表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/300

選べなかった選択肢

「なんかお腹すいてきた」


「そういえば朝ごはんにおかわりしてなかったね」


 神社を後にした俺と水萌みなもはどこに行くでもなく散歩をしている。


 そして唐突に水萌が水萌らしいことを言い出す。


「久しぶりに舞翔まいとくんと二人っきりでお出かけできるのが嬉しくて」


「言ってくれれば出かけるよ?」


「舞翔のそれは『お出かけ』なんだろうけど、周りから見たら『デート』になるんだからね?」


 水萌からジト目を向けられた。


 最近わかったように思ってたけど、確かに俺からしたら友達と出かけてる感覚でも、傍から見たら異性と出かけてるわけで、要はデートになる。


 異性の友達を持つとなぜにこんな束縛されなくてはいけないのか。


恋火れんかちゃんと付き合ったこと後悔してる?」


「なんで?」


「だってさ、要は舞翔くんが恋火ちゃんの恋人さんだから私達と二人っきりで出かけたりするのが駄目なわけじゃん。だから恋火ちゃんと付き合ってなかったら前みたいに私達とこうして二人っきりお出かけするのを止める権利のある人はいないから」


 確かにそうかもしれない。


 俺が水萌達と二人っきりになったり、前みたいに触れ合ったりするのを怒られるのはレンと付き合い出してから。


 理由はわかる。


 彼女がいるのに他の子とじゃれ合うのはおかしいから。


 いくら俺がレンだけを好きだと言い続けたところで、それはあくまで俺が言ってるだけのことであって、傍から見たら浮気してるようにしか見えない。


「後悔はないよ。確かに水萌達と前みたいに接することはできなくなったけど、それでもレンと付き合ったことに後悔はしてない」


 今まさに彼女レン以外の女子と手を繋いで歩いてる状況で言えることかはわからないけど、俺はレンが好きで、その気持ちはずっと変わってない。


 それになんだかんだで前と変わらずに水萌達と接している気もするし。


「じゃあさ、舞翔くんは恋火ちゃんのどこが好き?」


「全部は無し?」


「多分本当に全部なんだろうけど無し」


「わかった。そうだな、まずは性格だよな。ひねくれてるけど、そこを叩くと恥ずかしがってくれるとこが可愛い」


「他は?」


 水萌が足を止め、ジッと俺を見ながら言う。


「俺をからかおうとして、結果的にやり返されて照れるとこ?」


「他」


「二人の時はからかいとか無しに甘えてくるとこ」


「全部性格だけど、見た目はあえて言わないようにしてる?」


「だって見た目は誰が見たって完璧に可愛いんだから言う必要ある?」


 見た目のことを言ったら、顔がいいから始まって、顔のパーツ全てを言い出すし、顔が終われば手や足、それこそ全てのパーツを可愛いと言い出す。


 だけどそれは俺でなくてもわかることだし、そもそも見た目の可愛さは好きになれば補正がかかるから可愛い以外の言葉がでない。


 まあレンはそんな補正がなくても可愛いが。


「なるほど」


「これってなんの質問なの?」


「ちょっとね。じゃあ次の質問だけど、恋火ちゃんを好きになった理由は今の中にある?」


「そういうことね……」


 俺がレンを好きになった理由。


 それは少し前に愛莉珠ありすにも聞かれたが、その時は答えられなかった。


 俺は今水萌に言ったようにレンの好きなところは答えられる。


 だけどレンをなんで好きになったから答えられない。


「ありすから聞いたの?」


「ううん。ありすちゃんにも言われたの?」


「うん」


「ありすちゃんのは興味本位だろうけど、私は舞翔くんと恋火ちゃんの関係を一番近くで一番たくさん見てきたんだよ? そもそも告白の時も一緒に居たし、なんで好きになったのかわからないって私には言ってたから」


 それもそうだ。


 基本的に俺達は三人で一緒に居ることが多い。


 多いというか、より紫音しおん蓮奈れなと愛莉珠が一緒の時でも俺達三人は絶対に居るし、それこそ水萌が気を使わない限りは俺達三人が離れることはない。


「そう考えると俺って絶対に水萌かレンとは一緒に居るんだな」


「そうだね。だから私もずっと思ってたよ? 舞翔くんって恋火ちゃんの何を好きになって告白したのか」


「だからさっきの質問なのね」


 レンのどこを好きになったのかわからないなら、本当に俺がレンのことが好きなのか。


 水萌はそれが気になったから俺にレンの好きなところを聞いた。


「水萌からしたらどう見えるの?」


「舞翔くんが恋火ちゃんを好きなのはわかるよ。でもね、それって私達への『好き』と何が違うの?」


 痛いところを突かれた。


 何回か聞かれたことだけど、俺はレンが好きだ。レンの好きなところだって言える。だけどそれは水萌達も同じだ。


「舞翔くんは恋火ちゃんのことが好きで、恋火ちゃんの好きなところはたくさん言えるけどさ、それじゃあ私達の好きなところは言えない?」


「言えない、なんて言えるわけないよな」


「だよね。じゃあそれを踏まえて聞くね。舞翔くんは恋火ちゃんのどこを好きになったの?」


 水萌からの見えない圧に冷や汗が出てくる。


 水萌はいつものほほんとしているけど、こういう真面目な時はまっすぐ目を見つめてくるから言葉が出てこなくなる。


「私は引く気ないからもっと追い込むね。恋火ちゃんは舞翔くんを好きになった理由を言った上で好きって伝えてたよ」


 水萌が俺の目を見据えたまま、俺を言葉で殴ってくる。


 確かにそうだ。


 俺はレンを好きだということを伝えただけで、レンは俺のことをなんで好きになったのかを話した上で告白してくれた。


「恋火ちゃんみたいな具体的すぎる理由は求めてないけど、せめて私じゃなくて恋火ちゃんを選んだ理由は教えて欲しい」


「……」


 水萌の言葉がとても痛い。


 水萌が俺を好いてくれてるのは知っている。


 その水萌からしたら、俺は理由もわからずに好きになった相手を選んで、理由もわからず水萌を振ったことになる。


 それでは水萌も不完全燃焼になるのは当然だ。


「私のわがままなのはわかるよ? 私だって舞翔くんと恋火ちゃんには恋人さんになって欲しかったし、諦められなかったら恋火ちゃんから奪う気でもあった。でも舞翔くんは恋火ちゃんを好きって言って私達の気持ちは見ないようにしてるし、だから諦めようって、恋火ちゃんと幸せになってくれればいいって、思って……」


 俺は最低な人間だ。


 俺がレンを選んだことは一生後悔しないと言える。


 だけどその選択の理由があやふやで、そのあやふやをそのままにしていた結果がこれだ。


 俺は水萌を泣かしたかったわけじゃない。


「水萌……」


「私に諦めさせてよ。変に期待させないでよ。恋火ちゃんを好きなら好きで恋火ちゃんだけを特別扱いしてよ」


「それは……」


 俺にとってレンは特別。


 だけど現状はどうだ。


 言われればこうして水萌とお出かけ……デートをして、許されればレン以外の女子の頭を撫でたり、一緒に寝たのは不可抗力だけど、事実寝たから言い訳なんてできない。


「舞翔くんが優しいのはわかってる。私達もその優しいに甘えて満たされない恋心を少しでも満たそうとしてるから舞翔くんだけを責めるのは違うのもわかってる。わかってるけど……」


 俺が水萌の涙を拭こうとハンカチを取り出して水萌の顔に近づけると、水萌が俺との最後の繋がりを手放し、距離を取る。


「答えて。恋火ちゃんのどこを好きになったの? それがわからないならもう一回私の手を握って私の涙をそのハンカチで拭いて」


 水萌がセーターの袖をギュッと握り、涙を地面に落としながらまっすぐ俺の目を見据える。


 ここでの正解の答えはわかっている。


 そして一番の駄目な行動も。


 わかってはいる。


 だけど俺は……


「『何も答えない』なんだね。私の手を握ってくれたら恋火ちゃんとは別れて私だけを見てもらうつもりだったけど、それもしない。舞翔くんはそれを選ぶんだね」


「……」


 わかっている。


 俺が一番してはいけない選択をしたことなんて。


 そしてその結果、水萌を更に悲しませることになることも。


「帰るね。舞翔くんもお家に帰っていいから」


「でも──」


「今更止めないでよ。私を選ばなかったんだから」


 水萌はそう言って駆け出した。


 袖で涙を拭いながら。


 ここで水萌を追いかけるのは正解なのだろうか。


 もう何もわからない。


「優柔不断な俺、死んでしまえ……」


 しゃがみこんで自分を責める。


 一番の無駄行動を選んだ俺は、しばらく文字通り立ち直れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ