お守りとおみくじ
「甘酒よりもおしるこの方が美味しい」
「俺も。まあそれよりも、水萌がお決まりにならなくて良かったけど」
来年からは忙しくなって来れないだろうと三日かけて三社参りをしていたらしい真中先輩と別れ、俺と水萌は甘酒とおしるこを貰いに来た。
甘酒と聞くと、アニメなどではお酒に弱いヒロインが雰囲気酔いをする定番の飲み物だから少し不安だったけど、さすがにフィクションだったようで水萌は俺が貰ったおしるこを盗んで美味しそうに飲んでいる。
元から交換する予定で貰ったけど、まさか一口で飽きて全部交換するとは思わなかった。
「帰ったらみんなでおしるこ飲む?」
「舞翔くんの手作り?」
「一緒に作ってくれてもいいよ?」
「作るー。でも私が飲むのは舞翔くんが作ったやつね」
「じゃあ俺は水萌が作ったやつを飲もうかな」
別に俺と水萌のどちらが作っても大して味に違いはないけど、自分で作ったものを飲むよりかは水萌のが飲みたい。
監視無しのやつが。
「今から楽しみ」
「俺も色んな意味で楽しみ。んで、これからどうするの? もう帰る?」
「まだだよ。とりあえずお守り買っておみくじ引いたら神社は出るけど」
水萌はそう言うと「ごちそうさまでした」と言っておしるこのごみをごみ箱に捨てる。
俺も甘酒のごみを捨てて水萌の後をついて行く。
「お守りってありすの?」
「ありすちゃん? あぁ、そういえば受験生なのか。じゃあありすちゃんのも買う」
つまりさっきのお参りは愛莉珠のこととは関係なかったようだ。
それだと何をお願いしたのか。
「お守り買ってくるから舞翔くんはおみくじのところに居て」
「俺が買うのは駄目なの?」
「まとめて買っちゃった方がいいかなって。並んでるし」
確かにお守りの売り場、社務所というのだろうか、そこには少しだけど行列ができている。
「並ぶならなおさら暇つぶし相手いなくていいの?」
「私も少しは人見知りを克服したいから」
水萌が強敵に挑む前の主人公のような目で列を眺める。
なんかかっこいいけど、多分俺が一緒に居ると駄目な理由を隠している。
今日の水萌は隠し事が多いけど、そういう日もあるだろうし気にしないことにする。
「わかった。じゃあ行ってらっしゃい」
「うん。帰らないでね?」
「そんなこと言うならついて行くけど?」
「だーめ。迷子にならないように待っててー」
水萌はそう言うと駆け足で社務所の列に向かう。
なんか、子供のはじめてのおつかいを見てる気分だ。
「少し寂しい。まあそれはいいとして、おみくじ引くとこ隣だから迷子になりようないんだよな」
お守りの売り場の隣におみくじを引く場所があり、そこにも少しだけ列ができている。
「並んで待ってようかな。多分お守りの方が回転率いいでしょ」
お守りの列の方が少し人が少ないし、おみくじの列に並んで水萌を待っていれば効率がいいと思う。
「んー、でも横入りとかめんどくさいこと行ってくるやついそうだからやめよ」
俺はそういうところがチキンなので、わざわざめんどくさいことが起こりそうならやらない選択肢を取る。
なぜなら人見知りだから。
「素直に水萌待と。俺は人見知りだから」
「何が?」
「お早いお帰りで」
俺が独り言を言っていたらお守りを持った水萌が帰って来た。
「お守りを悩んで買う人はあんまりいないからね」
「それもそうか。一応ここって学業絡みの神様祀ってるわけだし、ほとんどが学業成就のお守り目当てなのか」
お守りを買いに来るような人は大抵そこの神社で祀られている神様を調べてから買う。
そんなの調べないで買う人も居るだろうけど、それでも買いたいお守りは決まってるわけで、そこまで悩むこともないのだろう。
なんか今は絶賛列が止まっているように見えるけど、きっと気のせいだ。
「じゃあおみくじ引きに行こうか」
「うん。その前にこれ」
水萌はそう言って手に持っている袋からお守りを一つ俺に差し出してきた。
「ありすのってこと?」
「うん。舞翔くんから渡した方が嬉しいだろうから」
「いくら?」
「こういうのって貰わない方がかっこいいけど、それだと私からの贈り物になるよね」
まあ割り勘にして二人からの贈り物にしてもいいけど、そんなことしなくても水萌が買った事実は変わらない。
愛莉珠としても、俺から貰うよりも俺と水萌からの贈り物の方が嬉しいだろうから水萌は気持ちを込めてくれればそれでいい。
「わかった、お金は貰う。だけどありすちゃんには舞翔くんからのプレゼントって言ってね」
「なんで?」
「喜ぶありすちゃんが見たいから」
それならなおさら俺と水萌からの贈り物にした方がいいと思うけど、水萌が引きそうにないのでそういうことにする。
「それじゃあ今度こそおみくじ引きに行こー」
「ん」
俺は水萌の後に続いておみくじの列に並ぶ。
そしてお参りに比べたら並んでいないように感じる速さでおみくじが引けた。
結果は……
「小吉っていいんだっけ?」
「私の末吉よりかはいいんじゃない」
なんだか水萌が拗ねている。
こういうのは良い運勢が必ずしも良いとは限らないのだから拗ねる必要はないのだけど。
「内容の方が大事だよ」
「自分の結果が良かったからって」
「どんぐりでマウント取るほど落ちぶれてないわ」
これが大吉と大凶とからなネタにできるけど、小吉と末吉では大して変わらなすぎてなんとも言えない。
「『女難の相あり』とか書かれてるんだけど」
「舞翔くんだもん。私は……」
水萌がおみくじを見て固まる。
「どした?」
「あ、いや。なんか元気でいろーみたいなことが書いてあって、私は元気だから意味がわからなくて固まっちゃった」
「ふーん」
またも嘘だ。
おみくじに何か図星を突かれたけど、俺には言えないから嘘をついた。
さすがに気になるけど、あの水萌がそこまで言わないとなると、俺が聞いてはいけないことなのは確実だ。
それこそ、聞いたら関係が崩れるレベルの可能性まである。
そう思うとやっぱり聞けない。
「私の恋愛のところ『叶うことなし』って書かれてるんだけど!」
「俺のは『信じて進め』って、どんなRPGだよ」
水萌の嘘は気になるけど、聞けないなら考えることをやめる。
恋愛だから関係ないかもだけど、とりあえずは水萌を信じて進むことにする。
まあ元から俺は水萌を信じているから変わらないのだけど。
「悪い結果なら結ぶんだよね?」
「確かそう。結ぼうか」
「うん」
おみくじを丸めて水萌と隣同士で結ぶ。
おみくじの結果で未来が決まるとは思わないけど、これで少しは運気が上がって欲しいものだ。
おみくじを結び終わった俺達は手を繋いで神社を後にしたのだった。




