水萌とのデート
「きょーはー、舞翔くんとデートのひー」
「今日は朝からいつも以上にテンション高いな」
昨日の新年一発目の全員集合は何事もなく? 無事に終わり、二日目の今日は水萌と約束した通り二人で出かけている。
ちなみにどこに行くかは聞いていない。
「ハイテンションなお嬢さん、どこに行くとか決めてるのかい?」
「んーん、とりあえず昨日行けなかった初詣には行こうかなーって思ってるけど、舞翔くんとお散歩がメイン」
「水萌が人混みに行きたがるなんて珍しい。屋台で何か食べたいものでもある?」
水萌は俺やレンほどではないけど人混みが嫌いだ。
理由としては俺達と同じように疲れるというのがあるけど、一番は視線が鬱陶しいから。
今は黒髪でショートの水萌だけど、少し前までは金髪ロングだった為、そこに居るだけで視線を集めていた。
水萌はそれが嫌で外に出ることを嫌っていたのだけど。
「舞翔くんは私を食べ物にしか興味のない子だと思ってるでしょ」
「そうでもないけど、初詣に行きたがる子だとは思ってない」
「ちょっと神様にお願いしたいことがあるの」
「何?」
「言ったら叶わなくなるって聞いたから教えない」
確かに初詣のお参りで願ったことを口に出すと叶わないと聞くが、逆に宣言して叶える為に頑張るという考え方もある。
まあ水萌が言いたくないなら聞く気はないけど、水萌が神に願いたくなるようなことは少し気になる。
「ねえ舞翔くん」
「どしたの?」
「おてて寒いからあっためて」
水萌がそう言って俺に両手を差し出してくる。
多分素なんだろうけど、どうしてこの子はここまで可愛くなれるのか。
もう少しあざとさがあれば何も考えずに手を握れるのに、ちょっと躊躇してしまう。
「いや?」
「歩くなら片手では?」
「あ、そっか。じゃあ左手」
水萌が両手と相談してから俺に左手を差し出す。
こうなればこれ以上躊躇なんてできない。
だから水萌の手を取るけど、先に謝っておくべきだったかもしれない。
「ひゃ!」
「可愛い、じゃなくて、ごめん。俺って冷え性すぎて外だと手が氷になるの言ってなかった」
足よりかはマシだけど、俺の手は氷のように冷たい。
だから冬は外で手を握ることはしない方がいいのだけど……
「はな、さない」
「無理するな。しばらくしたら慣れるだらうけど、それまで地獄だぞ?」
いくら冷たい俺の手でも、プールのように慣れてしまえば握っていても平気になる。
多分。
「舞翔くんと手を握ってれば心はあったかいから、なんとか……」
「水萌の手を温める話だったはずなんだけどな」
「私が舞翔くんをあっためる。そうすれば必然的に私もあったかくなっていい事しかない」
「天才」
今日の水萌は冴えている。
冴えてはいるけど、今現在寒さに耐えているのはどうにかならないのか。
「俺がポケットに手を入れてあっためとくから、あったまったら手を繋ご?」
「駄目。それだと舞翔くんのおててが気になりすぎて集中できない」
「さいですか」
そこまで言ってくれるなら水萌に任せるけど、今日の水萌は少しおかしい。
二人っきりになることが久しぶりだからだろうか、可愛いが過ぎる。
「大丈夫になってきた」
「良かった。そういえばすごい今更だけど、可愛いね」
「ひゃい!?」
「主語抜けた。その服、似合ってて可愛いね」
ずっと思ってはいたけど、言うタイミングがなかったから今になったが、今日の水萌はいつもと違ってパーカーではない。
俺は女子の服の名前がわからないからなんて言うのかは知らないけど、白いモコモコとしたセーターのような服を着ている。
髪を隠す必要がなくなったおかげなのか、いつもと違う水萌はとても可愛い。
だけどいきなりすぎたのか、水萌のほっぺたが赤くなり、視線もキョロキョロしている。
「う、嬉しいけど、いきなりそんなこと言われるとびっくりする」
「ごめん。でも体温上がった?」
「暑いよ。舞翔くんのおててで冷まして」
「失礼」
水萌のほっぺたにまだ冷たい左手でゆっくりと触れる。
「ちゅべたい。でも気持ちいい」
「良かった。すごい歩きづらいけど」
「もうちょっと。神社が見えるまで」
「微妙に耐えられる距離を……」
後五分もしないで神社が見えてくる。
それならこの状態でも大丈夫だけど、水萌がそこまで考えていると思うとやっぱり今日の水萌に違和感を覚える。
なんだか頭が良すぎる。
「なんか私のことバカにしたでしょ」
「してないしてない。見えてきたから離すよ?」
「うん。ありがと」
やっぱり少し違和感がある。
いつもの水萌なら何かしらの理由を付けて手を離させないようにするのに、あっさり離させてくれた。
水萌はこんなに聞き分けがいい子ではなかったはずなのに。
「舞翔くん」
変なことを考えていたら水萌にジト目で睨まれてしまった。
「水萌のこと考えてたらボーッとしてた」
「そう言えば私が納得すると思ったら大間違いだからね」
「何したら許してくれる?」
「んー、じゃあ、一緒に甘酒飲みたい」
また意外なお願いをされた。
「甘酒?」
「うん。初詣に行くと甘酒飲めるんでしょ?」
「俺も飲んだことないから知らないけど、そういうのは聞くよな」
そもそも俺は初詣というものに行くのが小学生の低学年以来だと思う。
父さんと母さんが忙しかったのもあって、少しあった時間で行ったからゆっくり周りを見ることもなかった。
だから初詣で甘酒やおしるこが貰えるというのはフィクションの世界でしか知らない。
「飲みたいの?」
「美味しいのかなって」
「気持ちはわかる。美味しそうには思えないんだよな」
「うん。だけど未成年が飲める『お酒』っていうのが気になる」
「それ」
ぶっちゃけると味はどうでもいい。
酒に興味があるとかでもなく、多分普通は飲めないものを合法的に飲めるという背徳感のようなものが興味を引いている。
「じゃあお参りしたら二人で飲もっか」
「やったー。楽しみ」
水萌が満面の笑みを俺に向けてくれる。
確かに店とかで売ってるのは見るけど、わざわざ買わない珍しいものではあるが、そこまで飲みたかったのか。
まあこういう飲む理由がなかったら一生飲まないようなものであるのは認めるけど。
「さて、そんなこんなで神社に着いたけど」
「……」
「水萌さんや、そんなあからさまに絶望するでない」
神社の入口に着いて階段の先を見た水萌が絶望した表情をして固まる。
それもそのはずで、階段の半分ぐらいのところまで行列ができている。
「やめる?」
「……やめない。舞翔くんとおしゃべりしてたらすぐだもん」
水萌はそう言って俺の手を握る力を強める。
そうして俺達は絶望の階段を上がって行くのだった。