張って、そのお手伝いを恋火ちゃんがやってたってこと?」


「そんな感じかな。詳しいところは違うだろうけど、俺は水萌をレンと一緒に追いかけて、追いついた時にはずっと一緒だったレンを好きになってたんだと思う」


 これはあくまで予想でしかないけど、なんとなく俺自身も納得がいく理由だ。


 もっと納得がいく理由があるかもしれない。


 だけど今の俺が出せる答えはこれが限界だ。


「そっか、舞翔くんは私を好きになろうとしてくれてたけど、隣に居た恋火ちゃんが可愛すぎちゃったのか」


「そうとも言える」


「もしも恋火ちゃんと私の立場が逆だったら私が舞翔くんと恋人さんになれてた?」


「どうだろうな。もしも水萌じゃなくてレンが告白されてる現場に遭遇してたとしたら、レンが即座に断って帰ってただろうから俺がレンと仲良くなる出会いが無くなるし、レンの立場の水萌が焦って俺のところに来ることも無かっただろうから、なんとも言えない」


 俺達の出会いは偶然と必然が重なった結果のものだから、最初の偶然が起こらなければ何も始まってない。


 何も始まらなければ今の俺達はない。


「じゃあ今の私達の関係が一番いいのか。あーあ、結局私がもっと頑張ってれば良かっただけの話じゃん」


「それは……」


「今からでも遅くない?」


「遅いわボケ」


 タイミングを見計らっていたレンが扉を開けて入って来た。


「サキはちゃんとオレを好きだって言ってるんだからさっさと諦めろ」


「恋火ちゃん、人を好きになるのに理由なんてないんだから、舞翔くんが明日いきなり私を好きになってもおかしくないんだよ?」


「散々理由を求めてたやつが何言ってんだよ」


「なんのこと?」


「よし、そこになおれ」


 レンが額をピキピキさせながら水萌に近づいて行く。


 そうしてまたもや姉妹喧嘩が始まる……と思ったのだけど、水萌が「そういえば舞翔くん、今日浮気してたよね?」という身に覚えが無くもないことを言い出したせいでレンがUターンして帰ってきた。


 水萌との仲直りは多分成功したけど、代わりにレンからのお説教を受けてしまった。


 お説教をされながら「来月は二月か……」なんて思っていたら余計に怒られてしまったのは言うまでもない。

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