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一年の終わりは……

「誰だ、俺の着替えを盗んで悪さしたのは」


舞翔まいとくんかわいー」


 犯人が自分から俺に捕まりに来てくれた。


 俺がお風呂に入っている間に俺の着替えが盗まれる事件が起きた。


 人の気配がしたのには気づいていたけど、レンも居るから愛莉珠ありすが覗きに来ることもないだろうと安心していたけど、まさか俺の着替えを盗んで『これ』を置いていくとは思わなかった。


「不貞腐れうさぎさんだ」


「黙れ小娘。着るのもったいないからしまっといたのに引っ張り出したの誰だよ」


 俺が今着させられているのはうさぎパーカー、正確にはうさぎの格好のパジャマだ。


 別に俺が欲しいから買ったわけではなく、この前のクリスマス会でレンと水萌みなもから貰った。


 着る機会もないだろうし、着るのももったいないからとクローゼットの奥にしまっておいたはずなのに、この中の誰かが引っ張り出してきたようだ。


 まあ誰かはわかっているけど。


「さっきから黙ってる犯人。水萌を実行犯にしても元凶はお前なんだからな?」


「オレはせっかくプレゼントしたのに使われないのが嫌だから水萌に渡してみただけだ。そしたら水萌がサキの着替えを盗んでそれを置いただけ」


「水萌、もちろんわかってるな?」


「うん! だけどありすちゃんは?」


「ありすはよりのおふざけを着てもらう」


 俺だけこの格好なのは不平等なので、もちろんレン達も被害に遭ってもらう。


 ちなみに依のおふざけとは、俺が依から貰ったクリスマスプレゼントのことだ。


 それも貰ってすぐにクローゼットの中にしまい込んだけど、まさか日の目を浴びるとは思わなかった。


「あれを着せるとか、変態かよ」


「ありすなら似合うからいいだろ。それにさりげなく写真撮ってたから仕方ない」


「音消したのにバレた。それよりも、ありすは先輩が依さんから何貰ったか見てないんだよね」


「服」


 俺が依から貰ったものは『服』だ。


 正直貰った時は「男が二人も居るのにプレゼント交換でこれ選ぶか?」とは思ったけど、多分紫音しおんが貰ったら普通に似合うだろうし、俺が貰ったらそれはそれで面白そうだから選んだんだと思う。


 ほんとにふざけてる。


「すごい気になるんだけど。どれぐらいえっちなやつ?」


「そういうのじゃないよ。ただ女性用のだからってだけ」


「つまり脱がせやすいってことか」


 全然違うけど訂正するのもめんどくさいからそれでいい。


「じゃあ三人で仲良く入って来い」


「いや、オレは最後でいいから」


「えー、ありすちゃんは妹みたいな存在なんだからいいじゃん」


「なんでお前と入るのはいいみたいになってんだよ。ぶっちゃけお前と入る方が嫌だわ」


「じゃあ舞翔くんと入れば良かったじゃん」


「入れるかばか」


 レンが呆れたように言うが、水萌はまだしもレンが愛莉珠と一緒にお風呂に入るのは抵抗があるだろう。


 火傷のことはまだ話していないし、何より恥ずかしさがあって。


「舞翔くん、恋火れんかちゃんがわがまま言うからもう一回入ってあげて」


「さっき散々駄々こねたやつが何言ってんだ」


 俺が最初にお風呂に入ることになったのは、水萌が一緒に入ると聞かなかったから、レンが俺を無理やりお風呂に押し込んで水萌を監視する為だ。


 まあその結果が今のうさぎなんだけど。


「いいから姉妹仲良く入って来いよ」


「私のお姉ちゃんは恋火ちゃんだけだよ……」


「こういう時だけお姉ちゃんにすんなし」


「じゃあ妹って認めるんだね?」


「お前の妹と入って来い」


「ありすちゃんと恋火ちゃん?」


「だから──」


「あのぉ、ありすに気にせずお二人で入っていいよ?」


 このままだと平行線なのを察した愛莉珠が申し訳なさそうに言う。


 年下に気を使わせてどうするのか。


「……」


「……」


「返事」


「「三人で入って来ます……」」


 これでいい。


 レンの火傷はいつまでも隠せるものではないのだから、少しずつでも話した方がいい。


 理由さえ話さなければ依が責任を感じることはないだろうし、感じたとしてもその時はレンが甘えればなんとかなる(適当)。


「ちょっと待って」


 リビングを出ようとしたレンが立ち止まって俺に振り返る。


「まだ嫌だって言う?」


「違くてさ、大丈夫?」


「何が?」


「一人になるけど、寂しくない?」


「寂しいから早く行ってちゃんとあったまってから早く帰って来て」


「なんでサキはそこまで素直になれるのか。尊敬するよ」


 レンが笑いながらそう言うと「できるだけ早く帰って来るよ」と言ってリビングを出て行った。


 そして一人残される。


「……寂しい」


 こうして一人になるとやることが無い。


 レン達と会う前の俺は一人の時に何をしていただろうか。


「うん、何もしてなかったんだな」


 寂しさがあるかないかの違いだけで、大してやることは変わらない。


「うーん、依達に電話でもしようかな。でもいきなりそんなことしたら迷惑だからやめとこ」


 依達もお泊まり会をしてるわけで、もしかしたら今頃俺の悪口大会でもやってるかもしれないので、そこに俺が電話なんてしたら空気が悪くなってしまう。


 そうなると本当にやることがない。


「溜まってるアニメ鑑賞、はさすがに時間足りないよな。依から貰った漫画も読み終わってるし」


 いくら考えても自分の無趣味が明らかになるだけだ。


 いつもはレンと水萌が帰ったらベッドでボーッとして、眠くなったら寝るだけで、今みたいに微妙な待ち時間というとのがない。


「ん? ボーッとしてればいいのか? 傍から見たら今もそうだろうけど」


 やることがないなら何もしなければいい。


 真理に辿り着いたかもしれない。


 だけどそれはそれで寂しさを感じてしまう。


「何かやってないと寂しいんだよなぁ。あ、布団敷けるじゃん」


 今日はレンと水萌と愛莉珠の三人が泊まるので、俺のベッドでは寝る場所が足りない。


 だからいつの間にか俺の部屋に置かれていた布団(無駄に高そう)の出番だ。


「やることがあるってなんて素晴らしいことか」


 思い立ったら吉日だ。


 俺は急いで自分の部屋に向かい、部屋の隅で丸くなっている布団を抱き抱える。


「前も持ったことあるけど、ほんとすごいなこれ」


 持てばわかるが、まるで雲を抱いているように感じる。


 雲を抱いたことなんてないから知らないけど。


「あの人ほんとに娘に甘すぎでしょ。嫁を大事にしなさいよ」


 これを嬉々として買っているのを見て、呆れているゆいさんの顔が思い浮かぶ。


「まあ、あの人は嫁も大事にするタイプだろうけど」


 ちなみに母さんは今日帰って来ないらしい。


 珍しく今日と明日は店を閉めて夜通し飲みに行くと言っていた。


 付き合わされるのはもちろん舎弟の二人と唯さん、そして店長だ。


「店長って母さんの高校の時の先輩なんだよな。だから俺が店長の店で働けてるわけだけど」


 あまり詳しくは知らなけど、店長に対して母さんは頭が上がらない存在らしい。


 母さんが言っていたけど、ピラミッドで表すと、一番上に店長がいて、次に母さんと唯さん。


 そして一番下が舎弟の二人になる。


 ちなみに父さんが生きてたらそのピラミッドを作らせる現場監督的な立ち位置のようだ。


 よくわからないけど、その関係性を作ったのが父さんという意味なのか、父さんはピラミッドの頂点では収まらない存在という意味なのか。


「父さんはやばいやつってことでいいや」


 そんなことを考えていたら布団を敷き終えてしまった。


 だけどまだレン達が出て来る感じはない。


「何しようか……」


 やることがなくなってしまったので布団に寝転がってみたら、あまりの吸引力に驚いた。


 気がつけば毛布を掛けて寝る体勢に入っている。


「ほんとにいいもの与えすぎだろ。こんなの水萌に与えたら、二秒で……ね、る……」


 あまりの心地良さに俺の意識が途絶えた。


 俺の怒涛の一年は寝落ちで終わったのだった。

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