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簡単な解決法

「虚しい……」


 結局水萌みなもと仲直りができないまま冬休みが終わった。


 あれから水萌とは話せていない。


 学校で会っても逃げられるので俺はこうして机に突っ伏す水萌を眺めることしかできない。


「なんか振られた男が好きだった女子を諦められなくてストーカーしてるみたいだな」


「何言ってんのさ。水萌氏に距離取られて絶望して頭悪くなった?」


 俺がノスタルジーに浸っていたら呆れ顔のよりがやって来た。


「水萌氏もだけど、あからさまに元気無くなりすぎでしょ」


「依は水萌に距離を置かれて普通でいられるのか?」


「無理。罵られるとかならまだいいけど、距離を置かれるのはちょっと辛い」


 それがわかっているなら茶化さないで欲しい。


 俺の胸は今、ぽっかりの穴が空いた状態なのだから。


「れんれんじゃ満足できないの?」


「そういう話じゃないだろ。冬休みの間はレンや依達がケアしてくれたらなんとかなったけど、学校来てあからさまに避けられるとやっぱり辛い」


「なんとかなってなかったと思うけど、まあ確かに水萌氏に避けられたらショックだよね」


 冬休みの間は、レンが毎日俺の面倒を見てくれたのはいつものこととして、依達もかわりばんこで誰かしらが来てくれていた。


 多分水萌の方に俺のところに来てなかった子が行っていたのだと思う。


「改めてありがとう」


「まあ元からお兄様のところにはみんな行く気ではあったから苦労とかないんだけどね。それよりも、いつになったら仲直り……痴話喧嘩終わりにするの?」


 依がため息混じりに言う。


 これが痴話喧嘩に見えるのなら依は眼科か精神外科に行った方がいい。


「見てるこっちがモヤモヤするから早く元通りになってよ」


「水萌が避ける以上は俺にできることはないだろ」


「それはお兄様が逃げてるだけでしょ。やろうと思えば水萌氏と話すだけならいくらでもできるんだし」


 確かに依の言う通りで、ただ水萌と話すだけならやりようはある。


 水萌が俺を避けるなら避けられないところまで追いかけたり、それこそ逃げられない状況を作ればいい。


「だけど──」


「水萌氏が嫌がることはしたくないとか言う? それが逃げだよ。ほんとに水萌氏と元通りの関係になりたいなら自分から行動しないと」


「でも、俺はまだ水萌に言える答えを持ってない」


 たとえ水萌と話せたとしても、水萌の求める答えを言えなければ前の二の舞だ。


「れんれんを好きになった理由だっけ? お兄様がその答えを持ってないのって、単に経験不足だからだと思うんだよね」


「それは俺も思う。俺はレンが人生で初めての好きになった相手で、好きなことに気づいたのは告白する数分前だから」


 いつの間にかレンのことが好きになっていて、俺はそれが異性に対する好きだということに気づかずにいた。


 だから俺はレンをなんで好きになったのかわからない。


 これが二回目の好きになった相手とかならわかったかもしれないけど。


「気づいた時には好きになってたってさ、多分普通のことなんだとは思うんだよね。全員が好きになったタイミングをわかるわけでもないだろうし」


「でも水萌はそういう答えを求めてるわけじゃないだろ?」


「うん。うち達もそれは言ったからね。水萌氏的には、水萌氏じゃなくてれんれんを選んだ理由を聞きたいんだよ。ぶっちゃけるとうち達もみんな気になってる」


 俺が水萌ではなくレンと付き合った理由。


 水萌も言っていたけど、まず前提がおかしい。


「俺さ、別に水萌とレンを比べたことないんだけど」


「お兄様ならそうだよね。すごい悪い言い方すると、水萌氏ってお兄様の恋人候補になってすらなかったよね?」


「ほんとに最悪な言い方だな。だけどそう。俺ってレンと水萌の両方が異性として好きで、だけどレンを選んだとかじゃなくて、俺はいつの間にかレンを好きになってたんだよ」


 確かに水萌のことは好きだ。


 だけどそれは友達としての好きであって、レンに感じる異性としての好きとは違う。


 じゃあどこが違うのかと言われると困るけど、多分そこで困るから今現在水萌から避けられてるんだと思う。


「つまりは異性と友達の好きの違いを理解すればいいのか」


「そうなるね。だけどそれは簡単に理解できるよ」


「というと?」


「知ってる人に聞けばいい」


 依がドヤ顔で答える。


 確かにそれは最強のカードだけど、俺には依と違って人脈が少ない。


 そんな都合良く恋をしていて、好きを理解している人なんているわけがない。


「自虐趣味のお兄様にはわからないだろうけど、お兄様は恋をしている人の知り合いが少なくとも六人はいるから」


「そんなに? 俺の知り合いって母さん達抜いたら六人しかいないのに?」


 俺の知り合いは依達しかいない。


 それなのにその他に六人も俺に知り合いがいたなんて驚きで依の呆れたような顔も気にならない。


「わざとすぎんか?」


「だって依達って誰かを好きな感じなかったから」


「仕方ないんだよ。うち達が好きになった相手は彼女を溺愛してて、すごいニブチンだから」


 なんか依が俺をジト目で睨んでくる。


 まるで俺が変なことを言ったようではないか。


「そうやって知らないフリするなら一生水萌氏とは仲直りできないからね」


「依さん、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします」


 俺はそう言って依に頭を下げる。


「あれぇ、頭の位置がお高いんじゃなくって?」


「……いいの?」


「何が?」


「いや、依がいいならいいんだけど」


 俺はそう言って立ち上がる。


 そして椅子をしまってから膝を折って正座する。


「あ、調子乗った。やめ──」


「依さん、無能な私にご指導お願いいたします」


 依が焦った様子で腕を伸ばしてきたので、それに合わせて土下座をする。


 水萌と仲直りができるなら俺の頭なんて床でも土でも何にでも付ける。


 周りの目なんて興味がない。


 俺がどう見られたとしても、それで水萌と前のように話せるなら儲けものだ。


 まあ依がどう思われるかも興味がないから考えてないけど。


「このばかお兄様が! 早く頭上げて!」


「仰せのままに」


「このばか! なんか……ばか!」


 顔を真っ赤にした依に頬をつねられる。


 なんだろうか。


 すごい冷たい視線を水萌の席の方から感じるのだけど、気のせいと思っていいのだろうか。


 いや、きっと気のせいだ。


 なんかクラスの奴らが「乗り換えか?」とか「修羅場!?」みたいな声が聞こえてくるが、それも多分気のせいだし、たとえ言っていたとしても興味ないから無視することにした。


 そして俺はチャイムが鳴るまで依からお説教を受けたのだった。

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