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ギャップを求めて

「いただきまーす」


「まーす」


 晩ご飯の準備が終わり、お楽しみ中だったレンと愛莉珠ありすを心を鬼にしてリビングに連れて来た。


 そして四人で晩ご飯の蕎麦を食べようと思ったけど、水萌みなもと愛莉珠は元気よくいただきますを言ってくれたが、レンの様子がおかしい。


「蕎麦嫌い?」


「わざとだろ」


「ごめんって。だけど晩ご飯はみんなで食べたかったから」


 いくらレンと愛莉珠が楽しそうにイチャついていたからといって、俺と水萌だけで晩ご飯を食べるわけにはいかなかった。


 だから泣くほど喜んでいたレンも連れて来たのだけど、やっぱりレンと愛莉珠は後でにした方が良かったのだろうか。


「先輩にそういう話が効かないのわかってますよね?」


「本気で仲良く楽しんでたように見えてんだよな」


「そうでしたよ?」


「お前はそうだろうな。オレはなんか色々と失って楽しくなかったわ」


「えー、あんないい声で鳴いてくれたのに」


 愛莉珠がニマニマしながらレンを見る。


「言っとくけど、後で『泣く』のはお前だからな?」


「え、ありす、恋火れんかさんに鳴かされちゃうの? きゃー」


「……」


「きゃー……」


 レンの無言の圧力に愛莉珠の顔が青ざめる。


 そして愛莉珠が俺に助けを求めてくるが、俺にはどうにもできないので顔を逸らす。


「水萌さんは……無理だよね」


 愛莉珠が最後の希望に水萌を見たが、水萌は蕎麦に夢中で話に入る気がない。


「蕎麦が伸びるから早く食べようか」


「あ、ありすは伸びたお蕎麦も好きだよ?」


「俺も嫌いじゃないけど、せっかくなら伸びてないのを食べて欲しいなー」


「棒読みなんよ! うぅ、食べ終わったら恋火さんに襲われる……」


「変な言い方してもやめないからな?」


「鬼! 鬼畜! 鬼嫁!」


「最初と最後同じじゃね?」


 思わず突っ込んでしまったけど、愛莉珠はそういう答えを求めていたわけではないようで、拗ねたように蕎麦を食べだした。


「どう?」


「ふん、ありすのこと見捨てた先輩なんて知らないもん! でも美味しい」


 愛莉珠のどんな時でも素直でいるところは美点だ。


 レンも見習って欲しい。


「なんだよ」


「別に。俺に散々言っといて後輩女子とよろしくやってたレンを見てただけ」


「オレだって不本意だわ」


「それ、俺が言ったら信じないじゃん」


「サキのは望んでやってるからだろ」


「レンにするようなことはレンにしかしてないけど?」


「うっさいばか」


 レンが俺の腕を殴る。


 普通に痛いし、机が揺れるからやめて欲しい。


「ねぇ、惚気は二人の時にやっくれる? 程よい知り合いの程よい惚気なら微笑ましくてご飯が進むけど、好きな人とその彼女のガチ惚気は食欲無くなる」


 愛莉珠が箸を器に立てながらジト目で言う。


 なんか俺達が悪いみたいに言ってるけど、別に惚気けてない。


 ただ俺がレンから暴力を振るわれたなけだ。


「自覚無しが一番タチ悪い。次点で自覚があって見せつけてる恋火さん」


「別に見せつけてるわけじゃない。仕方ないんだよ、オレとサキは付き合ってるから」


「うわ、付き合ってるマウント。それほんとに友達いなくなるからやめた方がいいですよ? それとも先輩だけがいればいいって本気で言います?」


「そんなマジレスされると困る。実際オレはサキさえいれば最悪いいって思ってるけど、それは最悪の最悪であって、みんな居ないと困る……かも」


「ツンデレ」


「うるせぇ」


 レンに睨まれた愛莉珠が「ツンデレんかさんだー」とレンを煽る。


 言われたレンは恥ずかしくなったのか、顔を赤くして俺を殴る。


 隣だからって俺に当たるのはやめろ。


「やっぱり恋火さんって素直になると可愛さ倍増するよね」


「ありすは逆に大人しくなると可愛さ倍増だよな」


「えー、今のありす嫌い?」


「倍増の意味知ってる? 今の状態でも可愛いのが、より可愛くなってるって言ってんの」


「つまり今のありすよりも最近ご無沙汰なあっちのありすの方が好きってことでしょ?」


「それもギャップのせいだろうけどな」


 いつもひねくれてるレンが素直になると余計に可愛く見えるように、愛莉珠も普段とは違う大人しい方だと余計に可愛く見える。


 どっちも同じぐらい見てればどちらも可愛いで終わると思う。


「最近大人しくならないのは何かあったの?」


「そんなに今のありすが嫌か!」


「心配したら駄目?」


「ずるっ! ほんとに何もないよ。ただ、先輩のことが好きで、本気で恋火さんから奪おうって思ったら強いこっちが出てきちゃうだけ」


 なんかさりげなく爆弾発言したように聞こえるけど、大人しい愛莉珠を無理やり抑え込む何かがあるわけじゃなさそうで良かった。


 レンからのジト目が痛いけど、気づいてないフリをする。


「そういえば話してなかったけど、ありすのお父さんとお母さん離婚してないんだって」


「いきなりだな」


「今のありすが主人格? みたいになったのもそれが少しは関係してると思うから思い出したのかも?」


 色々と抱え込んでいたものが落ちて、スッキリしたから自分のしたいことに集中できるようになったのだろうか。


 そのしたいことが俺で遊ぶことで、それには今の愛莉珠が適任だったと。


「さくらちゃんをごうも……お話したらね、なんかお父さんがありすのこと溺愛しすぎて、お母さんがやばいって思ったからお父さんをさくらちゃんに任せたんだって」


「俺とやるって約束してたのに。それよりも溺愛って言うのは?」


「ごめんね。えっとね、さくらちゃんが言うには、仕事を休んででもありすと一緒に居ようとするんだって」


 それは確かにやばい。


 愛莉珠が可愛いのは認めるけど、それで仕事を休み続けたら愛莉珠を養えなくなって苦しむのは愛莉珠だ。


 それに気づけないぐらいの溺愛とはどんなものなのか見てみたいとも思う。


「まあそれで、それだけ可愛いありすは親戚の中で有名人になってしまったわけです」


「つまりありすは『やべぇ奴』になったと」


「それ。嫌われてると思ってたけど、単純に『すごい新人が入ってきた!』みたいな感じ?」


 要は愛莉珠との関わり方がわからなくて、結果的に腫れ物扱いみたいになってしまったようだ。


「それでありすが今店長のお世話……にはなってないけど、店長のとこに住んでるのは?」


「それは普通にお母さんがお父さんと離れてるのが寂しくなったから。ありすも高校に近い方が楽だし、バイトもしたかったからいいかなって」


 凄まじいすれ違いをしてただけで、ただの仲良し家族ではないか。


 レンと水萌もそうだけど、なんでここまですれ違えるのか、


「それで店長がありすを避けるのってなんなの?」


「さくらちゃんが女の人苦手なのは知ってるんだよね?」


「うん。異性を苦手ってのはなんとなくわかるけど、同性をあそこまで苦手に思ってるのなんなの?」


 店長は見た目は男、とまでは言わないけど、『綺麗』や『可愛い』とかで表すよりは『かっこいい』が似合う女性だ。


 見た目がいくらかっこよくても女性であることは変わらないのに、店長は女性に苦手意識を持っている。


 別に同性が苦手な人がいるのはわかっているけど、元気な女性と話すと休憩を挟まないといけないぐらい疲れてるのはなんでなのか気になっていた。


「さくらちゃんってかっこいいでしょ?」


「うん」


「あのかっこよさで中学は女子校行ってたんだって」


「理解した」


 中学時代もあのままなら、男のいない女子中では王子様だ。


 女子中がどういうものなのか俺は知らないけど、かっこいい女子がモテるというのはアニメとかで見たことがある。


 リアルで本当にあるのかはわからないけど、もしもあるなら……


「うわぁ、その時の店長見たい」


「やっぱり先輩ってサディストだよね」


「だっていつも隙がないようにしてる店長が慌てふためく姿だぞ? 見たくないの?」


「え、超見たいよ?」


 結局俺と愛莉珠は似た者同士だ。


 レンのことに関してもだけど、ギャップを求めてしまう。


 その為なら相手を困らせてギャップを引き出すことに躊躇いはない。


「お前らほんとにいい性格してるよ」


「そう?」


「ありすと先輩は以心伝心ですから」


「意味が違うだろ。それよりも食べ終わっておかわり欲しがってる水萌に気づいてやれ」


 レンがそう言って顎で水萌の方を指す。


 水萌の方に視線を向けると、箸を咥えて俺をうるうるした目で見ていた。


 なんか可愛くて眺めていたかったけど、あんまり放置すると箸を食べ始める可能性があるので器を貰っておかわりを作りに向かう。


 水萌の為にと結構量を作っていたのでまだおかわりはできる。


 結局俺達が食べ終わるまでに水萌が全てを食べ尽くすのだけど。


 何人前作ったのかって?


 俺は十から先は数えない主義なので知らない。

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