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いつもと変わらない日

「おはよ、先輩。朝から可愛いありすを見れて嬉しい?」


「……ん」


 目を覚ますと目の前には薄い紫色のネグリジェ? 姿の愛莉珠ありすがいた。


 寝起きが悪すぎて状況が整理できてないので、とりあえず二度寝を決め込む。


「ちょい、せっかく起きたんだからありすを構いなさ──」


「うるさい」


 眠いのに耳元で騒がれるのが嫌だったので、愛莉珠を抱き寄せる。


 レンと水萌みなもには負けるけど、いい抱き心地だ。


「やばい、今なら死んでもいい……」


「ありすがいなくなるのやだから離す」


 俺が愛莉珠を抱きしめると愛莉珠が死ぬなら抱きしめるわけにはいかない。


 なので愛莉珠を離して俺の背中にピッタリとくっついているわんこを抱き枕にする。


「あー、先輩を水萌お姉ちゃんにねとられたー」


「ふっ、ありすちゃんが変なこと言うのが悪いんだよ。まあ舞翔まいとくんは私とありすちゃんだったら私の方が抱きしめたいだろうけど」


「最初に抱きしめたのはありすだもん」


「うるさいからでしょ? 私のことは抱きしめたいから抱きしめたの」


「違いますー、先輩は手頃な抱き枕が欲しかっただけですー」


「それだとしても舞翔くんは私の方がいいって思ってくれたんだよ」


 なんか俺を挟んで二人が言い合っている。


 普通にうるさいから寝ていられる状態ではなくなった。


「なんで川の字で寝てるの?」


「あ、舞翔くん起きちゃった。ありすちゃんがうるさくするから」


「お姉ちゃんもでしょ」


「仲良しなのはわかったから、なんで川の字で寝て、レンは一人俺のベッドで寝てるの?」


 頭が冴えてきて、やっと今の状態を理解する。


 俺が敷いた布団に俺と水萌と愛莉珠の三人が寝ていて、猫が一人で俺のベッドで寝たフリをしている。


「昨日ね、寂しくなったうさぎさんがお布団で死んじゃってたの」


 ありすがなんか意味のわからないことを言っているけど、多分そのうさぎには覚えがある。


「そういえば寝落ちしたわ。ちょっとこの布団の魔力に抗えなかった」


「わかる。ありすも先輩うさぎさんにイタズラしようとしてお布団潜ったらイタズラする前に寝ちゃった」


「ありすちゃんのいつものおふざけかと思ったらほんとに寝てた驚いた。だから私と恋火れんかちゃんはお話したの。どっちが空いてる方に寝るか」


「二人でベッドを使う選択肢はなかったの?」


「だってこのお布団大きいし」


 答えになっていないような気がするけど、確かにこの布団は小柄な水萌と愛莉珠なら俺を含めても余裕で入る大きさだ。


 だけど俺が聞きたいのはそういうことではない。


「よくレンが許したよね」


「だって恋火ちゃんだから」


「まさか十個目?」


「そう。なので明日は舞翔くんとデートだよ!」


 俺の知らないところでレンのひねくれが十個目に達したようだ。


 内容は多分、俺の隣で水萌が寝るのを嫌がったけど、だからって自分が寝るのは恥ずかしいというのを強がったとかだろう。


 可愛いやつめ。


「強がって舞翔くんとの添い寝の権利を捨てて、それに加えて私にデートの権利をくれるんだもん。あと少しだったのに」


「でも、だからってレンを一人で寝させるのも可哀想に感じるけど」


「私は譲ったもん。なのに恥ずかしがって舞翔くんの匂いに包まれたいって言ったのは恋火ちゃんだから」


「んなこと言ってないだろ!」


 水萌の余計な発言(多分意図的)で、寝たフリをしていたレンが顔を赤くしながら起き上がる。


「そうだっけ? 確か『サキのベッドの方が包まれてる感じするから一人で寝る』とか言ってたよね?」


「……言ってない」


 その間は肯定ではないだろうか。


 だけどそれが事実なら俺のさっきの想像は間違っていることになる。


 レンは普通に俺と寝るよりもベッドの方が良かったと……


「恋火ちゃんの本心を言うとね、恋火ちゃんは舞翔くんと二人で寝て、イチャイチャしたかったんだよ。だけどありすちゃんが都合良く、じゃなかった、都合悪く舞翔くんと寝ちゃったから、ほんとはありすちゃんを押しのけたいのを我慢して一人で舞翔くんの匂いに包まれに行ったの」


「なんかすごい突っ込みたいことがたくさんあったけど、要約したらレンは可愛いってことでいい?」


「そうだね」


「絶対要約になってないだろ。つーかそこまでわかってるなら、ひねくれてないのわかるだろ」


「いやいや、十分ひねくれてるじゃん。ほんとは舞翔くんと一緒に寝たかったのに自分からベッドに行ったんだから」


「それを優しさと受け取れないのか」


「恋火ちゃんは優しさを押し付ける為なら舞翔くんを他の女の子と寝かせるの?」


「……」


 痛いところをつかれたようだ。


 結局こういうのは言葉遊びだから言ったもん勝ちなところが大きい。


『強がり』と『恥じらい』と『ひねくれ』は人の見方で変わるものだ。


 レンの場合は恥ずかしがってるのを強がりとひねくれで隠すところがあるから、今回のルールはレンが最初から詰んでいる。


「ちなみになんだけどさ、水萌って最初から無理やりにでもレンのひねくれ十個にする気だった?」


「うん。だって舞翔くんとデートしたいから」


「おま──」


 レンがキレるのを手で止める。


「俺とデートをして何したいの?」


「秘密。だけど絶対に舞翔くんの為になること」


 水萌が笑顔で言う。


「俺の『為』になるんだ」


「うん。そう言っておけば恋火ちゃんも許してくれそうだし」


「お前な」


 レンも何かを察したのか、今度は呆れたように言う。


 水萌が何を考えてるのかはわからないけど、今は水萌を信じてみることにする。


 何かあれば……


「そういえば、水萌のストッパー役っていない?」


「サキだ……いや、サキも水萌には勝てないか。勝てる時は勝てるけど、絶対じゃない」


「うん。というか、俺って真面目な水萌に勝てたことない」


 俺達は誰かが変なことを始めたらそれを止める役がいる。


 レンならほとんどみんな、より蓮奈れなもそうで、紫音しおんには依をあてればいい。


 そして愛莉珠は俺、俺のことは水萌と紫音が止めるが、水萌を止められる存在がいない。


「依をぶつてもいいけど、多分依が泣かされるだけだよな?」


「だろうな。オレとは喧嘩になるだけだし、紫音と蓮奈さんは水萌のこと可愛い妹みたいに見てるから強く言わないし」


「ありすも水萌と姉妹になっちゃったし」


「ありすは水萌お姉ちゃんに逆らわないからね。怒ると怖いから」


 水萌は確かに怒ると怖い。


 いつものふわふわした状態の怒りは別に怖くないけど、真面目なトーンの水萌が怒ると多分誰も逆らえない。


「なんか私のこと酷く言ってない?」


「酷くは言ってない。水萌が強いってだけ」


「よくわかんない。それに私を止めるって、まるで私が悪い子みたい」


「じゃあ水萌は二度と俺をからかわないと誓えるな?」


「私、舞翔くんをからかったことないよ?」


 水萌が意味がわからないと言いたそうな顔で言う。


「水萌にからかうなんて高度なことはできなかったか」


「うん」


「今のは馬鹿にしてるから怒っていいんだよ?」


「そうなの? 舞翔くんのばかー」


 水萌がポカポカと俺の胸を叩く。


「水萌にストッパーがいないんじゃなくて、必要ないのか」


「まあ水萌っていい意味でアホだから」


「ほら、レンが水萌を馬鹿にしたよ」


「恋火ちゃんは、舞翔くんと私が一緒に居る方が嫌がるからこのままで大丈夫」


「うん、やっぱりこの子頭いい」


 本能で生きてるようで実は色々と考えているのに、結局は本能で生きてるようにしか見えない。


 水萌ほど扱いが難しい子もいないだろう。


 まあ普段は俺が何をしても喜んでくれるから扱いやすいんだけど。


「ねぇねぇ先輩」


「ん?」


 水萌がレンに連れて行かれたタイミングで愛莉珠に背中をつつかれながら声を掛けられる。


「今ね、そろそろ八時になろうかなってところなの」


「うん」


「確かさ、九時ぐらいに初詣行くって話してなかった?」


「ありす、理不尽なこと言っていい?」


「無理やり押し倒すの?」


「理不尽なことをするんじゃなくて言うの。なんでもっと早く言わない」


 完全に俺達が話し込んでいたのが悪いんだけど、もう少し早く言って欲しかった。


 九時には神社に着いていて、うちに全員集まってから行く予定だ。


 つまりそろそろ依達がうちに来る。


「ほら、みんな準備するよ」


「ちょっとこのアホ犬を調教する」


「いいか、これから依が来る。レンは依に今の格好のままで会うのか?」


「……先に言え」


 そう、俺達は今『うさぎ』と『猫』と『犬』だ。


 紫音と蓮奈に見られる分には別にいいけど、なんか依に見られるのは癪だ。


 だからせめて依が来るまでに着替えだけは済ませておきたい。


「はい、みんなそれぞれ準備開始」


「洗面所使う」


「じゃあ私は舞翔くんのお着替え手伝う」


「あ、ずるい。ありすも」


「お前らはオレと来るんだよ」


 水萌と愛莉珠がレンに襟を掴まれて連行されて行く。


 抵抗しているようだけど、レンには勝てない。


 こういう場合でレンに勝てる人はいないのだ。


 いつもはくそざこなのに。


「サキ、お前の可愛い寝顔と可愛いうさぎ姿は人質だから」


「貴様、俺にも撮らせろ」


 レンは言うだけ言って俺の言葉を無視して部屋から出て行った。


 まあ別にいい。


 俺の寝顔やうさぎ姿なんて需要ないし、レンの猫姿ならどうせ愛莉珠が写真に撮っているだろうから後で貰えばいいのだから。


 そんなことを考えながら俺はクローゼットを開いて着替えを始めた。

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