表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/300

みんなの理由

「ということでやって来ました、女の花園」


紫音しおんの部屋を女の花園にするな」


 放課後になり、水萌みなものことはレンに任せてよりと一緒に紫音の部屋にやって来た。


 メンバーはレンと水萌を抜いたいつものみんなだ。


「まーくん元気になった?」


「それなりに。元通りではないけど、希望が見えてきたから」


 依の言ってることを全て信じたわけではないけど、みんなから話を聞けば水萌に言うべき答えがわかるらしい。


 だから少しだけ気持ちが上向きになっている。


「まあ先輩がこれからやることは鬼畜の所業なんだけどね」


「ありすちゃん、逆に考えるんだよ。ここで本気で気持ちを伝えて今の不安定なお兄様をその気にさせたら勝ちだよ?」


「よし、やる気出てきた」


 なんか愛莉珠ありすの目がガチになった。


 いくら今の俺が不安定な状態だったとしても、俺はそう簡単になびいたりしない。


 きっと、多分、絶対。


「じゃあ、ありすからね。って言っても、これって何を言えばいいの? 性癖?」


「うち達的にはめんどくさい痴話喧嘩の仲裁でしかないけど、お兄様的には結構真面目な話だからちゃんとやってね?」


「あ、はーい。えっと、ありすが先輩を好きになった理由、タイミングを言えばいいの?」


「お願い」


「任されたー」


 愛莉珠がおでこに手を当てて敬礼のポーズをする。


 やっぱり持つべきものはいい友達と後輩だ。


「あれは雨の降りしきる──」


「俺の感動返して」


 その始まりは前にも聞いた。


 ちなみに愛莉珠と会う日はクリスマスの雪を除いたら全て晴れだ。


「冗談だって。んとね、意識しだしたのは先輩にからかわれた時で、好きだってなったのは、先輩がわたしの本質を見抜いた時かな」


「どゆこと?」


「先輩って、わたしと初めて会った時にからかって弄んでたでしょ?」


「からかってたのは認める。弄んではない」


 確かに愛莉珠と初めて会って初めてちゃんと話した時は店長の愚痴を話すついでに愛莉珠をからかっていた。


 だけど断じて弄んではいない。


 遊んではいたかもしれないけど。


「多分偶然なんだろうけど、先輩にからかわれたおかげでわたしは先輩をからかえるようになったの」


「と言うと?」


「先輩にからかわれたわたしを見た先輩は、わたしが何かを隠してることに気づいたでしょ?」


「うん」


「隠してたのって『ありす』の方なんだけど、先輩はそれを見抜いちゃった」


 あまり覚えてないけど、愛莉珠に違和感を感じて、俺の前で無理をしなくていいみたいなことを言った気がする。


 それが俺をからかう後輩の誕生秘話のようだ。


「バレたなら仕方ないってことでわたしも隠すのやめたんだけど、ちょっと怖かったんだよね」


「何が?」


「先輩がわたしをウザがって嫌いにならないか」


 愛莉珠が複雑そうな笑みを浮かべながら言う。


「うざい?」


「絶対わからないと思ったから例えを作ったよ。先輩のクラスメイトの人だったら誰でもいいんだけど、その中の女の人がだる絡みしてきたらどう思う?」


「え、ウザくて一生関わり合いになりたくない」


「そういうこと」


 つまり愛莉珠は俺をからかった結果、俺が愛莉珠を嫌うことが怖かったということになる。


 じゃあなぜからかう。


「先輩と同じ。好きな相手に構って欲しくてからかっちゃうの。恋は綱渡りなんだから」


「吊り橋効果的な?」


「うん、違う。まあ先輩の求めてる答えを言うと、わたしはどんなわたしでも受け入れてくれる先輩が好き。好きになったタイミング? そんなのわたしを受け入れてくれた時点で好きになってたよ。わたしってチョロいから」


 愛莉珠はそう言って俺にはにかむような笑顔を向ける。


「受け入れたら好きになる」


「結局さ、女って肯定してくれる人が好きなんだよ、それを言うと先輩ってわたし達を絶対に否定しないじゃん? からかって弄ぶことはあっても」


 だから弄んでないのだけど。


 でも確かに俺は愛莉珠達を否定することはない。


 する理由がないから。


「先輩の性格上さ、女の子にベタベタされるの嫌でしょ?」


「女子にって言うか、ある程度の距離感がないと人とは関わりたくない」


「だよね。じゃあなんでわたし達は拒絶しないでこうして仲良くしてくれるの?」


「それは……」


 確かになんでだろうか。


 愛莉珠は最初が俺の嫌いなタイプの女子じゃなかったから話せたところはあるけど、次に会った時にはアレだったし、依に至っては……


「そういえば俺って依のこと最初嫌いだったよね?」


「衝撃の真実なんだけど。水萌氏のことで少し嫌われてる自覚はあったけど、そこまで?」


 依とのファーストコンタクトは多分最悪だった。


 あんなに陽キャオーラを出して近づかれては拒否感が出ても仕方ない。


「多分水萌の紹介だったから話はできたけど、そうじゃなかっから話せてなかったと思う」


「水萌氏に感謝。だけど結局こうして仲良くなってるってことは、お兄様はうちのこと大好きってことでしょ?」


「話してて面白いから」


 結局そこだ。


 俺が仲良くなれる相手は多分、俺が無意識に『面白い』と思える相手。


 俺の感性を震わせる相手だ。


「水萌はギャップだよな。レンは無理やり連行されてる間に依と同じでからかいがいがあるってわかったから。紫音は最初のインパクトで、蓮奈れなは……」


「なぜそこで止まる」


 紫音のベッドでうずくまっていた蓮奈にジト目で睨まれた。


「紫音のインパクトもデカかったけど、蓮奈はそれを軽く超えてきたよな」


「私で弄んだ舞翔まいと君が何を言うか。私とありすちゃんは舞翔君に性癖ねじ曲げられた被害者だからね?」


 何を言っているのか。


 それではまるで俺が悪いことをしたかのようではないか。


「責任取ってね?」


「なんのだよ」


「ありすと蓮奈さんの性癖ねじ曲げてえっちな子にした責任」


「そういうコメントに困ること言うのやめてくれない?」


「だってそういう子にしたのは先輩だしー」


 愛莉珠が蓮奈に「ねー」と首を傾げながら言う。


 すると蓮奈は毛布の中から頭だけを出して頷いて答える。


「まあとにかく。これで先輩が仲良くなれる利用はわかったでしょ? 次は好きになる理由」


「あ、今のって意味あったんだ」


「あるよ。ということで次は蓮奈さん」


「え、私も舞翔君を好きになった理由話すの?」


「もちろんですよー。紫音さんと、最後には大本命の依さんです」


 蓮奈と言い出しっぺの依はまだわかるけど、なぜに男の紫音までが俺を好きな理由を言わなければいけないのか。


 紫音が俺のことを好きだとしても、それはあくまで友達としてなんだから今回の話に関係ないはずだ。


「僕とお姉ちゃんの理由って今更言う必要ないんじゃない?」


「と言いますと?」


「だって僕はまーくんが初めてだったから」


「ん? びーえる?」


 愛莉珠が俺には意味のわからないことを言い出したから頭に軽くチョップを入れた。


「そうじゃなくて、僕を男の子として見てくれる人ってこと。初めて本当の意味で自分を見てくれた感じがして嬉しかったんだ」


「わかります。それじゃあ蓮奈さんも?」


「私はもっとチョロいよ。私の醜態を好きって言ってくれて、ずっと抱え込んでたものを全部解消してくれたから。ついでに学校に行けるようにしてくれたし」


 学校がついでなあたりが蓮奈らしい。


 だけど蓮奈の為なら俺はなんでもやる。


 蓮奈に限った話でもないけど。


「んー、結局みんな先輩が気にしてる内面を好きになってくれたからってことになる?」


「そうなるねー。お兄様は見た目は二の次で中身重視の見方するから。つまりれんれんの中身が一番グッときたのかね?」


 全員の視線が依に集まる。


 さすがに俺でもわかる。


 なんか話をまとめにかかっている依を逃がさない視線の網だ。


「熱い視線で焼け焦げそう」


「焦げる前に話せばいいんじゃないですか?」


「いやいや、うちの理由なんて役に立たないから」


「それは先輩が決めます。それに多分ありす達のも役には立ってないですから」


「そんなことはないよ。だよねお兄様?」


 依が「うんと言え」とでも言いたげな目で俺を見てくる。


「俺は依が話したくないなら聞かないよ。言い出した手前、そもそも俺を好きとかじゃないって言えないとかならなおさら」


 みんなが俺を好いてくれてるのは理解したけど、依だってそうとは限らない。


 何せ依が好きなのは水萌だから。


「これはあれか。いつものやつか」


「言わないと依さんだけ浮きますね」


「言うな。一人言わない微妙な雰囲気は懲り懲りなんだよ。話せばいいんでしょ」


 依が頬を膨らませながら俺を睨んでくる。


 それはさすがに理不尽だ。


「まあうちの場合は、普通に憧れだね」


「誰に?」


「この状況でお兄様以外に誰がいる。お兄様の誰の意見も興味がな『悪口なんかは勝手に言ってろ馬鹿ども』みたいな感じがかっこよくて、気づけば好きになってた」


「俺を中二病みたいに言ってない?」


 否定ができないのが一番困るけど、俺は他人に興味がないから悪口を言われてたとしても普通に聞き流す。


 むしろ本人の前で悪口を話してることを可哀想に思えてきてしまう。


 そしてそういう奴は将来お偉いさんの前でも余計なことを言って何か失敗するだろうという想像をして楽しんでいる。


「うちにはできなかったから。従うしかできなかったうちは、お兄様の自由な生き方に憧れたの」


「何も考えてないだけだと思うけど」


「それでもだよ。うちにはできないことをしてるお兄様に憧れて、それで好きになったの」


 依の頬がみるみる赤くなっていく。


 それを見ている俺達の頬が緩んでいく。


「おいこら、そんな微笑ましいものを見るような目をやめろ!」


「俺は依のそういうとこが好きだよ」


「クソッ、さっさと水萌氏と話して嫌われろー!」


 依がそう言って俺の肩を小突く。


 どうやら今すぐ水萌と仲直りして来いとのことのようだ。


 正直答えは全然決まってないけど、せっかくみんなの話を聞いたんだから形にしなくてはいけない。


「うん、行ってくる」


「覚悟を決めた男はかっこいいってやつは本当だったのか」


「またなんのアニメの影響うけてんのか。じゃあね、上手くいったら連絡する。いかなかったら──」


「うち達の告白聞いといて失敗とか縁切るから」


 依が真剣な目で言う。


 失敗なんてできなくなった。


 元からする気はないけど。


「覚悟を決めた女の方がよっぽどかっこいいじゃんかよ」


「惚れた?」


「その男気には惚れた」


「さっさと行け!」


 依に怒鳴られたので紫音の部屋を出る。


 そして俺は水萌の居るであろう場所に向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ